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好男好女(1995/台湾=日本)

ホウちゃんの映画って、あれだな、気合いを入れて「さぁーホウちゃんの映画観るぞぉー」って覚悟を決めて観ないとついていけない。『珈琲時光』はまだ気楽に観られる映画であるけど、『悲情城市』で世界的成功を収め、『戯夢人生』やこの映画に至るまでの“台湾現代史三部作”を観るのは、特に覚悟がいるし、やっぱり台湾の現代史をあらかじめ知っておかないと辛いんじゃないかなって思った。かくいうワタシは恥ずかしながらまだ『戯夢人生』を観ていないんだけどね。

女優の梁静(伊能静)は3年前に恋人の阿威(カオ・ジエ)を失った。そんな彼女は映画『好男好女』で、抗日戦の闘士だった蒋碧玉を演じることになる。
1940年代前半の台湾、蒋碧玉は想いを寄せていた鐘浩東(リン・チャン)が抗日戦に身を投じることを知り、彼とともに大陸へ向かうが、国民党のゲリラには日本兵のスパイと間違えられて投獄されてしまう。何とか銃殺刑を逃れた彼らは台湾へと戻り、碧玉は浩東との間に男児をもうけるが、その子は養子へと出されてしまう。その悲しみに暮れる暇もなく、二人は闘い続ける。
'45年、戦争は終わる。碧玉は台湾でラジオ局に勤め、浩東は基隆中学の校長となる。彼らは理想を社会主義に求め、2・28事件を経て国民党が台湾を占領し、自分たちを支配することに危機感を抱いていた。そこで浩東は機関紙「光明報」を発行し、国民党を警戒する。しかし、これが国民党に摘発され、浩東は処刑される…。
ホステスだった梁静は極道だった阿威と愛し合っていたが、彼女の目の前で商談中に銃殺される。その3年後、『好男好女』の碧玉に自分を重ねてのめり込んでいく梁静のもとに自分の日記がファックスで送りつけられ、無言電話が頻繁にかけられてくる。寂しさのために姉の恋人と寝てしまい、それが姉に知られてしまい修羅場となる。心身ともにボロボロになった梁静は、無言電話をかけてきたストーカーに亡き恋人を重ねて自分の想いを吐露する。
その後、ロケ隊は広州に出発することになり、その前日、実在の碧玉が72年の生涯を閉じた…。

この映画の背景となっているのは、1950年に台湾で勃発した白色テロ(リンクはwikipedia)。『悲情城市』でも御馴染の2・28事件も白色テロとして見られるらしい。あ、こういう本も出ているのか。

台湾・少年航空兵
黄 華昌著
社会評論社 (2005.9)
通常2-3日以内に発送します。


今でこそ台湾は日本に優しく、親しみを持ってくれているところ
であるが、60年程前までは日本の統治下にあり、もちろんその統治に反抗した人も確実に存在する。(某大臣さん、それ、一応わかっているよね?)そういえば『上海グランド』でレスリーが演じた許文強は台湾の抗日ゲリラの闘士だったな。
ホウちゃんの映画は『悲情城市』でもわかるように、事件を直接描かない。でも、その事件の合間に生きた人々の日常を淡々と描く。だから、先に書いたように時代背景がわからないとかなり辛いのは言うまでもないし、今回は劇中劇という形で歴史が描かれているのでなおさら複雑。はい、ワタシも台湾で暮らした人間のくせに、国民党占領直後の台湾史をほとんど知らなかったので、自分の勉強不足を痛感しつつ2回観ました。だって、劇場公開ならパンフのシナリオ再録を追えばいいけど、DVDじゃねぇ…。なお、この事件の背景に関しては特典映像としてホウちゃんがインタビューで語ってくれています。当時の台湾の状況には東西の冷戦までも反映されていて、ホントに複雑だったみたいだ(ってずいぶん軽く語っているな自分)。
国交の関係上か、日本人の目はどうしても日中関係に向いてしまうため、これまで台湾がどんな歴史をたどってきたかはついつい見落とされがちだ。ホウちゃんの映画はそれを語り、世界に発信している。そこからワタシたちは台湾の悲しみを知ることができるのだ。そういえば、もうすぐ2月28日である…。

とまーシリアスな感想はここまで。あまり政治的な方向に話を持っていきたくないもんでね。ここからは毎度の如くだけど、多少暴言ありの超主観的感想。
いやー、今回の映画はホウちゃんの映画ではかなり手強かった!蒋碧玉も鐘浩東も実在の人物なので、恐らく劇中劇としないと描きにくかったんじゃないかと推測するけど、時間があっちこっちに飛躍するので「あれ?これはいつでなぜこうなる?」と首をひねったもので。
イノチンこと伊能静ちゃん、今では山田太郎の綾子ママのイメージで定着しちゃったけど(笑)、この映画では彼女自身のキャリアの転換になった作品だそうで、かなりの熱演(黒い下着姿や官能的なダンスも見られるぞー)。でもホウちゃん、「彼女の演じた碧玉はイマイチだった」って厳しいことを言っていたが(苦笑)。
台湾語ロックシンガーの林強、実は演技を観るのはこれが初めて。…でも顔がわかりにくいぞ(泣)。梁静の恋人阿威はホウちゃん作品常連のカオジエ兄貴だが…これもよくわからない。ってーか画面暗すぎ。なんで?と思ったら撮影がリー・ピンビンじゃないからなのか?(それは不明)
ちなみにエンディングテーマはフェイの元旦那として有名なドゥ・ウェイだった。

ホウちゃんはこの作品以降、『憂鬱な楽園』や『ミレニアム・マンボ』などでは現代の若者を主人公にしたり、『海上花』(この映画の日本側チームが製作を担当し、公開直前に仕掛け人の某氏が失脚したのは有名な話)では清朝を舞台にしたかと思えば、『珈琲時光』では敬愛する小津安二郎(この映画にも梁静がビデオで『晩春』を観ている場面がある)にオマージュを捧げ、初の日本語映画に挑戦したりとさまざまな作品を作り上げている。
ホウちゃんに対する印象は人それぞれだけど、『珈琲時光』を素直に楽しみ、やっぱりホウちゃんの映画はいいなぁと思っている自分としては、今年日本公開予定の『スリー・タイムズ』が楽しみだったりする。配給もこれまでの松竹ではなく、王家衛や蔡明亮作品の配給を務めてきた御存知プレノンアッシュなので、結構スタイリッシュなプロモを期待したいんだけど。ええ、日本語イメージソングなんてないプロモをね。(そのへんは心配しなくとも大丈夫だろうって)

英題:Good man,good woman
監督:候孝賢 製作総指揮:奥山和由 製作:市山尚三 原作:蒋碧玉 脚本:朱天文
出演:伊能 静 林 強 高 捷

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コメント

最後の、ピーユンが赤い火を炊きながら、他はモノクロで、銃殺された夫を供養する場面が凄く印象的で、死ぬまで忘れられない、と思いました。「永遠ニ君ヲ愛ス」の手紙に泣きました。これ程胸に突き刺さったモノクロ画面は初めてです。侯監督のファンですが、こんな重厚な悲しい場面を創作できるのですね。ずうっと一日中悲しみに暮れていたい気がします。

投稿: 山田みどり | 2021.10.09 12:06

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