« 長恨歌(2005/香港=中国) | トップページ | 再び、ヒルズの中心で中華電影への愛をさけぶ。 »

モンゴリアン・ピンポン(2005/中国)

ああ、モンゴル!我が憧れの地である。(注:正確に言えば、この映画の舞台は内蒙古自治区だ)見渡す限りの草原、地平線には低い丘、風の音(時々羊の鳴き声)ばかりが聞こえてきそうなあの景色。死ぬまでには是非行きたいところである。
そんなモンゴルを舞台に、草原で暮らすほっぺの赤い遊牧民族の少年たちが、白くて軽いピンポン球をめぐって騒動を繰り広げるモンゴル版『スタンド・バイ・ミー』(?)、それがこの『モンゴリアン・ピンポン』である。決して横綱朝青龍の兄弟のように屈強なモンゴル男子どもが肉弾戦に近い卓球ラリーを繰り広げる物語ではない(いや、誰もそう思っていないって)。

内蒙古自治区。ゴビ砂漠に近い草原で暮らす遊牧民族の少年ビリグは、水を汲みに小川へ行ったところ、川から小さな白いボールが流れてきたのを発見した。それは卓球のボール、つまりピンポン球。でも、いつも草原で仲間たちと走り回って遊んでいるビリグには、それがなんだかわからない。友達のダワーやアルグートゥと、「これ、なんだろうね?」「でも、月夜に照らすと光るよ。きっと神様の宝物だよ」とあれこれ想像する。
そんなある日、ダワーの家族が入手したテレビで卓球の試合を観たビリグは、その球の正体を知る。そして「卓球は中国の国技で、ピンポン球は国球だ」と聞いた彼は、それが国のものなら国に返さなきゃ!となんと無謀にも、親友たちと馬で北京に向かおうとするのだった…!

か、かわいい。なんてかわいいんだ、草原に暮らすモンゴル族の子供たちは!と、ちっともかわいくねー日本のませガキどもに手を焼いている自分の日常を棚に上げ、ほのぼーの&ゆるゆーると全編を眺めていた。おかげで途中多少夢うつつになった一瞬も何度かあって…(アホ)。
イランの『ともだちの家はどこ?』や『運動靴と赤い金魚』、ブータンの『ザ・カップ 夢のアンテナ』、スウェーデンの『ロッタちゃん はじめてのおつかい』、ドイツの『点子ちゃんとアントン』など、子供の出てくる映画を観ると、いつも心和まされる。まー、映画というのは架空の世界だから、実際にイランやブータンやスウェーデンやドイツや、この映画に登場する遊牧民族の子供たちがみんなかわいいかというと決してそうではないと思う。

内蒙古やモンゴルだって、どこもかしこもこの映画に出てくるようなところではなく、呼和浩特(フフホト)やウランバートルは北京やモスクワ並みの大都市なんだろうし、モンゴル族の民謡であるホーミーが歌われるのと同時に、大都市ではモンゴル語のヒップホップやR&Bだって存在するだろう。(そーいえば3年前のポップアジアでは、モンゴルのゴズペラーズとも言える「カメルトン」というアカペラユニットが歌っていたっけ。今も健在かな?)

でも、広大な草原で、風の音と羊の鳴き声を聞いて暮らす人々は健在である。急激な時代の変化(特に最近の中国はかつての日本以上に劇的な現代化を遂げているのでは?)などに乗らずとも、遠くへ旅行せずとも、自分のペースで生きていって、それで幸せを感じている。
映画の冒頭、ビリグ一家が集落の物資調達屋に天安門の背景で写真を撮ってもらっている場面が映し出されるが、彼らにとっての北京は憧れの場というようには見えない。よく知らないし興味もないから、ただの写真の背景で十分なのだろうか。ビリグにとっての北京も「国の中心」だから、自分の拾ったピンポン球が本来あるべき場として認識したのだろうし、そこで中国の偉い人にピンポン球を渡せればよかったのだろう。
このあたりから、自分の身の回りには、最低限のものさえあれば生きていける。都会なんかに行かなくても幸せなんだよ、なんていう意味を汲み取った自分はどっかおかしいんだろうか。ま、でも、スローライフに興味ある人には観てほしいかも、なんてね。

ニン・ハオ監督の次回作は、なんとアンディ兄貴プロデュースの、四川省が舞台のドロボー物語らしい(fromアジアの風パンフのインタビュー)。でもこれでいきなり都会的な作風になるのではなく、この映画みたいなハートウォーミングコメディになってくれればいいかな。

原題:緑草地
監督:寧 浩(ニン・ハオ)
出演:ビリグ ダワー グリバン

| |

« 長恨歌(2005/香港=中国) | トップページ | 再び、ヒルズの中心で中華電影への愛をさけぶ。 »

映画・テレビ」カテゴリの記事

中国映画」カテゴリの記事

コメント

ああそうか、テレビで見たんでしたっけ。実はこのあたりちょっと意識が…
子供たちはほんと可愛かったですよねぇ。
根っからの町っ子な私は、彼らの幸せそうな表情を羨ましく思いつつ、決してあの状況では満足できないであろう自分に忸怩たるものがありました。

投稿: KEI | 2005.10.25 21:41

実はワタシも町っ子です。…でも家の裏は田んぼだったからわりと中途半端な町っ子でしたね。
もうすっかりオトナだし、こんなふうにPCいじってネットすることにすっかり慣れてしまった身としては、不便でも幸せに見える彼らのようにはやっぱりなれないのかなぁ、というのはやはり思ってしまいますよね。
映画の中でも、街から物資を運んでは羊と交換しまくる若者や、街の舞踏団に憧れるビリグのお姉ちゃんみたいなキャラも、実際にいるわけだろうし。

投稿: もとはし | 2005.10.25 23:58

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: モンゴリアン・ピンポン(2005/中国):

» モンゴリアン・ピンポン(緑草地) [Driftingclouds]
監督:ニン・ハオ(寧浩) モンゴルの草原に暮らす仲良しの少年たちが遊んでいたところ、川でピンポン球を見つける。 ピンポン球を見た事が無い子供たちは、祖母の言っていた神様の宝物だと思い大切にする。 だが、あるとき人からこれは『国球』(だっけ?うろおぼえ)だ....... [続きを読む]

受信: 2005.10.25 21:44

« 長恨歌(2005/香港=中国) | トップページ | 再び、ヒルズの中心で中華電影への愛をさけぶ。 »