エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(2022/アメリカ)

ああ、時代は動いている。そしてものすごい勢いで変わっている。
その変化は悪い方向にもよい方向にもいっているが、よい方向への変化は喜ぶべきことであり、それを受け入れてアップデートしていかねばならない。
最近、そんなことをよく考えている。
映画を観始めて30年、香港映画を好きになって25年以上が経つが、この間の映画鑑賞状況はガラッと変わったし、流行る映画も本当に様変わりした。それが寂しく感じることも時折あるのだが、映画を好きになり始めた頃には夢のまた夢と思えたようなことが実現して嬉しくなることも少なくない。

スティーブン・スピルバーグ監督やトム・クルーズの主演作が次々と製作され、今もヒットを飛ばしているのは30年間変わらずにあるのだが、そんな状況でも米国のハリウッドや単独の映画賞としての注目度は世界最大であるアカデミー賞は確実に変化している。カンヌ映画祭で初めてグランプリを受賞した韓国映画『パラサイト』や、同じくカンヌからアジア圏まで幅広く支持された日本映画『ドライブ・マイ・カー』等、近年はアジア映画がアカデミー賞に多くノミネートされ、受賞している。しかも米国の劇場公開も好評である。ハリウッドと言えば主役は白人、単純明快で勧善懲悪なエンタメ作品というイメージもはるか遠くなり、OscersSowhiteやmetooというハッシュタグがSNSで誕生してわずか数年でアカデミー賞も多様性と異文化理解を尊ぶ賞となった。その間、王家衛を敬愛するバリー・ジェンキンス監督がゲイの黒人少年の愛と人生を描いた『ムーンライト』やスタッフからキャストまでアジア人が手がけた『クレイジー・リッチ!』の大ヒット、そしてマーベルスタジオ初のアジア人ヒーローが活躍する『シャン・チー』等が登場して評価されたのだから、米国映画界における多様性の広がりのこの速さに感心してしまう。

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先に挙げた『ムーンライト』を始め、『ミッドサマー』や『カモンカモン』などを手掛けた米国インディペンデントのスタジオA24が製作し、今年のアカデミー賞で作品賞他最多7部門を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(以下EEAAO、エブエブなんて言いたくない)』はここ数年のこの流れの集大成といえる作品。コンビ監督〈ダニエルズ(『スイス・アーミー・マン』)〉の片割れ、ダニエル・クワンは台湾系、主演を張る我らがミシェル・ヨーはマレーシア出身、そして『インディ・ジョーンズ』や『グーニーズ』で一世を風靡した後、この作品で俳優に復帰したキー・ホイ・クァンはベトナム系と華人が揃っている。しかし、この映画の内容を一文で要約すると次の通りである。
「国税庁の監査と娘との関係に頭を悩ませている中年女性が、全宇宙を滅ぼそうとする巨大な力に立ち向かう使命を受けてしまい、マルチバースにジャンプして力を得てカンフーで戦う」
しかし、自分でこう要約して言うのはなんだが、なぜこんな内容の(失礼)映画がオスカーで作品賞を獲ることができたのか?

 

 

日本では約30年ぶりの俳優カムバックを遂げたキー君の助演男優賞受賞ばかりが大きく取り上げられていたが、香港電影迷としてはやはりミシェル・ヨーに注目。
トゥモロー・ネバ―・ダイ』で“最強のボンドガール”という称号を与えられてハリウッドデビューを飾り、そのキャリアも25年となるミシェル姐。彼女がアジア人初のアカデミー賞最優秀主演女優賞を獲った時の以下のスピーチ映画.comより)。これが実にいいし、この映画のスピリッツも表している。

今夜この式を見ている私と同じような少年少女の皆さん、これは希望と可能性の光です。大きな夢を見れば、夢は叶うという証明です。そして女性の皆さん、『あなたの全盛期はもう過ぎた』などと誰にも言わせないでください。決してあきらめることはないのです。

25年という年月は短かったのか、長かったのか。ハリウッドに行っても『レイン・オブ・アサシン』のような中華圏の作品にも出演していたし、中華圏以外でも『The Lady アウンサンスーチー』のようなドラマ、『ラストクリスマス』のようなコメディ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズにも(シャンチーと同じMCUなのに!)出るし、TVシリーズの『スタートレック:ディスカバリー』では船長も務めている…って大活躍じゃないか、こうやってちょっと書き出してみても!最近の出演作では武闘派の図書館司書を演じた『ガンパウダー・ミルクシェイク』がよかった。あんな図書館司書を目指したい…(こらこら)
とはいえ、主演作は12年ぶり。しかもミシェル、トニーと同い年。アジア人中年女性が主人公となる米国映画は今までなかったらしく、アクションスターとしてのキャリアを存分に活かして大暴れ&大ヒットというのなら確かに興味を引く。でもSFアクションがなぜオスカーにノミネートされて作品賞まで獲るのか?ええ、二度目を一緒に観た友人にもやはり言われた。なんでこれがオスカー作品賞なの?と。
でもね、公開初日に観終わった時にうっかり思ったのである。これ、もしかして作品賞いくんじゃないかな?って。

監査や娘との問題のほか、大陸からやってきた父親の世話にパーティーの準備等々、マルチタスクをこなすだけでも大変なのに、それから世界を救えとか言われるのなら、それどんなセカイ系よ?と思ったのは言うまでもない。しかも世界を救う力をマルチバースから入手するために必要なことが、バカバカしい行動を取ること。そのおかげでハエをなめたり、変なダンスをしたり、挙句の果てに尻にトロフィーをぶっ刺しながら戦うなどというどこか周星馳監督作品ばりのナンセンスな展開になる。これだけ書きだしてみると、うん、確かにオスカー作品の威厳は全くない。

何もかも失敗してきたエブリン(ミシェル)のあり得たかもしれない人生ー成功したアクションスター、盲目の歌手、鉄板焼レストランのシェフ、ピザ屋の看板娘、脅威の進化を経て得たソーセージフィンガー…と、それらのマルチバースを破壊しようと目論む、彼女の娘ジョイ(ステファニー・スー)の姿をしたジョブ・トゥパキとの対決の隙間から見えるのは、母と娘の問題を含んだ、現代の女性の生きにくさ(加えてアジア系という米国では圧倒的なマイノリティにいることもある)。レズビアンのジョイはエブリンが自分と恋人のことを認めてくれないことに悩み、そこにジョブ・トゥパキがシンクロしてくる。当のエブリンも、駆け落ちして中国に残してきた父親(大ベテランの華人俳優ジェームズ・ホン。個人的には『ブレードランナー』の眼球職人チュウ役で認識)に対してどこか後ろめたさを覚えているようにも見える。さらにいえば、エブリンの天敵である国税庁の査察官ディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)も憎まれ役として登場するが、実は彼女も悩みを抱えていて、ただの悪役にはならない。
ジャンプした先では、夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)も父も違うキャラで登場する。特にエブリンがミシェル本人同様、女優として大成した世界(名付けて花様年華バース)で再会したウェイモンドがすっかりトニー・レオンだったのには笑ったし惚れ惚れした(マジで)二人が結婚しなかったこのバースでの展開は実に王家衛チックでさらに惚れ惚れ。それと同じくらい印象強かったのが、最初は出オチかと思ったソーセージバース。ここのエブリンはディアドラと恋人同士という点でさらに出オチ感も強くなるのだが、本筋に近いようで実はそうでもない世界のディアドラの気持ちとこちらがシンクロしているようで、彼女のテーマとして流れてくるドビュッシーの「月の光」をピアノで(しかも手が使えないから足の指で)弾く場面にはついうっかりホロっときた。

こんな感じで笑ったりブンブンと振り回されて観ていたが、エブリンとジョブの熾烈な直接対決を経て迎えた結末には、妙にしみじみとした気分になった。カオスを極めたこのマルチバースの旅でエブリンは目覚め、ジョイとも向き合う覚悟を持った。
本来の世界に戻ったことで「なーんだ、結局家族の話に収まるのか、凡庸だな」などといわれてたのを見かけたのだが、別に家族の話に収まったことにはこっちは感動してない。家族の話に収まるように見えても、実はそんなんじゃない。それぞれのバースに、それぞれのエブリンやジョイがいるが、それぞれの人生を生きている彼女たちは、やはり「今ここにいる」エブリンとジョイに集約される。それは元に戻ったのではなく、お互いにアップデートしたうえでの集約なので、決して以前と同じにはならない。そんな複雑さを抱えているから人は面白く、それぞれが小宇宙のようなものである。そんなことを感じてしみじみしたのであった。
ラストに♪This is a life free from destiny…と流れる主題歌(アカデミー賞ノミネート)がさらにまた沁みる…
というわけで、クリップをどうぞ。

 

ドラムスが香港出身という音楽担当のサン・ラックスが、日系のSSWミツキとあのデヴィッド・バーンを迎えて作った主題歌。

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様々な引用とオマージュに満ちた映画だけど、クライマックスでウェイモンドがエブリンに「人生との戦い方」として授ける「親切でいてね」という言葉を聞き、これがカート・ヴォネガットの言葉だとわかり、心の中で膝を打った。
ヴォネガットは私も好きで何冊か読んでいるが、若い頃は彼の言う「愛は負けても、親切は勝つ」という言葉がどうも理解しがたかった。だけど、ジョイのような煩悶の日々を過ごして歳もエブリンに近くなり、ここまで生きてきてしまった身として、その言葉の大切さと実行しがたさは本当によくわかる。それでもマルチバースのひとつかもしれない現実に”FxxK it!"といいつつ、人に親切にすることを心がけていく。これが誰にでも大切なことなのかもしれない、とまた思い返してはしみじみするのであった…
This is a life.

原題:Everything Everywhere All At Once
製作&監督&脚本:ダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)製作:ジョー&アンソニー・ルッソ、ジョナサン・ワン他 製作総指揮:ミシェル・ヨー他 撮影:ラーキン・サイプル 編集:ポール・ロジャース 衣裳:シャーリー・クラタ 音楽:サン・ラックス
出演:ミシェル・ヨー ステファニー・スー キー・ホイ・クァン ジェームズ・ホン ジェイミー・リー・カーティス

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熱烈歓迎!盛岡台湾Happyフェス

このblogでもこれまでたびたび紹介してきた盛岡台湾Happy project
昨年12月から正式に協議会として組織され、これからは通年で盛岡と台湾の交流イベント事業等行っていくようです。

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このプロジェクトのメインイベントであり、今年で3回めとなる盛岡台湾Happyフェスは1月28日と29日に開催されました。

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大都市圏で行われるような台湾祭や台湾フェスのような大規模イベントではなく、地元の事業者による出店とトークで構成されるのはいつも通り。今年は盛岡と友好都市である花蓮から、花蓮縣政府青年發展中心が参加してパネル展示と物販を行いました。3回目にして初めて台湾からの参加!

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今回は物販が大人気。毎年恒例の東家特製盛岡台湾弁当は2日とも即完売。
(私も買えなかったので友人が購入した弁当を撮影しました)

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今年は魯肉飯と蒸し魚がメイン。

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こちらはパイカ(軟骨)の豆鼓煮込み弁当。市内の台湾料理店ふぉん特製。
お店は夜のみ営業ですが、市内のお弁当イベント等にも時々参加しています。

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「楽しみながら学ぶ盛岡台湾交流DAY」と銘打った土曜日のイベントは教育がテーマ。
今年始め話題になったニューヨークタイムス紙の「2023年に行くべき52カ所」に盛岡が(実は台北も)選出されたことを受けるように、台湾の高校生に盛岡のいいところをおすすめするプランを即興で作ったり、盛岡や台湾を題材にしたクイズを作成するなどの高校生たちの取り組みが発表されていました。
その中でひときわ興味深かったのが、市内で食品業を営む方の台湾留学レポート。ご両親が台湾から日本に移住し、日本で生まれた2世の方なのですが、日本語を母語として育ったので、中国語はビジネスで使うくらいだったそうです。両親の故郷で学ぶことを長年夢見ていたそうで、2年前の秋から昨年の夏までの1年間、65歳にして悲願を叶えたとのこと。しかも留学されていたのが、私がここしばらく心の近所として通っている台南の成功大学。課題の多さ(これは誰でもいうことだけど)に加え、一人暮らしでの食生活の工夫や体力作りなど、参考にしたい話もたくさん聞けました。
私も今後仕事を首にされるか、運よく定年を迎えた後に、親に不測の事態が万が一起こらなければ、また留学したいかなと思うようになったのですよ。自分の頃と比べても留学しやすくなってきたし、実際高校でも米国より台湾への留学案内も増えてきているとのこと。
若者たちにとっても、いろいろと学べることも多いし、有意義だと思います。

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2日目の日曜日のイベントテーマは「ディープにデュアルトーク盛岡台湾DAY」。
盛岡出身の新渡戸稲造を始めとして、後藤新平や伊能嘉矩、三田定則など台湾統治時代に活躍した岩手県人についてや、市内の森林公園できのこアドバイザーを務めるきのこ王子さんによるきのこ話などが展開する中、私と友人たちで結成した台湾カルチャー研究会(以下台カル研)も「おいでよ、台湾映画沼 わたしたちはこうしてハマった」という題名で、台湾トークしてきました。
昨年12月、協議会に関わる友人の某氏より「台カル研で台湾映画トークやらない?」と打診があり、昨年出した台カルZINEを基に、これまであまり意識して台湾映画を観たことがない方々が多いことを想定して、現在観られる映画を中心に紹介しました。
キーワードとしては青春映画、台湾ニューシネマ、LGBTQ+、ホラー、社会と歴史、そしてリメイクなど。個別の作品では『幸福路のチー』『あの頃、君を追いかけた』『1秒先の彼女』を紹介しました。
あわせて、配信で観られる作品もリーフレットにまとめました。(写真の右下に写ってます)

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私自身は、4年前の『藍色夏恋』上映会でトークは経験済みなのですが、あの時はほぼ準備してなかったのでいろいろ大変だったっけ…なんて思い出していましたが、その時よりスペースはオープンだしどんな人が聞いてくれるかわからなかったし、退かれたらどうしよう…などとオタク的ないらぬ心配までしてしまいましたが、メンバー3人の好きなことをあれこれ話せて本当に良かったです。聞いてくださった皆様、本当にありがとうございました。

今年は『藍色』や『あの頃』を始め『海角七号』『KANO』など21世紀に入ってからの傑作台湾映画の配給権が次々と切れていくそうで、国内で上映される作品が少なくなるのが残念ですが、それでも今後様々な台湾映画が広く観られて、観光やグルメと共に台湾を知るきっかけになってほしいと思うのでした。
今年は何か上映会が企画できるといいなあ。

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今年はステージトークがあったのでいろいろ時間が取られ、合わせて本業の仕事等も大変で、プレウィークで行われた市内各所の展示等もじっくり見られなかったので、スタンプラリーを回るのもなかなか大変でした。
今年のデザインはこんな感じ。
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今年のコンプリ特典は昨年とちょっとデザイン違いの美麗!台湾コラボステッカーと、昨年秋に行われたボンネットバスツアーの特製ポストカード。(ちなみにこのボンネットバス、バリバリの現役です。Suicaやpasmoで乗車できます)
スタンプとスタンプカードは今月いっぱい、ポノブックスさんに設置してあります。

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パンデミックの始まりから3年が経ち、まだまだ感染は収まらないけど、経済や往来は元に戻していこうとしているこの頃。
定期便も観光も復活しつつあるけど、当地の国際線はまだ復活せず。まだまだ状況が厳しいのはわかるけど、今年はなんとか行けることを願うばかりだし、このフェスで台湾に興味を持ってくださった方が、気軽に地元の空港から旅立てるようになってくれたらということもあわせて願うところです。イベントも毎年ながら楽しく充実しているし、こんなに楽しいのなら台湾自体もっと楽しいのは言うまでもないですしね。

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サークルとしても、もちろん個人でも、今後もこのプロジェクトには積極的に協力していきます。
何かイベントがあったらこちらでも紹介しますので、今後ともご注目をお願いしますね。

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新年快樂!&イベント参加のお知らせ

新年快樂 

 

萬事如意

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あはははは(汗)
こちらの絨布揮春はHKストアで購入いたしました。

今年初の更新が旧正月になってしまいました。
香港や台湾との往来が再開しつつあるけど、行けるようになるのは当分先かな…

さて、このblogで度々取り上げてきた盛岡台湾Happyフェスが今年も開催されます。
過去2回のイベントについてはここここで書いています。

大規模イベントとは一味違う、地元の事業者さんや教育団体が集う盛台交流イベントですが、3年目の今年、ついにステージデビューとなりました!(笑)はい、台カル研のメンバー3人で台湾映画トークをします。題して「おいでよ、台湾映画沼 ~わたしたちはこうしてハマった~」

詳細はこちらをご覧ください。

 

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また、フェス会場に近い盛岡市大通3丁目のブックカフェpono books & timeさんでは、期間限定で台カル研の棚を作っております。
台カルZINEや私の台湾飯フォトブックの販売や、台カル研おすすめ本の展示を行っております。

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地元でのイベントかつ直近のお知らせになってしまい、遠方の皆様には申し訳ありませんが、地元の皆様はぜひよろしくお願いいたします。

そして今年、ニューヨークタイムスで「今年行くべき52都市」の一つに選ばれた我が盛岡市にも、皆様是非おいで下さいませ>となぜか中華blogで謎アピールいたしますが、どうか見逃してください(笑)。

 

ともあれ、今年もよろしくお願いいたします。

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【近況報告&お知らせ】通販部再開しました他

ご無沙汰しております。
月一度のUPを目標としていましたが、本業が忙しくなると記事を書く余裕もなくなってしまいます。
そんなわけで、まずは近況から。

この夏は、花巻の火鍋店に行ったり、

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夏休みは滞在先(といっても市内のゲストハウス)でお茶をじっくり味わったり、

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地元のカフェで西多士&奶茶をいただいたり、

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業務スーパーで売ってた蔥抓餅で蛋餅を作って早餐にしたり、

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微熱山丘李さんの月餅を中秋節にいただいたり、

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サークル結成1周年記念で火鍋食べてたりしました。

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…なんだよ、食べてばっかりかよ、とつっこまれそうですが、ちゃんと映画だって観てました。

東京では夏からロングラン上映となったあのWKW4K、我が街では思ったよりも早く9月末から2週間も上映されましたから、もう大喜びで観に行きましたよ、はい。当地では2K上映だったのだけど、音はクリアだし映像も美しくて見惚れてしまった。そして王家衛作品ではやっぱり『ブエノスアイレス』と『花様年華』が一番好きなのだなと改めて思った次第。もちろん、他の3作品も久々に観て初めて気がついたり、昔とは違う感想を抱いたりしたものであった。
来月は大館の御成座でも3週間上映されるので、また観たいなと思っているところ。

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ちょうど同じ時期に『時代革命』と『憂鬱之島』が来てしまって、しかも仕事も繁忙期で、いろいろスケジュールを合わせて全部観に行ったのでした。地元でこれほど一気に香港映画が上映されることは本当に珍しいことで、もう喜びながら映画館に通ったのだけど、おかげでこの時期は生活が荒れました(苦笑)
こちらで感想は書けなかったけど、いずれどこかで。

この秋から冬はMaking Wavesとリム・カーワイ監督のキュレーションによる香港映画祭2022の開催と、香港映画の特集上映が続いて嬉しいのだけど、東京(後者は東名阪5都市)のみの開催というのが非常に残念。ここで上映された作品に全て配給がついて全国公開されることを願います。
あと、現在公開中の『七人樂隊』も早く地元で公開してほしい…

というわけで近況はこのへんにして、お知らせです。
ここ2年で作ったZINEの通販を久々に再開しました。
今なら再開記念特典として、WKW4Kを観て考えて書いたテキストを収めたZINE「PLAYLIST 2022 Autumn」もプレゼントしております。
こちらから入れますので、是非是非どうぞ。

次はもうちょっと早めに更新します。

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わが心の台湾―『台湾の日々』『ブラックノイズ 荒聞』『台湾紀行』より

今回はジャンルちがいの台湾本3冊を読んでの大人の読書体験記です。小中高校生には全く参考にならないと思われますので、パクり等はなさらぬよう(誰もそんなことしません)

ここ数年、天野健太郎さんの遺志を継いだ太台本屋さんのご活躍や、クラウドファンディングの企画実現等で台湾本が出版ラッシュになっているので、この状況はとても喜ばしく思っています。喜ばしくはあるのですが、本当に出版ラッシュとなっているので、気がついたら買って読んではいるものの、長文の感想が追いつかないです。各々の本の感想はブクログには書いてはいるので、お暇な方はどうぞ。

台湾に行けなくなって2年半、最後に行ってから3年半。その間イベントがあったり料理を作ったり サークルで研究をやったりZINEを出したりと、台湾にふれる機会は多かったのですが、それが多くなるほど、自分はどれだけ台湾を「知って」いるのかということを考えるようになりました。
戒厳令が終了したとはいえ、まだまだ国民党独裁の色が濃かった90年代初頭に台湾に行って以来(途中の空白期も入れて)気づけば30年も台湾と関わってきました。小説ドラマの『路』では、90年代後半~2007年という時期を描いていたけど、その頃もはさんでの30年だから、自分が初めて住んだ頃を思い起こせば、変化も大きいようで意外と変わっていなかったり…とあれこれ考えてしまうのでした。
そんなことが頭にあったせいか、この夏たまたま続けて読んだ3冊の台湾本から、自分にとっての台湾への思いやそこからいろいろ派生してあれこれを考えてしまいました。

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『台湾の日々』(左)の著者、青木由香さんは私と同世代だけど、自分の方が多少上。そして初めて行った時期が10年違ったので、同世代でもやはり見ていたものも行った目的も全然違います。
当時は戒厳令が明けたばかりで、まだ日本語が公共の電波で禁止された頃に留学で初めて台湾の地を踏んだ身として、今思い返せば全体的に楽しい思い出が多かったのではあるが、抗日運動に巻き込まれたり、日本統治期のことに対して不勉強でいろいろ戸惑ってしまったことも思い出される。当時仲の良かった台湾人のルームメイトたちは、就職後日本に留学したりして会える機会もあったのだが、こちらが多忙で連絡できなくなったりして縁が途絶えてしまい、とてももったいないことをしてしまいました。
それでも、台湾には何度か岩手の友人たちと一緒に来ていたし、18年前から弟が南投縣の山の中の町で働きだして、親族訪問という名目で再び通い始めるようになり、さらには高鐡の開通で容易に南部へアクセスできるようになって、台南や懇丁などが「心のご近所」となりました。そして新しい台湾の友人も増えました。

青木さんはこの20年間での在住で台湾の急激な変化を身近でご覧になってきた方。その上で現地で本を出し、「一人台湾観光局」を務め、2010年代からの台湾ブームにおける日本への情報発信で大活躍されているが、実は彼女の本はあまり読んでこなかった。主に観光方面、特に女性向けの「おいしい、かわいい、ほっこり台湾」的な情報発信が多かったので、リピーター的にはね…と感じたからなんだけど、この20年様々な経験をされてきて、そこからあれこれ選び抜いての発信だったんだろうな、と今になって思うのでした。

雑貨やスイーツだけでなく台湾人の生活やスピリットに注目し、「台湾」を生活に取り入れようというテーマで抱えているこの本はコロナ禍を受けて刊行され、暮らしの図鑑というシリーズの1冊となっています。ここ10年ほどの「謝謝」から「朋友」として台湾に関心を持つためにはとてもよいテキストになっております。ここで紹介されている項目も暮らしに取り入れる知恵も興味深く読みました。でも、これを全部真似しなくても、それぞれできる範囲で取り入れて、あとは自分の経験や思い出から実践していけばオッケイでしょう。
例えば私だったら、日本でも人気のヂェン先生の日常着を買わなくても、手元には現地で買ったチャイナブラウスも伝統デザインのチャイナスーツがあるのでそれを着るし、赤が苦手なのでペパーミントグリーンを取り入れてみるし、台湾料理(上の写真右のレシピ集も最近重宝してます)も電鍋がなくても、手持ちの電気調理器で代用、等々。

まあ台湾に行けない日々が当分続くのは覚悟していますが、台湾がこっち来いよと思えば、たとえ身近に台湾カフェが少なかろうが、雑貨が容易に入手できなかろうが、自分なりの「台湾」を暮らしに取り入れてなんとか正気で生きていこうってことで。
というわけで、次へ。

最近、台湾ホラー映画が流行りと聞くけど、昨年公開の『返校』を始め、どうもビビりな自分はそれに食指が動かない。
ホラーといえば、数年前のTIFFでギデンズの『怪怪怪怪物!』を観たけど、主人公のいじめられっ子の復讐ものとして観たものの、観た直後の爽快感から劇中に描かれるいじめや人物の描写の残酷さや、主人公たちの前に現れる怪物姉妹の来歴が恐ろしく、これティーンホラーとして無邪気に楽しんじゃいけないんじゃないの?と頭を抱えたことがあった。そんなわけで台湾のホラー映画はいろいろな意味で容赦がない、というのが私のイメージ(※意見には個人差があります)

さて、では台湾のホラーノベルはどうなのか。
この『ブラックノイズ 荒聞』はホラーではあるけど、個人的にはそれほどホラー感は覚えなかった。
もちろん、主人公のタクシー運転手呉士盛の荒んだ生活を描いた冒頭から、彼の妻郭湘瑩が幻聴に悩まされて奇行に走った末に怪死を遂げるに至るまではいったいどう展開するのかわからないという意味で恐ろしかった。しかし、郭湘瑩を担当したソーシャルワーカーや呉士盛が事件の背景を調べ始めてからの展開には驚かされた。ここに絡んでくるのが道教に原住民族の言い伝え、日本統治時代に起きた怪事件、そして魔神仔(モシナ)と呼ばれる台湾の化け物。これらがミックスされた渾沌とした展開になるのだけど、それが実に興味深く、恐怖感なく面白く読み終えた。
貞子ならぬ「ミナコ」と呼ばれる謎の幽霊も登場するので、リング的なホラーを求めてこれを読むと、肩透かしを食らわされるのだろうけど、歴史的背景や他民族国家としての呪術や民俗的背景を盛り込んでくるのは面白い。台湾には怪談がないというわけではなく、中国語でいうところの「鬼」の話はいくつかあるし、それをモチーフとした小説もあるので(李昂短編集『海峡を渡る幽霊』にもあった)そういうつながりで読むことができる。
そういえばこの小説を含め、これまで読んだ「鬼」の話に登場する幽霊はだいたい女性。そして彼女たちは死ぬまでに酷く残酷な扱いを受けていたことが背景にあり、その受難が恨みのきっかけになることや、昔の女性の扱いの低さを改めて考えてしまった…(主人公の親は統治時代に大陸東北部に渡っていたことがあり、そこで雇われていた下女のくだりなど、これは実際にあったことだろうなと考えるとね。

 というわけで、そこからのつながりでいつか読みたいのがこの本。

台湾の妖怪といえば、かつて民俗学者の弟に「台湾にはこれまで土着の妖怪がいることはあまり伝えられてなくて、日本の妖怪伝説の面白さに影響されてキャラ化していったようなものだからね」といわれていたけど、果たしてこれはどんなものか。なお著者は水木しげる作品と『遠野物語』に関心があるとのことで、こういう面からも注目したい次第。

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そしてこの本。なんと今さら読みました。しかも我が人生初の司馬遼太郎です。祖母も両親も愛読していたのに、自分はこの歳までスルーしてきましたよ!
この『台湾紀行』のために、司馬遼太郎が台湾に渡ったのは1993年冬から数回にかけてのこと。
歴史小説家として多くの著書を著し、日本だけでなく中国史も押さえているからこそ書ける紀行文だと思ったのは、清朝以前からのこの島の歴史も統治時代のそれもフラットにとりあげ、それを示したうえで統治時代に育った自分と同世代の「老台北」たちに若者たち、そして当時は国民党総統だった李登輝氏と語らい、各地を旅して原住民族の集落をたずねたり日本統治の逸話など、さまざまな要素がうまくまとめられていたからだ。そして思ったほど政治的思想も感じられないと思うのだが、どうだろうか?
ともかく、あの頃の台湾ってそうだった、とか、そうかそうだったのか!と思い出させることが多い1冊でしたよ。

こんな感じで徒然に3冊の感想を書きましたが、一見テーマもアプローチもバラバラだけど、自分の中ではいろいろつながりも感じられた3冊で、今後の台湾カルチャー深掘りの参考図書となるし、ここから「わが心の台湾」をもっと広げていきたいなと思える本たちでした。

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花椒の味(2019/香港)

マスコミが伝える7月1日をはさんだ香港の情勢は、25年前には全く想像できなかったものだった。
最後に香港へ行ったのは3年前の春休み。その時でも再開発等で変わりつつある感は覚えたのだが、その直後に反送中デモが起こり、さらにコロナ禍で国安法が成立してしまい…という状況。私は返還直後から香港に通い始め、返還前の残り香をかいだり新たな楽しみも見出したりして滞在を楽しんでいたのだけど、そんな私の香港も、もう良き思い出の中にしか存在しなくなってしまうのだろうか…。

現在日本で紹介される香港映画も、あの『十年』からたどれば、この時代を反映した若手映画人によるドキュメンタリーが多い。もちろん『乱世備忘』も『理大囲城』もオンラインでだがしっかり観ている。クラウドファンディングに参加した『憂鬱之島 Blue Island』も無事完成してこの夏東京から上映が始まるし、昨年カンヌと東京フィルメックスで特別上映されて話題を呼んだキウィ・チョウ監督の『時代革命』も上映を控えている。もちろん機会があったら劇場で観たい映画だ。
だけど、それだけじゃ寂しい。ドキュメンタリーだけではなくフィクションも観たい。もちろん『レイジング・ファイア』や『バーニング・ダウン』は面白かったけど、アクションだけじゃなくてしっかりしたドラマももっと観たい。そんなわけで、我が地元では香港が返還されて25年経った日から上映が始まっていた『花椒の味』を観に行ったのであった。

 

 

 

香港・九龍の旅行代理店で働くアラフォーのOL夏如樹(サミー・チェン)の父夏亮(ケニー・ビー)は香港島の大坑で一家火鍋という店を経営している。2017年2月、その父の訃報が如樹の元に届く。父のスマートフォンのLINEログから、台北と重慶にそれぞれ異母妹がいることを知る。亮の葬儀の日、台北からビリヤードのプロ選手如枝(メーガン・ライ)が、重慶からはオンラインセレクトショップのオーナーでインフルエンサーでもある如果(リー・シャオフェン)がやってくる。店員のロウボウから店の契約期間がまだ残っていることを知らされた如樹は、残りの期間だけ火鍋店を続けることにする。

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三姉妹もの映画で思い出すのは『宋家の三姉妹』に『恋人たちの食卓』。最近ではそのものずばり『三姉妹』という韓国映画もある。
『若草物語』の例を挙げるまでもなく、兄弟姉妹の話ともなると「最も近しい他人」ゆえの葛藤が物語を動かすことになるが、この三姉妹は出会ったばかりの頃は多少相手を怪訝に思うことはあれ、すぐ打ち解けてしまい互いに助け合うようになる。異母姉妹の愛憎ものを期待すると拍子抜けするのだろうが、テーマはそこではない。頭に「如」の字、そして木のつく漢字が共通項の彼女たちは、それぞれの現在の家族との間に問題を抱えている。如枝は再婚した母親(リウ・ルイチー)と折り合いが悪く、同じく再婚してカナダに移住した母親と別れて祖母(ウー・ウェンシュー)と重慶に残った如果は、何かと世話を焼こうとする祖母が疎ましい。そして如樹は、病弱な母と自分を置いていった父が許せない。
普通だったら、亮のような父親は軽蔑に値するだろう。如樹のような生真面目な娘ならなおさら。しかし、彼女の知る父の姿が一面的ではないのは如樹の元婚約者天恩(アンディ・ラウ)や父の友人だった麻酔医浩山(リッチー・レン)が語るエピソードや、二人の妹たちの存在からも見て取れる。そして在りし日の父を演じる阿Bの人たらし感のある笑顔が実によく、誰が見ても憎めず愛すべき存在として描かれているのが効いている。

家族という存在は安心感をもたらせば、それ以上に煩わしくも面倒くさくもなる。そこは如枝と如果の各パートで描かれる。
この妹二人のキャラの作り方が面白い。ドラマ『アニキに恋して』の男装女子役が印象深いメーガン演じる如枝の職業がビリヤード選手というのが台湾の体育会系的イメージがあってハマっているし、『芳華』の李曉峰演じる如果は中国の裕福な家の若いお嬢さんらしさがあるし、突拍子もないファッションも楽しい。(下の写真、これもしかして特攻服?と思ったのだがいかに)

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如枝は父の応援を励みにビリヤード選手としてのキャリアを積んできたが、母は賞金で生活を賄うことに不安を覚えるし、かいがいしく世話を焼く如果に対して祖母は安定を求めて結婚をすすめる。これは彼女たちだけの悩みではなく、かつての、あるいは現在進行中の世界中の娘たちが直面する問題。いずれも女親が娘/孫娘に対して抱く幸せの定型に見えるし、彼女たちなりの幸せが違うことですれ違いを産む。あるいは如枝の母も如果の祖母もまだまだ手放したくない故の干渉だろうけど、妹たちがそれを考える場として長姉の如樹がいる火鍋店にやってくることでこれまでの自分を見直し、次に進もうとする。その辛さと優しさを火鍋の辛さで語り、いずれもよい関係を結んでいくのがよい。
もちろん、如樹の思い悩みも、火鍋店に関わることで頑なな心がほどけていき、父の幻影に出会うことで和解していく。そして三姉妹は店から旅立つのだが、この家族の繋がりと解散が自然な形で描かれている。とかく「家族の絆」を強調し、文字通り縛りつけた果ての悲劇がたびたびおこる現代の家族関係において、これくらいの向き合い方でちょうどいいと思うのだ。

また、家族関係とはまた違う如樹と天恩、そして浩山という2人の男たちとのそれぞれの関係。これが恋愛に発展しにくい関係として描かれているのが実に現代的で興味深かった。
サミーはアンディとリッチーのそれぞれとも共演経験があるし、特にアンディとはロマンティックコメディからスリラーに至るまで何度も恋人同士を演じているので、一度婚約を破棄しながらも、新居になるはずの部屋に住まわせてもらうなどのつながりを保った「友人」として関係を続ける如樹と天恩の場面には、その婚約破棄の描写がないためになぜ?とあれこれ考えが及ぶ。しかし婚約破棄に至っても天恩は如樹への思いが思っているので、この物語の後によりを戻すこともあるのだろうが、この気まずく別れない関係は現実に難しくあっても、多少の憧れは感じるところがある。
リッチー演じる浩山は如樹とは父を知る人として知り合って距離を近づけていくが、メッセンジャーとしての役割を果たして、彼の望む次の人生へと向かう。つまり如樹は両者とも劇中ではわりとサラリとした付き合い方をしていくのだが、こんな描写もラブコメに持ち込むことなくさりげなく描かれていたので、とても新鮮に思えた。

この映画は香港映画にしては珍しい原作つきで、その原作を読んだプロデューサーのアン・ホイがヘイワード・マックを指名して製作したという。そんなわけで「アン・ホイ作品」を強調して語られることが多いようだが、それでも《九降風:烈日當風》や《前度 ex》を監督し、パン・ホーチョンの『恋の紫煙』の脚本を手掛けたヘイワードの作品として見事に仕上がっていると思う。コロナ禍と共に電検(検閲)の義務が課せられてしまい、製作本数が激減している香港映画の現状に非常に辛さを感じるが、今後の香港映画界での活躍を大いに期待したい監督がまた一人増えた。
だからまだまだ「香港映画絶対不死」と言い続けていきたい。

 

原題(英題):花椒之味(Fagara)
製作:アン・ホイ ジュリア・チュー 監督&脚本&編集:ヘイワード・マック 撮影監督:イップ・シウケイ 美術&スタイリング:チャン・シウホン 音楽:波多野裕介
出演:サミー・チェン メーガン・ライ リー・シャオフォン リウ・ルイチー ウー・イェンシュー ケニー・ビー リッチー・レン アンディ・ラウ 

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第7回文学フリマ岩手に出店します【ZINE新作】『台カルZINE Vol.1』ほか

バタバタしている間に前日のお知らせとなりました。申し訳ございませぬ。
前回のエントリ通り、明日6月19日(日)に岩手県産業会館(産ビル)7階大ホールで開催される第7回文学フリマ岩手書局やさぐれ&透明度として出店いたします。
当日のセットリストは画像の通り。

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【新刊】『台カルZINE Vol.1 特集:台湾映画鑑賞指南』(発行:台湾カルチャー研究会

「台湾を深掘るともっと楽しいよ!」を合言葉に、岩手の3人の台湾好きが結成した同好会によるZINE。創刊号のテーマは台湾映画。

【新刊】『自宅台湾飯』

以前のblogエントリを元に、複数のレシピ本を参考にここ2年作り続けた台湾飯をまとめたフォトブック第2弾。
第1弾は昨年発行した『職場台湾便當』(関連記事はこちら)です。

【新刊】『日日是MAKE TEA NOT WAR』

中華色薄めですがこちらもご紹介。地元産のお茶から英国紅茶まで、全編「ああお茶うめぇ…」とだけ言って1冊まとまった(笑)エッセイ。題名が物騒ですが、一応戦争反対の思いを込めて作りました(真顔)

【既刊】『閱讀之旅2019之雙城故事』 『寶島電影院』

部数僅かですがこちらもあります。

以上の本は今後ZINEイベントやブックイベント参加時にも取り扱います。
また通販も検討しております。
ではでは、よろしくお願いいたします。
そして明日のイベント頑張ります。
(当日は台カル研メンバーも集合しますよ)

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台湾カルチャー研究会はじめました

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突然ですが、立ち上げました。略して「台カル研」

Facebookページはこちら→

6月19日(日)に岩手県産業会館(産ビル)で3年ぶりに開催される第7回文学フリマ岩手のB-27「書局やさぐれ&透明度」のブースにて、この台カル研発行のZINE「台カルZINE」第1号を頒布いたします。
詳細はまた後ほど。

そうそう、書局やさぐれとしても、現在新作のZINEを製作中です。こちらも完成しましたら後ほど紹介いたします。

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大阪アジアン映画祭とこれからの中華電影上映

今年の第17回大阪アジアン映画祭(以下OAFF)では、昨年末に香港で公開されて話題になったアニタ・ムイの伝記映画『アニタ』がスペシャルメンションと観客賞を、昨年の香港亞洲電影節で上映された香港映画『はじめて好きになった人』が後日関西ローカルでTV放映されるABCテレビ賞をそれぞれ受賞したそうです。恭喜!

 

 

OAFFは、10年前に参加したのが最初で今のところ最後。そういえば4年前にもnoteこんな記事を書いていました。
この時期のTwitterのTLによく流れてくるのが「OAFF、東京でも開催すればいいのに」といったような東京近辺からのtweet。
すいません、大変申し訳ございませんが、田舎モンが以下太字にして言っていいですか?

「おめだづなに寝言ゆうとんだ、イベントは今のままでも東京一極集中しすぎてるでねーの。TIFFもフィルメックスも台湾巨匠傑作選もシネマート中華祭りも未体験ゾーンも国立映画アーカイヴ特集上映もあんのにはあ、ごだごだ贅沢ゆうでねえ!」

はい、失礼いたしました。正気に戻ります。

北東北の地方都市在住の映画ファンとして、地元で十分な映画館とスクリーンの数が揃っていても、小規模な配給会社によるアート館のみの上映が多い中華電影は滅多に映画館でかからないので、それがフラストレーションになっていました。地元で観られない映画は仙台に遠征したり、帰省中なら東京まで観に行ったりもしていました。だけど今はコロナ禍。昨年も一昨年も映画祭には行けてません。
もちろん、以前も書いた通り配信でカバーして観てはいるのですが、それだけではやはり物足りません。映画は映画館で観る習慣を25年以上続けているので、どうしても小さな画面での鑑賞に満足できません。

そんな不毛な状況ですが、それでも最近は少し希望を感じています。それはOAFF上映作の日本公開と、地方まで回ってくる作品が少しずつ増えていることです。

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OAFF2020で上映されたサミー・チェン主演の香港映画『花椒の味』は、昨年11月に新宿武蔵野館で上映されましたが、そこから半年以上経った6月に中央映画劇場略して中劇で上映されます。やったあ!
(前回感想を書いたこれも中劇で上映。実はこの館のスタッフさんに熱烈なニコファンがいらして、上映時のblogが半端なく熱いのでぜひぜひご一読ください)昨年は同年上映の『少年の君』や『夕霧花園』も地元で上映がありましたし、さらに一昨年は2019年上映の『淪落の人』も上映されました。花椒と淪落は武蔵野館の配給部門武蔵野エンタテインメント配給。東京公開開始後半年でソフト化されることが多かった単館系作品が、時間をかけても全国公開で持ってきてもらえるのって本当にありがたいです。

映画祭でいち早く観て、みんなで盛り上がれることは楽しい。その場でしか上映できない映画を観られるのも本当に貴重な体験。
だけど、中華電影迷としての一番の願いは、イベントに参加したみんなが楽しんだ映画に配給がついて、それが日本全国の映画館にかかってくれることなんです。
私が住む北東北の地方都市に上映が回ってきて、地元の同好の士の皆様に観てね観てねとアピールしながら映画館に通い、鑑賞後は地元のカフェやレストランで食事しながら一人でかみしめたり、あるいは友人とあれこれ話し合ったりできることは本当に楽しいです。

これからも日本で中華電影が上映され続けてほしいので、地元で上映される映画はもちろん、できれば遠征でも観て、支えていきます。
あとはこちらに来なかった映画の上映会も行いたいです。そのためにはどうすればいいか、いろいろと策を練っています。

このコロナ禍が早く収束して、また映画祭で関東や関西の同好の士の皆様にお会いして一緒にもりあがれる日が来ますように。
そして、また香港や台湾に行けますように。

そうそう、これも言わなきゃね。
『アニタ』の日本公開を強く願います。

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レイジング・ファイア(2020/香港・中国)

昨年は開催中止となったため、2020年と21年の香港での上映作品をノミネート対象とした第40回香港電影金像奬のノミネート作品が先ごろ発表され(リンクはアジアンパラダイスより。授賞式は4月17日(日)に開催予定)、作品賞・監督賞始め全8部門にノミネートされた『レイジング・ファイア』。

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21世紀の香港アクション映画を代表する人物となり、ハリウッド進出も順調なドニー・イェンと、香港返還直前にデビューを果たし、俳優や歌手のみならず、近年は料理番組でシェフとしても活躍するニコラス・ツェーという、21世紀香港映画のアイコンである2人が主演。そして監督は『ジェネックス・コップ』『香港国際警察 NEW POLICE STORY』『レクイエム 最後の銃弾』など、このblogでも感想を書いてきた多数の作品を手掛けた“香港の爆発王”ベニー・チャン。反送中デモが起こった2019年に撮影を終え、香港及び中国で上映が始まって間もない2020年8月に58歳でこの世を去り、本作が遺作となった。

 

 

東九龍警察本部に所属する張崇邦警部(ドニ―)と、彼の部下として働いている邱剛敖(ニコ)。自らの正義を信じ、悪人の逮捕に全力をかける邦を敖は尊敬していたが、大手銀行の霍会長の誘拐事件で二人の運命は大きく分かれる。2人の容疑者が特定された後、そのうちの一人の何を追った敖とその仲間たちが、司徒副総監(ベン・ユエン)の命令を受けて会長の居場所を暴行により白状させ、さらには殺してしまったことが大きな問題となり、敖たちは裁かれて実刑を受ける。
4年後、邦は誘拐犯の残りの1人の王の逮捕に執念を燃やしていたが、有力者の息子の逮捕の件でクレームが入り、捜査を外される。彼の代わりに同僚の姚(レイ・ロイ)が王とベトナムマフィアの麻薬取引現場に赴くが、その現場で麻薬が強奪され、姚たち捜査班も襲撃される。彼らを襲ったのは出所した敖と元警官たちだった。

この映画が撮影された2019年の香港といえば、先に書いた通り反送中デモに端を発した14年以来の民主化運動の再燃と、市民運動の徹底排除を貫いた香港政府の対立により、警官がデモ隊に催涙弾を撃ち、学生たちを投打する映像をニュースやドキュメンタリー等で見て大きな衝撃を受けたことが思い出される。14年の雨傘運動時同様、市民の安全を守る警察が政府を守る側に守ってしまったことに大きな失望を抱いたのは市民でなくても同じだった。そんなマイナスイメージが香港警察についてしまった今、どうこの映画を受け入れたらいいのか?と、ついついそんなことを観る前には考えてしまった。
しかし、10年代は『コールド・ウォー』2部作のように警察内部の問題をテーマにした映画も多かったし、この映画でも上層部の命令により起こった悲劇から警察内部の腐敗を匂わせているので、とりあえず現実と距離を置きつつ、でも重ねて考えてもいいように思う。それを思えば、近年のヒーローにしてはストイックに正義を貫き、自らの組織にもその追求を止めない邦も、命令に従ったことがかえって罪となり、復讐を以て組織とかつての上司に怒りを突きつける敖も、彼らそれぞれのやり方で警察に異議申し立てをしているのではないか、と私は考える。
(ところで映画界でも現在の警察をそのまま描くのではなく、ドニーさんとアンディW主演の『追龍』のように過去に題材を求めたり、19年冬に台湾で観た『廉政風雲 煙幕』のように廉政公署を舞台に犯罪者とのチェイスを描く作品が10年代後半にはあったので、やはりそのあたりは意識されていたのかとも思うのだが、実際はどうだろう?)

ベニーさんといえば先に挙げたような、大規模な爆発を得意としており、『WHO AM I!?』などの成龍とのコラボレーション、そして《衝鋒隊:怒火街頭》に始まる警察ものが代表作と言われるけど、デビュー作はあの『アンディ・ラウの逃避行/天若有情』だし、『新少林寺』や『コール・オブ・ヒーローズ』のような時代ものも撮れるオールラウンダー。ドニーさんとは90年代のTVシリーズでコンビを組んだとのこと。ベニーさんを語るのに欠かせない人物は成龍を始め様々いるが、やはりここでは『ジェネックスコップ』以来主演や助演で多く出演してきたニコを取り上げたい。

ここ数年のニコといえば、大陸のドラマへの出演の他、料理番組のホストを務めてシェフとして腕を振るい、そこから生まれたグルメ&スイーツブランド・鋒味をプロデュースしている。かつて中環にクッキーショップの路面店を出していたけど、コロナ禍で撤退し、現在は通販のみで対応の様子。

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2017年春の香港で撮影。

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看板スイーツのひとつ、茶餐廳曲奇(クッキー)
辛いクッキー等面白いフレーバーもあり。

私自身も出演作はジェイとW主演の『ブラッド・ウェポン』(2012)以来か、その後何かあったっけか?というくらいで本当に久々のニコであったが、先に挙げたジェネックス、ニューポリ、新少林寺の他、ゲスト出演の『プロジェクトBB』やショーン・ユーやジェイシー・チャンと組んだ『インビジブル・ターゲット』など、2000年代のベニーさん監督作品の数々を思い出し、歳は重ねどもあの頃の若さと変わらぬ熱さのニコに、この20年間に彼が経験した様々なこと(必ずしもいいことばかりではなかったが)もあって、ついつい本人の実人生を重ねてみたくなった…というのはオーバーであるか。
敖は自らの正義を貫く先輩の邦を慕う一方、上層部の命令に逆らえず(エリートの設定なので出世に係わる面も大きいのかも)それに引き裂かれて起こった悲劇により邦も含めて警察への憎悪を抱いた復讐鬼と化すのだが、その憎しみの暴走は邦の頑なな正義にもナイフを突きつけていくので正義は絶対的なものなのか?ということにも考えが及ぶし、説得力もある。
そんな敖を激しく演じてくれたら、もうニコすごい…と語彙力が消失したようなことしか言えないではないか。デビュー直後から彼を観てきた身としても!本当に久々のアクション映画での演技ということもあって、ニコの熱演が本当に嬉しかった。

 

こちらも久々にニコが歌う主題歌のMV。ドニーさんが特技のピアノを披露しているのもまた楽しい。

ドニーさんは誰がなんといっても宇宙最強。この映画自体が単純な勧善懲悪でないとはいえ、最後に彼が勝つのはもちろんわかっている。では彼とニコはどう戦っていくのか、というのも見せ場である。
アクション監督をドニーさん自身が務めているから、ベニーさんお得意の爆発描写に彼の格闘が加わるわけで、激烈さは増し増しである。それと同時に、近年の潮流でもある感情や物語に応じたアクションもしっかり実践されている。彼を中心に、カーアクションは李忠志さん、銃撃戦は谷軒昭さん、そしてクライマックスの格闘を谷垣健治さんと、香港を代表するコーディネーターたちが集って取り組んでいるから迫力もありエモーショナルである。特に広東道での激しい銃撃戦(香港島にセットを組んで実景と合成したそうだが違和感はなかった)から、古い教会に舞台を移してからの邦と敖の格闘は、ドニーさんの方が圧倒的にパワーが上というのもわかっていながらも、ニコが互角に戦えていたし、熱量もあって見ごたえ充分。この作品の前に谷垣さんが参加されていたるろけんファイナル(るろうに剣心最終章The Final)で繰り広げられた剣心と縁のクライマックスの格闘場面も非常に熱く見入ってしまっていたので、ああやっぱり格闘はいいよねーと語彙力が消失気味になってしまうのであった…。

この作品は完成時から「このくらい大規模なロケができる香港の警察映画はもう当分撮れない」と言われていたが、その後のコロナ禍による行動制限、そして国安法等の法律改正により、本当にこのレベルの映画が作れるかどうか心配になってきた。そしてベニーさんが亡くなられているという事実も、これに加えてずっしりと重くのしかかってくる。
香港映画の未来はどうなるのか。これについては、またの機会に書いてみたい。

最後に、改めてベニー・チャン監督のご冥福をお祈りいたします。

原題:怒火
製作・監督:ベニー・チャン 製作・アクション監督:ドニー・イェン 撮影:フォン・ユンマン 音楽:ニコラ・エレナ スタントコーディネーター:ニッキー・リー クー・ヒンチウ 谷垣健治
出演:ドニー・イェン ニコラス・ツェー チン・ラン パトリック・タム レイ・ロイ ベン・ユエン ベン・ラム ケン・ロー カルロス・チェン サイモン・ヤム

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