« 同じ月を見ている(2005/日本) | トップページ | 来年のお楽しみは、周杰倫日本演唱會♪ »

食神(1996/香港)

渡港回数もそろそろ二桁になるワタシだが、香港で初めて食べた屋台の飯は廟街の屋台で食べた叉焼麺だった。まだ広東語もろくにできず(今もできないが)、街を大きな顔して歩けなかった時期でもあったが、腹を壊さないかどうか心配しつつも、親切なおじちゃんに作ってもらった小さな麺の味は今でも覚えている。香港に通い始めた頃はどうも飲茶やレストランでの食事にこだわっていたけど、最近一人香港すると、チムのキャメロンロードやキンバリーロードにある快餐庁の排骨飯や叉焼飯をテイクアウトしてホテルで食べるのが楽しみになってしまった(これもある意味淋しいか?でも、映画を観るのが夜8時頃なので、その後にレストランで夕飯するとその後の一人歩きが怖い時間帯になるんだよね)。安くてボリュームがあるからねぇ。ホテルはリッチにしても所詮は貧乏トラベラーなので、どうもケチることに力を入れてしまうのでした(笑)。
そんな人間からすれば、『無間道』でサムがぱくつくお弁当にも興味があるし、超豪華な中国宮廷料理も超チープな中華屋台メシも同じまな板の上に載せて勝負するこの『食神』も、大いに楽しみながら観られたのはいうまでもなかったりするんだ、これが。

ある日、廟街にふらりとやって来た男は、この街で育った顔に大きな傷のあるフォウガイ姐さん(カレン)の屋台でラーチャー(雑多)麺を食べて、それをメチャクチャにこき下ろす。男の名はスティーブン周(星仔)。かつては“食神”と称されていた…。
香港最大のレストランチェーン“唐朝”のオーナーであった周は香港中のレストランのシェフの豪華な料理をこき下ろし、自らの威厳を誇示する。しかし、彼自身は名シェフどころか、料理すら満足にできないただのセコい商売人だったのだ。彼の成功と名声は弟子入りした唐牛(ヴィンセント)と周の協力者だった“大快樂”社長(マンタ)の裏切りによって奪われ、その足元は崩壊する。周は逮捕され、身ぐるみはがれて下町に放り出されたが、その傲慢な性格は相変わらず。廟街の古惑仔たち(カイマン、林雪)にボコにされるが、屋台の麺をけなされたはずのフォウガイ姐はなぜか彼に親身になる。彼女とチンピラのボス・ゴウタウ(李兆基)がいざこざを起こしたのを救ったのは周のアイディアだった。3人は結託し、シャコと肉団子を混ぜ合わせた“小便団子”を作り出す。紆余曲折ありながらも“小便団子”は大ヒット。大快樂社長と唐牛の妨害にもめげず、周と仲間たちは快進撃を続ける。
これをきっかけに本気で料理人を目指そうと決意した周は、1ヵ月後の料理鉄人コンテストへの出場を控えて、湖南省にある中国料理学院への入学を決意。旅立ちの前日、周はフォウガイ姐が顔の傷を負ったのが、屋台に吊るした食神の旗を破られたチンピラに殴りかかったことからであると知る。彼女は自分を愛していたのだ。しかし、周はそれをただのファンじゃねーかと冷たくあしらう。そして湖南省に渡った周は、大家楽社長の放った刺客に襲われる…!
1ヵ月後。白髪と化した周が、少林寺の夢精大師(劉以達)とともにコンテストに現れた。空白の1ヵ月には壮絶な裏話があったのだ…!

今でこそ、スクリーンでは監督兼主演で八面六臂の大活躍を見せている星仔だけど、監督も兼業して映画を撮り始めたのはこれか『0061』の頃からだったかな…。この映画自体は97年に日本公開されていたけど、当時はまだ星仔も知名度は低かった。むしろ、共演したカレンの恐ろしいほどのブスメイクに注目が集まってしまったんじゃなかったっけ。でもこれは地元で劇場公開されなかったので、ずーっと観たいと思っていた作品だったのよ。まぁ日本公開当時じゃなくて、今観たほうが正解だったなぁ。だって、あの頃はまだ香港にも行ったことがなかったから、地元ローカルギャグがほとんどわからなかったもんなぁ。
ローカルといえば、この映画の前半の雰囲気はまさに香港地元テイスト満載だった。上海銀行ビルを間近に見るリッポータワー屋上(に『唐朝』の本拠地があるという設定)の風景から、屋台街とそこを仕切る古惑仔たちの抗争や、フォウガイ姐が朗々と(?)歌い上げる『陸小鳳』(…って、古龍の小説の?)の歌、そして落ちぶれた周が姐さんや古惑仔たちの力を借りて路地からリベンジ&大逆転を謀ろうとする展開はとっても香港的だ。と思えば後半の料理コンテストシーンはほとんど『少林サッカー』前傳?ってなノリ。もっとも土台には星仔が敬愛する李小龍映画があるんだろうけど、少林十八銅人の連続ギャグや聖人なんだか俗物なんだかよくわからん夢精大師の存在、そしてそんな状況を一切無視して暴走しまくるミス・ナンシーことシッ・カーイン様の熱演に大笑いしっぱなしだった。よくこの映画と引き合いに出されたのが、料理を食べると口から七色の光を発して「おいしーい!」と叫びまくるものすごい料理アニメ『ミスター味っ子』だったけど、星仔のコメディ映画にはそんな日本アニメのオーバーアクトを実写で軽ーく超えてしまうという力量があるので、ホントに楽しいのだ。日本の実写ドラマや映画でそれをやったらベタになったりどっか退いてしまったりするもんね。

星仔のキャラは銭勘定と儲けることに夢中で、性格はあまりよろしいとはいい切れない傲慢キャラといういつもの役どころ。ま、これが黄金のパターンだからいいのである。負け負け感たっぷりのガキ大将ってところかな。そのゴーマン野郎が愛(…たぶん)によって目覚めていくのもいつものお約束。
星仔はオタクなので(笑)ここ数作のヒロインはいつもヨゴレキャラだけど、『喜劇王』のセシリア、『少林サッカー』のヴィッキー、そして『功夫』のシェンイーと比べると、この映画のカレンはその汚れっぷりにおいては最強のヒロインではないだろうか。もともと美人というより英中クォーターの個性派な顔だちのせいか、ブスメイクするとかなり強烈になるし、牛肉をぶったたく姿はほとんど鬼(笑)。さらにはお世辞にもオサレといえないダサダサなピンクのワンピース姿で周にラブアタックをかます。よく考えればかなり痛いキャラなのだが、それでもかわいそうとは思えないのは(笑)、彼女の役どころが義理人情を重んじるカッコよくてクールな古枠女だからだろうか。
いつもは星仔とコンビを組んでバカばっかやってるマンタは珍しく悪役。でも彼よりも目立っていたのは『008』を監督したヴィンセントさん。やっぱり面白いです、彼。『少林サッカー』で最初に星仔たち少林チームにコテンパンにやっつけられていたのを思い出しちゃったな。
古惑仔連中ではなぜか髪が緑色のカイマンさんに加え、なんと林雪発見!妙に嬉しかったよー。小便団子を食べたゴウタウのリアクションは噂には聞いていたけどおかしすぎ。これってなんかのCMのパロディだったのかな(同じ構図をどっかで観た覚えが…)。あと、如花ことレイ・キンヤンもしっかり出ていたり唐突に『初恋』広東語版が流れたりといろいろ書きたいことがあるんだけど、あまりにも盛りだくさんだから書ききれない…(笑)。
あ、DVDにはセリフ完全翻訳版字幕ってのがあったのだけど、先にそっちを観ておけばよかったなぁ。えらく詳細な翻訳でビックリしたもんで。

最後に、この映画からは小便団子が実際に商品化されて話題を呼んだという有名な話があるんだけど、ワタシは結局この小便団子を食べることができなかった。映画を観てから食べるんだと思っていたのに、数年前にこの団子を商品化したお店のご主人が亡くなられて店もたたんでしまったことを先に知ってしまったからだ…。

英題:The God of Cookery
監督&脚本&出演:チャウ・シンチー 監督:リー・リクチー 撮影:ジングル・マ 音楽:クラレンス・ホイ
出演:カレン・モク シッ・カーイン ン・マンタ ヴィンセント・コック ロー・カーイン タッツ・ラウ レイ・シウゲイ ティン・カイマン ラム・シュー

| |

« 同じ月を見ている(2005/日本) | トップページ | 来年のお楽しみは、周杰倫日本演唱會♪ »

映画・テレビ」カテゴリの記事

香港映画」カテゴリの記事

コメント

小便団子とは、またすごいネーミングになっちゃってるんですね。ホントの意味とは、違ってる気もしますが。
(シャコのことを頼尿蝦と呼ぶからでしょうね。頼尿=おねしょ/失禁)
私は、実物食べましたよ。あのお店には、多分5回くらい行ったはず。
お店のご主人は、「料理の鉄人」に出場したこともありましたね。
お店は潮州料理レストランで、焼肉が名物で、とても美味しかったですよ。いつ行っても満員でした。
小便団子は、一つ一つがとても大きくて、とてもじゃないけど一口では頬張りきれないほど。
期待が大きすぎたのか、お味としては・・・でした(笑)

食神といえば、目玉焼きが乗った叉焼飯。
いまでも、食神叉焼飯というメニューで残っています。
そこらの餐廰だったら25ドルもしないと思いますが、版権代が含まれるのか、38ドルくらいするのが玉にキズです。

投稿: HALO | 2005.12.01 00:45

あ、お店自体はまだ存在するのですね。失礼しました。
小便団子というネーミングはシャコの名前に引っかけたものでしょうが、
食がテーマの映画だけになんだかなぁっていう気はしました。
(ちょっと口が悪くなるけど、いくらお上品とはいえない星仔映画とはいえ)
ちなみにあの叉焼飯には“鎮魂丼”(これはセリフそのまま?)と名づけられていましたけど、
それもどーだか、と…。

投稿: もとはし | 2005.12.02 20:28

"鎮魂丼"は確か本当は”黯然銷魂飯"で『神[周鳥]侠侶』で小龍女を思って楊過が編み出した拳法(だったと思った)の名前からとってるんですよ。
てことはカレン・モクは小龍女だったのか…『カンフーハッスル』の大家さんの原点かも?ほんとか?

投稿: KEI | 2005.12.03 02:14

うわー、それは初耳でしたわ。KEIさん、情報ありがとうございます。
さすが星仔!やっぱ筋金入りの武侠オタクだわ(^_^;)って思いましたよ。

投稿: もとはし | 2005.12.03 22:30

すいません、説明不足でしたね。
食神叉焼飯は、件の潮州料理店ではなく、ちょっぴり高級志向の餐廳である皇府というお店です。
潮州料理店は、シェフであったご主人が亡くなって、すぐに閉店しました。残念です。

投稿: HALO | 2005.12.07 02:41

訂正ありがとうございます。
今度香港へ行く時は立ち寄ってみたいと思います。
(…っていつ行けるかわからないけど)

投稿: もとはし | 2005.12.07 23:51

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 食神(1996/香港):

» 食神 [MOVIE SHUFFLE-映画専門BLOG]
『THE GOD OF COOKERY』 香港/1996 監督:リー・リクチー チャウ・シンチー 出演:チャウ・シンチー ヴィンセント・コク カレン・モク ン・マンタ     シッ・カーイン タッツ・ラウ レイ・シウゲイ 「少林サッカー」のリー・リクチーとチャウ・シンチーの監督・主演コンビによる料理対決コメディ。 出演は「ダブル・タップ」のヴィンセント・コック、「クローサー」(香港/2002)のカレン・モク、「少林サッカー」のン・マンタなど。 挿入歌で村下孝蔵の“初恋”が広東... [続きを読む]

受信: 2005.12.05 21:01

« 同じ月を見ている(2005/日本) | トップページ | 来年のお楽しみは、周杰倫日本演唱會♪ »