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ダニエル監督と細野さんの対談から、日本における香港映画の戦略を考える。

休み明け初出勤の今日、お盆期間中にたまった職場の新聞を整理していたのだが、その中で8月10日付の日刊経済紙「フジサンケイビジネスアイ」に目が留まった。
『経済のニュースがよくわかる本』等で有名な経済評論家の細野真宏さんが、我らが大プロデューサー様アンディ先生の相方、『愛と死の間で』のダニエル・ユー監督と対談をしていたのだ(この記事です)。細野さんは最近、ビジネスアイでヒット戦略という面からの映画評論を書いていて、この新聞が経済紙だからってのはもちろんわかるんだけど、それってまるで「ヒットする映画がいい映画」って断定されちゃってるみたいでなぁ…と複雑な思いになって彼のコラムを読んでいるのであった。でも、現在はやはり売れなければ次につながらない。だからいかに売るかが重要になっている。それを考えれば最近の香港映画にいい作品が多くても、決して日本ではヒットせず、ヒットのために主題歌を差し替えするような大手外資系配給会社のやり方(例:“フォーフォーの悲劇”)が許せないワタシとしては、多少ツッコミを入れつつ、興味深く読んだのであった。

まず、ダニエルさんは細野さんの「なぜ日本映画や香港映画はハリウッドに比べて広く発信できないのか?」という質問を投げかける。それに対してダニエルさんは「香港にはワーナーやフォックスのようなスタジオから配給までを網羅している会社がなく、劇場チェーンまで確保していないから、作品を作り上げて配給を考えている状況なので公開のタイミングが悪い」と答えている。つまり香港の映画会社は独立系配給会社的だっていうことだけど、やはりかつてのゴールデンハーベスト(以下GH)のような会社(ここはハリウッド的な経営をしてきた会社だと思うんだけど、どーでしょうか?)が今ないというのが痛いのかなぁ…。大プロデューサー様の「フォーカスフィルムズ」も独立系的な製作をしているし、いま香港にシネコンがえらい勢いで増えているってことを考えれば、まだまだ自分の会社で劇場を持つってところまで至らないのかしら。そーいやぁEEGはどーだろう?
だけど、ダニエルさんは『愛と死の間で』の配給を独立系のムービーアイに任せた(もともとハリウッドメジャーの製作協力が入っていないので、外資系配給会社での配給はないとは思っていたけど)。この会社は一般的には『ミリオンダラーベイビー』や『クラッシュ』など、アカデミー賞作品の配給会社として知られているけど、その前からチェン・ボーリンの日本でのマネージメントをサポートしたり、中国方面との合作映画を作ってきてアジアとのパイプを作り上げている会社だから、将来的な展開を見越してこの会社と組むのは堅いかな、なんて思ったものだったし、ダニエルさんも「今後はどうなるかわからないけど、長期的コラボはやりたい」と言っていたので、そのへんは安心してもいいかな、なんて思ったりして。

対談の後半で細野さんが投げかけたのは「香港映画の日本への輸出を考えると、出来のいい作品がヒットしないのはなぜか?『無間道三部作』や『イニD』はなぜ日本でダメだった?」という、こちらでも気になっていたことだった。それに対してダニエルさんは「『無間道』は『インファナル・アフェア』というタイトルでつまずいたのでは?」といい、さらに「『イニD』は面白く撮っていない。超えられるはずの『ワイルド・スピード』を超えていないから」と指摘。それに対する細野さんの分析は「『ワイルド・スピード』より『イニD』の方が面白かった。中華圏等で大人気のジェイを始めとしたキャストの知名度が日本では低い。最近の日本では俳優の知名度で映画がヒットすることが多く、韓国映画がそのいい例」と挙げ、「だけどそれらの映画の出来は香港映画より劣る」と付け加えていた。つまり『イニD』に関しては全く意見が分かれたんだけど、細野さんは「日本でももっとアンディのようなスター性のある俳優の知名度を上げて香港映画(の日本輸出)の発展につなげることが大切」と結論づけていた。

確かに、細野さんの結論は正しい。レスリーやムイ姐はもういないけど、香港には成龍さん以外にもスターはいっぱいいる。アンディやカンヌの影帝トニーがいる。アーロンやリヨンやイーキンがいる。ニコや彦祖やステ監督がいる。えぢやショーンだっている。女優だって、いくらツーイーが香港を嫌おうと、ハリウッドでも台湾でも最近は呼ばれればどこでも行っているようなすーちーもいるし、彼女と同い年のジジもいる。サミーやチカちゃんやジョイだって歌手兼業で頑張っている。カレーナちゃんやTwinsもいる。彼女たちより年上のカレンやチャーリーも姉御的存在を見せている。これだけ名前を挙げても充分スターはいるじゃないか。
でも、これまで香港映画を日本に売り込むときには、明星をクローズアップしてきた。ユンファもレスリーもジョイも然り、『恋する惑星』の時の金城くんもフェイも然り。ケリーはアミューズと契約して日本と香港の両方で活躍した。でも、それはあくまでも映画ファン向けのアピールで、彼らの活躍の場がお茶の間に広がることはなかった。それが残念。あと、ちょうどその頃はアジア全体が経済危機に陥り、香港でも返還前後から映画の製作本数が減ってしまい、GHも会社の規模を縮小してしまった。アミューズで思い出したけど、もし、この経済危機がなければ、アミューズあたりがGHときっちり連係して香港映画界をうまくサポートして起死回生が図れたんじゃないかって思ったけど…、この後、あの会社は韓国に行っちゃったからねー(泣)。
まー、アンディはキャリアが長いけど、いまだにスター性があるのは事実。映画だっていい作品に出ることが多くなったし、『笑っていいとも!』で笑いを取るのもありかもしれないけど、出演CMや露出媒体等をよーく考えてプロモーションすれば知名度は上がると思う。10年前も日本進出には積極的で、その頃プロモーションがうまくいっていたら成功の可能性もあったかもしれなかったけど、当時の映画ははっきり言って…いや、非ファンにとっては無言になりたくなるものが多かったか(ファンの人ホントにすみません)。

でも、一番大切なのは、日本の配給側の人間に、香港映画への愛とリスペクトをもって、いかに多くの人に知ってもらうようにプロモートしていくかをじっくり考えてもらいたいってことかな。そして、香港を始めとする中華明星のプロモートも、大韓明星のビジネス手法をそのまんま真似したりせずに(例えば高額のファンミーティングとかね。そんなことしなくても、もし売り込みたい明星が歌手ならば、演唱会と主演&関連映画の連動だっていいプロモになるじゃない)真剣に売り込むことも心がけてほしいって思うのよね。

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コメント

難しいことをいえるほど知識がないのですが・・・

ジャンルにこだわりのない普通の映画ファンとアジア・香港映画ファン、そして配給会社等買い付けサイドの方々とのいかんともしがたい温度差を感じて、途方に暮れてしまいます。

>香港映画への愛とリスペクト
その通りだと思います。それさえあれば…

投稿: 藍*ai | 2006.08.19 17:41

んー、なんつーか、配給&宣伝がどっちを大切にしているかと思えば一般ファンなんだろうなとは思うのですが、それにしては熱心なファンを恐れているのか?というようなことも感じます。そんなにひねらずにプロモすればいいのにって感じです。

しかし、日本における香港俳優の知名度の低さにはなんともいえません。さっきゲンダイネットに藤原紀香の記事があったのですが、「(以前噂になったのは)日本人は聞いたこともない香港の俳優」と書かれていて…。そうか、アタシは日本人じゃないんだ、アーロンの名前を知ってるってことは。と大いに凹みました。

投稿: もとはし | 2006.08.19 20:30

難しい事は分かりませんし 何の力も無いので云えませんが
只 何時も思うのです
地方における香港映画の扱いは最悪だと
東京では次々と公開されていても 
良くて一部の作品が単館上映 それも一週間とか レイトショーのみとか。。。(涙)
ジャッキーの「香港国際警察」でさえ ほとんど宣伝されませんでした
これでは俳優の知名度上げようにも無理です
彦祖を知っている名古屋人が居たら 私の知り合いだと思ってもらって構いません(笑)

投稿: usako | 2006.08.19 21:32

usakoさん、その状況はワタシの街でも全く同じです。ワタシは3年位前まで地元で香港映画上演サポートサークルで活動していて、友人たちにせっせとチケットを売ったりしていたんですが、諸事情によって解散することになってしまい、地元で思う存分香港映画を楽しむ機会がガクッと減ってしまいました。これまで地元で観られた香港映画といえば、ロードショーと映画祭上映以外では『香港国際警察』と『ベルベット・レイン』くらいだった気がします。『無間道』なんて1と3しか上映されていませんよ。
それと入れ替わるように、韓国映画はどんな小さな作品でも本公開とほぼ同時期に来るわけで、もう(以下暴言の予感があるため略)

今の香港映画の扱いって東京のみ公開作品が圧倒的に多いんですよね。そうでなくても地方ではシネコンのせいでロードショー公開ばかりが優遇されるわけですし、以前からもちょくちょく書いてきていますが、未だに一般的には「香港映画=成龍」って言う公式が堅いですからね。
もう少し香港明星の一般マスコミの露出度が増えてくれれば…と思うのですが、いろんなオトナの事情もあるのかなぁという気もします。

投稿: もとはし | 2006.08.19 22:53

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