キープ・クール(1997/中国)
原題の直訳は「話があるならよく話し合おう」。邦題になっている英題をわかりやすく言えば「だから落ち着けって!」(笑)今から7年前、『ブエノスアイレス』がカンヌ映画祭のコンペ出品で話題を呼んだ一方、中国政府からコンペ出品を取り消されたいわくつき(その理由は張元監督が同性愛をテーマに撮った『東宮西宮』が当局の許可なく監督週間に強行出品され、それに抗議する形で出品拒否。その代わり同年のヴェネチア映画祭に出品)の作品『キープ・クール』を観てきた。比較的日本公開作品の多い張藝謀作品のうち、『あの子を探して』や『初恋のきた道』より遅れて公開されたので、なになにこの映画、いったいどれだけ問題作なんかい、政府批判でもしてるんかいとか思いながら見たら、思いっきりコメディじゃねーか、ただの。しかも冒頭はニセ『恋する惑星』(爆)。常に不安定なカメラワークや最悪のタイミングは最高のチャンスで訪れる(逆もあり)展開に、「ドイルにーさん呼んでこよーか?」とか「イーモウの奴、もしかしてこの映画で王家衛とタランティーノに喧嘩売ってんのかもなー」などとあれこれツッコミつつも、楽しく観戦いたしましたわよ。
現代の北京。昔の女安紅(チュイ・イン)を未練たらたらにストーキングする本屋の趙(姜文)。彼女に振り向いてもらうためには手段を選ばない趙は、屑屋(久々に俳優やってるぞイーモウ!)を雇って「安紅!お前を好きだぁぁぁ~」と叫ばせるなど節操のない行動をとる毎日だった。ある日、趙は安紅の今の男でクラブ経営者のドロン劉(リュウ・シンイー)の手下によってボコボコにされるが、とっさに近くにあった書類鞄を投げつけて応戦する。が、それもムダだった。病院で治療を受けた趙の元に眼鏡をかけたオッサン張(李保田)がやってきて、彼らの喧嘩に自分の新品ノートパソコンが巻き込まれて壊されたので弁償してほしいと詰め寄る。しかし、安紅のことしか考えていない趙は元はといえば劉が自分を襲ったことが重要だから自分は弁償しない、劉が弁償すべきだと取り合わない。張と二人で劉のクラブを訪れた趙は包丁を振り回して劉を追いかけ、挙句の果てに警察に逮捕されて“公共の秩序を乱したため1週間の拘留”となる。
数日後、安紅とよりを戻し、自宅でいいムードになっていた趙を張が訪れる。劉がパソコン代込みで弁償してくれるというのだ。待ち合わせ場所に赴いた二人だが、話しているうちにお互いの思惑が全く違うことに気づく。張はただパソコンを弁償してもらえばそれでよかったが、怒りに燃え上がる趙は劉の右手を切り落とそうと目論んでいたのだ。これはまずいと感じた張はなんとか趙を止めようとするのだが、事態は思わぬ方向へと展開していくのだった…。
このところ監督業があったり、映画に出ても『天地英雄』のようなコスチュームプレイが多かった姜文さん、現代人役を見るのはほんとに久々かもしんない。しかしでかいぞ趙こと姜文さん。あんなでかいオッサンにストーカーされたら安紅じゃなくても怯えるってフツー。以前『恋戦』の時に引用した「恋は人の頭をわるくする(by黒田硫黄の映画に毛が三本!)」を地で行く、というよりもともと頭が悪そうな趙が必死こいて安紅を取り戻そうとするつかみは笑いっぱなし。その頭が悪いゆえの行動は彼に悲劇または喜劇を呼ぶ。大ベテラン李保田演じる張と出会ってからはもっとドタバタに巻き込まれるものの、安紅がフェイドアウトしてしまったのが惜しいような。キレまくった趙に張が逆ギレし、立場が逆転する展開は予想できたかも。李さんの切れまくり演技も自分捨ててたみたいでおかしかったし。典型的北京のインテリ張が趙以上に暴走しまくり、趙と同じく刑務所に放り込まれる(この二人を諭した警官がご存知葛優さんだったが気づきまへんでした…)。
思い込みやコミュニケーションの行き違いがとんでもない方向へ行く悲喜劇。それをコミカルに描いた意外性があっても、イーモウにとってはお茶の子サイサイで作った映画なんじゃないかな、これは。これまで人の情熱や感情をダイナミックに、時に悲劇的に描いてきたものの、時に社会的な主張も加わるゆえに、中国国内ではあまり評価されなかったイーモウも、この作品以降は国内に焦点を当てて、ささやかな幸せを取り上げた作品を作って評価を得た。この変化はなぜ起こったのだろうか。やはりコン・リー姐さんとの別離が原因?そんなこともついつい考えてしまうんだけどね。この映画はそんな変化の最中に撮られたこともあって、イーモウにとって転換作であり実験作であると思う。激しさから幸せへ、そして『英雄』や《十面埋伏》へ。イーモウという監督はどんどん変化し続ける。今後どこへ行くかもじっくり見守っていきたいけど、この作品で久々に俳優姿(堂々の主演だった香港映画『テラコッタウォリア』以来!)も見られたので、俳優イーモウももっと見たいぞー、なんて思ったりして。
原題:有話好好説
監督&出演:張藝謀(チャン・イーモウ) 原作&脚本:述平(シュー・ピン)
出演:姜 文(チアン・ウェン) 李保田(リー・パオティエン) 瞿頴(チュイ・イン) 劉信義(リュウ・シンイー) 葛 優(クォ・ヨウ) 趙本山(チャオ・ベンシャン) 李雪健(リー・シュエチエン)
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コメント
もとはしさん、こんにちは!
何と言う奇遇なんでしょう・・・。実はこの連休に買いだめしてあったDVDを見ていたのですが、その中の一枚が「キープ・クール」だったのです。
いやぁ、それぞれの俳優がその持ち味を出しまくり・・・といったところでしょうか。
姜文・李保田・葛優と贅沢な配役、そして張芸謀自ら登場するわ、趙本山まで登場するわでウレシイやらびっくりするやら・・・
ストーリー的にも楽しめたし、ワタシ個人的には北京の街の様子も懐かしく、一連の張芸謀の映画とはまったく違った一面を見出すことのできる作品だと思います。
そういえば、俳優としての張芸謀は「古井戸」ではじめてみましたが、当時は確かカメラマン兼主役だったんですよね。この人やっぱり「出る」のが好きなのかなぁ・・・(笑)
投稿: がめ@広州 | 2004.05.04 22:00
いやぁ、これは偶然ですね、がめ社長殿!(なんとなくこうお呼びしたい気分なので)
感想は上に書いたとおりなのですが、張藝謀作品では意外と好きかも、と思った一本です。(この映画の後の通称“幸せ三部作”もいいんですけど、自分もあまり純粋じゃなくなってきているので、なんちってー。笑)国際的大導演と中国を代表する名優たちが大マヌケに競演する、まるで香港映画の賀歳片のようだと思ったものですよ。
張藝謀監督ってスクリーンに出てもいい味出してますよね、ホント。
投稿: もとはし | 2004.05.06 21:05