日本の映画祭

侠女(1971/台湾)

 映画好き(シネフィルに非ず)と言っておきながら、実はワタシは意外なほどクラシックを押さえていない。学生時代に『ローマの休日』や『カサブランカ』や『用心棒』などは観ているにせよ、午前10時の映画祭は覇王別姫や宋家のように、かつて自分が好きで観ていた作品が来たくらいしか行ってないし(ちなみに年明けからは『山の郵便配達』と『初恋のきた道』が続けて上映されるが、繁忙期のためパス)BSやCSでの放映もチェックしていない。それ故に不勉強なところはたくさんある。
 それは中華電影でも然り。そもそも香港映画には90年代中盤からハマったのだから、第2次黄金期であるTVでしか観たことのない成龍作品も、李小龍作品も後から観直して感想を書いてきた。

 今年の東京フィルメックスでは、武侠映画の巨匠と言われたキン・フー(1932-1997)監督の2本の代表作『残酷ドラゴン 血斗龍門の宿』とこの『侠女』のデジタル修復版が上映された。キン・フー監督は1950年代から香港で映画製作に取り組み、60年代には台湾にも活動を広げ、これらの作品で両岸三地に名を轟かせ、第1次香港映画黄金期を築いたと言っても過言ではない、武侠映画のパイオニアとも言える人物。前者は時間の都合で観られなかったものの、後者はタイミングよく映画祭の最終上映作品になったので、それじゃ観に行かなきゃ!と多いに張り切ってチケットを取ったのであった。


なお、今回は『キン・フー武侠電影作法』(キン・フー/山田宏一/宇田川幸洋)を参考としました。この本全体の感想も、年明け以降にアップいたします。


 オリジナルは2部構成で台湾では1970年と71年に連続公開、香港では1本にまとめて公開された188分の大長編。
 東廠や錦衣衛など、この映画この映画でお馴染みの人たちが暗躍する明代が舞台。東廠の宦官に陥れられて処刑された父の敵を討つために武術を身につけた楊慧貞(徐楓)と、彼女にひかれた田舎町の30過ぎの書生顧省斎(石雋)を中心に繰り広げられる壮絶な復讐劇…と一応言えるのだが、3時間全編に渡って激しいアクションが展開するわけではない。
 初めは非常にゆっくりと田舎町の枯れた初冬(多分)の情景を見せ、そこから顧が登場してくる。頭はよさそうなのに科挙にはなかなか合格せず、書画を描いたり手紙の代筆や春聯の作成をする商売をしている顧は母親と2人暮らしで、一族が絶えるから嫁をとれと散々言われるトホホ君。石雋さんといえば、『楽日』で苗天さんと共に台北の映画館で『血斗竜門の宿』を観ていたり、3年前にNHK広島が製作したドキュメンタリードラマ『基町アパート』(リンクは出演されていた中村梅雀さんのblog記事)に出演されたり、『黒衣の刺客』にも出るはず…というか撮影はしたけどカットになったのか、とあれこれ思い出す。武侠映画のスターであるけど、顧はショウブラ作品の主人公のようなマッチョではなく、頭脳を使って楊をサポートするタイプ。彼のようなタイプは女性が主人公となる武侠映画では珍しくないけど、その原型なのかもしれない。
 その彼の村の廃寺に住み着いたのが楊。徐楓さんが演じる彼女は登場時からキリッとした表情を見せ、あまり表情を崩すことがない。彼女はデビュー2作目でこの作品の主演を果たしているのだけど、もともとアクション女優ではなかったというのが意外。デビューしたてでキャリアの浅さをカバーするためにセリフをあえて少なくしたとも聞くけど、新人であることを感じさせないアクションの凄さには驚かされた。

 そう、この映画について語るのに欠かせないのが、武侠映画の最高傑作ということ。それは本当であって、ここから香港のアクション映画にもつながっていったというのはまさにその通りだと感じた。『グリーン・デスティニー』がオマージュを捧げた(他の映画にも多少あるけど)第1部クライマックスでの竹林での激闘や、楊たちが逃亡中に敵と戦い、慧圓大師(ロイ・チャオ)に助けられる場面、第2部クライマックスの錦衣衛との対決など、見ごたえがある場面は次々と登場する。最初の場面から顧と楊が出会い、彼女たちの周囲に東廠の密偵・歐陽年(田鵬)が現れて暗躍するまでがえらくゆったりしているので、多少戸惑ったりもしたのだけど、物語が戦いへと向かうと一気にシフトチェンジして止まらなくなり、興奮すること限りなしであった。しかし、アクション以外の場面にも力が入っているから、ゆったり…というより、ここまで時間をかけて描いているのかな?とも一方で思った。第2部中盤で顧が立てた作戦で東廠をおびき出して全滅させるというくだりでは、戦いの虚しさまでも描いてしまっていて、普通はこういう描写しないよなーなんて思うところもあったので。
 そして、ついつい楊の強さに気を取られていたので、彼女と顧が一瞬の恋に落ちたのをうっかり見落としてしまい、一緒にはなれないけど彼の子孫を絶やすまいと一緒に寝て、産んだ子供を託したくだりに「えー、ヤッたのかキミたち!」と思わず言っちゃったこと(汗)。予習してなかったのがいけなかったんですね、すみません。

 てなかんじでダラダラ書きそうなのでこのへんで締めますが、先にも書いたようにこの映画が李小龍や成龍やショウブラ作品につながり、後の古装片ブームにもつながり、一代宗師や黒衣の刺客、さらにはるろけんにもつながっていくと思えば、大きなスクリーンで観られたことは嬉しかったし、今後も語り継いでいかれるだろうし、まだ知らない多くの人に観られてほしいと思ったのであった。
 この映画祭で上映された2本のキン・フー作品は、来年1月からの一般公開が決まっているそうで、これをいい機会に、ぜひとも全国津津浦浦で上映されてほしいものです。
 もちろん我が地元でも観たいなあ。せっせとリクエスト出さねば。


英題:A Touch of Zen
監督&脚本:キン・フー 撮影:ホア・ホイイン 音楽:ウー・ダーチアン 武術指導:ハン・インチエ
出演:シュー・フォン シー・チュン バイ・イン ティエン・ポン ハン・インチエ サモ・ハン・キンポー ミャオ・ティエン ロイ・チャオ

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タイペイ・ストーリー(1985/台湾)

 本題に入る前に、まずはこれを言わせて下さい。

祝!『牯嶺街少年殺人事件』日本再上映!

 ワタシ自身も1回しか観ていない4時間版の上映。配給がしっかりしたところなので、地元でも上映してくれるだろうと固く信じてます。

 閑話休題。長年日本再上映が望まれていた代表作がやっと決まった来年は、ヤンちゃんことエドワード・ヤン監督の生誕70年にして、没後10年。昨年は『恐怖分子』がリバイバル上映され、やっと再評価が始まったとホッとしている。
 それに先立つ1年前に、監督第2作として撮りあげた『タイペイ・ストーリー』がデジタル・リマスタリングされてフィルメックスで上映。主演はホウちゃんこと侯孝賢、相手役にヤンちゃんの奥方でもあった歌手の蔡琴さん、脇には柯一正さんに呉念眞さん(蒼蝿師と愚人師…とか今回は言っちゃいけない)と、なんとも豪華な面々が登場。

 米国帰りの阿隆(ホウちゃん)と建築事務所で秘書をしている阿貞(蔡琴)は恋人同士ではあるけど、どことなくそう見えない。時には兄妹のように濃密に見えるときもあれば、他人のようによそよそしく振る舞うこともある。題名の《青梅竹馬》は中国語で幼馴染の意味だけど、お互いを知り尽くし、かなり近い位置にいるから先に進めないでいるもどかしさを表しているみたいだ。
 かつては少年野球のエースだったが、輝かしい過去を思いながら米国行きに期待をかけたい阿隆。仕事を持ち自立していたが、勤めていた会社からリストラされてしまった阿貞。お互いにすれ違い、気持ちは離れていくけど、それでも相手を求めている。


もしかしたらすぐ消えちゃうかもしれないけど、今年の金馬からの動画を。

 上映前のインタビューでホウちゃんは「この映画は決して成功作とはいえない」というようなことを語っていた。脚本家としても参加していたこの映画のために彼は家を抵当に入れて出資したものの、公開期間はたった4日だったそうだ…ああ。まあ、確かに出演しているのは、有名な歌手の蔡琴だけど、ホウちゃんもルンルンパパ(柯一正さん)も念眞さんもあくまでも映画人だから、当時の観客はどう思ったのだろうかな。
 この次の『恐怖分子』で高い評価を得たそうだけど、テーマとしては実はほとんど変わっていない。急激に発展する台北で揺れ動き、一緒にいるのに幸せではない男女の孤独。それはミンリャンの描く孤独とは全く違うタイプのものだと思うけど、ウェットではなくとことんドライなのは、ヤンちゃん自身も一度台湾を出ていて、米国で学んだ影響もあるのかな、などと思ったりする。でも、やはり米国で暮らしてた李安さんとも全く違う個性でもあるし。一度ご本人にお会いして、そのへんを聞いてみたかったな。もう、叶えられないことなんだけど。
 幼馴染ならぬ、同い年だったホウちゃんとも個性は違うのはもちろんのこと。彼は一般的には郷土電影の名手と言われているらしいしね。

 そんなホウちゃんが参加した数少ない出演作というのも見もの。数えてみたら、38歳の頃に撮られていたそうで、あー、今の自分より若いんだホウちゃん、うわーかわいいなー、とか柄にもなく思ってしまった(笑)。若々しくて、髪が長くて、意外にも直情径行なキャラクター。時に暴力的で荒々しく、まだまだ青春の香りを残しているような好演を見せていた。
 蔡琴さんといえばなんといっても、我々にとっては馴染み深いこの歌の人。ワタシもそれ以外の曲は90年代台湾でよく耳にしていたけど、女優としての演技は知らなかったので、興味深く観た。この映画の後ヤンちゃんと恋に落ちて結婚し、ちょうど10年後に離婚したらしい。(その後ヤンちゃんはピアニストと再婚し、彼女も再婚)ルンルンパパも多少今の面影はあるかなとか思いつつ見たし、念眞さんもこの頃は若かったなー。

 まあ、そんなアホなことくらいしかかけてませんが、今はもうない町並みの中でも、後半に登場していた闇に時折照らし出される迪化街の場面には、あれだけ街が変わってしまっても、老街はあまり変わっていないことに、なんとも言えない不思議な気持ちになったのでした。
 また繰り返すけど、ヤンちゃんからはいろいろな話を聞きたかったなあ。
 それはかなわないことだから、他の作品もどんどん再上映してもらって、彼の思いを知りたいよ。

原題:青梅竹馬
監督&脚本:エドワード・ヤン 脚本:ホウ・シャオシェン&ジュー・ティエンウェン
出演:ホウ・シャオシェン ツァイ・チン クー・イーシェン ウー・ニエンジェン メイ・ファン ヤン・リーイン

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大樹は風を招く(2016/香港)

 今年は本当に香港映画を観ていない。そもそも勉強してたのに広東語も聞けてない。なんとなくストレスが溜まってる感がある。そんなわけで、フィルメックスの閉会式で上映される『大樹は風を招く』は楽しみにしていた。

 この映画は11年前から香港で実施されている「鮮浪潮國際短片展」の歴代コンペで受賞した3人の監督を起用し、トーさんとヤウ・ナイホイさんのプロデュースによって撮られた作品。今年の金像奨では、最優秀脚本賞と編集賞を受賞。3人の監督のうち、ジェヴォンズ・アウ(歐文傑)さんは今年の金像奨作品賞受賞作《十年》の一編「方言」を監督。
 1997年、返還直前の香港を舞台に、実在した3人のギャング―季炳雄、葉繼歡、そして張子強をモデルにした、季正雄(カートン)、葉國歡(リッチー)、卓子強(小春)の運命を描いた作品。ユニークなのは、3人の監督がそれぞれ主人公3人のパートを演出していること。


 警官を射殺して大陸に逃亡したが、再び香港に戻っては小規模な犯罪に手を染めている季。強盗事件を起こした後にやはり大陸に逃げたものの、身分を隠して家電製品の密輸に携わる葉。彼らとは対照的に、誘拐と脅迫を繰り返しては派手に暴れている卓。香港と大陸とを行き来するも、出会うことはなかった3人だが、ある日どこからか「あの3人が協力して、何か香港でやらかすらしい」という噂が流れてくる。

 それぞれの事情を抱え、それぞれの思惑を抱いて動く3人。返還も控え、黒社会も落ち着かない。名を残す大物たちも、どこで生き残り、どこで躓くかわからない。主題歌として使われるのが、「時の過ぎゆくままに」の広東語カバー、《讓一切隨風》。香港では阿Bを始め、多くの歌手に歌われている名曲。


 トーさん製作で主人公たちが黒社会の大物とは言え、トーさん色が出ているところはキャスティングくらいだし(林雪もしっかり出てるしね!)、そのへんを期待した人には結構ハズレっぽく思われるかもしれない。現にワタシも劇場で「イマイチだった」という声を聞いたし。
でも、3人のパートをそれぞれ3人の監督が撮ったとはとても思えず、バランスが取れていた。寡黙だけど狂犬のような季、一見してギャングには思えない葉、とにかく派手でうるさい卓と、それぞれのパートを分けても無問題なんだろうけど、あえて分けなかったのだろう。
 3人のうち、一番面白かったのが葉のパートで、堅実に行くかと思いつつ結局腰をあげることになり、そこから香港に戻った時にあるハプニングが起きるわけだが、この時にすでに香港人の大陸へのある種の偏見が見えるようだったし、それがかつて香港を拠点にしていた葉の逆鱗に触れたのもわからなくはない。そして、このパートを演出していたのがジェヴォンズさんと聞いて、そう意図したのもなんとなく納得したものだった。(ネタバレ回避してかなりボカしてますが、まあだいたい想像つきやすいんじゃないかと思って)

 香港返還から来年で20年が経とうとしているが、やはり20年という歳月はいろいろとモノを変える。返還当時に渦巻いたいろいろな感情が今はどうなっているかはこれまた人それぞれだろうけど、政治的な面でここまで変わるとは思えなかった現在なら、返還の頃を振り返るとまたいろいろな感情が沸き起こるのだろう、と少し真面目に思ってしまったのだった。 

 とかなんとか言ってますけど、面白かったですよ。ユーモアも効いていたし、カートンもリッチーも小春も渋くてカッコええし、広東語もガンガン聞けて嬉しかったし。
 後はね、題名にある通り、風の使い方が印象的だった。屋上に干した洗濯物をゆっくり揺らしたり、人影が写ったりとよくある演出なんだけど、こういうベタさ(と言い切っていいのか?)がうまく効いているのがやっぱり映画だよなって思うからね。

原題&英題:樹大招風(Trivisa)
製作:ジョニー・トー&ヤウ・ナイホイ 監督:フランク・ホイ&ジェヴォンズ・アウ&ヴィッキー・ウォン
出演:ラム・カートン リッチー・レン チャン・シウチョン(ジョーダン・チャン) ラム・シュー フィリップ・キョン ユエ・ワー ヴィンセント・イン ン・チーホン ホン・ヤンヤン 

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見習い(2016/シンガポール・ドイツ・フランス・香港・カタール)

 映画祭の醍醐味は、世界の映画がたくさん観られること。ゆえに、アジア映画を多く紹介してくれるTIFFやフィルメックスの存在は本当にありがたい。
 さらに、ここ数年の世界の映画祭ではフィリピン映画が連続して受賞し、それに伴って東南アジア各地の映画が注目を集めているとのこと。今年のTIFFでも、コンペで観客賞と主演男優賞のダブル受賞となったのが、フィリピンの『ダイ・ビューティフル』だった。

  この『見習い』は今年のカンヌの「ある視点」部門にシンガポールから出品された作品。シンガポール映画といって思い出すのは、この作品で製作総指揮を手がけている『TATSUMI』のエリック・クー監督や、カンヌでカメラ・ドールを受賞した『イロイロ ぬくもりの記憶』など。だけど残念ながら両作とも観る機会に恵まれなかったので、これが初シンガポール映画となった。
 クー監督、イロイロのアンソニー・チェン監督、そして本作の監督のブー・ユンファン監督も名前からしていずれも華人なのだが、はたしてシンガポールは中華圏なのだろうか?と一瞬思った。しかし、そういうわけでもないらしい、とこの映画を観終えた後に思った。
 と言いつつも、この映画を観ようと思った一番の要因は、クー監督と共に我らがパンちゃんことパン・ホーチョンが製作総指揮に加わっていたからなのである。
すいませんそんな理由で本当にすんません。

 日本と同じく死刑制度を持つシンガポール。刑務官になった若いアイマンは、ベテラン死刑執行人ラヒムの元で執行人見習いとして働くことになる。アイマンの父は殺人を犯して死刑に処されたが、彼はラヒムが父を処刑していたことを知る。

 アイマンとラヒムはマレー系だが、彼らの同僚の刑務官や死刑囚には華人もいる。シンガポールには他にもインド系も多く住むということだが、華人がマジョリティであることを知ると主人公二人はマイノリティに位置するということか。このへんは監督も初映時のQ&Aで語ったようなのでそちらに譲るけど、映画の中盤で白人のBFと結婚してオーストラリア(だと思ったが)に移住するアイマンのお姉さんのエピソードもあるので、シンガポールがただ華人の多い国というわけではなく、多民族国家であることが明確にわかるように描かれていたのが興味深かった。

 世界的には制度廃止の方向に向かっている死刑だが、日本にももちろん死刑制度はある。そういう背景もあるので、いかに刑が執行されるのかという点でも興味深く観たけど、カンヌで上映されたときにはおそらく観客は衝撃を受けたかもしれないし、批判もあったんじゃないかと思う。現在の日本でもこういうタイプの作品は作れなさそうだ。
 もちろん、ブー監督もそのへんはわかっているようで、死刑制度の是非が主題ではなく、これを媒介にした人間関係を描きたかったということで、脚本の作成に3年(その間東京にも滞在したとか)、母国の多くの執行人や死刑囚の家族たちへのインタビューを重ねて作り上げ、若い刑務官からの視点を主にして死刑執行に新たな視点を当てたかったとのこと。

 死刑までの流れは非常に丁寧で複雑なプロセスを要し、それでいてあっさりと執行される。そこの描かれ方がリアルなので見入ってしまうが、父を死刑で失ったアイマンのようなケースはありうるのだろうか?それは映画ならではの面白さではあるのだけど、肉親を殺された者と殺した者が偶然にも出会ってしまった際の心の乱れは、どんな人間においても共通するものがあるのだなと思った。



 当日のQ&Aでは当然クー監督やパンちゃんとの関わりが質問で出たけど、クー監督はブー監督の長編第1作に引き続いてのプロデュースで、パンちゃんには脚本を読んでもらって資金面でのプロデュースを買って出てもらったそうだ。両者ともTIFFの常連であり、アジアを股にかけて活躍する映画人。特にパンちゃんは昨年のレイジーに引き続いてのプロデュースであると考えると、中国だけでなく東南アジアにも目に向けたよさと、今後の東南アジア映画の面白さは彼らが陰でサポートして発展していくのだろうな、と改めて思った次第。今年の大阪アジアン映画祭で上映されたマレーシア・シンガポール合作の『ご飯だ!』は、パンちゃんの盟友チャッピーの初監督作品であるしね。

中文題&英題:身後仕(Apprentice)
監督&脚本:ブー・ユンファン(巫俊鋒) 製作総指揮:エリック・クー パン・ホーチョン
出演:フィル・ラフマン ワン・ハナフィ・スー マストゥラ・アフマド

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ゴッドスピード(2016/台湾)

 旅立つ時に言われる「一路順風」という中国語の訳は、だいたいBon Voyageというフランス語を充てられることが多いのだが、この映画の英題は、その古い英語表現を使った「Godspeed」。
 3年前の『失魂』以来のTIFF登場となる鐘孟宏監督の新作『ゴッドスピード』は、説明不要のMr.Boo、許兄弟の長男マイケルさんを主演に迎えたことが公開前から話題になっていて、11月の台湾一般上映に先駆けたTIFF上映では、その話題性もあってかチケットも早々とソールドアウト。

 この作品でマイケルさんは香港から台湾に移住したタクシー運転手を演じ、兄貴の大寶(レオン・ダイ)に頼まれて麻薬を台南まで運ぶチンピラ(演じるは台湾のコメディアン納豆。ちなみに日本の納豆は食べられないとのこと)を乗せたことで、思わぬ事態に巻き込まれるというコメディ…のはずなのだが、前作の強烈な印象もあってか、なんとも言えぬ不思議な感覚を持つ、一筋縄ではいかない作品に仕上がっていたのであった。


 題名の一路順風は、日本ではよく「道中気をつけて」と訳されていることが多い。
この予告にも出てくるセリフにもあるのだが、冒頭、タイに旅立つ前の大寶が弟分にこう言われたことから、タイでひどい目に遭って帰国したのは「お気をつけて」と言われたからだ、と毒づく場面がある。そんな大寶と取引をするツォン(トゥオ・ツォンホア)ら台湾ヤクザたちが繰り広げる壮絶な修羅場と、途中でうっかり黒社会の葬儀に紛れ込んで大変な目にあったりするも、基本的にどこかのんびりしている許さんと納豆の珍道中とが並列して語られる。その両者はあまりにもトーンが違うのだが、やがてこの二つが交わり、ある意味で衝撃な上でさらに想定外なエンディングを迎える。許さんパートのオフビートな雰囲気にクスクスと笑っていたら、ヤクザパートの中盤に出てくる「タイ式拷問」には開いた口が塞がらなくなったりで、これはただのコメディと言って済ましちゃダメだなーと途中で気づいた。
ダメ押しの驚きはタクシーの旅が終盤に向かおうとする深夜の台南の場面で、カーラジオから流れてくる谷村新司の『昴』。台湾ではテレサ・テンのカヴァーも知られているというこの曲だけど、いきなりオリジナルが聴こえてきたのには驚いた。そう言えばこの歌、唐の高僧鑑真と遣唐使を描いた井上靖の小説『天平の甍』の映画化になんか縁があったんじゃなかったっけ?とググったら、当時はイメージソング的に使われていたらしい。詳細はこちらを。

 上映後のQ&Aによると、モンホンさん曰く「歌詞がままならぬ人生を描いた映画の内容にあっていると思った」からの起用とのことで、この「ままならぬ人生」がテーマであることに気づいたので膝を打ちたくなった(参考として初映時のQ&Aを)。登場人物が全て、思うままにいかぬ人生を抱えて切なく生きている印象を受けたからだ。無表情な納豆、崖っぷちの大寶だけでなく、台北の某小籠包店で奥さん(林美秀!)にやり込められる話なども挿入される許さんも、面白キャラに見えつつもどこかで切なさがある。となると、描き方は違っても、それが人間の持つ性であると思えば、前作とのつながりもどこかで感じられるのかな、などと思った。

 納豆くんはTVのバラエティ番組の司会などを担当しているそうだけど、主役級でシリアスな演技は今回が初めてとのこと。でもモンホン作品にはずっと脇で出演してきたそうだ。
そういえば、リーレンさんことレオン・ダイもツォンホアさんも前作に引き続いての出演。ベテランの常連が脇を固めるモンホン組、というわけだけど、やはり前作にも登場していたあの人、『祝宴!シェフ』の陳玉勳監督は今回はがっつり出演で大笑いしました。
 そんなユーシュンさん、来年旧正月に新作《健忘村》の公開を控えていることを記して、この感想を終わりにします>こらこら、またこういう締め方をするなよ



 左がモンホンさん、右が納豆くんのサイン。

原題:一路順風
監督&脚本:チョン・モンホン 製作:イエ・ルーフェン 撮影:中島長雄 美術:チャオ・スーハオ 音楽:ツォン・スーミン
出演:マイケル・ホイ ナードウ レオン・ダイ トゥオ・ツォンホア チェン・イーウェン チェン・ユーシュン リン・メイシウ

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シェッド・スキン・パパ(2016/香港)

 現在の東京国際映画祭には、コンペティション部門の他、アジアの新人監督を対象に賞が与えられるアジアの未来部門と、同じく日本映画の監督に与えられる日本映画スプラッシュ部門の3つがある。香港映画はだいたいアジアの未来部門でエントリーされるのだが、2011年の『夢遊〜スリープウォーカー』以来のコンペエントリーとなったのが、香港演劇界で活躍する演出家兼俳優ロイ・シートウ(司徒慧焯)監督の『シェッド・スキン・パパ』
 80年代から香港映画の脚本を手がけ、演劇に主軸を移した近年は『恋の紫煙』シリーズや『カンフー・ジャングル』に脇で出ていたそうだけど、全く気づかず(笑)。
そんな彼の俳優として一番説明しやすい役どころは、自ら脚本を手掛けたレスリーの『夜半歌聲』で演じた、ン・シンリンの婚約者役だと思う。ああ、あのキモいボンボンが、こんなに立派になって…とか意味不明に感慨深くなってすいません。

 三谷幸喜の『笑の大学』が上演されたり(近年はエリック・コット&ジャン・ラムのコンビも出演!)秋生さんやカーファイやカリーナ姐さんも舞台に立つなど、香港も演劇が盛んに上演されている。シートウさんは香港話劇團という劇団に所属して現代劇の演出を多く手がけてきているとか。
原作は2005年に発表された佃典彦氏の戯曲「ぬけがら」。翌年に岸田戯曲賞を受賞しています(ちなみに同時受賞したのが、やはり近年映画化された三浦大輔の『愛の渦』)。自らの劇団や外部公演で何度も上演しているそうですが、2年前には話劇團を迎えた日港連続上演も行ったそうです。これは知らなかった…。

 ある日突然若返っていく父親・田一雄(ジャンユー)と、父親と折り合いが悪い40代の映画監督・力行(古天楽)の物語。母親を失い、妻(蔡潔)とは離婚寸前、監督としてもヒット作が出ず、おまけに同居している父は認知症といろいろ崖っぷちに立たされている。そんな中に父は脱皮して10歳ずつ若返り、死んだ母もなぜか若い姿(春夏)で現れるようになる。

 このお父さんの若返り方が面白い。時に喧嘩っ早かったり、陽気な女ったらしだったり。しまいには母親と知り合った10代(もちろんジャンユーが自ら演じてる!)まで様々な姿を見せてくれる。それぞれの姿には、戦後間もなく移住した大陸からの移民であろう彼の背負ってきた社会が見える設定がなされていて興味深い。香港と大陸との微妙な関係とその変化もやや皮肉っぽく描かれているところもあって、そんなところにはニヤリ( ̄ー ̄)。
 そんな父の姿に戸惑い、生活を引っ掻き回されながら過ごす力行だけど、自分と同世代になってもやっぱり折り合いが悪いというのはなんともはやって感じでさらに苦笑い。でもまあ、そうやって親子はぶつかりあいながらもわかり合っていくもんであるわけだし。 



 舞台では各年代の父親を複数の俳優が演じているそうだけど、これは映像マジックが使える映画なので、80代から10代までを一人で演じるジャンユー無双が見られる。20代までは許容範囲だろうけど、まさか10代までやってくれるとは思わなかったし、それがとってもかわいい。それゆえ、各世代のぬけがらが生命を持ち、若い母親と力行と共に家族で食卓を囲む場面はやっぱり圧巻。一見シュールではあるけど、ファンタジーとして作られているので、可愛らしさとともに父親の人生と共に生活をする喜びにも溢れているようにも見えるのがよかった。

 後は使われている小道具や、全編に渡って見える飛行のモチーフも興味深い。映画監督らしく、力行のアパートの入り口には映画のポスターが貼られているのだが、それが『自転車泥棒』と『ゴッドファーザー』と『野良犬』(ちなみにアキラ黒澤はシートウさんが敬愛する監督だそうだ。Q&Aを参考のこと)で、どこか映画の内容ともリンクするところがあったり、少年時代(ちなみに演じているのはジャンユーのリアル息子ちゃん・ファインマンくん)から力行が好きだったのがガンダムで、その広東語版主題歌を「♪飛飛飛、飛飛飛、飛飛飛~」と歌ってしまうところ、そして挿入歌として使われる「虹の彼方に」。それぞれ意味があり、なおかつかわいらしい。素直にテーマが伝わる、愛らしい映画でした。

 残念ながらコンペでは入賞しなかったけど(今年は作品のレベルが高いとも言われてたしなあ)、プログラミングディレクターの谷田部吉彦さんがかなり力を入れて紹介されていたり、ジャンユー&古天楽の来日等もあって盛り上がったのが何より。久々に日本との結びつきがある香港映画というのもまたいいところ。
 香港ではこれから公開とのことで、どのように注目を集めるかも楽しみ。今後シートウさんはまた演劇の方に戻るとのことだけど、また映画を撮ってもらいたいな。日本でも演劇と映画の両方をこなす演出家も少なくないので、香港ローカルな視点を持った演劇と映画の両者に関わっていただけると香港映画ファンとしてはとっても嬉しいのでした。

原題:脱皮爸爸
監督&脚本:ロイ・シートウ 原作&脚本:佃 典彦 音楽:レオン・コー 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:ン・ジャンユー(フランシス・ン) ルイス・クー ジェシー・リー ジャッキー・チョイ クリスタル・ティン

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メコン大作戦(2016/香港・中国)

 ここからは、今年のTIFFで観た映画の感想。

 3年前の『激戦』、来年年明けに日本公開される『疾風スプリンター破風)』に続けてTIFFで上映された、ダンテ・ラム監督の新作『メコン大作戦』。誰が呼んだか鬼ダンテ、そして漢気映画の巨匠。
昨年9月から年をまたいで撮影していたそうで、昨年のTIFFでの来日時は確かバンコクから直で来たというようなことを言ってたのを覚えている。

 2011年、メコン川流域の「黄金の三角地帯」にて中国船が襲撃された事件を基にし、政府から特命を受けた雲南の麻薬捜査官高剛(張涵予)がタイに赴き、潜入捜査官の方新武(ポン)と共に三角地帯を仕切る麻薬組織に立ち向かう物語。


このサムネイルが…(泣)なぜ泣いてるのかは後ほど。

 ここ数作のダンテ作品の常連であるポンちゃんに加え、先ごろ無事にロケが終了したウーさん最新作《追捕 MANHUNT》にてフクヤマと共に主演を張るハンユーが主演。言語は普通話(北京語)なので、前作に続いて香港の要素は全くなし。
 それでも面白かったのは、リアリティのあるロケーションと力の入ったアクション、そして中国公安が主人公でありながら堅苦しく描かれていなかったことからだと思う。制作側もそれを期待してダンテさんを起用したのだろうけど、ずいぶん時代は変わったものである。

 上映後のティーチインによれば、ロケはほとんど実際の事件現場で行われたそうだとか。でもアクションはあれほど派手じゃなかったよ、とのことで、まあそれは当然ですね。当初は谷垣健治さんにもアクション指導のオファーがいっていたそうです。モテモテですな(こらこら)。 

 アクションだけでなく、人間ドラマも見応え充分。
高剛率いる特殊チームも個性的で、敵対する麻薬組織とも実に好対照で面白かった。前者は射撃・偵察・諜報などのスペシャリストが揃っていて、コードネームは中国の神々にちなんだもの。特によかったのが麻薬犬の哮天(シャオティエン)。そう、わんこ(といってもそれなりに立派なシェパード)もチームの一員なのである。勇敢かつ健気な活躍を見せてくれるので、犬派じゃないワタシも思わずグッときてしまった。
 後者の面々も内部で様々な軋轢があったり、いかに組織を動かしているかもわかって興味深かった。組織には子供も多く、少年兵として銃器を扱うので、劇中でどんどん殺されていくという残酷さも描かれる。辛いなあ。今後日本公開が検討されるなら、ここで引っかかりそうな気がする。うーむ。

 で、中心となるハンユーとポンちゃん。
ハンユーは代表作の『戦場のレクイエム』を観てないし、『孫文の義士団』で最後にやっと登場する孫文くらいで、じっくりと見るのはこれが初めてか…と思ったら、ああそうだった、特殊身分にも出ていたか。ダンテさん曰く、起用の理由は「中国警察が主人公なので男っぽい俳優が欲しかった」とのことで、生真面目で熱いキャラはまさに当たり役だった。これは否が応でも楽しみになるじゃないですか、追捕が!
 変幻自在な潜入捜査官の方はかなり過酷な役どころ。3作連続登板のポンちゃんにとっては、今回が一番過酷だったかもしれない。当然、トレーニングはやってもらったとか。登場時の髪型とヒゲが違和感あったので、リアルであっても似合わないと感じたのだが、変装用で取ってもらえてややホッとする。その彼もかつてはドラッグに恋人の命を奪われるという壮絶な過去を背負っており、高剛とは最初は対立するものの、やがて手を取り合って組織に挑むという展開はやはりぐっときますわ。

 社会派にも作れる実話をあえてアクションで彩ったのは、テーマに対する敬意をこめており、先行して発表された事件に関する書籍やTVドラマでは描かれなかった部分を描くことに重きをおいたそうだ。もっとドラマも盛り込みたかったそうだが、2時間でまとめるのは大変だったとのこと。
 中国大陸では記録的大ヒット(香港ではそうではなかったらしいが)を飛ばしたのも、そのダンテさんの意図を汲み取って観客が観たのかもしれない。なんといっても中国警察のプロパガンダになっていなかったのは見事であったし。

 

そんなわけでこのところは大作が続いているダンテさん。
新作も楽しみだけど、たまには香港にも戻ってきてほしい。
そして、そろそろ実現させてもいいかもですね、トニー&ニックさん主演の話を。^_^

原題(&英題):湄公河行動(Operation Mekong)
監督:ダンテ・ラム
出演:チャン・ハンユー エディ・ポン チェン・パオグオ ロー・ワイコン

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念念(2015/台湾)

 フィルメックス鑑賞記のラストは、今年の審査員であるシルヴィアさんの監督作品『念念』
 シルヴィアさんの監督作品は金城くんとジジとカレンの『君のいた永遠』は観ているのだが『少女シャオユー』(95)や『20、30、40の恋』(04)などの映画祭で高く評価された作品はなぜかスルーしちゃってる。つまり観る機会に恵まれなかった。だから実際は『君のいた永遠』以来15年以上ぶりの監督作品鑑賞ってことになる。

 台東の横に位置する緑島。ここは長年刑務所が多く設置されていて、台湾のアルカトラズ等と言われてきた歴史があるが、今や刑務所も一つしかなく、豊かな自然と美しい海が楽しめることで知られている。
 黄育美(イザベラ)と育男(ルンルン)の兄妹は、この島で食堂を営む両親に育てられたが、二人が小学生の時に離婚し、育美は母(アンジェリカ)に連れられて台北に移住し、育男は父(陳志朋)と共に島に残った。さらに育美は母が自分より兄を愛していて、自分を連れてきたことを後悔しているのではないかと思うようになる。そして母の死をきっかけにそれがトラウマとして残り、成人して画家となった現在においても彼女を苦しめることとなった。
 育美の恋人はボクサーの張永翔(ジョセフ)。スランプに陥った彼女は翔の合宿所を訪ね、彼と身体を重ねる。それでも彼女の心の傷は癒えなかったが、ある日自分が妊娠していることに気づく。翔は目の不調を感じ、試合で調子を上げることができなかった。眼科に行ったところ、網膜剥離の診断を受け、ボクサーとしてのキャリアを諦めることとなる。お互いに行き詰まってしまう二人。
 一方、台東の旅行代理店に勤務していた頃に父を亡くした育男は、緑島に戻ってフリーの旅行ガイドをしていたが、離婚後に消息を絶った育美の行方が気になってくる。自分にとっては大好きな家族だったのに、どうして別れてしまったのか…。それがきっかけで、育男も家族を持たずに一人で暮らしていた。
 そして、台北で暮らしていた頃に母親がやはり自分の弟か妹を妊娠していたことを思い出した育美。その記憶をたどることで、彼女は母の本当の想いを知ることになり…。

 この春に台北之家に行った時、ちょうど上映前だったことで(香港国際映画祭がプレミア上映だったそうだ)『小森食光(リトル・フォレスト)』や『D機関(ジョーカー・ゲーム)』と並んでポスターが貼ってあったのだが、お久しぶりのイザベラとジョセフを見て「ほー、ラブストーリーか…。TIFFで上映されそうだな」と思ったのだが、まさかフィルメックスでやるとは。まあ、監督が審査員だからってー理由なのでしょうが。
 ともあれ、日本では金城くんとジジの恋愛ものとして宣伝された『君のいた永遠』が、実はそれにカレンも交えた友情と恋愛が交じり合った関係と、一人が欠けて中年となった現在を対比して描かれた人間ドラマだったように、この映画もポスターではラブストーリーの顔をしているけど、実はこの二人にルンルンも加わった家族をめぐる苦悩と和解、そして再生の物語だった。
 
 母と娘の確執は、最近よくネットで話題になることが多い。幼少期に愛されなかったことや、虐待を受けたり親が叶えられなかった理想を押し付けられたりと様々なのだろうが、当人が捨てたいと思う気持ちは良くわかるし、それを悶々と一人で抱え込むのは確かに辛いことだ。だけど、それが解決できないものなのか、親を捨てるにしてもどこかに気持ちをちゃんとぶつけられるか、よければ和解できないものかと思うのは余計なお世話だろうか、まあそうだろうな(反語)。すいません。
 だけど、この物語が毒親と思えた母親への恨みと、故郷を捨てる話で終わらなかったのは、家族の崩壊が必ずしも一面的ではなかったことだ。それは育美の情緒不安定が母へのトラウマが原因だとしても、兄の育男にとってそんな思い出はなく、母が育美にありったけの愛を寄せていることはよくわかっていた。同じ家族でも全く違った視点で家族を捉えると、辛い思い出は意外にも思い込みが先行するものであるというように書かれていたからだ。そこに共感できた。だから、育美と育男が母に関する思い出を幻影として見たことで、育美が母を誤解していたことに気づいたり、育男が改めて別れた母と妹に思いを寄せる場面は素直に受け入れることができた。
 また、翔自身も漁師だった父親を海難事故で失っているというエピソードが挿入されているが、翔も父親と「出会う」ことで、次に進む勇気を持つ。育男・育美兄妹と共に、死者となった親が次の世代に家族をつなぎ、未来を見させるような作りになっているように見えた。そこにも好感を持てた。
 とは言うものの、実は同じフィルメックスのコンペに参加した、『夏休みの宿題』のチャン・ツォーチ監督の新作『酔・生夢死』とカブる部分が多いらしく、こっちの方が完成度が非常に高かった(金馬奨多数受賞)と聞いて、気になっている。これと比べてみると、また違うのかしらね。

 嬉しかったのは、かつて香港映画で活躍を見せていた二人の女優、イザベラとアンジェリカがいずれも健在だったこと。二人とも結婚しており、特にイザベラは2008年の『ハムナプトラ3』以来の本格的な銀幕復帰(!!)だったとは驚いた。『百日草』のカリーナが5年ぶりの復帰だったので、同じくらいのブランクかと思ったがとんでもなかったな(苦笑)。台湾映画も『刺青』で経験済みだったので、復帰作としてもよかったのだろうな。しかし、27歳で3児(双子含む)の母か…。アンジェリカは劇中で育美の描いた絵を手がけているとか(Q&Aより)。
 そういえば最近台湾人男優で顔を見るのってポンちゃんかジョセフだなってくらいの頻度で観てるんだが、どっちが好みだろう…ってそこで考えこむな(笑)。知的な役も肉体派もこなせるいい俳優になってたけど、そうね、シルヴィアさんがおっしゃった通り、ピンクの脇が深いタンクトップからのぞく立派な二の腕には目がいっちゃったわね。
 それでもワタシはどちらかと言えばルンルンの方が好き(こらこら)。今回はいつものような暗めの役じゃなくて、比較的明るい(でも寂しそうな)役どころだったのがよかった。幸せになってほしいなーと思った次第。後はちょっと特徴ある人が特徴的に出てくるなーと思ったら、台湾を代表する占い師の星星王子であると教えてもらった。

 あと、この映画の脚本を書いたのは、『海角七号』『KANO』でもお馴染みの蔭山征彦さんで、劇中にも出演しているらしいけど気がつかなくてすみません(追記:台北出張中に帰れなくなった育男と相乗りし、バー「藤」に案内する不思議な男性役だとか。教えてもらいました)。また、この夏岩手めんこいテレビで製作されたドキュメンタリー『新渡戸稲造の台湾』で紹介された日本人俳優・目代雄介さん『27℃-世界一のパン』 『恋するヴァンパイア』に出演…って両方観てなかったよ)も出演し、劇中で印象的に登場する「陰のない男」を演じたそうです。


英題:Murmur of the Hearts
監督&脚本:シルヴィア・チャン 脚本:蔭山征彦 撮影:リョン・ミンカイ 音楽:チェン・カイ 録音:トゥー・ドゥーチー
出演:イザベラ・リョン ジョセフ・チャン(チャン・シャオチュアン) クー・ユールン アンジェリカ・リー ジュリアン・チェン

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戯夢人生(1993/台湾)

 『恋恋風塵』で初登場し、ホウちゃんの名を広く知らしめた『悲情城市』にも出演した李天祿さん(1910-1998)。伝統的な人形劇・布袋戯の人間国宝的な人物である彼は、若い頃から公演で台湾中を回り歩いていたそうだ。生まれた時代は日本統治時代のど真ん中。そんな彼の前半生を映画にした『戯夢人生』は、悲情城市とは対をなす傑作として言えるのだろう。…しかし、恥ずかしながら未見でありました。実際日本でも長い間上映が途絶えていたそうで、今回がチャンスであり、貴重な機会だと思ったのは言うまでもなく。

 物語は幼少期から始まり、人形劇団で布袋戯使いとして才能を表す青年期(林強)、日中戦争の影響を受けた時代を経て終戦で幕が閉じられる。ポイントになる場面には李天祿さん自らが語り手として時を超えるように現れるのだが、そこで語られる当時の思い出もなかなか驚かされるものばかりで面白い。各時代についての背景は天祿さんのモノローグでも言及されるが、ドラマティックな盛り上げは一切ないし、感情過多になっていない。悲情城市でも歴史に翻弄される人々の姿はドラマティックであったが、それでも淡々としたものだったし、姉妹編として撮り上げたこの作品ではその淡々さがさらに一歩進んでいったのは言うまでもないんだろう。それ故にホウちゃんの作風にあまり親しみのない一般的な方々の感想に「名作と言われるけど、悲情城市はピンとこなかった」というのが多少あるのはわかる。

 興味深かったのは各時代に出てくる布袋戯の場面。手のひらにすっぽりとかぶせるサイズの可愛らしい人形が賑やかに物語を転がし、その時代で変化する様子もわかる。戦時下では日本の兵士の活躍まで日本語で上演されていたとは知らなかった。
 また、統治時代における日本人の見方も客観的だったのが意外だった。日本人と共に布袋戯を演じることになる後半で、やさぐれて悪態ばかりつき、天祿さんにも突っかかっていく日本人の同僚がいたが、それを咎め、天祿さんたちを気にかける上司もいるわけで、美化もしなければ批判もしない描き方はよかった。この描写について、当時はどう捉えられていたのだろうか?

 広角で大胆に遠景を捉えるショットや、自然光で室内を映し込む場面は昔も今も変わらなく、それだからこそスキな人間には安心できる。でも初心者に厳しいってわけじゃない。こういう映画こそ、大画面で時間を忘れるほどゆったりした気持ちで味わう価値がある。スヤッたらたらもう一度大画面で観ればいいのさ…って贅沢言ってすいません。

 日本統治時代に生まれ、日本語もわかれば漢文の教養もあったという天祿さん。なくなってもう15年以上が経ってしまったけど、一度お話が聞いてみたかったなあ。布袋戯の公演を日本でもしたことがあるらしいけど、気がつかなかったものなあ。

Q&Aも和やかに進行。この回では制作協力にお名前があった野上照代さんも参加されていて、ホウちゃんを「アナタは天才よりすごいよ!」と大絶賛。そして、かの黒澤明監督が日本公開時にこれを観て、黒澤プロの新年会で会う人ごとに「『戯夢人生』観たか?アレはすごいぞ!」と言っていたというエピソードを披露してくださってました。こういう話を聞くと、日本映画と台湾映画、ひいてはアジア映画のつながりの強さを再確認したくなるなあ。


 しかし、長らく上映機会が途絶えていたということがあって、フィルムがかなり古かったのが残念。風櫃同様にデジタル修復されてほしいと思うのだけど、権利関係の解決がかなり難しいらしい。悲情城市同様、映画史に残る作品だし、映画ファンだけじゃなく台湾やアジア史に興味の深い人に広く観られてほしいと思うので、デジタルリマスター化を希望します。クラウドファウンディングがあれば、もちろん参加しますよ。

英題:The Puppetmaster
監督:ホウ・シャオシェン 原案:リー・ティエンルー 脚本:ウー・ニエンジェン&ジュー・ティエンウェン 撮影:リー・ピンビン 
出演:リー・ティエンルー リン・チャン ツァイ・ジェンナン カオ・トンシウ 伊東史朗

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風櫃の少年(1983/台湾)

 今年のフィルメックスの特集上映は3本立てだった。一つはメインビジュアルに採用されているフランスの往年のマルチクリエイター&コメディ映画の旗手、ピエール・エテックス。もう一つがミンリャン、そしてホウちゃんである。

 今年のホウちゃんは8年ぶりの長編作品にして初のアクション時代劇『黒衣の刺客』を発表。これでカンヌの監督賞を受賞するにとどまらず、金馬奨では作品賞を始め5部門を受賞し、年間最優秀映画人賞も受賞といういいタイミングでの特集上映となったのだが、問答無用の代表作『悲情城市』と久々の上映となる『戯夢人生』の2本に合わせ、ベルギーで修復された、この『風櫃の少年』の初期作品が上映されるとならば、黙っておれないワタシであった…といえども、実は悲情城市は平日上映だったので、泣く泣く断念したんだけどね。



これはフランスで上映された時か何かのハイライト動画かな?

 台湾と大陸の間に位置する澎湖島。その突端にある小さな村・風櫃。
ここで育った青年阿清(豆導)は、2人の幼馴染と毎日悪ふざけをしたりケンカをしたり過ごしていた。阿清の父親は若いころに野球の試合で頭に打球を受けたことがきっかけで身体機能を失っており、母親に叱られながらもブラブラと過ごしていた。
彼らは兵役を控えており、その前に何かをしたいと考えていた。同郷の先輩が高雄の工場で働いており、トラブルを引き起こして村に居づらくなった彼らに仕事を提供する。故郷を後に一旗揚げようと考える彼らは、様々な人に出会い、事件に巻き込まれる。そんな中、父親の訃報を受け取った阿清はひとり風櫃に戻る。父との思い出に浸りながらも、もうここにも戻れないことに気づく。
 そして、仲間の一人に兵役の連絡が届き、いよいよ3人はバラバラになる時が来る。

 実はこの作品、一度観てました。学生の時ビデオで。しかも論文書くために。
ええ、実は卒論が「映画で振り返る台湾の現代史」でした。何を書いたかなんて覚えていません(泣)。で、実は内容もほとんど忘れてるなーと思ってみていたら、割と覚えているところは覚えていました(笑)。

 眼の前に海はあるものの、どこか裏寂れた感じの風櫃。遠くまでをワイドに写しだした全景の端っこの方でじゃれあう若者たち。こんな感じのショットがゆるやかに続く前半。常々言っていることだが、ホウちゃん作品は人物をクローズアップで捉えることもなく、アクションがあってもカメラは安定のフィックスである。だから最近のエンタメ系映画とは全く違う流れでゆったりと進む。そして、物語も淡々としている。
 この淡々さ、いくらスヤァ…としてしまうからといっても、だからと言ってつまらないと言われるのは心外だ。いや、たしかにワタシも気合を入れて観ないとたまに記憶が切れていることもあるのだが(汗)。全景をワイドで移すことで日常の淡々とした感覚も映画的な時間に取り込み、ノンフィクションな現象を物語に変える力があるのではないかな。それはきっと彼が敬愛する小津安二郎も使った手なのであろうし、だからこそアジアを代表する映画監督となり得たのだろうと思っている。
 数年前のフィルメックス開催時に「最近の映画監督を志す人達の間でさえ『侯孝賢って誰?』というような現実がある」というディレクターの林加奈子さんの発言を読んで驚いたことがあるのだけど、日本では『悲情城市』や『恋恋風塵』や、松竹と合作した『フラワーズ・オブ・シャンハイ』は観られても、過去作品はなかなかかからなかったからか?などと思っている。ソフトで観るにも何だかもったいない感じもするし、こういうふうに過去作品が大画面にかかることは若い人にとってもいい体験だと思うし、映画製作を目指す人には良いお手本となるよな、と感じた。これはベルギーで修復されたとのことだけど、今後世界中の映画学校や映画大学に貸し出されて上映されたらいいのになあ。
 なお、当日はホウちゃんの研究書を書かれた米国のNYバード大教授リチャード・サチェンスキー氏の講演が行われ、ワタシも大学生に戻った気分で聞きました。オーディエンスにはかの映画批評家蓮實重彦御大もいらしておりました。ほぼ斜め前にお座りになっていたので、なぜか緊張しちゃったワタクシ(笑)。

 主人公の阿清を演じるのは、今や台湾のエンタメ界を牽引するプロデューサー&映画監督となった豆導。…んー、まー、あまり男前じゃないのに自作では美味しい役やっちゃうことで有名だけど(おいおい)、若いころもそれほどハンサムじゃなかったか(こらこら)。彼の生き方にスポットが当たるけど、物言わぬお父さんとの場面はそれなりに切なくて印象的だったりして。阿清の先輩格で、彼らに就職を斡旋しながら工場の品物を横流しする青年を演じていたのが『ラスト、コーション』『ウォリアー&ウルフ』でいい脇役やっていたツォンホワさん。これ、後で気づいて「おお、出てたのか」とちょっと驚いた。かなり昔に観たので感想は書いてないけど、『南京の基督』で家輝さんの友人役をやってたのも印象的だったな。

 ゆったりとした風櫃の時間の中でふざけ合い笑い合い、忙しない高雄で世の中に揉まれたり、出会いと別れを味わった少年たち。それぞれの別れが近づくラストシーン、仲間の一人が兵役に向かうことがわかり、一緒にいる最後の思い出を作ろうという感じで屋台でカセットテープを思いっきり叩き売る阿清の姿。これは初見時にも覚えていた。画面に封じ込められた少年期の終わりは、30年以上経ってもこうして永遠に残っている。そんなふうに感じたのであった。

おまけ:この感想を書くにあたって参考にした風櫃についてのウェブページとして、ロケ地情報と当地の澎湖民宿、そしてフォートラベルの旅行記をリンクとしてご紹介。
機会があったら行きたいんだけど、どうかしらん?

原題&英題:風櫃來的人(The Boys from FengKuei)
監督:ホウ・シャオシェン 原案&脚本:ジュー・ティエンウェン 撮影:チェン・クンホウ 編集:リャオ・チンソン 音楽:ボビー・チェン
出演:ニウ・チェンザー チャン・シイ チャオ・ポンシュエ トゥオ・ツォンホア 

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