四大天王(2006/香港)
現在の中華ポップスシーンを象徴する歌手orグループを考えると、まず思い浮かぶのがジェイやリーホン、デビタオのような実力派だけど、ルックスを重視すればやっぱりF4になってしまうのか?(もっともF4は台湾では以前のような勢いはないという話も聞くが…)そして、そのほとんどが台湾アーティストである。しかし、90年代から香港ポップスに慣れ親しんだ人間から見れば、90年代の香港ポップスシーンに燦然と君臨していた“四大天王”…今や“アジア映画界を翔ける大プロデューサー様”なのに相変わらずのポップスターぶりをみせるアンディ、香港○○○楽園の公式キャラクターでもあり、『ウィンターソング』の日本公開も楽しみな學友さん、近年は主演映画に恵まれ、アイドルから演技派俳優への転身を図りつつあるアーロン、そしてユニセフ大使としても活躍するりよんが中華ポップス界を象徴していたと考える。(あ、レスリーも梅姐もローマンさんもタム校長もいるけどね)
しかし、香港ポップスを知って不思議に思ったことはいろいろある。なぜ映画俳優は歌を歌わねばならないのか?なぜ、コンサートでは歌よりもステージが重要視されるのか、そしてなぜ、とんでもないコスチュームを着せられるのか?…もちろん、それを好きでやっている俳優もいるってことはわかっている(レスリーとか…っておいおい名指しかよ)。しかし、誰もがみんなそうなのか?と思ったことも多少はあるのだ。そして、それから10年経った香港ポップス界は、曲の売上不振にあえいでいる。
そんななか、昨年香港でデビューしたのが、ダニエル・ウーと彼の親友たち―テレンス・イン、アンドリュー・リン(連凱)、コンロイ・チャンによるユニット「ALIVE」。当初から“若手俳優のお遊びユニット”と呼ばれたものの、大いなる注目を集めたのはいうまでもないだろう。しかし、今年の香港国際映画祭で彼らの1年間の活動をまとめたドキュメンタリー『四大天王』がサプライズ上映され、ALIVEはこの映画の製作のために結成されたということが暴露された。…日本でもお笑い芸人がボーイズユニットを結成したり(「く○」とか「○猿」とか)、ある番組のキャラクター(「ゴ○エ」など)が歌手デビューして、ヒットチャートで1位を獲ったりという“仕込み”はいろいろとあるので、こういうのには特に目新しさを感じないのだが、それを通してある種のユーモアを持って香港芸能界&マスコミ批判としているところに、この若手俳優たちの意欲が感じられる。告発するのに勇気はあるのだろうけど、これらのことは長年香港芸能界が抱えていた問題だものね。(もっとも、観客の皆さんの中にはそれを知らなかった人もいるわけで…ということは、後述するね)
事の起こりは、連凱が彦祖に持ちかけた「ボーイズユニットやんない?」という軽ーい提案。二人は台湾で歌手デビューした経験を持つテレと、もうボーイと呼ぶには年齢も体型も規定外になってしまっているどころか、“ジョシー・ホーの旦那”ということでしか知名度のない(!)“ババ”ことコンロイを加え、彼らの所属する「成龍集団」の有能な女性スタッフのテレサと実力派ミュージシャンをプロデューサーに迎えて「ALIVE」を結成する。しかし、歌手としてはテレ以外みんなどシロウト。ヴォーカル修正ソフトを駆使して、なんとかデビュー作『アダムの選択』を完成させるも、今度は売り込み段階でレコード会社から契約に関するケチがつく。そこで彼らが企んだのは、曲をネットに流し、誰かに盗まれたということを偽装してデビューしてしまうこと。そんな仕込みを交えながら、ALIVEは香港ポップス界の風雲児となっていくのだが、注目されればされるほどトラブルはあれこれと発生し…。
CDからネット配信へと代わる音楽配布の現状、スキャンダルをきっかけに注目される不健全さ、あまりにも煩雑過ぎる契約プロセス、歌やダンスが下手でも顔さえよければ売れてしまう現金さ、アーティスト側の希望とスタッフの考えに生じるズレ、そして各メンバーの方向性と意見の違い…。これらは香港だけでなく、全世界の音楽業界が抱える悩みでもある。一緒に映画を観た中華電影&某事務所所属の中堅アイドルがお好きなひろりんさんが、この映画で描かれたことと某事務所のアイドル事情がかなりダブっていると指摘していたので、どこへ行っても悩みは同じなのね、と確信した次第。劇中に挿入される學友さん、ニコ、カレン、チカちゃん(ミリアム)など、香港歌壇で位置を確立した人々や、ドラマーから歌手デビュー、そしてスタジオミュージシャンとなったジュン・コン(『ドリフト』の刺客役。別名ジョヴェンティーノ・コート…何だっけ?)や先日来日した台湾のアーティスト張震獄(あ、「獄」の上に山かんむりか)の言葉にはかなり真実味を感じる。不満はたくさんあるんだけど、それが簡単に改善されない。まー、何においても世の中の仕組みってそういうものなのか。見方を変えれば、香港ポップス界への異議申立てだけでなく、どこか停滞している現代社会への皮肉とも取れる…と言うのはあまりにも深読みし過ぎよね。
もちろん、ワタシはこのユニットが仕込みであるということは十分承知の上だったし、香港芸能界の特殊さも理解していたから、うわー、すごいネタ!と大笑いしながら観ていたのは言うまでもないんだけど、それを全く知らないで観てしまうと、確かに怒りたくもなるだろう。ダンスインストラクターのトニー・ホーが模範ステップを披露して(おお、初めて彼の本業のダンスを見た!)「これくらい踊れなきゃダメだよ」と4人を叱る場面で、「アレをトーシロに要求するのはきついよ」という声もあったし、ドキュメンタリーとしてしか知らないで、親友であるはずの彦とテレがいがみ合う場面を見たら、やっぱりショックを受けてしまうに違いないから。でも、彦祖も他の面々も、そういう反応が返ってくるのはある程度覚悟していたんじゃないかと思う。もしそこで悩んで演技だということがわかってしまえば、その時点でフェイクだってことがわかってしらけてしまうのだから。ま、それだけキッツイことまでしてこの映画を作ったのだから、そこは彦監督と他のメンバーも熱意を持って映画を作っていたのだってことで許して欲しいんだけど、どうかなぁ?
しかし、「めざせF4!」とかなんとかいっておきながら、いざコスチュームを作ってみたらグラムロック風だったり、ヴィレッジピープル系(ポスターにもなっているアレ)だったりするのは、チワワを抱いたデザイナーの趣味というより、彦とテレがいる時点でもう目指すのはゲイの皆さん狙いだからって趣旨がバレバレだからでしょうか(爆)?そこまでして自分のパブリックイメージをネタにする彦よ、オマエは偉いぞ。今度はぜひステ監督と組んで「新世代DRY」のフェイクドキュメンタリーを撮ってちょーだい。ってそれは絶対ないな。
英題:Heavenly Kings
製作&監督&脚本&出演:ダニエル・ウー 製作&出演:コンロイ・チャン&アンドリュー・リン&テレンス・イン 音楽&出演:ポール・ウォン&ジュン・コン
出演:ジャッキー・チョン ニコラス・ツェー チャン・チェンユエ カレン・モク ミリアム・ヨン キャンディ・ロー スティーブン・フォン トニー・ホー
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コメント
もとはしさん 流石です!!!!!
本当にその通りですね!と拍手しているの聞こえます?
私の拙い長いだけの文章では どうしても伝えきれなかった事が
こちらでは一目瞭然でした 本当に感激です
簡潔明瞭ってこういう事なのですね
やはり私はこんな風にコメント三昧してるのが 分相応なんですが
始めてしまったブログですから もう少し下手ながらも続けてみます
私は ひこ監督のステ主演作も見てみたいです
投稿: usako | 2006.10.30 21:07
usakoさん、blogもじっくり読ませていただきましたよ。読み応えのある感想でした。やはり迷の方が書かれる文章には愛がありますよ(^_^)。
ワタシはAliveに関してはホントに基本情報しか知らなかったけど、香港芸能界のヘンなところにはかなり前から気になっていたので、こういう形で問題提起をしてもらえたのはよいことではないかと考えているのですよ。
彦監督でステ主演ってパターンはステ監督作品の逆を行っていて面白そうですね。それでも脇役は自分の身内になるから、きっとキャストはダブりそうだけど(笑)。
投稿: もとはし | 2006.10.30 22:31