AV(2005/香港)
この映画の香港でのキャッチコピーは日本語で「世界の中心で、セックスをさけぶ。」(大爆発)
昨年の東京国際アジアの風で注目された“香港の宮藤官九郎”改め“美肌映画監督(友人Mさんの言葉からヒントを得て命名)”パン・ホーチョン待望の新作『AV』は、まさにこのキャッチコピー通りの快作であり、個人的に女子の視点から観ると、「ああ、オトコの子って、やっぱりおバカよねぇ…」と思いっきり「バカ」に力を込めて呟きたくなる作品であった。
香港バプティスト大学に通うジェイソン(黄又南@Shine)、チーオン( 『The EYE』のローレンス・チョウ)、ガウポウ(エリック・ツァンの息子、デレク・ツァン)、フェイは就職にも女の子にも縁が薄いダメダメ君の大学4年生。そんな4人が集まるといつもろくでもない話が始まる。ある日、4人は映画学科のカーロッ(徐天佑)が卒業制作と称して好きな女の子を現場に呼び、彼女を騙して濃厚なラブシーンを撮ったことが大学側に知られて強制退学させられたということを知り、彼のところに行く。そのことにヒントを得た4人が思いついたのは、「日本からAV女優を呼んでオレらでAV作ったらやらせてもらえるんじゃねーか?」というホントに大バカとしか言いようがない企画。AVDVD屋で偶然に発見した彼らの天使の名は天宮まなみ(本人)。普段は何をやってもダメダメな4人は、早速学生企業援助ファンドを悪用(!)して嘘の会社を立ち上げ、まずは彼女のマネージャーである暉峻創三(!もちろん同姓同名で、我らがアジアの風ディレクターご本人様ではないのは言うまでもない)とコンタクトを取る。しかし暉峻は彼らが提示したギャラに首を縦に振らない。そこで4人は暇を持て余している友人たちに動員をかけ、監督を専門家のカーロッに依頼すると、どんどん話が大きくなってきて…。
まず、最初にホーチョンによるティーチインの一部の引用から話を始めたい。詳細はまた後でね。
Q:この映画で描かれている香港の若者の実態が面白かった。ところで、劇中では「日本人はスケベだ」って言っているけど、実際の日本のイメージもその通りなのか?
ホーチョン:いや、そんなことは思っていないよ。でも、実際の香港の若者も、そして自分自身もスケベだよ。
深沢寛(共同脚本):それにね、日本と香港のAVって全く違うからね。
うーん、これはワタシも知りたかった問題。
確かに信和中心に足を運ぶと、明星グッズのフロアからちょっと離れたところに日本の海賊版AVが堂々と売られている店がある。それに、過去にも幾つもの香港映画で「日本人=スケベ」という短絡的イメージで捉えられたものもあった。
実はかつてワタシも台湾でAVを観た経験がある。ホテルでTVのチャンネルをザッピングしたら、普通は視聴制限がかかっていて観られないはずのアダルトチャンネルが写って、そこで展開されていたのは、明るくてベッドだけしかない部屋で身体も鍛えられてなくて美しくない全裸の男(でも顔はまぁまぁだったな)がうつ伏せの全裸女子に馬乗りになってせっせと腰を動かし、その下でアニメ声の女子があーんあーん言ってる姿だった。あと、すでに20代後半と思しき女子がセーラー服を着て脱がされてたのもあったなぁ。そのときワタシは思った。
…とここで「AVって愛がねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」と暴言を大爆発させようと思ったのだが、かなりヤケクソ気味になってしまうし話がずれまくるし変なところからコメントやらトラバスパムとかきそうなので、あえて思ったことと言わないことにした。ってすでに↑で言ってるけど、まぁ気にすんな。
そんなわけで(どんなわけだ)この映画の主人公4人組の設定に超説得力があったと感じたのは言うまでもねぇ。…しかも、そのあたりは妄想で終わらせるのがフツーなのに、いくところまで行くのかオマエらは。あきれたを通り越して感動するぜ、ったくよ。
しかーし!そんな設定や一見ご都合主義なストーリーを飛び越して、実はこの映画は教養映画だったんだ!という面にも気づかされた。
最初は遊びのつもりだった。そのために出資側を騙してベンチャー企業を立ち上げ、友人を騙しては資金を集め、まなみちゃんとエッチしちゃう。でも、欲望が果たされた時点でそれにいつまでも浸ってはいられない。本格的な撮影機材(もちろんカーロッが無断持ち出しした)を揃え、なぜかワイヤーアクション(なんと動作指導は銭嘉樂だ!)まで導入されたりとお遊びが肥大化していく中で、リーダーとして動いていたチーオンはプロジェクトの中止を決断する。そして、彼は仲間たちにこんなことを語った。(以下はうろ覚え)
「オレ、今まで学校で習ってきたことは、社会に出ても決して役には立たないって思っていた。でもさ、この計画を実行するのに資金を蓄えて配当金を割り当てたり、利害を計算したりってことは、これまで授業でやってきたことと全く同じじゃないか」
そう、学校でやってきたことっていうのは学校以外のところでは役には立たないってことはない。主人公4人組は今どきの若者らしい快楽主義者揃いで、大学図書館の書架の間に座り込んでピザを食っちまうほどお行儀の悪くしょーもねー奴らなんだけど、自らの欲望を満たした後には、自分の成長にちょっとだけど気づく。それがわかるのは先の言葉を言ったチーオン(ローレンス君、『The EYE』や『ひとりにして』とはあまりにもキャラが違うのでビックリ)で、冒頭では自分のことを語れなくて就職の面接に失敗した姿が映し出されたのに、ラストでは自信にあふれた表情で面接に臨む姿が見られる。
また、まなみちゃんに恋してしまったジェイソンが「お願い、AVにもう出ないでよ」と懇願し、彼女が「どうして?これがワタシの仕事なのよ」と何度も言う場面。それは、AV女優はあくまでも役柄を演じる女優であり、TVモニター内で見せるあられもない姿態も演技であって彼女の素顔ではなく、彼が観てセックスして恋した「天宮まなみ」は、決して天宮まなみちゃん本人とは違うのである、ということがわかる。オトコは女性に幻想を抱き、女性はそれに対しては非常にそっけない。こういう現実がある。そこで夢から覚めないと、大人になれないし前に進めないんじゃないか。ジェイソンの幻想はラスト近くで決定的に木っ端微塵になるけど、うん、AV女優もものすごい現実的でクールな仕事なんだなぁと改めて気づかされた。まぁ、この映画のまなみちゃんの存在は人間そのものというよりは、やっぱり4人のエロガキどもに甘い幻想と一瞬の快楽とビターな現実を見せて消えていった、まさに「導きの天使」だったんだなぁと考えれば、映画での存在感のいい意味での希薄さも許せたもんだったけどね。
…でも、まなみちゃんはスクリーンで観るよりも、実際に本人を生で見たほうがずーっとかわいかったのは言うまでもないよ!同性のワタシでもそう思ったもの!
と話がずれたので元に戻して、ああ、ガキってこうやって成長していくのね。おバカだけど。
しかもホーチョン曰く、「この映画は陳凱歌監督の言葉にインスパイアされて作られた映画」らしいぞ(fromアジアの風パンフ・ディレクターズノート)。そうまで言うんだから、これは確かに21世紀香港の教養映画だわ…。って自分が本気でそう思っているかどうかと言われると、多少「うっちょーん」もはいっているんだけどさ。だって、以下に記すホーチョンたちのティーチインでも、はたして彼ら(特にホーチョン自身)が本気でそう言っているかどうかも怪しいぞって思ったところが多少あったからね。
Q:天宮さんを起用するきっかけは?
ホーチョン:この映画を作るにあたって、AVショップでDVDを眺めていて彼女の作品を見つけ、この子で行こう!って決めたんだ。自分でもうまく説明できないけど、とにかく彼女は魅力的だった。撮影を終えて幼馴染のアラン・ウォン(音楽担当)と話をしていたら、「彼女さ、オマエの中学時代の初恋の彼女にそっくりだったじゃんか!」と言われたんだ。女の子の好みってずーっと変わらないもんだったなぁって思ったね。
…なんかもうこのへんで「ホーチョン、それって実はかなりホラ入っていない?」っていう気にさせられるんだけど。
Q:天宮さんに質問です。映画に出てきた4人の主人公やその他の人々では、誰が好みですか?
天宮:もうみんないい人ばかりだったから、順番も決められないなぁ(はぁと)。
うまいぞー天宮(爆)。次は誰もが気になっていた「アイツ」について。
Q:天宮さんのマネージャーの名前が「暉峻創三」で大笑いしたのですが、なぜその名前をつけたのですか?
ホ:ワタシは自分の作品のキャラに親しい友人の名前を使うことが多い。今回は日本人が出てくるということだし、日本人では彼が一番親しいから名前を使わせてもらったんだよ。
…でも、劇中での扱い、さんざんなんすけど、テルオカさんったら。
ところで、今回ホーチョン、ウェンダース・リー(『メイド・イン・ホンコン』)と共に脚本を執筆したのは日港ハーフでホーチョンの幼馴染の深沢寛さん。彼は今回が初脚本で、同時に日本語台詞の監修顧問も務めていたのだ。
深沢:ボクの書いた広東語の台詞は全部ダメって言われちゃってね。書き直しさせられたんだ。
ホ:自分は脚本を繰り返して読んで手直しするので、時間がかかるんだ。他の人には迷惑をかけてしまって大変だけど、最終的にはいい作品になっていると思うよ。
やっぱり、脚本が映画の命だもんね。お次はファンの男性から(でも観客は全体的に女性のほうが多かったような…まいっか)まなみちゃん関連質問二つ。
Q:天宮さんのファンです!香港映画出演と国際映画祭参加でセレブになった気分は?
天:セレブって言うんじゃなくて…でも、一般映画にAV女優としてホントにAV女優の自分が出演したことで、AVの価値というものを見い出してほしいなと思っている。
Q:ジェイソンと天宮さんが野球場でキャッチボールをする場面と、ホテルの屋上で話し合う場面がよかった。監督が作っていて印象的だったシーンは?
ホ:ワタシも野球場のシーンが好きだ。香港にああいう野球場があるってことを知っている人は多分ほとんどいないんじゃないかなって思う。この映画は13日で撮ったんだけど、あそこのシーンには半日を割いて撮影したんだ。
天:実は野球場のシーンで一番NGを出したんですよ。今度はNGを出さないように気をつけたいですね。
深:おかげでマネージャー(もとはし注/もちろんテルオカ氏じゃないのは言うまでもない)に文句言われちゃいましたよ。あと、あそこは当初、別の映画のロケが入っていたのだけど、無理を言って撮影予定を入れてもらったんだよ。
まなみちゃん、なかなかいいこというなぁ。でも、観る価値あるAVってこの日(以下略)…というのは自分が女子だからか。スマンなオトコどもよ。では気を取り直して最後の質問。
Q:男子4人組のキャスティングについてはどんなことを考えましたか。
A:撮影期間も短かったから、自分とも親しい友人たちを集めて撮った。あと、キャラクターのヒントには、カーロッと同じ経験をした友人がいるので、彼のことも参考にしたんだよ。
こんな感じのティーチインだった。面白かったよーん。でも、映画のネタは実体験をもとにしたと言えども、どこからどこまでがホントなのかは未だに不明だけどね。
で、前の記事にも書いた「パン・ホーチョン肌美人説」なんだけど…、『精武家庭』から一緒になった友人Mさんが一番前の席に座っていたので、じっくり監督の顔を見ていたらしいんだけど、毛穴が見えなくてツルツル肌だったのに非常に驚かされたんだとか。彼女は『精武』もかなり前で観ていたらしいけど、ティーチインでのステ監督の肌については「ちょっと毛穴目だった。でもステなんか目じゃなく肌のつやがよかったよ、ホーチョンって」って言ってた(爆)
というわけで、今後ワタクシはホーチョンのことを、最初に書いたように“美肌映画監督”と呼びたいと思います。以後よろしく(こらこら)。
監督&脚本:パン・ホーチョン 共同脚本:ウェンダース・リー&深沢寛 音楽:アラン・ウォン アクション指導&出演:チン・カーロッ
出演:ウォン・ヤウナン ローレンス・チョウ デレク・ツァン チー・ティンヤウ 天宮まなみ エリック・コット チョン・ダッミン ホイ・シウホン
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コメント
おお、見られなかった作品の詳細がよく解ってうれしいです。いつか関西でも…ダメ?
ぜひ見たいけど、通販で取り寄せるのは何だか恥ずかしいし…。
で、深澤寛さんって、確か例の雑誌「電影双週刊」に邦画紹介や日本の観客動員状況分析やらを(当然中国語で)寄稿してた気がするけど、最近は読んでないのでどうなんだろう。黒澤や小津、人情時代劇などについて分析してたので、もっと年配の方かと思ってました。
毛穴ね…ちっとも閉じないのよ…頬のたるみ毛穴って…悲しい…うくくぅ。
投稿: nancix | 2005.11.01 23:45
タイトルがタイトルだから、結構恥ずかしいですよねー。春の香港で「AV観てー、これ香港じゃなきゃ絶対観れねー」とか言っていたので、ここで観られたのは嬉しいです(笑)。一般公開は多分ないと思いますけど…(役者さんがみんな無名だしね)。
TIFFサイトに前日(10/27)のティーチインの様子が乗っていたのですが、深沢さんは「毎年取材で映画祭に来ていたのでゲストで呼ばれるとは意外だった」とか言うコメントを寄せていたので、恐らく双周刊のライターさんと同じ方じゃないかと思います。香港映画業界にも詳しそうだったし(まだ30代前半だけど)。
ワタシも毛穴が目立つ肌質です。
ホーチョンよ、そのつるつる肌質、ワタシのと交換してくれー(笑)。
投稿: もとはし | 2005.11.02 21:53