イザベラ(2006/香港)
ポスターは2種類あるはずなのですが、どーしてもイザベラヴァージョンが見つけられなかった…。でも、このチャッピーヴァージョンも味わいがあっていい。
最初にお詫びを言わなければいけません。
…題名の『イザベラ』って、イザベラちゃん演じるヒロインの名前とは全然違うんですね。アタシはずーっと勘違いしてました(大泣)。以上、お詫び終了。以下本題。
すでに東京国際アジアの風部門の“顔”と化したといってもいいかもしれない、我らがパン・ホーチョン。一昨年の特集上映以来、3年連続で作品が上映され、そのたびに来日しているので、香港電影迷にはすっかり御馴染の美肌監督(笑)。しかし、日本のファンには御馴染でも、作品は全く一般公開されないのはなぜ?と考えたら、ネタも作りも何にしても、あまりにもベッタベタな香港コメディだからコアなファンしか集められなくて儲からないからなんじゃないかなー、と思った次第。違ったらすんません。
しかし、最新作『イザベラ』はそれまでの作品とはちょっと違う雰囲気で、すでに世界デビューも果たしている作品。今年のベルリン映画祭ではなんとコンペティションに出品され、ドイツ人記者による星取表では19作品中最下位だった(!!)というのにもかかわらず、なぜか審査員には評価され、どうしても急ごしらえしたとしか思えない(失礼)音楽賞なるものを受賞していた。なぜ?なぜ音楽賞?と疑問に思ったのは以前も書いたとおり。でも、今までのホーチョン作品とは違うってことは確かなんだろうな、と期待しつつ、シアターコクーンの席についた。
1999年、中国返還間近のマカオでは、犯罪に手を染めた警察官が次々に告発されていて、問題になっていた。警部のセンこと馬振城(チャッピー)もそんな一人。停職処分をくらい、やさぐれたセンはクラブをはしごしては、ナンパした女性をベッドに連れ込むすさんだ日々を送っていた。
ある日、センはキャバクラで、以前ナンパした少女にビール瓶で殴られる。その少女、ヤンこと張碧欣(イザベラ)は、「アナタはそうやってアタシのママとも寝たのね。アタシはアナタの娘よ」と彼に告げる。その前年、ヤンは計算ずくでセンに近づき、自分の身代わりまで用意してベッドインさせたのだ。ヤンは最近母親をガンで亡くしていた。彼女はセンに飼い犬のイザベラを一緒に探して欲しいと頼んだ。その名前はヤンの母にしてセンが若い頃に愛していた女性の名前だった。後にイザベラは別の少女の飼い犬になっていたのをヤンが発見したが、すでに別の名前がつけられていたことを知り、飼い犬を取り返すのを諦めざるをえなかった。
昔のアパートを追い出されたヤンは、センと同居生活を始める。センは突然現れた大きな娘に翻弄されながらも、彼女のいる生活を楽しみ、親子とも恋人とも違う不思議な関係を築いていく。しかし、彼は知っていた。母になるのには若すぎたイザベラが自分との間にできた子を中絶し、別の男との間に授かったヤンを“センの娘”として育てていたことを…。
先に書いたように、これはベルリンで不思議な評価を受けた作品なので、今までとは違うんだということを頭においていたのだが、見終わった後、まさに不思議な気分になっていた。基本的にはシリアスであるが、笑える場面も多少ある。親子の絆をテーマにしながらも、安易な泣かせには走っていない(これが日本映画なら、確実に泣かせに走ること間違いなし)。近親相姦の危険を感じさせても、後ろめたいところはなく、インセストタブーな色合いは時間が進むにつれてどんどん薄まっていく。
酒も煙草もたしなみ、同級生(デレク)に「アタシはギャングと付き合っているのよ」とうそぶいて背伸びする16歳の不良(死語?)女子高生ヤン。センとの生活で彼の娘として振舞うようになってからは父との絆を求め、みるみるうちに成長していく。センはヤンが本当の娘ではないことをわかっていたが、彼女との出会いで、今まで自覚したこともなかった“父親”になることを決意して変化する。どうしようもないなかで出会ったやさぐれ気味の二人が響きあい、互いに変化していくのだ。その結果は、ラスト近くでスーツを着て出頭するセンの表情と、その後に恋人と再会するために禁煙を決意したと同級生に語るヤンの表情や様子が、両方とも穏やかだったというところに現れていたと思う。
センは破滅ではなく娘と共に生きることを選択し、ヤンは父と出会って再生する。生きることへの肯定感にあふれているようなラストだった。
噂の音楽は、なんとなくラテンな雰囲気だなぁ、そういえばピーター・カムはラテンっぽい雰囲気のBGMを作る印象があるよなぁ(『東京攻略』のオープニングが明るいラテンナンバーだったものね)と思っていたら、なんと本格的にポルトガルの伝統音楽ファドをフィーチャーしていたとは!その哀愁漂う音色が、香港とは全く違うヨーロピアンな雰囲気のマカオの街並みに流れると、もうハマらないわけがない。ええ、確かにサントラが欲しくなります。そしてマカオへ行きたくなります。これがベルリン映画祭審査員の琴線に触れなかったってことはないよなぁ。
祝!チャッピー初主演?(…って『無間笑』は主役じゃないのか?でもアレは複数主演だからねー。)これは彼とホーチョンが設立したプロダクション「不是兄弟(Not Brothersってうまい名前!)」の第1回作品とのことで、まさにチャッピーのための映画。全編シリアスなチャッピーというのもほとんど初めてだし、意外にも健闘しているから、ちょっと見る眼が変わったぞ。それでもしょっちゅう物を食っている同僚の秋生さんと一緒に登場すると、どーしてもアンソニーさんに目が行ってしまうんだけどさ。すまん。
イザベラちゃんは、ノースリーブとホットパンツから伸びる長い手足が印象的。顔もやや長めかな。ミポリンというより、某ブイロクのミヤケケンくんを美少女にしたら彼女になるのかなって印象でした。美少女だけどあまり女っぽい雰囲気がないのも映画にマッチしていると思う。…しかし彼女、仕事に対する態度がめちゃ悪だから、事務所から謹慎食らってるんだって?香港電影界では実力派若手女優が常に不足しているし、Twinsとも違うキャラだと思うから、是非とも気持ちを改めてもらって、さらに仕事には真剣に取り組んで、成長してもらいたいんだけどねー。
ともかく、ホントに観てよかった。今年観た香港映画ではベスト。大人の鑑賞にも堪える映画だと思うし。これをコンペに持っていってもよかったと思うんだけど、すでにベルリンでコンペ出品されていたからできなかったのね。(ローマと釜山で出品の『父子』はどうだったんだろう?)
…感想が長くなったので、28日のティーチインレポート(ツッコミつき)は次の記事にて。2階席じゃなかったら、ワタシもホーチョンに質問したかったよなぁ。
原題:伊莎貝拉
監督&脚本:パン・ホーチョン 音楽:ピーター・カム 編集:ウェンダース・リー
出演:チャップマン・トウ イザベラ・リョン デレク・ツァン アンソニー・ウォン ショーン・ユー ジョシー・ホー
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