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PROMISE(2005/中国)

「…しかしカイコーよ、キミはいったいどこへ行くんだ?」
ここ7、8年ほど、陳凱歌の新作を観るたびに、思わずそう呟いてしまうワタシである。デビュー作の『黄色い大地』とカンヌでパルムを受賞した『覇王別姫』に圧倒された人間としては、それ以降のカイコーの迷走にやや頭を抱え気味だった…というのは、2年前の『北京ヴァイオリン』でも書いた通り。あの映画は観た当初「いやぁ、ええ話やぁ…」だけですませていたが、でもカイコーらしくない映画だよなーと後で思い直したこともある。そんなこともあって再び「キミはいったいどこへ?」と心配したのであるが、製作決定の報から2年を経て目の前に現れた『無極』こと『PROMISE』には、ああまた英文そのままタイトルかよ、この路線いいかげんやめようよワーナーさん、と例の如くツッコミながら観たのだが、本編にはそれ以上にツッコミまくって頭を抱えてしまったのは言うまでもなかった…。
いや、つまんなかったわけじゃないのよ、決して。むしろ大笑いして観てたのよ、とっても気持ちよく。でもさー…というのは後ほどにしてあらすじ。

(注・今回もネタバレで書いているので、例によって未見の方はこの後をなるべく見ないようにしてください)

時は未来における3000年前、ところはアジアのどこか(で公用語は中国語)。
戦場の跡で盗みを働く少女傾城は、死体から奪った饅頭を高貴な身分の少年と奪い合う。少年は「ワタシの奴隷になれ、そしたら食べ物をやろう」と言い、傾城は同意するが、饅頭を受け取った途端逃走する。そんな彼女の前に運命の女神満神(陳凱歌夫人陳紅)が現れ、「そなたを全ての男に愛される女にしてやるが、その代わり真実の愛を知ることはできない」と告げる。少女はそれを受け入れて、20年の時が過ぎる-。
華鎧に身を包んだ大将軍光明(真田さん)は、蛮族との戦いに挑む。彼は先に奴隷を放って蛮族との戦いに挑むが、その奴隷の中にいた崑崙(ドン)が自らに与えられた俊足で蛮族の放つバッファローの大群を散らし、光明に勝利をもたらす。奴隷の中でたった一人生き残った崑崙を光明は評価し、二足歩行を許して直属の奴隷とする。
光明のもとに、北の公爵無歓(ニコ)が王の命を狙っているという知らせが入り、光明と崑崙は王の元へと急ぐ。しかし、道に迷った光明は満神と出会って「華鎧の者が王を殺す」という未来と、自分の運命を予言される。さらに無歓の従者鬼狼(リウイエ)に襲撃され、光明は重傷を負う。再会した崑崙に光明は自分の華鎧を貸し、王を救うように告げる。
王は全ての男を惑わす傾城(セシリア)を王妃にしており、無歓は王から傾城を奪おうと反乱を企てていた。それを止めようと乱入した華鎧の者が放った剣で、王は命を落とす。彼(崑崙)は傾城を奪取して逃走するが、無歓によって滝壺に追い詰められ、傾城は囚われの身になる。傷が癒えた光明は崑崙とともに傾城を助けに行く。すでに裏切り者として将軍の地位を追われていた光明は、傾城を一目見るなり恋に落ちるが、真実の愛を知らない傾城は彼の前からいったん姿を消す。崑崙は彼女を探しに行くが、その途中で鬼狼と出会い、自らの出生の秘密を知らされる。やがて傾城は光明の元に戻り、光明はひと時の幸せに溺れるが、彼らに対して無歓は執拗に迫ってくる…!

なんか改めてあらすじを書いてみると、筋はものすごーく破綻していたんじゃないかと。だからもっとわかりやすく書けば「国同士の戦いも、あまりにも不毛な愛の四角(いや、五角か?)関係も、すべての発端は饅頭である。つまり、食べ物の恨みはそれだけ恐ろしい…」という、いろんなところでもすでに挙げられているこの一言で終わってしまう。
その「食べ物の恨み」話を、香港電影迷にはすっかり御馴染のセントロ・デジタル・ピクチャーズによる豊富で過剰なCGを駆使してこれでもかこれでもかって勢いで2時間4分で描く。はははははははははは。なんて無駄に豪華なんだ!(注・これは決してけなしているんじゃなくて誉め言葉です)おかげで冒頭から遠慮なく大笑いさせられましたよ!いや、今までの中華武侠電影にだって、『英雄』『十面埋伏』『七剣』の例を出さずとも、CGはふんだんに使われてきた。しかし、ここ5年間に観た中華武侠電影の中では一番多く、かつわかりやすいCGを使っていたんじゃないかな。まーそうしたいがために、時代と舞台を架空の設定にした(おそらく)中国映画初のファンタジー仕立てにしたんじゃないかと。もう思わないとここまで過剰なCG使用に納得できないかな(笑)。…しかし、CGをふんだんに使いまくると話が破綻するってー恐るべき反比例は、ハリウッドや日本だけではなかったんだな。ははは。

ま、ここまで破綻してるとホントはどうしようもないんだが、それを補ったのはキャストの演技力だったわー。
ニコは皆さんおっしゃるとおり、かわいそうな役どころだったけどホントに素晴らしかった!ドンがメイン(そう、真田さんじゃなくて。確かにこの物語の核をなすキャラは崑崙なんだけどさー)の、あからさまに韓流狙いなプロモーションから路線変更したのは正解である。いや、こんな田舎でも、真田さんとドンの後にニコの名前が読まれたCMが流れた時には耳を疑ったもんねー。(…って、こらこら!)いくら立ち位置が悪役(本人は認めていないが)とはいえ、「『美』で運命に挑む」というキャッチが間違いじゃないほどの美意識バシバシな伊達男ぶり。日本だったら間違いなくみっちーだよな(これまた皆さんおっしゃってますが)。幼少時のトラウマ(だろう、あれは)により邪悪にしか生きられなくなった男という複雑さもうまく表現してくれたし、リウイエ君とのカップリングだってよかったー(あ、変な意味じゃないよ)。髪型はさりげなーく現代的(細い三つ編みを編みこんだ髪型、日本でも長めの髪の若手男優がよくやっているよね?)ってーのもポイント高し。
リウイエ君といえば、全くプロモに現れなかったせいもあって、扱いが地味なのかなーと思いきや、けっこう目立っているではないか。いや、目立っているっていっても、顔は白塗りで半分薄布に隠れているし、雰囲気的には特撮ドラマの悪の神官ってーイメージだし、最初の登場シーンがあまりにも速すぎて、リウイエ君だとは気づかなかったんだが(^_^;)。しかし、彼もまた悲しいキャラであった…。ああ、きっとこの5年間は、無歓にこき使われたながらも忠誠を尽くしてきたんだろーなー。

他のキャストでは、やっぱり真田さんがすごい!との一言に尽きるでせう。
幼い頃から彼の姿(特にアクション方面で)を観て育ってきたので、親しみのある俳優さんである。みちのく国際ミステリー映画祭にて、彼の斜め前の席で『真夜中まで』を観たこともあったっけ。でも、すでに45歳!トニーやアンディより上かよ!と気づいた時には改めて愕然としたりして。まー彼、身長も多分トニーやアンディと同じくらいでは…。
ここ10年くらい、彼の出ていたドラマや映画を観ていると、キャリアを感じると同時に、殺陣やちょっとした演技に色気を感じさせたり、どっか年齢不詳で中性的なものもあったり(これはRSCで『リア王』の道化役を、アジア人で初めて本場で演じたというドキュメンタリーで観たときに感じた)で、彼は面白い俳優さんになってきたなーと思ってきたけど、海外進出については『ラストサムライ』以前に「アジアでなんかやりたい」発言をしていたのね。そんな彼にとっては念願の企画だったわけで、英国演劇やハリウッドの他にも香港映画出演の経験もあるから(また出てほしいぞ、ただし今度はアクションよりもドラマで。トニーと共演ならなお言うことなし)、かなりリラックスしてできたんじゃないかしら。ただ無敵なだけじゃない非力さも見せつつも、傾城との絡みに感じられるどっか崩れかけたエロさ(ええ、あのセックスシーンも含めて!)もまたよし。あ、もちろんアクションシーンは言うことなし。演技派にしてアクションも魅せてくれる俳優さんというのは、アジア的にはポイント高いしね。
そうそう、真田さんと中華女優というカップリングは絵になるー。『真夜中まで』でミシェル・リーと共演した時に思ったけど、今回セシリアとツーショットを見せてくれたときも同様。いや、それは真田さんが中華女優の皆さんと身長差が極端じゃないからってだけじゃないんだけど(笑)。聞いた話では真田さんとセシの仲がけっこうよかったみたいで、そーいえばパンフではセシ自身も「真田さんが好みー」とか言ってたもんな(^_^)。現在撮影中の英国映画『サンシャイン』では多分20年ぶりくらいにミシェル・ヨー姐と共演だというから、そっちではどんな絡み(といってもミシェル姐なら絶対恋愛抜きだな)を見せてくれるか楽しみだ。
で、セシなんだが…、フツーならこういう役どころにはツーイーとかヴィッキーとかシュー・ジンレイを当てるよな。そこをあえて外して香港の庶民派女優セシにしたというのはカイコーの狙いだったというけど…、うーん、それはどうかなぁ?というのも多少は感じたりして。『旺角黒夜』『忘不了』のすっぴんで感情を露にする思い切った演技を評価している身としては、セミヌードやらベッドシーンにも果敢に挑戦する潔さも好と受け取るけど…なんてったって厚化粧だったしな(爆)。
とりあえず、キャストについてはこんなもんかな。誰か忘れているような…。あ、ドンのことか。
いやーすごかったね、あの“人力加速装置搭載人間”っぷりは!“そのまんま人間8マン”っぷりは!普段の彼に感じるイケイケっぷりなど微塵も感じないよ。その勢いでガンガン話を引っ張ってくれるけど、やっぱり彼は主役じゃないんだよねー、とまたまた敵をたくさん増やしそうな結論に落ち着く。でも、その熱意は認めるよ。もっとも単独主演の次回作は…すみませんm(_ _)m。

パンフにあったカイコーのインタビューで気になったのは、「最初はレスリーが生きていたら、彼に無歓を演じてほしいと思っていた」というコメント。今まで彼とコンビを組んできただけあって、やっぱりカイコーもレスリーの不在を気にかけていたんだな。もちろん、ニコの起用は大成功だったんだけど、ニコとレスリーに通じるものがあると述べたコメントは興味深かった。
…それにしても、こーんな映画を作っちゃったカイコーよ、キミはいったいどこへ行くんだ。やっぱり映画という無極の定める運命の中へか?

このほか、衣裳や小道具のことや気になったことがいくつかあるんだが、それはまた日を改めて書くということで。てーか、忘れないうちに書ければいいんだが…。

原題:無極
監督:チェン・カイコー 製作&出演:チェン・ホン アクション指導:トン・ワイ&ディオン・ラム 撮影:ピーター・パウ 美術&衣裳:ティン・イップ 衣裳:正子公也 音楽:クラウス・バデルト
出演:真田広之 チャン・ドンゴン ニコラス・ツェー セシリア・チャン リウ・イエ

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コメント

やっぱり、ニコ=みっちーでしたか(笑)

メイキングのテレビを見てたみっちーが「真田さんも言葉できてすごいよねー。ああいう『コスプレ映画』出たいよなぁ」ってライブのMCで言ってたんですよ(笑)。
そういえば「タッキュウ、デキマスカ?」の妖しげなコウさま@漂流街での粘着ぶりは、かなり近かったと思われます。

一応、一般ピープルにも読みやすい恥ずかしな感想ですがTB致しますね。

投稿: かな | 2006.02.15 21:59

かなさん、TB多謝です♪
ニコ=みっちーの発想が出てきたのって、他の皆さんの指摘もそうなんですが、『富豪刑事』の大谷刑事部長とか『キューティーハニー』のブラッククローなどの華麗な悪役キャラなみっちーをよく観ていたこともありますね。(翌日にTVで『CASSHERN』の内藤薫を観たこともあるかも)
そういえば『漂流街』のコウさまも、思いっきりヒロインのミシェルをいたぶっていましたっけ。確かに通じるところがある!

投稿: もとはし | 2006.02.15 22:30

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『PROMISE』 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/promisemovie/原題:THE PROMISE/無極製作:2005年中国/日本/韓国監督:チェン・カイコー出演:真田広之/チャン・ドンゴン/セシリア・チャン/ニコラス・ツェー/リィウ・イエ/チェン・ホン 《公開時コピー》[...... [続きを読む]

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