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エレクション2(2006/香港)

和を以って貴しと為す。
『エレクション2』の原題には、こういう意味の四字熟語がついている。
この言葉は、本編の冒頭でも語られる。それは黒社会が昔から、その世界に係わる人間のあいだに“和”を貴ばなければ生きていけないということを示している(これは日本でもよく聞かれる言葉だと思うけど、はたして、今の日本にその言葉がふさわしいというのかと思うと…)。そして、この言葉を信条に掲げた「和連勝会」でも、時代の変化とともにその伝統的なモラルが崩壊しつつあった、というのが、黒社会2部作の後編『エレクション2』の主題ということか。

ロク(ヤムヤム)が和連勝会の会長に収まってはや2年。会長の改選期がやってきた。一度会長を務めた人間は1期で引退しなければならない。ロクの配下からは出所したてのトンクン(カートン)か武闘派のフェイ(ニック)かと、次期会長候補の名前が囁かれる。
海賊版DVD販売で成功したジミー(古天楽)は跡目争いに興味がなく、販売ルートを大陸まで広げた後は堅気になり、妻と大陸で幸せに暮らすことを望んでいた。しかし、用心棒のリック(アンディ・オン)と共に大陸に渡るとすぐさま大陸警察に逮捕される。幸い、ジミーはつながりのある公安幹部のおかげですぐに釈放されたが、幹部は彼に「オマエが会長にならなければ、大陸への海賊版販売ルートは広げられない」と告げる。商売を広げなければ堅気にはなれないと腹をくくったジミーは、次期会長選挙に立候補する。
一方、2年会長を務めたことで権力にとりつかれたロクは、掟を破って次期も会長を続行することを宣言。長老のタン(王天林)は当然ロクに反対するが、ロクは彼を殺し、フェイとトンクンを使ってジミーの命を狙う。そんなジミーは、潜入捜査官だったリックによって自分の行動が筒抜けだったことを知ってリックを殺し、金にがめつい新たな用心棒(マーク)を雇い、ロクの暗殺を企てる…。

2年後の選挙戦は前回よりもさらに泥沼、というよりもまるで底なし沼状態だ。古い時代は終わり、モラルも人間性もかなぐり捨てられた無法の世界と化してしまった和連勝会。ことに現会長(ロク)とその義理の息子(ジミー)の争いであるから、完全に内輪もめである。そうした“近親者”同士の争いであるから、互いに降りかかる暴力や報復も凄まじく、すでに前作ラストで人間性を失いつつあったロクだけではなく、ジミーもまたロク暗殺のために彼の腹心の部下を監禁し、その一人を拷問して牛刀でめった打ちにするだけではなく、自ら…(以下ネタバレ&あまりにもグロすぎるので自己規制)してしまう。彼もまた、権力にとり付かれて自らの理性を殺してしまうのだ。強大な力に魅せられた人間は、本当に恐ろしい。権力を望むことは人でなしになることである。こういうどす黒い感情は、黒社会だけでなく、我々の現代社会のどこかにも横たわっているのではないだろうか。そう思うと背筋が寒くなる。
一度人間性を失ったこの二人に、それを取り戻させようとするのは親族である(多分。でもこう言い切るには自信ないが)。ロクの場合は彼がその素行を気にかけている息子、ジミーの場合は妻だ。ロクは息子に自分と同じような道を歩ませたくないと願い、ジミーは妻と描く未来に希望を託す。しかし、それに手を伸ばそうとしても、二人ともすでに後戻りできないところまで来てしまっていた…。

選挙に勝ち残った“彼”は、大陸へ渡って公安と逢う。しかし、信頼していたその人物もまた、自分の地位を脅かそうとしていることに恐れを抱いていた。
結局、この世界では頂上に上り詰めても、さらなる脅威がその人を狙っているのだ。それがずっと繰り返されるのだが、時代の変化とあいまって、ますます崩壊、というか溶解してしまうのではないだろうか…というのが、ワタシがこの二部作から読み取った主張だ。

原題:黒社会2以和為貴
監督&製作:ジョニー・トー 脚本:ヤウ・ナイホイ 
出演:ルイス・クー サイモン・ヤム ニック・チョン ラム・カートン ラム・シュー マーク・チェン アンディ・オン ウォン・ティンラム 

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コメント

 ご無沙汰してます。沖野@八戸です。

 遅ればせながら(劇場公開されないから見る機会が無いよ~)、ようやくDVDで見ることが出来ました。

 なんで一般公開されなかったんだろうと思いつつ見ていたけど、一般公開してもどれだけの興行収入をこの日本で上げられたかという疑問も抱いた作品ではありました。個人的には1作目の方が好みですね。というより前作でのレオン・カーフェイのインパクトが強すぎましたから! この作品が全国で公開されるには配給元&全国の劇場がもっと頑張ってくれとしか言いようがないですね(残念)。

 話は変わりますが、「冷たい雨に撃て、約束の銃弾を」は現時点では7月に仙台フォーラムでの上映が決まってるだけで、ここでの興行次第で盛岡~八戸での上映が決まるようです。社長の反応はイマイチでした(泣)。常務は割りと乗り気でしたけど。そんな訳でこの作品は今週末(5/22)に新宿で見てきます。良い作品だったらもっとプッシュして盛岡・八戸でも上映するように働きかけるつもりでいます。

 「殺人犯」と「スナイパー:」も北東北で上映されるかは未だ微妙です(仙台では7月か?)。 こんな状況じゃ鑑賞料よりも交通費が嵩む日々が続きそうでなんだかなぁって感じです・・・。

投稿: 沖野 雅之 | 2010.05.20 23:18

沖野さん、お久しぶりです。
黒社会2は、1と対になって初めて意味をなす作品ですが、単独の出来としては…ですね。
いやあ、あの場面は大画面の最前列で観ていてきつかったなー。もちろん撮影のための演技だとは分かっていても、マジでやられそうなくらい鬼気迫るものがありましたからね。かといってグロ趣味で売るのにも足りないところがあるので、劇場公開しても正直観る人は少ないだろうな、というのが今思うところです。
この映画と、いまカンヌに行っている某コメディアン監督の新作ヤクザ映画とでは、グロ度はどっちが高いもんだろうと思ってしまいます。

《復仇》(邦題が面倒くさいです)は、HPによると盛岡上映も決まっているようでひと安心しているのですが、そういう状況を聞くとちょっと油断ならないですね。東京上映ではいい評判を聞きますが、ミニシアター公開に限ってはその評価が地方上映につながるとは限りませんし。
でも、やってくれるのならいっそ、こっちで未公開のトーさん作品を一緒に上映するくらいのことをやってほしいです。
『放・逐』もキネ旬ベストテンに入ったのにやってないし。
またせっせとリクエストを出すしかなさそうです。
地方の香港電影迷にとってつらい日々は、まだまだ続きますね。それでも諦めませんよ!

投稿: もとはし | 2010.05.21 06:56

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