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PTU(2003/香港)

祝!ジョニーさんカンヌ殴りこみ、もといコンペ参加決定記念鑑賞&感想第2弾は、現在東京で公開中の『PTU』 。思えば昨年は、ジョニーさんはこの映画と『マッスルモンク』で金像奨を制し、ジョニー組香港(ここ)にあり!と高らかに宣言したようなものだった(ウソ)。…でもなんで『マッスルモンク』が作品賞他複数受賞でこれが監督賞ひとつだけなんだ?いや、観てないからよくわかんないのよ『マッスルモンク』のすごさが。誰か教えてちょー。

香港の映画番長、ジョニー・トウ。昨年はこの作品がベルリン、『ブレイキング・ニュース』がカンヌ、そして《柔道龍虎榜》がベネチアの各映画祭に招待され、世界でも知名度が上がってきている。彼の映画には同じ“香港ノワール”系列でもジョン・ウー作品のような美しいバイオレント描写もなければ、王家衛のようなこだわりのカメラワークと即興的な演出術もない。あきらかに先の二人とは違う個性を持つ彼なのだが、作り上げる作品はギャングものから脱力コメディまで幅広い。その「こだわりのなさ」がジョニーさん映画の魅力ではないかとワタシは考えるのだが、どうだろうか。各映画祭で注目されたのはたまたまノワール風味の作品が揃ったけど、そのうち世界の映画人も彼の節操のなさ、いや違った、ジャンルを問わない作風に驚かされる時が来るんだろうな。

では本題。この映画、冒頭は香港警察特殊機動部隊(Police Tactical Unit=以下PTU)のあるチームが尖沙咀(以下チム)の繁華街に降り立つところから始まる。夜の街をパトロールする彼らが歩く裏道は、香港を旅した者なら馴染みがあるに違いない道だ。ワタシ自身もこの界隈の中級ホテルを拠点に街歩きをしているので、日本にいながらにして彼らと共に香港の夜の裏道を歩いている気分になった。…しかし、その道行きは穏やかではない。彼らの行くところ、硝煙と血の臭いがたちこめているのだから。

2000年9月14日深夜のチム。ホー隊長(サイモン)率いるPTUの小隊が警邏を始めた頃、とあるレストランではいざこざが起こっていた。マフィアの若き幹部マーの手下たちと組織犯罪課のサァ刑事(林雪)が鉢合わせする。サァとマーの手下たちが店を出た後、マーが殺し屋に刺される。一方、サァはマーの手下に車を傷つけられてキレ、彼を追う最中にバナナの皮で滑って(!!)全身を強打。ホーたちに助けられたサァは拳銃をなくしてしまったことに気づく。そこでホーたちはサァの拳銃探しを手伝うことになり、マーの手下を探す。やがて、マーがタクシーの中で絶命しているのが発見され、その日の朝発生した強盗事件を捜査していたチョン警部(ルビー)率いる特捜課(以下CID)が、事件との関連性を調べるために到着。本来は非番のはずのサァの挙動不審な動きに気づいたチョンは彼をマークする。
PTUはマーの手下を追い、サァはマーの父親でマフィアのボス・ハゲ(しかしすごい翻訳だなぁ、鈴木さん…。本人まさにその通りなんだけどね)に接触。ハゲは息子殺しの犯人を敵対組織のギョロメ(『やりび』のサイモン兄役、エディ・コー。しかしこの翻訳もすごいよ…)のしわざと決め付け、復讐を誓う。しかし当のギョロメは全くのシロで、警察に保護を申し出る。さらに「ギョロメをおびき出せば拳銃を返してやる」と脅迫され、サァは大ピンチ。
銃を探すサァとPTU、彼らの行動を不審に思うチョンたちCID、対立するハゲとギョロメ。彼らが集まった午前4時の広東道で起こったのは…?

ジョニーさんの手がける“ノワールもの”の魅力を考えてみると、『やりび』や《柔道龍虎榜》に見られるような夜の街の描写の美しさ、『ブレイキング』やこの作品でも詳細に描かれた警察組織の対立関係のリアルさ、そしてキャラクターのクールさにあるんじゃないかな。今回はマフィアじゃなくて警察官がメインキャラ。そんなこともあって、PTU、組織犯罪課(香港風に言うと“O記”でよかったっけ?)、CIDという、香港ポリスムービーによく登場する人々(といってもサァは全くの単独行動なんだが)のの動きを追っていくと、一切カッコつけたところがなく、本当にこういう仕事してるのかもしれない…とリアルに感じたものだった。ま、ホー隊長は時に任務を逸脱してチンピラをリンチしまくったりしてるけど、実際のPTUにこんな人は…いない…よね…?

チムの美しい夜に展開する、リアルで痛い(だってマーの刺された後の行動とか…バナナですべるサァとか…痛いじゃん)出来事。面白いんだけど地味。撮影に2年かかったそうなんだけど地味。そりゃそうだ、キャストが渋すぎだもん。シブ男優シブ女優大集合ムービーだし。
シブ男優その1はジョニー組常連その1でもあるサイモンさん。寡黙で終始無表情、そしてアーミー色の制服とベレー帽がよく似合う。頼りがいのある隊長だけど、無表情でリンチするから不気味。渋谷の裏街とかうちの街の裏通りとか警邏して、なった気したチンピラ君どもを無言でにらみつけていたぶってほしいもんだ(おいおい、物騒なこと書くなよ…)。シブ男優その2&ジョニー組常連その2はもちろん林雪。相変わらずの林雪なんだが(なんだそりゃ)、こーゆー刑事はマジでいそうだ、香港にも日本にも(笑)。ドジで庶民派で泥臭いオッサンだけど、ラスト近くでチョン警部に見せるちょっとした心遣い的アドバイスをするくだりで、おおー、コイツ意外と紳士だなぁなんて思わず感心(…そうか?)
チョン警部役のルビーとPTU隊員役のマギー・シュウ。この2人の女優もジョニー組常連なんだけど、これまた華がないから地味で…(^_^;)。ま、この映画にサミーやセシリアは必要ないから、彼女たちで充分オッケイ。それに二人とも男前なのだ。特にチョン警部は『ブレイキング』でケリーが演じたレベッカに通じるエリート警部なんだけど、『踊る大捜査線』に登場した女性キャリアのように冷酷なくせにヒステリックじゃなく、他人に厳しくてもちゃんといろいろ考えて行動している。そして、その実力も他の部署の警官たちは認めている。それだから先に書いたように、サァが銃撃戦で腰を抜かした彼女に気を遣って共犯関係(苦笑)を結んだくだりはうまいなって感じたのだ。実際それは彼女のプライドを傷つけたようには感じなかったし、彼女もわかっていただろうからね。このへん、日本のポリスアクションものの製作者(某○る関係とか)には是非参考にしてほしいものだなー。つーか日本の警察もこーゆーふーになんなきゃダメよ。(うわー、それってかなり暴言だよ!)

うーむ、いい映画だ、カッコいい。
でも地味。ものすごーく地味。
これでいいのか、ジョニーさんよ。…ま、いいんだろうな。そういうことにしておこう。ははははは。

製作&監督:ジョニー・トウ 脚本:パトリック・ヤウ&アウ・キンイー 
出演:サイモン・ヤム ラム・シュー ルビー・ウォン マギー・シュウ レイモンド・ウォン エディ・コー

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コメント

初めまして!
アジア映画好きのm-thereseと申します。
トラックバックさせていただきました。
よろしくお願いします!

投稿: m-thereese | 2005.05.10 20:58

m-thereeseさん、はじめまして&TBありがとうございました。
ジョニーさんはカンヌでの評判もあわせて、今後も追っかけていきたい監督さんです。観ていない作品はいっぱいあるんですけどね(^_^;)

投稿: もとはし | 2005.05.10 23:48

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