《極道追綜》(1991/香港)
大プロデューサー様アンディ先生来日記念鑑賞その2は、香港電影界のゴッド姐ちゃん(大嘘)アン・ホイ監督の日本ロケ作品。アン・ホイ姐さんはお母様が日本人で、自らの出自を題材に『客途秋恨』を作ったということ(すみません観てません)で、この映画はそのロケ中に知った中国人留学生の自殺事件をもとに作り上げたらしい。確か日本で『客途秋恨』が公開された時にこのロケの真っ最中でアン姐さんが来日していて、その時の仮題は《留学生的故事》って言ってたのを当時の新聞で読んでいたような…。しかし、これがアンディ映画だったのか。うーむ。
ベン・リー(アンディ)は東京で美術専門学校に通いながら、中国人向けの観光ガイドをして暮らしている香港人。バブルに湧く欲望の街・東京だが、ガイジンであるベンがここで暮らすのは決して楽じゃない。喧嘩っ早い彼はガイド仲間と儲けの取り分で争い、仕事を干されてしまうし、同じ学校に通う大陸からの留学生で親友の張直は、日本に留学した恋人の行方を尋ねて暮らしていた。ある日、ベンは張直を連れてクラブに行き、同郷人で日本暮らしが長い明仔に会う。明仔はクラブのママ・百合子と結婚の約束を交わしていたが、彼女の兄・石川(倉田さん)は桜門会のボスだった。ベンはクラブで気の強いホステス・鉄蘭(チェリー)に会い、一目で気に入る。普段は日本語学校に通う留学生である彼女には浅野(石田純一)という恋人がいた。明仔にもらった車で鉄蘭と浅野を追いかけるベンは、いきなり浅野に襲われる。実は浅野はヤクザであり、若い頃に桜門会の先代のボスを殺したことで、桜門会と義兄の起こした松田組の両方から追われていたのであった…。
この映画が作られていた頃、ワタシはちょうど学生だった。折りしも狂乱のバブル時代。もっともワタシの学校は関東近郊ではあっても東京じゃなかったし、このロケが行われていたであろう頃には台湾だったからねぇ。でも、東京ではよく新宿に映画を観に行ってたりしたので、全く縁がないってわけじゃないよ。そんなわけで結構懐かしく思いながら(歳だなぁ>自分)観ていたんだが、なんだかうーんと昔の映画に思えるのはなぜだ?
いや、確かに昔だよなー、15年前だもん。それでも70年代~80年代の日本映画みたいに見えるって言ったらいったい何人に怒られるんだか(爆)。それは画面に出てくるのが古いアパートだったり、山谷の風景だったり、大崎駅といいながら常磐線の勝田駅だったりするからかな。あの頃はバブル期とはいえ、新しい建物は新宿都庁くらいで、お台場もなければ六本木ヒルズもなかったわけだから、時代の空気は今みたいなゴージャス感漂うものよりも、欲望と猥雑が入り乱れる混沌としたものだったんだろうな。
そんな時代の猥雑さは、ストリップショーや卑猥な言葉を吐くオヤジが登場する冒頭の歌舞伎町のシーンに現れる。やっぱ日本人はスケベなんじゃん、香港人にとってと苦笑しつつ、やはりスケベなあいさつをして登場するベンにさらに苦笑。セリフは同録じゃないみたいだけど、アンディは日本語も自分でしゃべっているんだな。なぜか中国語のセリフは全編北京語。不思議だ。でもその方がリアルではある。
ベンは勤勉というわけではなく、異郷での生活を楽しんでいる30近いお坊ちゃんという印象。車を運転するシーンがあるけど、予め国際免許証を持ってきているっていう設定かな。親友の明仔は日本ヤクザ界に入ってのし上がろうとしているから、もしかして黒社会の一族の息子だったのかもしれない。
それと対照的に、大陸から来た張直や鉄蘭、彼女のルームメイトで自殺してしまう美美たちは苦しい生活を強いられている。確かに当時は中国人の不法就労などが問題となっていたけどね、ワタシの知っている留学生にこういうのはさすがになかったな。ま、フィクションだし、映画自体は東京の香港ノワールだからな。なんとなく、馳星周センセーにノベライズをお願いして、救いようのない結末にしてほしい気分になった。
アンディはいつものアンディなので特に感想はないが(こらこら)、チェリーが今まで観てきた数少ない作品の中で一番救いようのない最期だった…(泣)。ううう、あれはないよぉ。
あと、当時すでにトレンデー(わざと言ってます)俳優だった石田“不倫は文化です”純一のトレンデーなヤクザ演技にはちょいとビックリ。トレンデーな演技でヤクザを演じるってーのはありなのか?石田純一よ。背中が倶利伽羅悶々状態でトレンデーな孤独を漂わせるのはありなのか?石田純一よ。多少スタントが入っていても意外にアクション頑張っているなと思いつつ、致命的な傷を負いながら平然としているのはありなのか?石田純一よ…と思った次第。これ、日本公開したら意外と受けたかも(いや、それはないと思う)。でも、そんなトレンデーな石田純一を軽ーく超えてしまったのが、岸田ムーミントロール今日子様が怪演した老娼婦だった。ステキだわ今日子様。えぢだけでなくすでに昔アンディと共演していたのね。また、すーちーの『クローサー』でボスキャラだった香港カラテの倉田保昭さんは、本当に“特別出演”的な出番だった。…戦えよ倉田さーん!
しかし、東京を舞台にした香港映画は『東京攻略』や『スイート・ムーンライト』などいろいろあったけど、これが一番重苦しかったなぁ。さすが社会派アン姐さん、アクション映画仕立てにしても手堅かったか。
あと、製作陣が豪華だった。エリック兄貴の製作に脚本がホウちゃん組の呉念眞さん、美術は御馴染ハイ・チョンマンに、なんと『星月』『少年阿虎』のダニエル・リー!アン姐さん、やっぱりゴッド姐ちゃんだったのか。というわけで感想はしまーい。
英題:zodiac killer
製作:エリック・ツァン 監督:アン・ホイ 脚本:ウー・ニエンジェン 美術:ハイ・チョンマン&ダニエル・リー
出演:アンディ・ラウ チェリー・チェン トゥオ・ツォンホア 石田純一 岸田今日子 倉田保昭
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コメント
この作品、張直役に当初はトニーを予定していたアン・ホイ監督なんですよねえ。
結局脚本の改稿に次ぐ改稿で、わざわざTVB秘蔵っ子のトニーを日本に連れて来て長期間拘束するにしのびない?ということで、出演は無しになったそうだけど。
本来は、中国人留学生が駅ホームで事故死した実際の事件をモチーフにドキュメンタリータッチの社会派作品にするはずが、映画会社ボスの意向で「もっとハデにしないと! 極道を出すとか!」と口を出されて、どんどん中途半端になったみたい…アン・ホイ監督作品ってそういうの、多いですよね。ミシェール・ヨー楊紫瓊姉御のスタントウーマン話も…(^_^;)
投稿: nancix | 2006.07.29 01:27
なんか、主演はアンディよりもチェリーにしてほしかったかなーって気はしましたね(暴言すみません)。アン姐さん、きっと製作側からあれこれ言われたんだろーなー。
もし、張直がトニーだったら、〇〇〇〇になってしまった彼女を探しつつもチェリーにひかれてしまい、石田純一と取り合いになっていたんじゃないだろーか、などとアホなことを考えた次第。
ますますすみません。
投稿: もとはし | 2006.07.29 22:24