今年の国際は、スタンリーさんに始まり、スタンリーさんに終わる。
10月30日日曜日、泣いても笑っても、これが映画祭最後の日。
当初は初日上映のみのゲスト出演だったスタンリーさんが、本日の『長恨歌』上映@コクーンにて再びティーチインを行う!ともにかるさんのblogで知り、スタンリーさんの話を聞ける機会は滅多にないし、いいチャンスかも!でも当日券を取るのは大変かも…などと思い、早めに麻布のお宿をチェックアウトして地下鉄&JRを乗り継いで渋谷に向かうと、bunkamura入り口には早くも行列…。よく見ると、コクーン初回上映の『あらしのよるに』(家族連れが多かったー。さすが名作絵本!)、プレスの皆さん、ル・シネマ一般上映整理券待ち、そしてコクーンの2回目以降の上映(『長恨歌』&『愛と卵について』)と、列が並び分けられていた。やはり当日券狙いのnancixさんと共同戦線を張り、10時40分過ぎに無事当日券ゲット(場所は2階中央席の一番上!)。チケット取りに走られた観客の皆さん&必死に会場整理をしていた東急の皆さん、お疲れさまでした。その後は中華電影&トニー好きの皆さんとお茶を飲んだりランチしたりと会場時間までゆるゆる過ごしたのであった。
1週間ぶり2度目鑑賞になる『長恨歌』。
前回の上映では夜行明けがたたって多少記憶があやふやなところも多かったし、その印象でサミーにいい印象を持たなかったのかなーって気がしたくらい、2度目の映画鑑賞では改めて、ホントによい出来だなーっと思った次第。ストーリーのおさらいももちろん忘れなかったけど、曲線が美しい高級マンションのエントランス、幕開けから幕引きまで時代が変わるごとにガラッと変わるサミーのメイキャップやワードローブの多様さ(晩年の老け具合が…という文句さえも出なかったわ)、そしてカーファイ、胡軍、彦祖というタイプの違った3人の男の魅力的なこと!あ、あと、カラーと琦瑶の運命に大きな影響を及ぼす琦瑶の娘ウェイウェイの親友をユミコ・チェンが演じているっていうのも改めて確認できた。いやぁ、再見できてよかったわ。これなら是非とも一般上映してもらいたい気もする。どーでしょうか配給会社の皆さん。ル・シネマや銀座テアトル、シネスイッチあたりの単館で観てみたいですわ。
上映後にスタンリーさんが登場。
サミー&胡軍はとっとと帰った(失礼)のに、スタンリーさんはずーっと東京にいたのかしらん?渋谷駅前でバックナンバーをもらった国際のデイリーニュースで、スタッフと一緒に撮った写真があったもんな。あと、今年は『異邦人たち』で一緒にお仕事した桃井かおり姐さんが審査員もしていたから、かおり姐さんにも会ったのかな?「あ~らスタンリーお久しぶり、お元気?かおりも会いたかったわー」なんていってたらさぞかし楽しかろうな、姐さん。ははは。
とまぁ話がずれてもアレなので、とっととティーチインに愛とツッコミを。
Q:2回目の鑑賞です。前回の舞台挨拶で、監督は「この映画は上海という都市と琦瑶という女性の物語だ」と話されておりました。でも上海という都市といいながら、実際にはほとんど室内のシーンしか出てきません。これにはどんな意図があったのですか?
A:上海は大きな変化を遂げ、未だに変わり続けている。この映画は2004年に撮影したが、やはり上海で1991年に『ロアン・リンユィ(阮玲玉)』を撮ったときとは大きく変わってしまった。我々に与えられた予算は多かったのだが、それをたくさん使って戦後の上海を再現させるわけには行かなかった。そこで原作を読み、映画化を決意した時点で、この映画は室内のシーンを中心に撮ろうと思ったのだ。室内中心にすることで細部にこだわりをいれようということになり、きわめて自然に見せようとした。それは客観的視点でもあり、主観的な要素でもあった。
確かに、往年の上海の姿を現在の上海に求めてはいけない。東京でも同じだ。現在公開中の映画『三丁目の夕日』(これも国際参加作品)は、昭和30年代の東京をCGで再現したというけど、これは日本映画だからできるのであって、中華電影では同じことはできないだろう。CGが使えない分、美術と演技力で勝負する。それは正しい。いや、日本のやり方がいけないってわけじゃないよ、念のためにいうけどね。
というわけで、お次は美術の質問、というか、スタンリーさんの影に必ずウィリアムさんあり!な質問(笑)。
Q:スタンリーさんは86年の『地下情』から、美術デザインの第一人者ウィリアム・チャンと仕事をしていますが、この二人の20年はどうだったのでしょうか?
A:『地下情』の頃、ウィリアムはすでに有名なデザイナーであり、自分は映画2作目の新人監督だった。だから、彼と仕事をするのはおこがましいし、美術は彼の専門だったから、あれこれいえなかった。実はその後の『ルージュ』と『阮玲玉』では一緒に仕事をしていないんだ。ワタシたちは『異邦人たち』からコンビを復活させた。二人とも、細かいことにはこだわらない主義だ。今ではとてもリラックスして映画を撮るようになって、最初の頃の緊張感はなくなったね。お互いに変わっていったことはいろいろあるけど、互いの信頼は全く変わっていない。
いい映画っていうものはディテールで勝負するもので、細部がきちっとしていなければならない。ある映画を観て、物語などが記憶に残っていなくても、雰囲気や場面に出てくる小道の様子が不意に蘇ってくることがある。ウィリアムはそういうものを産み出す力を持っている。彼とはこれからもいい仕事をしていきたいね。
ワタシを含め、ウィリアムさんのファンは多いと思うけど、さすがに本人を見たこともなければ会ったこともない。現代の香港または中華電影を語る上では欠かせない人なんだけど、一般的にあまり紹介されてないからまだまだ無名…だと思う。でも、こうやって本人を知る人から語ってもらえると、ちょっと本人に近づけるような気がする。ウィリアムさんの映画美術がもっと有名になって欲しいと思うし、でもこのままでもいいかなぁ、日本映画の仕事なんて入っちゃったらすっごく忙しくなりそうだし(なんてったって日本には種田陽平さんがいるもんなー)…なんて思った次第。
Q:今までの作品と比べると、人物のアップがものすごく多いと感じました。クローズアップの多用は俳優の演技力の力量に頼るところが多いと思うのですが、この点において苦労したことはありますか?
A:ワタシは原作小説の人物像にひかれて、映画化を決意した。またかつては『ルージュ』ではアニタ・ムイ、『赤い薔薇、白い薔薇』ではジョアン・チェンとヴェロニカ・イップにもひかれて彼女たちを撮りたいと思ったし、今回もそれと同じことだった。原作を脚本化するとき、それがコメディになるのか、悲劇になるのかは、その人物の動き次第だ。その人物にひかれたということは、それがクローズアップされることが必然的に多くなるのだ。ワタシは、クローズアップは映画の命であると考えている。俳優たちは五感をフルに使って演技する習慣がある。それをすることは俳優の命ではないだろうか?
『阮玲玉』のマギーの場合は、30年代の雰囲気を出してもらいたくて、眉を剃るように指示をした。彼女は最初は嫌がっていたが、次第に役にのめりこむようになってからは、自ら剃るようになった。俳優は表情が命であるが、もともとの顔を変えるのは難しい。
うーむ、ちょっと散漫なまとめ方になっていてすみません。
クローズアップで人物を撮るということは、難しいなぁと思うことがある。TVだとそれでもいいんだろうけど(それをやりすぎると演技力がつかないということもあり)、映画だとクローズアップで演技することは難しいと思う。でもその人物を魅力的に撮りたい。梅姐を、陳冲を、ヴェロニカを、マギーを、そしてサミーを。スタンリーさんは独自の美意識を持っていて、いつも女優の美しさにこだわるなぁと感じることがよくあるのだが、それは彼女たちの持つ魅力にひかれ、それを画面の中で最大限に輝かせようとするからかな。美しいものとして女優を魅力的に撮る人はいい。そんな映画人がもっと世界にいてほしい。
スタンリーさんはどんな質問でも丁寧に答え、熱弁を振るっていた。まー確かにねぇ、前回の舞台挨拶&ティーチインでは時間も押していたし、それってどーよな質問?もあったから、自分の言いたいこともなかなか言えなかっただろうし、映画に対して非常に真摯な姿勢を持って鑑賞する東京の観客は、中華圏の観客とも違うだろうから、どんな質問を投げかけられても、ついつい話に力が入っちゃうのかもなー。と、スタンリーさんの話術に聞き入っていたら、時間はあっという間に過ぎて最後の質問。
Q:ワタシは梁家輝のファンなのですが、監督作品での彼はヒロインを見守る役割が多いと感じる。『阮玲玉』以来13年(監督曰く14年)ぶりに一緒にやった彼の仕事はいかがでしたか?
A:二人とも歳をとったよ(笑)。でも、彼はいい役者になったね。演技力のある人で、正確にやってくれた。サミーはこれまでラブコメばかりに出ていたから、今回は一転してこの映画に出たので、彼は彼女をサポートして励ましてくれた。40テイクも出した場面もあったんだが、カーファイはずっと彼女のそばにいて励ましていたんだ。彼は「自分さえよければ後はどーでもいい」という人間じゃない。これは『阮玲玉』の時には気づかなかった。だから、今回の彼の行動にはとても感動したんだよ。
ここ1年で観たカーファイ出演作品(新作)は『大丈夫』 『柔道龍虎榜』とこの映画。『大丈夫』ではとんでもない演技に大笑いしっぱなしだったけど、『柔道』での落ち着いたオトナ演技はよかった。90年代前半では日本じゃ一番有名な『ラ・マン』から『大英雄』までものすごい幅の演技を見せてはっちゃけてくれていたけど、さすがにもうすぐ大台だから、昔みたいな演技もできないもんねー。そういえばちょうど10年前に国際で上映された日港合作『南京の基督』で最優秀女優賞を獲った富田靖子ちゃんが、やはり共演したカーファイについて「いろいろ面倒見てもらっていい人だったー」といったようなことをインタビューで言っていた気がしたので、カーファイって優しいんだなーと改めて思ったわ。
ティーチインの後はなんと即興サイン会まで実施する大サービス。ああ、こんなことだったら『藍宇』のVCDを持ってくるんだった!でも何にサインしてもらってもいいのね♪ということで、3日間ティーチインで大活躍したメモ帳(ちなみに2003年版新潮文庫マイブック。笑)にサインしてもらい、握手までしてもらえちゃいました。いや、ホントに嬉しかったですよ。
謝謝関錦鵬導演、我非常高興!
そんなわけで、スタンリーさんに始まって終わった今年の東京国際映画祭。メイン部門の盛り上がりなどはよくわかんないんだけど(ハリウッド系ゲストが少なかったから注目度が低かった?イ・ドンゴン君やヨンエちゃんも来なかったっていうしね)、個人的には去年より大盛り上がりの4日間でしたわ。去年はずーっと一人だったってこともあったけど、今年は友人やネット仲間の皆さんといろいろ話せたので楽しかったです。やっぱり映画で盛り上がれるのは嬉しいもんねー。
お互い3週連続の上京お疲れ様ですのnancixさん、初日の朝飯友となったgraceさん、2週間ぶりの盛り上がり再び!状態だった中華電影&トニー迷の皆さん(すみません、まとめてしまいました)、お会いできなかったけどきっと同じ会場のどこかで同じ映画を観ていた中華電影系bloggerの皆さん、前半戦の戦友であった盛岡のHさん、ステへの愛復活ってホントですか?の東京のMさん、短い時間ですがお話できて嬉しかったlookさん、そして野崎先生、ホントにホントにありがとう&お疲れさまでした!
また来年の国際か、それとも別の機会でもお会いしたいです。
というわけで、ヒルズとbunkamuraで中華電影への愛をさけびまくった今年の東京国際映画祭の、愛とツッコミの観戦記はこれにて終了。
でもワタシの電影無間道は、まだまだ終わらなかった…。
とりあえず来週末は、地元で『ベルベット・レイン』、そして約2週間後はフィルメックスの『SPL』だぁー!
写真左は『藍宇』VCD、右は『異邦人たち』パンフ。うう、ミシェルの横のすーちーも入れたかった…。
| 固定リンク | 0
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 盗月者(2024/香港)(2024.12.30)
- 台カルシアター『赤い糸 輪廻のひみつ』上映会@岩手県公会堂(2024.12.21)
- 無名(2023/中国)(2024.08.16)
「香港映画」カテゴリの記事
- 恭喜新年 萬事如意@2025(2025.02.11)
- 盗月者(2024/香港)(2024.12.30)
- 【ZINE新作】21世紀香港電影新潮流(2024.01.22)
コメント
細かいところがよく理解できました。ありがとうございます。
私もあとになって「ああ、『藍宇』の監督サンなのに~「藍色宇宙」を持ってくるんだった・・・」と悔やんでます。
投稿: 藍*ai | 2005.11.05 21:46
藍*aiさん、お疲れさまでした。
結構聞き逃したところも多かったのですが、そのへんは大丈夫でしたでしょうか。
まさかサイン会があるとは思わなかったですもの。アジアの風パンフも前半戦で買ったものの置いてきちゃっていたので。ホント焦りましたわ。
投稿: もとはし | 2005.11.06 22:49