《天下無双》(2002/香港)
ミュージカル映画というと、普通思い出すのはやはり名作『サウンド・オブ・ミュージック』か。しかし、アジアにはミュージカル映画が意外に多い。かつて日本を席巻したマサラムービー『ムトゥ 踊るマハラジャ』もそうだし、2002年のめでたい旧正月を彩ったこの賀歳片《天下無双》もれっきとしたミュージカル映画。この映画は久々に王家衛がプロデュースし、あの『楽園の瑕』の替わりに作られた伝説の賀歳片《東成西就》こと楽園の暇、もとい『大英雄』を作ったジェフ・ラウが監督した春光映画(Block 2 pictures)製作作品。スタッフも王家衛作品の常連が揃い、造型はウィリアム・チャン(ちなみに美術設定は『南京の基督』の監督トニー・オウ)、音楽はフランキー・チャン&ローウェル・ガルシアとなんか『楽園の瑕』&『大英雄』を思い出させる雰囲気(実際音楽は『楽園…』のサントラが多用されたし)で楽しい。王家衛作品常連で《2046》にも出演するトニー&フェイ&張震に、脇は『花様年華』出演のレベッカさん&ロイ、かつて王家衛プロデュースで初監督作品『初恋』を作ったエリック・コットに加え、初参加のヴィッキー、なんとお久しぶりなアテナにニン・チン!と賑々しくめでたいキャスト陣。
時は明朝初期。皇宮から若き皇帝(張震)の妹無双長姫(フェイ)が逃げ出したのが物語の発端。男装して旅に出た長姫がたどり着いたのが梅龍鎮という小さな街。そこで飯屋を営んでいたのが、小覇王と恐れられる一龍(トニー)と妹の鳳(ヴィッキー)。妹想いの一龍は鳳にピッタリの男を探していたが、店からこぼれた酒を見事によけた長姫を真の男と見こみ、なんとか妹の婿にしようと試みる。もちろん(笑)長姫は一龍にひとめぼれするが、都から迎えに来た皇后(レベッカ)の使いに捕まってしまう。長姫はなんとか逃げ出し、行方をくらます。妹の身を心配して皇帝自ら探しに出ることに。梅龍鎮にたどり着いた彼は剣客(ロイ)に襲われていた鳳を救い、一目ぼれする。男装の長姫を運命の人と信じていた鳳も皇帝に引かれていく。そして一龍は彼女の正体を知らずに長姫の行方を探すのだが…。
賀歳片を観ていて気づいたこと。賀歳片には次の三要素が欠かせないと。
1・たいてい古装片(時代劇)。
2・男装の少女(または身分を隠したお姫様)がヒロイン。
3・もちろんハッピーエンド。
本編はこの《賀歳片三要素》を見事に満たしている。もーちょっと付け加えると、一度恋が挫折したり、妙な三角関係が展開したり…。現代劇だけど『君さえいれば・金枝玉葉』も似た展開だし。日本もお正月はテレビで時代劇を放映するけど、こんな破天荒な展開にはならないし、ましてやヒロインは元気どころか奥床しくて主人に従うタイプばかり。ま、国民性や歴史を考えるとこーゆー違いが出るのは当たり前なんだけどね(あ、日本の時代劇も好きです。念のためフォロー)。でも元気なヒロインを見て元気になりたいなら、お正月の時代劇より断然賀歳片かな(笑)。
しかし、撮影当時はフェイ32歳、対して張震25歳。おーい、兄貴の方が年下じゃないか(笑)。それでもちゃーんとフェイが妹に見えるのだから不思議だぞ。もう一方の兄弟、トニー&ヴィッキーもかわいい。冒頭に登場するヴィッキーの男装もよい。…そしてちゃーんと男に見えるぞヴィッキー(こらこら)。
トニーはかなりやんちゃな意地悪覇王。でも器は口ほどでもないってことがトニー的お笑い英雄か。やっぱりとことん笑わせてくれるので、『無間道』や『英雄』や『楽園の瑕』でシリアストニーを続けて観た後にこういう映画でガス抜きするといいんでしょーねー、ファン(含むもとはし)は。
話としてはそれほど目新しいところもないし、よくある賑々しい賀歳片でせう。でも、王家衛はプロデュースに回った方が、いい映画が多いような気もすると改めて思ったよん。だって《2046》なんて全く期待してないもん。
ところで、劇中でフェイ&トニーが歌う歌の形式って、広東劇のスタイルにのっとっているんだよねぇ?
…実は広東劇どころか京劇も観たことないので。映画で『覇王別姫』を観たからって京劇を観たことにはならないからね(^_^;)。
英題:Chinese Odessey 2002
監督:ジェフ・ラウ 製作:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン フェイ・ウォン ヴィッキー・チャオ チャン・チェン レベッカ・パン エリック・コット ロイ・チョン アテナ・チュウ ニン・チン
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コメント
実はこの映画にも下敷きになった映画がありまして。広東オペラでも有名だというショウ・ブラザースの中華ミュージカル映画「江山美人」(1956)です。VCD買ってあります。「天下無双」で聞き慣れたBGMがいっぱい出てきます。
皇帝さまと、田舎町の名もない食堂の娘のヴィッキーちゃんの出会いなどはほとんどこの「江山美人」のパクリなんですが、さすがにヒロインは男装はしてません。トニーに当たる兄はもっと無骨なおっさんです。
やっぱり映画史もかじってると、新作も面白くなります。北京電影学院ほど難しくなく、気楽に中華映画史を学べて旧作を見られる場所はないものか。日本では期待してませんけど(^_^;)
投稿: nancix | 2004.03.19 07:28
nancixさま、情報多謝でした。
ちゃーんとしっかりした元ネタあったんですね。話の雰囲気や歌などを聞いているとこりゃなんかのりメイクだなと思っていたんですけど、結構メジャーなネタなんですね。そういえば2002年クリスマスの香港で何度も《江山美人》のVCDの名前を聞いていたので、もうちょっと早く《天下無双》を観ていたら元ネタもわかったかも。
ワタシも中華映画史には疎いので、今度香港電影資料館の図書室でしっかり勉強してこようかなーなんて思っちゃいました。ああ、この情熱が大学時代にあったら、卒論には苦しまなかったんだろーなぁ、なんてねー。(笑)
投稿: もとはし | 2004.03.20 01:43