セブンソード(2005/香港)
やりたい放題。
ああ、なんていい響きなんだ。そのやりたい放題がいい方向に向かっている作品を観ると、こっちもなんだか嬉しくなってしまう。…まー、たとえそれが嬉しくとも、やりたい放題だけじゃまずいのは確かなんだが。
徐克さんの4年ぶりの新作『セブンソード』には、まさに「やりたい放題」という言葉がよく似合うような気がする。なんちって。原作は金庸、古龍と並ぶ中国武侠小説の第一人者、梁羽生の代表作、『七剣下天山』だ。
17世紀中盤、満州族による清王朝が成立した頃、清王朝は漢族による反乱軍を鎮圧するために、庶民に武術の研究・実践を禁じる禁武令を発布した。元明王朝の軍人だった風火連城(孫紅雷)は私兵を率いて不満分子を抹殺し、私腹を肥やしていた。同じく明王朝の役人だった傳青主(劉家良)は彼と対立し、風火連城が攻め入ろうとする秘密結社「天地会」の本拠地・武荘へ行き、武元英(チャーリー)と韓志邦(陸毅)と知り合う。
村を救うため、彼は二人を連れて天山へ向かう。この山には伝説の刀匠・晦明大師と彼が率いる腕利きの剣士たちがいた。傳の頼みを聞き入れた大師は由龍剣の使い手楚昭南(ドニー)、青幹剣を使う楊雲ツォン(「ツォン」の字が出ない…リヨン)、双刀の競星剣使い辛龍子(戴立吾)、日月剣を持つ穆郎(ダンカン)を派遣する。そして、傳には莫問剣、志邦には舎神剣、元英には天瀑剣を授け、晦明大師が作りし最強の7本の剣を持った剣士―セブンソード―は武荘にて風火連城たちの刺客と対決する…!
そうだ、そうだった、徐克ってこーゆー人だった。ガンガンとアクションやりたい放題な人だった。それは4年前にニコ&ウーバイさんの『ドリフト』を観た時にも確認したはずだった。思えば昨年の初夏、『2046』が出品されたカンヌ映画祭で、彼が審査員として参加し、にこやかにレッドカーペットに登場した時点で、ワタシは彼のことを世界の巨匠とかドラマ派とか、何か勘違いしていたようだ。
それを思い出したのだ、この映画の冒頭で。風火連城配下の白塗り&パンク風おねいさん(『北〇の拳』の悪役チックだったなー)が登場し、ドコドコドコドコと人を切りまくり、首を飛ばしまくり、腕も切りまくるくだりで。…そーだ、徐克さんって、こーゆーやりすぎで過剰なアクションが大好きな人だ。昔、韓国映画『飛天舞(アウトライブ)』やクエタラの『キル・ビル』の予告(未だに本編を観ていない)で、ドンドコドンドコ人が斬られまくるくだりに何かデジャヴを感じたのだが、そーだ、徐克さんのこのノリなんだ。
それがわかった途端に、なぜか急に心がスッキリした。目の前では人がガンガン斬られて首や手足や胴体がビュンビュン飛んでいるが、それがわかって何が目の前で起こっているかなんてどーでもよくなったよ。(こらこら!)
とにかく、アクション面においては大満足。今やハリウッドでも当たり前になって新鮮味などとっくになくなったワイヤーアクションは少なく、ひたすら展開されるのは、地に足がついた勇者どもによる激しい剣戟の応酬。劉家良しーふーを中心に、トン・ワイさん&熊欣欣という、香港武侠映画では御馴染の面々による、武術を取り入れたアクションはホントに見応え充分。CGを多用せず、自然の風景を巧みに取り入れた画面構成もよかったなー。
まー、アクション面で満足しても、やっぱり別方面で不満は出るもので…。うーん、ストーリーが…。やっぱり、これは本来上映時間4時間のものだったんだ!と言われれば、それをばしばしぶった切ったら、ドラマ面がアレレ?って感じになっちゃったのね、と思ったもので。話を引っ張るのは志邦と元英、そして昭南だけど、せっかく他の剣士にもドラマティックな背景があるのだから、それも小出しじゃなくてちゃんと観たかったなー、なんて思うと4時間版が観たい!って結論になっちゃうんだろーな―。で、それって出るの?徐克さんよ。
役者陣。主役はリヨン?それともドニーさん?…いや、これは7人全員が主役って見るべきよね。
リヨンが武侠片に出る、というのは意外だなーって思ったけど、「防守」を象徴するキャラとしての投入は間違いじゃなかったね。まーアクションについてはいろいろ言いたいけど、動くリヨンはステキだった…(え、別に深い意味はないです)。頭巾も似合うぜ。
思った以上に頑張っていたリヨンだが、それでもアクションではドニーさんにかなわない、てーか今回はドニーさん大活躍だった!イッセー尾形似とか言われるとガッカリするんだが(ホントに昔言われたのよ)、さすが武侠のために生まれた男だなーってつくづく思ったもんだ。ラスト近くの壁際の戦いなんてまさにドニーさん独壇場だし。でもそれ以上に驚いたのが、同じ高麗からつれて来られた奴隷娘緑珠(キム・ソヨン)とのラブシーン!ももももっとエロティックでもー…って思ったのは言うまでもないんだけど、これがドニーさんの精一杯なのか?あと、蓬髪のドニーさんはどうもツボらしい、ということに気づかされたのであった。だって『英雄』の長空も好きだったもの。
七剣の紅一点(里見八犬伝で言えば犬坂毛野か)、チャーリー。いくら男勝りの女性とはいえ…色気がねぇ。いいのか?でもかわいいし、とても30歳とは思えないけど。
中国出身の陸毅くん、香港育ちのモデル、ダンカンくん、二人ともいい男だなー。確かによく観ないと見分けがつかないが。辛龍子役の戴立吾くん、もっと活躍してほしかった。そしてこいつらをまとめる劉家良しーふー、すっごく貫禄ありました。このメンツでひとりプラスしたらホントに中華版里見八犬伝ができそうだな。
対する敵役。風火連城の孫紅雷って…、えー!あの『初恋のきた道』でのツーイーの息子ー?いや確かにあの映画でもごっついオッさんだなーとは思ったけどさ。あと、敵役とは言いがたいけど清国の親王役のマイケル・ウォン…すみません、エンドタイトルを見るまで気づかなかったです。
忘れちゃいけないのが音楽。『機動警察パトレイバー』、『攻殻機動隊』シリーズ、そして『科捜研の女』シリーズなど、アニメからドラマまで幅広く手がける川井憲次さんの手によるスコアはスケールがでかくてかっこよかった!まぁ、『イノセンス』でのオリエンタルな味わいの音楽が印象的だったので、いつかアジア映画をやるかもなーなんて思ったので、これは嬉しかったなー。あ、でも、世界進出はこの映画が初じゃなくて、フランスでサントラを手がけたり、韓国映画『南極日誌』のスコアもやっていたのね。すみませぬ、ろくに調べずにこのエントリを書いちゃって。
原題:七剣
製作&脚本&監督:ツイ・ハーク 原作:リャン・ユーション『七剣下天山』武術指導:トン・ワイ&ホン・ヤンヤン 音楽:川井憲次
出演:レオン・ライ ドニー・イェン チャーリー・ヤン スン・ホンレイ ルー・イー キム・ソヨン タイ・リーウー ダンカン・チョウ ラウ・カーリョン
| 固定リンク | 0
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 盗月者(2024/香港)(2024.12.30)
- 台カルシアター『赤い糸 輪廻のひみつ』上映会@岩手県公会堂(2024.12.21)
- 無名(2023/中国)(2024.08.16)
「香港映画」カテゴリの記事
- 恭喜新年 萬事如意@2025(2025.02.11)
- 盗月者(2024/香港)(2024.12.30)
- 【ZINE新作】21世紀香港電影新潮流(2024.01.22)
コメント
>そーだ、徐克さんのこのノリなんだ。
そうでしょう! そうでしょーー!
ただ私はあの90年代の香港武侠片ブームにおいて、緩急のリズム感が、程小東によるものか、ツイ・ハークによるものか今ひとつ解ってなかったのですが、程小東途中参加の「HERO」とこっち+「ドリフト」を見比べてすこーし解ったような気がしています。
「HERO」を途中降板した董偉と、程小東の違いもまだハッキリとは解らないんですけどねー。
>動くリヨンはステキだった…(え、別に深い意味はないです)。
同感同感。
>イッセー尾形似
えええええっショックーー! いやっそれじゃあ石川五右衛門がイッセー尾形に似てることになってしまうぅぅ!YAMETE-!
>辛龍子役の戴立吾くん、もっと活躍してほしかった。
新人時代のウィン・ツァオ趙文卓にちょっと似ていて、もっと愛嬌がある…今後の活躍が楽しみですよね。
……憐れなマイケル・ウォン、気がつきませんでしたか…ヒゲのせい? 私は吊り上がり目の満人っぽい親王の登場を、あの衣装で期待していたらバタ臭いマイケルだったので、ずっこけました。そりゃ昭和天皇をイッセー尾形が演じるくらい違和感が…もがもが……(^_^;)
原作を読んでから、また見に行くつもりです。ではでは。
投稿: nancix | 2005.10.04 00:07
>やりたい放題。
これを聞いてスッキリしました(晴々)
そう! その言葉を待っていた!!!
王敏德さん、見たとき、「まさかいちばんやらなそーな役やし違う人かな?」と思ったけどまさしく彼でした。
いつも「欧米人」の役ばっかりなんですもの(笑)
かんけーないですが、わが地元ではこの日曜に「ドリフト」TV放映でした。
日本語吹き替えなのでヘンな感じ(笑)
まだあちこちで過去の徐克作品の放映があるのかしら?
(こないだは吹き替えの「金玉満堂」をやっていた・・・)
さ。「七劍」次、いつ行こうか♪(爆)
投稿: grace | 2005.10.04 01:12
>清国の親王役のマイケル・ウォン
き、気が付きませんでした。
どこかで見た覚えのある顔だと思ったのですが、マイケル・ウォンと結び付きませんでした!
4時間バージョン、本当に楽しみですよね。
早く観たいです…。
投稿: nego | 2005.10.04 05:51
TBさせて頂きました。
レオン・ライの頭巾に萌え。
ドニー・イエンのかかと落としにも萌え。
ストーリーは・・・(-_-;)。
川井さんの音楽すばらしすぎます。
投稿: ゆうなん | 2005.10.04 12:48
いやー、結構ご覧になっている人って多いんだなーってあちこち回って思った次第(って当たり前か)。でも、PR期間が短かったのが残念だったなぁ。
>nancixさん
トン・ワイさんと程小東さんの違いは、同じ武術系でも重量感の違い?とも考えたのですが…。すると、ユエン・ウーピンさんと彼らとの違いは?なんだかうっかり迷路に迷ってしまいそうです。
ワタシも原作を読んで再見できればと思います。(こっちでもとりあえず今月いっぱいは上映されるみたいだし)
>graceさん
『ドリフト』&『金玉満堂』放映されたのですかー?いいなぁ。ニコの声が誰だったのだか気になります…。
>negoさん
ああ、よかった、マイケル・ウォンに気づかなかったのは自分だけかと思い、ホッとしました。
4時間版のSEEヴァージョン、日本でも上映or発売してくれると嬉しいですよね。
>ゆうなんさん
TBありがとうございました。
リヨンの瞳の意外な美しさと、ドニーさんの体のキレにひたすら見惚れていて、満足して映画館を後にしたものですが、やっぱりストーリーは…う~ん、でしたね。
ま、完璧な映画ってなかなかないものだよなと思った次第です。
投稿: もとはし | 2005.10.04 23:32