香港映画

【32ndTIFF2019】『チェリー・レイン7番地』ほか観た映画の感想

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今年も映画祭の秋がやってまいりました。
まずは、先ごろ参加してきました第32回東京国際映画祭で観た映画の感想を。
今年は観たい作品が2日間にまとまっていたので、悩まずにチケットが取れました。

『チェリー・レイン7番地』

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『美少年の恋』『華の愛・遊園驚夢』(TIFF出品作)の楊凡(ヨン・ファン)監督の新作はなんとアニメーション。先ごろのヴェネチア国際映画祭ではコンペティション部門に選出され、最優秀脚本賞を獲得。1964年に台湾から香港へ移住してきた監督の自伝的要素も入っていて、60年代香港を舞台に繰り広げられる、家庭教師のバイトをする香港大学の青年(アレックス・ラム)とバイト先の女子高校生(ヴィッキー・チャオ)、そしてその母親(シルヴィア・チャン)との三角関係を描くヨン・ファンらしい耽美的な作品。

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  1967年香港の風景も空気も再現するにはもうアニメという手法を使うのしかないのだろう。広東語・普通話・上海語が入り混じるダイアログ、愛欲と自由と古今東西の名作も入り混じるムード、シルヴィアさんやヴィッキーからフルーツ・チャン監督に至るまでの豪華声優陣はとても贅沢。
質問はアニメに詳しい方々から多く発せられていた。(今年は話題を呼んだ世界のアニメ映画の一般公開も多かったし、実際にアニメーターさんが多く参加されていた様子)キャラは3Dで作って2D化するという手法を使ったらしいけど、こういうのはあまりないのだろうか?楊凡さん、「アニメはよく知らないし、アニメファンにもアート映画ファンにも観てもらえないような作品」と言われていたけど、これはなかなか面白い挑戦だと思いますよ。完成まで7年かかったとか。

そして、発掘した『美少年の恋』のプレスシートにサインを頂いたのでした。
『遊園驚夢』のパンフや《涙王子》のソフトジャケットを持参していた方もおられました。

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今見ると、なかなか感慨深いものを覚えるこのビジュアル。
彦祖ことダニエル・ウーはハリウッドで活躍中、ステことスティーブン・フォンは映画監督としても順調だし、なんといってもこの映画で初共演したすーちーと夫婦になったというのが一番大きい…。
楊凡さんにこのプレスを見せたら「おお…」と驚かれていましたよ。

『ファストフード店の住人たち』

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アジアの未来部門に出品されたこの映画は、TIFFがワールドプレミア。
主演のアーロン・クォックとミリアム・ヨンは初日のレッドカーペットとプレミア上映にはそろって参加。
2度目の上映にはアーロンとこの作品が監督デビューとなるウォン・シンファン(広東語の発音だとシンファンよりヒンファンの方が近いようですが…)がゲストで参加しました。

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24時間営業のファストフード店にたむろする訳ありの人々と、彼らの困りごとを解決すべく奔走する元投資コンサルタントのホームレス(アーロン)と彼の友人であるカラオケバーの歌手(ミリアム)の物語。このアジアの未来部門を中心にTIFFレポートを書かれている翻訳家・映画評論家の斎藤敦子さんのblog「新・シネマに包まれて」でも触れられています。

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今年一番楽しみにしていたのがこの映画。これまでTIFFでは『父子』 『プロジェクト・グーテンベルク』とアーロン主演作が上映されているけど、ゲストとしてのTIFF参加は意外にもこれが初めてとのこと。
香港では2006年からマックの24時間営業が始まったが、世界で初めてそれをやったのは日本だったという記事も着想のヒントとなったとか。深夜のファストフード店に集まる人々のささやかな連帯感は微笑ましいけど苦難を乗り越えられても貧困は希望を砕く。
最近、ヴォネガットの言う「親切は愛にも勝る」という言葉を何かにつけて思い出すのだが、転落して一文無しになった博(アーロン)が仲間の世話を焼いてはどうしようもないところまで追い込まれてしまうのにも、その言葉は重なった。あとどこか「幸福な王子」的なものも覚えたかな。
ウォン・シンファン監督は新人ではあるけど、助監督などで現場の長い方とのこと。日本でも公開された『誰がための日々』これから公開の『淪落の人』に連なる香港社会派電影系列と見てよさそう。貧困問題はいずれにもある。どうか希望が持てるような世界であってほしい。

『ひとつの太陽』

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『失魂』 『ゴッドスピード』の鐘孟宏(チョン・モンホン)監督の新作で、今年のTIFFでは唯一の台湾映画。
台湾での上映開始日と映画祭が重なったとのことで、モンホンさんの来日はなし。残念だった…。
罪を犯して逮捕される次男と、彼を拒絶する父親。そして長男は思いもよらぬ行動へ…と途中まで観ていて、これは台湾版『葛城事件』だなと思った。父と息子たちの葛藤とそこで起こる悲劇はよく似てはいるけど、ディテールやキャラの性格はもちろん違う。こちらは後半は意外な展開を見せるし、同じモチーフでも作り手が違うと全く変わる。
残酷な一方、ユーモアもあるし、過ちを犯した人間への受容も描かれている。とっ散らかっているという感想も見かけたけど、ラストには衝撃を受けてもどこか希望は少し感じる作りになっているのは受け入れやすい。


『ある妊婦の秘密の日記』

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『レイジー・ヘイジー・クレイジー』で衝撃のデビューを飾ったジョディ・ロック監督の第2作のテーマは「妊娠」。

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これもワールドプレミア上映で、フォ

 

フォトセッションでは製作のジャクリーン・リウさんや、このたび日本に拠点を移して映画製作を行う撮影のジャムくんも大集合。

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周りから過剰な期待をかけられる一方で、妊娠なんかしたくない!出来たら堕ろす!という毒づきから始まるダダ・チャン演じる香港女子の一大妊娠記。日本でも仕事を持つ者の妊娠と子育てで大きな問題があるだけに、ここまでサポートしてもらえるのはうらやましいと思った。
劇中にはルイス・チョン演じる男性の妊婦アドバイザーが登場し、主人公夫婦の周りにやたらと出没。妊娠アドバイザーは実在する職業らしいけど、男性はいないらしい(当たり前か)
面白かったのが、妊娠した妻を持つ夫たちによるパパクラブ。オヤジの会とは似て異なるし、以前ネットに回ってきて話題になっていたメキシコのウィチョル族に伝えられるアステカ法出産(出産時に妻が痛みを感じた時、夫の睾丸に結びつけたロープを引っ張ると以下かいてて痛いので略)がネタになってるのはさすがである。
パパクラブのメンバーには、これまたSNSで話題になった、平成ライダー全変身ポーズを決められる男子・豆腐くん(しかも台詞は一応全部日本語。発音不明瞭なのはまあしょうがない)がいて笑った笑った。妊婦あるあるが詰まっている作品。今回も楽しい作品で気持ちよく笑ってTIFF収めをしました。

次の映画祭は今月23日から行われる東京フィルメックス
ワタシはミディ・ジー監督の新作『ニーナ・ウー』と、いまだに「マギーの元旦那」呼ばわりしてしまうオリヴィエ・アサイヤスによるホウ・シャオシェンのドキュメンタリー『HHH』そしてそのホウちゃんとトニーが再びタッグを組んだ『フラワーズ・オブ・シャンハイ』のデジタルリマスター版を観に行きます。

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誘拐捜査・九龍猟奇殺人事件【未公開映画の感想】

これまで観てきた2年分の映画のうち、tweetはしたけど、独立した記事が書けなかったものをまとめてUPします。
まずはタイトルの2作。2017年くらいから、WOWOWで未公開中華電影の放映も目立つようになってきたので、よく観ていました。

『誘拐捜査』


中国で実際に起こった俳優誘拐事件を基にした映画。監督は成龍さん主演の中国映画を多く手がけるディン・シェン。
香港の映画スター吾先生誘拐をめぐる警察と犯人、そして吾先生と誘拐犯との駆け引き。成龍さん出演作を手がけてる監督さんだと思うけど、ポリストレジェンドをさらにリアルに寄せたような感じだったな。実際に誘拐された俳優さんも出演し、刑事役リウ・イエの上司役で出演していた。
吾先生は香港スターだけど大陸出身であっと驚く背景を背負っているのだけど、それゆえにもしかして…という期待をさせてしまうのはあえてなのか?親友の北京在住の実業家が林雪ってのは美味しい。『ブレイドマスター』の王千源はなかなか曲者。でも本来は《健忘村》のようなコメディ演技のほうが得意分野らしい。
派手ではなく、あえてリアルさで見せたのは好感度高いし、これならシネマート系の中華祭りでやってもよかった気はするんだけど、それでやるには華が足りなかったかもしれないな。でも、ドラマとしてしっかりした作品だったので、観てて安心した。北京の元宵節の風景もいい。

『九龍猟奇殺人事件/踏血尋梅』



少女の殺人事件から見えてくる、人間の孤独と哀しみを描いた映画だった。憧れの香港で夢を叶えられず落ちていく少女と、幼い頃に事故で母親を失い、失意のまま成長した男が出会ったことで起こった悲劇は確かに猟奇的だが、お互い何かを求めていたと見ると印象が変わる。
主演はアーロンだけど、決して派手じゃないし、むしろ彼の役どころは狂言回し的。渦中の男女を演じる白只(マイケル・ニン。『宵闇真珠』にも出演)と春夏(『シェッド・スキン・パパ』のジェシー・リー)が本当に熱演で、アクションよりリアリティを求めた映画のトーンともマッチしていた。グロい場面や台詞もあるけど、それほど気持ち悪くはならなかった。TVで観たからだろうか?うーむ。
撮影にドイル兄、あとウィリアム叔父さんの名前も見たので、映像的にも見ごたえある。いい映画なんだけど、派手でもなくむしろ地味な展開なので一般公開はキツかったんだろうな。ただTLによると、WOWOW放映版は98分の短縮版で、120分のディレクターズカット版があるらしい。これも観たい。
当事者の王佳梅(ジェシー)は湖南省生まれという設定で、広東語も割とすんなりしゃべりつつ時々キッツい湖南訛りで喋るというキャラで、普通話話さないのは珍しいなと思ったのだけど、ある場面でしゃべっていたのは意味があるのかな?と思った。

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非分熟女・逆流大叔・G殺・入鐵籠【2019年春香港で観た映画】

前の記事の続編です。
ここからは香港で観た映画の感想。

《非分熟女》

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この春の大阪アジアン映画祭でプレミア上映されたこの映画、香港では4月4日からの上映でしたが、運良く優先場があったので鑑賞。
監督は初OAFFで観て好きだった『ビッグ・ブルー・レイク』のツァン・ツイシャン。
一言で言えばセックスと食とポールダンスで語るあらほー女子(シャーリーン・チョイ、以下阿Sa)の成長記といったところか。阿Saの相手役は《引爆點》などの台湾の俳優ウー・カンレンだが、個人的にはもしかして初見かも

産婦人科の看護師として仕事に邁進し、結婚はしたもののセックスレスが原因で離婚した主人公が親の病のために家(茶餐廳)に戻り、そこから次に進むという展開は『ビッグ・ブルー…』と同じだけど、今回はかなりセクシュアルな要素が多い。茶餐廳にシェフとしてやってきた男(カンレン)と恋に落ちて、かなり大胆な彼とのセックスシーンも展開するのだけど、撮り方にイヤらしさがなく上手かったので感心したし、展開的にもセックスだけが強調されなかったので好感を持った。性によって解放されていくけど、それに溺れず生き方の糧として一歩進むというのがいい。
しかしアイドルだった阿Saがこんな役どころを演じるようになるなんて…と思わずトオイメになったのは言うまでもなかったのでした。
旧友に誘われてレッスンを始めたポールダンスを踊る場面もあって、これもまたステキであった。もっとも彼女のダンスはエロティックより健康的に感じたけど。

《逆流大叔》

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昨年夏公開されて高い評価を受け、4月に実施される香港電影金像奬では、作品賞を始め10部門にノミネート。
金像奬授賞式を前にしたティーチイン付き上映@香港藝術中心古天樂電影院で鑑賞。(実はアニエス・ベー・シアターの時も含めて初めて行ったシアターでした)
『地下鉄』や『モンスターハント2』など多くの香港映画の脚本を手がけてきた作家、サニー・チャンの初監督作品で、主演はン・ジャンユー。ジャンユーはプロデュースも兼ねてます。製作は古天楽の天下一電影で、藝術中心の映像ホールの名前が昨年夏に古天樂電影院となってのこけら落とし上映作品だったとのこと。

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レイオフに揺れるネットプロバイダー会社の技師たち(ジャンユーら)とその上司が、会社の命令で端午節のドラゴンボートレースに出場。家族や恋人との間にそれぞれの事情や悩みを抱える彼らはボートの練習を経て友情を深めるが…という話。
雨傘運動の時によく歌われた「獅子山下」や、お馴染『男たちの挽歌』がネタとして上がったり(上写真のユニフォーム参照)、香港人のスピリットをコメディ仕立てて描いている映画。挽歌ネタはちょこちょこ出てくるので楽しく、これは本当に香港人男子のソウルに触れる作品なんだなと確信。

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ティーチインの模様。左が淑儀役の潘燦良さん、真ん中がサニー・チャン監督。 

ジャンユーももちろんよかったのだけど、女性みたいな名前と言われる中年男子の淑儀(当日ゲストで来た潘燦良さん。演劇畑の方で助演男優賞にノミネート)や元アスリートのウィリアム、妻の不倫に悩む上司の泰、チームを鍛える先導のドロシー(ジェニファー・ユー)などそれぞれのキャラもよかった。
音楽は年明けのJ-WAVEの香港スペシャルでも紹介された中堅バンドのRubberBand(『レクイエム・最後の銃弾』の主題歌も歌ってます)主題歌「逆流之歌」とともに金像奬では音楽賞も受賞。ラップも入る軽快な挿入歌「大叔情歌」を始め、劇伴も物語にフィットしていて感心。個人的にはかなり気に入りました。
スポーツ映画であり、人間ドラマでもあり、香港らしいサバサバさもあって終始笑って観ておりました。あー楽しかった。

しかし面白いしテーマも興味深いのに、なんで日本の映画祭はどこもこれを呼ばなかったの?福岡もTIFFもOAFFもゆうばりも一体なにやってるの?監督に「日本の映画祭でやらなかったから香港まで観に来ましたよ」って言いましたよ。ちなみにティーチインでは質問できませんでしたし、残念ながら内容もほとんど理解できませんでしたよ。・゜・(ノД`)・゜・。でもこういう機会に行けてよかったよ!

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授賞式には欠席したジャンユー。残念なので金像奬の特写フォトをば。

《G殺》

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製作は『八仙飯店之人肉饅頭』や『イップ・マン 最終章』でお馴染みハーマン・ヤウだけど、どこかしらパン・ホーチョンのテイストも感じるのは、我らがチャッピーこと、チャップマン・トーが出演しているからですか?

生首だけの娼婦の変死体、彼女を愛人にしていた悪徳刑事と、担任教師と肉体関係を持っていたその娘、刑事に関わられてしまった彼女の2人のクラスメイト。彼らの関係や行動は全てGというアルファベットの単語で繋がる。
刑事龍(チャッピー)の娘雨婷(ハンナ・チャン)はいじめられっ子、2人のクラスメイトのうち、親友のドンは自閉症でアスペルガーでゲイ、もう一人の以泰は親に捨てられた孤独なチェリストでやはりいじめられっ子。彼ら若者たちのどこか追い詰められた感じは痛々しく、対比していじめっ子たちの幼さと残酷さも強烈であった。辛いよなあ、こういうのは。
胃ガンで母を亡くした雨婷の元に来て、継母として居座った父の愛人の小梅(『ブラインド・マッサージ』『台北セブンラブ』のホアン・ルー。助演女優賞ノミネート)も最初は嫌なヤツとしか言えないのだけど、中国大陸からやってきて香港で生きてきた孤独と絶望があり、彼女の最期も合わせて全体的に皮肉が効いているのだろうけど、どこか笑い飛ばそうとするのはやはりブラックコメディなのかもしれない。

キャストで目を引いたのはやはり主演のハンナ・チャン。SPL3では可哀想な役だったけど、あの古天楽の娘役と同じ子とは思えなかった。
ワールドプレミアとなったOAFFでは橋本愛ちゃんに似ているという評判があったけど、個人的には早見あかり嬢にもちょっと似てると思いましたよ。近作はあの『カメラを止めるな!』のスタッフが香港で撮る新作で、しかも主演なので、今後の活躍が楽しみな女優さんです。

《入鐵籠》

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香港で最後に観たこの映画は、香港の実在の総合格闘家がモデルらしい。
主人公は施設育ちのジャック(エドワード・マー)と阿兎(ラム・イウシン。《九降風・烈日當空》でデビュー、『恋の紫煙』にも出ているらしい)の兄弟。格闘家の姉弟(元秋&エリック・コット)に引き取られて兄は格闘家に、弟は学校を中退してメッセンジャーをしながら地下格闘家をやっている。ある日兄がMMAのアマチュアチャンピオンと戦うことに…という話。
この時点で話は読めた感はあったのだけど、兄が負け、弟がチャンピオンと戦うことになる時、「これを兄の復讐と思ってはいけない」と言われるのが当たり前なんだけどいい。この試合の勝者は日本の修斗の選手権に出られるという設定で、ラストは、実際に修斗の全日本選手権の開催中に小田原でロケされていた様子。
ジャックの恋人リリー(ウィヨナ・ヨン)は同じ道場でグレイシー柔術を学んでいる達人というのもいいし、師母の元秋さんもカッコええ。
ベタな展開だけど、それだからこそ楽しめたし面白かった。誰も死なないし、相手役もフェアであったしね(まあ外野は騒ぐけど)

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廉政風雲 煙幕・歐洲攻略・大師兄【2019冬&春に台南と機内で観た香港映画】

今年の2月と3月の台南と香港の旅では、機内上映も合わせて久々にたくさん香港映画を観られました。
ここでは先行してTwitterやFBで書いてきた各映画の感想を加筆して2回に分けてUPいたします。

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《廉政風雲−煙幕》
インファナルアフェア三部作のアラン・マックが監督し、同じチームのフェリックス・チョンがプロデュースしています。メインとなるのは香港の汚職捜査機関・廉政公署(ICAC)。大企業の不正取引に関わり、証人として出廷要請を拒否し海外逃亡した会計士(ニック・チョン)と、彼を追う二人のICAC捜査官(ラウ・チンワン&カリーナ・ラム)が主人公。内容的には地味になるんじゃないかと思いきや、チェイスあり暗殺ありの、香港映画的な通常運行でした。
らうちん&カリーナは同僚でライバルでしかも夫婦というコンビなのだが、それって正直アリなのか?ただ、夫婦仲はあまりよろしくないのと、ニックさんを追ってオーストラリアに行くのがカリーナ、香港に残って調査するのがらうちんなので、こういう立ち位置はイマ的かもしれないなあ。
リーガル&エコノミーサスペンスなので、専門用語(それでも易しめ?)が多くてなかなか難しいけど、盗聴犯シリーズも追っていたのはマネーロンダリングやインサイダー取引なので、その辺を思い出しながら観ていた。でもクライマックスの展開は分からなくもないと思ったが、オチはそれでいいのか!と驚愕。…製作に中国の会社が入っていたので、こういう風にしないといけないのか、と少し思った次第。
キャストは前述の3人のほか、ICACの捜査責任者に安定のアレックス・フォン、らうちんの部下にカルロス・チャン、大企業から収賄を受けた政府官僚にアニタ・ユンなど。珍しく偉い役のユンれんれんは何となくキョンキョンっぽい(もちろんフィリップじゃなくて小泉さんの方ね)雰囲気をまとっていたんだが、そう思えたのは多分自分だけだろうな。

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《歐洲攻略》
トニー・レオン&ジングル・マーによるアジアのジェームズ・ボンドものまさかの13年ぶりの第3弾…なのだが、中国資本が入って製作はなんと澤東公司のレーベルBlock2(多分トニーが契約していた最後の作品)、おまけに林貴仁の名前は林在風と変更されて、実質的にはリブートものだった。
共演はクリス・ウーと唐嫣,杜鵑(擺渡人でのトニーの元恋人役)と全体的に中国寄り。林が10年前にミッションで救った華人数学者(ジョージ・ラム)が遺したプログラムを巡って、彼の遺児とCIAが対立するといった展開だったけど、なんとなくとっちらかっていてイマイチのめり込めず。林とスパイの王朝英(唐嫣)のラブロマンスは必要だったか?
でも今回はトニーズエンジェルならぬトニーズギャランツといった感じで、元秋さんを初めとしたおっちゃんおばちゃんの四大名手がいい味出していたので、そこはよかった。まあでもねえ、今さらそれをやるのか?って感じはしました。すでに設定からして香港は全然関係ないってのももちろんあるのだけど。

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《大師兄》
ド兄さんがめちゃくちゃ強いミドルスクールの先生になって、問題児揃いの生徒たちと触れ合っていく話。
学校が廃校の危機にあったり、ド兄さん演じる陳先生の過去が壮絶だったり、武闘家の悪だくみがあったりとあれこれ盛り込んでお腹いっぱい。
アクションは谷垣さんで、学校ならではのロケーションを生かした殺陣が面白かった。
谷垣さんといえば、東京ロケも敢行して監督も務めたド兄さん主演作品《肥龍過江》が今年の夏頃に香港で公開されますが、この作品とセットで日本公開されないかしらと思っております。まあその前に『イップ・マン4』が日本公開されるので、お楽しみはこれからなんですけどね。

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ふたたび、香港映画は死なない。

各国の映画賞レースでも一番遅い開催となる香港電影金像奬。
今年は4月16日に第38回の授賞式が開催され、『インファナル・アフェア』三部作の脚本家として知られるフェリックス・チョン監督、チョウ・ユンファ&アーロン・クォック主演の《無雙》(TIFF上映題『プロジェクト・グーテンベルク』以下グーテンベルク)が最優秀作品賞を始め、監督賞など7冠に輝きました。受賞結果等の詳細はアジアンパラダイスさんのblogをご参照ください。

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グーテンベルクは来年、新宿武蔵野館での日本公開決定。改めて邦題もつけ直されるようです。
上映時には今回の受賞結果が宣伝に使われるのでしょう。

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今年の大阪アジアン映画祭で観客賞を受賞し、現在香港で上映中の『みじめな人』はアンソニー・ウォンの主演男優賞、クリセル・コンサンジの新人俳優賞、オリヴァー・チャンの新人監督賞と3部門受賞。
これは観られなかったので、日本公開希望。

今年の授賞式は、意外にも追悼コーナーから開幕。金庸、レイモンド・チョウ、リンゴ・ラム、西城秀樹(!いや出演作ありますしね)などこの1年に亡くなった映画人を振り返ってから、登場したのはベイビージョン・チョイ始め、『レイジー・ヘイジー・クレイジー』のフィッシュ・リウやアシーナ・クォック、『G殺』のハンナ・チャンなど、ここ数年で登場した香港映画を彩る新世代俳優たち。今年は彼らが司会を務めるという面白い構成でした。プレゼンターも、今年のテーマ「Keep Rolling」の発想の元となった日本の大ヒット作『カメラを止めるな!』の主演俳優コンビ、返還直後の香港映画界を支えたニコラス・ツェー&スティーブン・フォン&ダニエル・ウー&サム・リーのジェネックスコップ4人組、錢嘉樂&小豪兄弟、そしてアンディ・ラウ&ソン・ヘギョfrom韓国など、賑やかな面々でした。

今年のノミネートの特徴は、新人監督による香港ローカルの作品が多数ノミネートされていたこと。グーテンベルクやダンテ・ラムの『オペレーション・レッド・シー』は中国資本の入った合作ですが、障害を負い車椅子生活となった男性と彼を介護するフィリピン出身の家政婦の友情を描いた『みじめな人』、生首だけの娼婦の怪死体の発見から始まる奇妙で過激な青春ドラマの『G殺』(チャップマン・トー&ハンナ・チャン主演)リストラの危機にさらされた中年男子たちが端午節のドラゴンボートレースに人生を賭けるン・ジャンユー主演の《逆流大叔》、TIFFで上映された、男として人生を生きてきた中年トランス女性の目覚めを描く『トレイシー』(フィリップ・キョン主演、音楽は21年ぶりの香港映画参加となる『あまちゃん』『いだてん』の大友良英さん!)など、新人監督による作品が目立ちました。
(トレイシー・G殺・逆流は鑑賞済みなので、別記事で簡単な感想をUPします)
近年の金像奬の流れとして、新人監督の手がける香港ローカルの映画への高い評価があり、特に今年は新人監督の当たり年のようにも感じたので、これらの作品が多く獲ってくるのではないかと思われたのですが、結果としてみじめな人が先に書いた3部門、逆流が中堅バンドのRubberBandによる主題歌とサントラの2部門、そしてトレイシーが両助演賞(カラ・ワイ&ベン・ユエン)の2部門受賞にとどまりました。

タイムラインがざわつき始めたのは、グーテンベルクの各部門での受賞が重なり始めた頃。
日本ではすでにTIFFで上映されており、映画祭で観たファンも多かったようですが、受賞に値するほどの作品か?的なコメントを見かけるようになりました。『インファナル・アフェア』の大ヒットから監督に転身し、この10年で盗聴犯シリーズや『サイレント・ウォー』などを監督してきた(最新作は製作を手がけた《廉政風雲 煙幕》)フェリックスさんは意外にも監督としては初受賞だったのですが、製作には大陸のBONAが入った港中合作であり、ここしばらくの香港で評価された作品から比べると、明らかに大作であったので、先に上げたようなコメントが多かったのかもしれません。
私は昨年のTIFFで観られなかったので、香港でBDを購入してきました。あまり偏見を持ちたくないので、しばらく時間をおいてから鑑賞して、判断したいです。
昨年のこのnoteの記事でも書いたのですが、『十年』(16年)『大樹は風を招く』(17年)の作品賞受賞が中国大陸で報道されなかったのは、いずれも香港人監督がローカルなテーマで取り上げられ、しかも前者が雨傘運動を受けて生まれた大陸批判も込められた作品だったからでした。でもその頃から、意欲的なテーマを取り上げた新人監督の力作も増えてきましたし、これまでショーン・ユー以降の世代がなかなか出てこなかった(特に女優は大陸や台湾出身者がヒロインを務めることも多かった)俳優たちも、べビジョンや『29歳問題』のクリッシー・チャウ、『空手道』のステフィー・タンに逆流始め今年は複数の作品と賞でノミネートされたジェニファー・ユーなど、次世代の俳優たちが頭角を現してきました。
(今年の主演女優賞は中国出身のクロエ・マーヤンでしたが、主演作の『三人の夫』はニンフォマニアックな女性の性的な受難と彼女を愛して共に生きる三人の「夫」の姿が香港の過去から未来を象徴するようにも見えるフルーツ・チャンの会心作で、18キロの増量で大地の女神を思わせるような娼婦を演じて過酷なセックスシーンに取り組んだクロエの女優根性には、境界を超えて感服するしかなかったです)
このようにフルーツさんの新作も含めて、今年はローカルで香港ならではのテーマが多く目立ち、それが香港っ子や我々のような映画ファンにも支持されたのですが、その中でグーテンベルクが最多受賞したのはなぜだろうか?と授賞式の翌日からあれこれ考えました。

ウィキペディア日本語版に受賞作一覧があったので、ここしばらくの作品賞を眺めていると、「香港電影結束」と大陸ネットメディアに言われたのが『ウォーロード』(08年)の頃。ここ10年は『グランド・マスター』(14年)や『黄金時代』(15年)のような大陸を舞台にした大作も多い一方、『燃えよ!じじぃドラゴン』(11年)や『桃さんのしあわせ』(12年)など、香港を主な舞台となる佳作が作品賞を受賞していました。監督賞はツイ・ハークやアン・ホイ等ベテランが多く受賞していますが、新人や若手も賞を獲るようになり『コールド・ウォー』が作品賞を受賞した13年にはこの作品を初めて手がけた監督コンビ(と言っても映画現場ではベテランのスタッフですが)も受賞し、『大樹』の時も『十年』を手かげたジェヴォンズ・アウも含んだ監督トリオも受賞しています。

こういう流れを見ると、香港映画は十年代の初めから様々な試みをしており、15年以降は若手の作り手を集めた特集上映や政府のバックアップを得て商業作デビューを果たした監督たちが、それぞれ結果を出してきたのが今回のノミネートに現れたのではないかと考えます。その中で、2000年代からの香港映画の流れを脚本などで主流となって支えたインファナル・アフェアチームの功績を讃え、返還からの20年での大きな変化に一区切りをつけるための、グーテンベルクの受賞だったのではないか、と思えるようになりました。
作品賞の授与でBONA側のプロデューサーの普通話の長いスピーチを聞いて、「あーこれってもしかして大陸側への忖度?」などと最初は思ったのですが、「謝謝香港電影」と何度も繰り返した姿や、フェリックスさん自身がずっと香港を拠点にしてきたことを考えると、たとえ合作であって中国大陸で受け入れられたにしても、この作品はやはり香港映画であり、大陸でもその恩恵を受けてそれに報いるべく製作に情熱を注いだ映画人がいるのだから、一概に批判的に観てしまってはいけないのだろうと反省しました。
「香港映画結束」から10年。この間様々な出来事があっても、香港映画は規模こそ大きくはないものの、新しい世代が登場し、語られるテーマも多様化しました。これらの作品や若いスタッフやキャストがそのまま世界で評価されるのには、まだまだ時間はかかるかもしれません。プレゼンターのカメ止め俳優コンビが「香港映画といえば、ジャッキー・チェン?」と香港人にとってはもう遺跡みたいなもので、30年くらい変わらずに聞かされてきたことを言っていたけど、そんな認識を一気に払拭させる力作が登場することを期待します。
社会制度の変化で不満や意義も増え、古いものがなくなりつつあり、2047年はどんどん近づいてくるけど、そうであっても香港映画は死なない。それを希望と思って、これからも新作を楽しみにします。

ところで10年代前半は金像奬の中継もなぜか大陸のネットメディア経由で発信されていました。当時は回線も重く、RTHKのネットラジオ中継も併用しながら苦労して受賞結果を得た記憶もあります。しかし『十年』のノミネートに大陸メディアが反発し、中継媒体が変わって全世界対象の最新アプリ(opensky)が導入されて見やすくなって、本当にありがたいです。アジア・フィルム・アワードも同じアプリで配信されたし、日本の映画祭のコンペティションや授賞式もopenskyなどを利用して世界発信してもいいんじゃないかって思うんだけどねー。

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霊幻道士 こちらキョンシー退治局(2017/香港)

最近、twitterでこんな気になるやり取りを見かけた。

田中泰延氏古賀史健氏は共にフォロワーも多く、インフルエンサーでもあるお二方。
特に田中氏は映画コラムの連載も持っているので、映画に造詣が深いのもわかる。
…でもさ、正直いってがっかりしちゃった、このやり取りは。
確かに映画でも旅行でも返還以前で時が止まっている人が世の中にあまりにも多すぎて、返還直後から香港に通い、全てではないけど90年代の黄金期晩期からの香港映画を観てきた身としては、それだけを言われることにムズムズしてくる。ましてやノワールとか言われても、それは何を指すの?インファ?トーさん?とツッコミたくなるし。そして取りこぼされる王家衛。
ああ、書いてて虚しいけど、オタクだからそういうところには過敏に反応しちゃいますね。悪い癖です。すんません。

そんな往年の香港コメディ映画が懐かしい、田中さんと古賀さんにもぜひ観てほしい最新作の感想を書いちゃいますよ。

 



予告はこちらから。

この春の香港旅行は、珍しく香港国際電影節の開催前という谷間のシーズンで、興味を引く映画が少なく、あと1日帰国を遅らせたら、ショーンとエリックとっつぁんの社会派映画《一念無明》が観られたのにとガッカリしてた。でもその中でヒットしていたのがこの映画。
おっ、主演は最近名前と顔をよく見かける香港映画の新たなるスター、ベイビージョン・チョイ(以下べビジョン)じゃないか!そして共演にはずいぶんお久しぶりの錢小豪!久しぶりじゃないけどリチャード・ン!そして安心のゴッドマザー、スーザン姐!…で、これ何なの?キョンシーもの?

お気づきかと思われますが、実はワタクシは、霊幻道士と幽幻道士を全スルーしたまま、ここまできた中華電影迷なのであります。ちなみにジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』もこの秋やっと初めて観ました>あまり関係ないか
中国の古代伝承や志怪小説からヒントを得たキョンシーものは、Wikipediaによると1980年前後から映画に取り上げられており、香港映画黄金期の85年に公開された『霊幻道士』がその決定版となり、台湾映画の『幽幻道士』やアイドルものの『ハッピー・キョンシー』など多くの作品が生まれた。近年では、ジュノ・マックがやはりシウホウ主演で撮った「リゴル・モルティス 死後硬直(一般公開題・キョンシー)」という、コメディ要素抜きのがっつり怖そうなオマージュ作もある、とまとめておこう。

そんないちいち調べないとキョンシーものを語れないくらいのヘタレ香港映画好きのワタシが、果たしてこれを楽しめるか否か?と心配して劇場に入ったのだが…大丈夫でした、楽しめました(^O^)

香港開闢以来、この地には常にキョンシーが跋扈していた。そのため密かにキョンシーに対抗し、発見次第駆除する秘密捜査処理班を当時の行政が設立した。それはイギリス統治と中国への返還を経た現在も続き、香港市民の安全は彼らによって保たれていた。現在の部署名は、食環處秘密行動組。英語名はVampire Cleanup Depertment、略してVCD。
これはべビジョン演じるオタク青年の張春天が、ある夜VCDとキョンシーの格闘に巻き込まれてしまったことから始まり、キョンシーと戦う宿命を背負った彼がVCDの新人メンバーとして昼は街の清掃、夜はキョンシー退治に勤しみ、これまた宿命的な恋に落ちてしまうといういろいろとてんこ盛りな物語である…。

…と物語を説明すると、よくある話ではあるんだけど、これがまたとっても楽しい。
オリジナルの道士役・林正英は既に亡くなっているけど、シリーズ出演者であるシウホウ&リチャードさんがしっかり脇を固めているので、世界観的には間違いはないんだろう。特にシウホウはさすが!と嘆息するアクションの切れ味。キャリアを重ねてもキレキレだったので、これは若い頃の作品も観なきゃかな、と。
それでも現在進行系の香港映画好きとしてはやっぱりべビジョンに注目してしまう。今年で31歳だというのに、かわいらしい英語名とそれにふさわしいベイビーフェイス、香港演藝学院を卒業後、しばらく演劇をやっていたという地元人的にはいいキャリア、日本公開作では『ドラゴン×マッハ!』や葉問3にも出演し、主役も脇役もこなす器用さ、そして既婚者!はいそこでガッカリしないように。もちろん、アクションだって難なくこなしますよ。

日本では早くも今年の夏のカリコレで上映され、出演者が重複することから「霊幻道士」シリーズ最新作と銘打たれてしまったけど、もちろんつながりはない。ユーモラス感はもちろんあるけど、春天の両親の悲劇や彼と美少女キョンシー小夏との恋、そしてどちらかといえばグロ指向のラスボスキョンシーとの闘いなどの現代的アレンジは、オールドファンにはどう観られたのか気になるところ。

劇場公開は特集上映のみで終わってしまい、地方上映もないままソフト化されてしまったのは残念だけど、これからはCSの映画専門チャンネル等で放映されるし、youtubeムービーでレンタル視聴もできるようなので、多くの方にご覧いただければ幸いです。

田中さ~ん、古賀さ~ん、もし未見だったらぜひ是非これ観てくださいねー。
今の香港映画は決してノワールばっかりじゃないんですよー!>届くことはないとわかっているけど、このサイバー空間の片隅から一応叫んでみる

原題&英題:救殭清道夫(Vampire Cleanup Depertment)
監督:ヤン・パクウィン&チウ・シンハン
出演:ベイビージョン・チョイ チン・シウホウ リチャード・ン リン・ミンチェン ロー・ベン ボンディ・チウ ユエン・チョンヤン エリック・ツァン スーザン・ショウ

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イップ・マン 継承(2015/香港・中国)

昨年の『ローグ・ワン』と今年初めに公開された『トリプルX:再起動』という2本のハリウッド大作に次々と出演し、香港映画ファン以外にも知られるようになってきたんじゃないかと思われる我らが宇宙最強ド兄さんことドニー・イェン。
ただ、ハリウッドに出てくれたことで説明しやすくなったのはありがたいが、主演作が地方までくることは少なく、本当に悩ましいのもまた事実。現にこっちには『捜査官X』以降の主演作は全く来ていない。ファンの中には「映画館にきても入らないから、ソフトや配信で観る」などと思っている人もいるかもしれない(そんな人いないと信じたい)が、そう思うのは本当にもったいない。と、ド兄さんの出世作となったシリーズの最新作『イップ・マン 継承』を観て思ったのであった。

日中戦争を背景に、故郷の佛山を占領した日本兵との対立を中心においた2008年の『イップ・マン 序章』、戦後移住した香港で功夫の先達から認められ、彼らを見下す英国人ファイターに挑んだ2010年の『イップ・マン 葉問』から5年が経って登場した第3作。この間にはもともと企画が先行していたものの、例によっての王家衛だから完成まで13年かかった『グランド・マスター(以下一代宗師)』もやっと公開された。この他には、デニス・トー主演でハーマン・ヤウ監督の『イップ・マン 誕生』、同じくハーマンさん監督で秋生さん主演の『イップ・マン 最終章』も作られているけど、すみませんこの2本は未見です。



1作目は金像奨で作品賞も獲り、ド兄さんの熱演で映画界における葉問ブームが湧き上がったのが(ただし一代宗師は除く)もう10年近く前になるのにびっくりしているが、以前の感想にも書いているけど、実は諸手を挙げて評価しているわけじゃないんだよね、前2作は。大陸を向き始めた頃ってのもあってか、敵を中国以外の者に設定してイデオロギーやや高めな感じになってるのが引っかかった。そのあたり数年の時代ものアクション映画になぜか抗日的要素が入ってしまっていたのは、谷垣健治さんも著書で触れられていましたっけね。

今回の舞台は1950年代の香港。ド兄さん演じる葉師傳もすっかり香港の生活に馴染み、次男の葉正もやんちゃな小学生へと成長。貿易港湾都市として好景気に沸く香港での問題は地上げであり、葉正の通う小学校が標的にされることから、物語は不穏な方向へ動き出す。
この事件から出会うのは葉正の同級生の父親で、車夫をしている詠春拳使いの張天志(張晉)。向上心に燃える張天志は、いつかは葉問のように香港の武林に認められることを望んでいる。しかし生活のために闇の格闘技試合に出場し、上昇志向が強いために、やがて葉問と対立することになる。



戦時中→対戦直後→50年代香港と時代を移し、その時々の状況に応じた好敵手が要問の前に現れ、彼と拳を合わせる。先に書いたように、全2作の敵はいずれも香港(というか中国)の外からの敵であったのだが、今回は同じ香港居民であり詠春の使い手であるというところが特徴的である。それをベースにして語られる物語は、果たして強いだけでいいのかという基本中の基本でもあるのだが、対抗する張天志の事情もよく分かるだけあって、ちょっとしたボタンの掛け違いのようなすれ違いで葉問を越える野望を露わにしてしまったのは切ない。演じる張晉もまた良いキャラだからなおさらそう感じた。

しかし今回の葉問しーふーの、まあなんとエレガントなこと。
それはド兄さんが重ねたキャリアと年齢が活かされているのは言うまでもないのだけど、品格があって愛妻家で息子思いで人を尊んでご近所のマダームにもモテモテでなんとまあ隙がない。あまり品行方正なのもどうかと思うけど、まあしーふーだからそれはそれでいいか(笑)。冒頭で登場する、陳國坤演じる生意気なあの青年(とだけ言っておこう)との痛快なやりとりなどは、まさにしーふーとしての品格からなるものであったしね。
香港の武林界でもリスペクトをもらった彼が語るのは、守るための詠春という考えを受けての、未来の世代にそれを受け継ぐという決意がこめられていたこと。
こういうのがあるから、ワタシはこの映画に好感が持てたし、邦題もうまかったよなって思うのであった。



史実では、葉問の妻永成は彼が香港に渡っても佛山に残り、そこで一生を終えたというのであるが(だから一代宗師ではそのへんは忠実である)、ここでは彼女も一緒に香港で暮らしているという設定になっている。この永成(熊黛林)と葉問との愛もシリーズの見どころであるのだけど、今回は永成が胃ガンにより余命わずかとなったことも物語に絡んでくる。佛山の苦難の時代からずっと葉問のそばにいて、彼が危機を冒して戦う姿をずっと見てきただけあるので、病を抱えながらも、小学校をめぐるいざこざや、「詠春正宗」を名乗ってはなんとか戦いの場に引っ張り出そうとする張天志に向かう葉問を大いに心配する。だけど夫である彼も彼女の気持ちは痛いほどわかっているので、最期の時を一緒に過ごそうとする。フィクションではあるけど、こういうエピソードもバトルと並べても浮いてはいないのだから、今回はとても良くバランスの取れた構成だった。
製作発表当初はマイク・タイソンの特別出演で話題になったけど、これも物語から浮かずに処理できたのもよかったしね(まあ、タイソン自身のルックに「そういう顔にタトゥー入れたイギリス人不動産屋さんはさすがにおらんだろ?」という気にはなったが、映画だから気にするな)

そして最後にこれだけはいいたい。
今こそこのシリーズはド兄さんの代表作となり、この3作目はシリーズでも最高傑作となった。でもだからといって、一部にある「ド兄さんの葉問こそ唯一」という意見には納得できないし、返す刀で一代宗師を批判されたくない。むしろしたら倒してやる、と逆上する。
それはここでも書いてきたように、一代宗師が先行しているわけだし、どちらも同じ葉問であっても、アプローチも違えば演技も違う。だからこそ、アクションや娯楽性だけで同じまな板に乗せて論じることは意味がない。同じ映画としてエールを送り合っているようにも見えるから、比べることなどできないのだ。そこを心得ないといけないと思う。

原題:葉問3(Ip Man3)
監督:ウィルソン・イップ 製作:レイモンド・ウォン 脚本:エドモンド・ウォン 撮影:ケニー・ツェー アクション指導:ユエン・ウーピン 音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン リン・ホン マックス・チャン パトリック・タム ベイビージョン・チョイ チャン・クォックワン マイク・タイソン ケント・チェン

注:youtubeの仕様が変わり、縮小できないまま予告を貼ってしまいましたが、画面上のタイトルをクリックorタップすれば該当ページが開きますので、そちらでご覧下さい。

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《擺渡人》(2016/中国・香港)

 今年の米国のアカデミー賞は作品賞の取り違えばかりが話題になったけど、その賞に選ばれた『ムーンライト』は、ゲイの黒人青年の成長を描いていて、同性愛者が主人公の作品として史上初めての受賞作だという。それと同じくらい話題にしていいと思ったのは、監督のバリー・ジェンキンスが王家衛の影響を受けているとはっきり公言していること。SNSでムーンライトの各場面と王家衛作品の比較動画が回っていて、いやいやいくらなんでもそれはこじつけすぎでしょ?と疑ってかかったのだけど、次の動画を見たらジェンキンスさんがガチで王家衛好きだったってことがわかって見直した次第(こらこら)。


 ああ、今や王家衛チルドレンは中華圏やアジアだけでなく、米国でも生まれているのか…と妙に感慨深くなってないで本題に行くが、その王家衛が率いる澤東電影公司も昨年で創立25周年を迎えたとのこと。自らの作品の製作を中心に、若手映画人への映画製作のサポート(張震監督×五月天石頭主演の短編《三生-尺蠖》も製作)、トニーや張震、台湾のアリス・クーやサンドリーナ・ピンナのマネージメント等も行って確実に仕事しているのを感じるのだが、その創立25周年記念として作られたのが、トニーの3年ぶりの主演作となる《擺渡人》。中国の作家張嘉佳による同名短編小説を原作者自らがメガホンを取ったもの。ちなみに原作はもともとネット小説だったそうだけど、現在は短編集『從你的全世界路過』に収録されて読めるらしい。気がついたら台湾で買っておけばよかったかな。


 舞台は上海あたりにあるバー「擺渡人」。経営者の陳末(トニー)は自らを擺渡人(フェリーマン)と名乗り、困っている人を助けるために奔走している。彼がこの商売を始めたのは10年前に出会ったバーテンダーの何木子(杜鵑)と出会って恋に落ちた後、ある事件で心を病んでしまったことがきっかけ。
 パートナーの菅春(金城くん)は、幼馴染の毛毛(サンドリーナ)に恋をしているが、老舗の焼餅屋を引き継いだ彼女は管春のことを全く覚えておらず、しかも名物だった焼餅はものすごく評判が悪く、店も危機を迎えていた。管春は彼女に振り向いてもらえるべく奮闘する。
 新しく擺渡人で働き始めた小玉(angelababy)は、幼いころに出会った馬力(ルハン)に恋をしていたが、現在の馬力(イーソン)は国際的な歌手となり、婚約者の江潔(リン・ホン)もいた。しかしある夜、擺渡人で彼はトラブルを起こし、江潔とも別れて再起不能にまで陥る。小玉は彼を自分の家に連れて帰り、復帰を手助けすべく擺渡人となることを決意する。

 …と、このような3つの物語をベースにして、山雞(サム)と十三妹(クリス・リー)というどっかで聞いたことのある名前の古惑仔兄妹が登場したり、懐かしのアーケードゲームが出てきたり、9つのバーをはしごして、提供されるお酒を飲み歩いて勝負するバー・ゴルフなんてものが行われてしっちゃかめっちゃかの大騒ぎ。まるで往年の香港映画のようなカオスなノリが全編を覆う。音楽も実に雑多で、無間道なあの曲から、なんでそこでこんな日本語曲が(ダイレクトな世代ならきっと爆笑なんだろうが、あいにくね)!まであれこれ。こういうカオスさの一方、陳末と何木子の失われた恋模様や全てを忘れた毛毛のために自らを犠牲にしてまで恋心を思い出させようとする管春のひたむきさは、確かに王家衛的モチーフでもあるし、遠回しに見れば村上春樹的であって、この原作者がいかにハルキ&王家衛チルドレンであるかというのは推測できるところである。
 …ただ、聞いた話だと、原作は全然全くこれっぽっちもコメディじゃなく、もっと切ない恋愛ものらしいようなのだが、なんでこうなった。

 封切当初は大ヒットだったものの、後から公開された星仔&徐克コンビの《西遊》に追いぬかれたり、大陸では酷評、香港でも旧正月映画の始まりと同時に終了したと聞く。(そういえば大陸ではトニーの声が北京語吹替と聞いてもしや台湾でも?と心配したが、トニーやベイビー、イーソンなどの広東語スピーカーはそのままだったのでホッとした)3年ぶりの王家衛製作作品、トニーも3年ぶりの主演、共演も金城くんやイーソン、脇にサムと香港度は確かに高いし、セルフパロディ的なモチーフだったり往年の香港映画にリスペクトを捧げているのがよくわかるし、これまで25年間澤東作品や90年代の香港映画を愛してきた我々にはご褒美のような作品であることは確かである。
 でも、それならいくら中国大陸で作ったとはいえ、香港を舞台にすべきじゃなかったのかなあ。それが実現できていたら、もうちょっとポイントは高かったかもよ、原作者さん。初監督&大物スタッフ&キャストでちょっとはしゃぎ過ぎてる感も多少覚えた。

 そんな作品でもトニーは楽しそうだし(まあ、王家衛に付き合うと長年かかるからね)、金城くんも笑かせてくれるし、イーソンもいい具合に演技派歌手っぷりを見せてくれるから、その点においてはちょっと甘く見ちゃう。女子だとベイビーよりサンドリーナがいいな、やっぱし。ちょっと出の皆さんも結構豪華で、特に台湾方面の大物も出ていて面白んだけど、アリスが出ていたのは気づかなかったよー。

 もしかしたら、こういう90年代的ノリの映画ももう中華圏では時代遅れなのかもしれない。先ほども書いたけど、もしこの映画の舞台が香港だったら、やはり多少は変わったのだろうか?香港映画も変わりつつあり、中華圏の映画に関わり続けている澤東もその傾向はよく気づいているだろうけど、今後この会社がどうなっていくのかということも気になるなあ。台湾でのプロデュースももちろん、もうちょっと香港でもやってくれてもいいのよー、などと勝手な希望を書いて感想は以上とします。

英題:See you tomorrow
製作:ウォン・カーウァイ ジャッキー・パン 監督&原作&脚本:チャン・ジャージャー 撮影:ピーター・パウ 編集:デビッド・ウー 衣裳:ウィリアム・チャン 音楽:ナサニエル・メカリー アクション指導:谷垣健治
出演:トニー・レオン 金城武 Angelababy イーソン・チャン サンドリーナ・ピンナ リン・ホン トウ・ジュエン ルハン クリス・リー サム・リー ジン・シージエ キン・ジェウェン アリス・クー 

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2016funkin'for HONGKONG的十大電影

恭喜發財 萬事如意!
というわけで、まずはお約束のこれを。
去年のヴァージョンなのは、去年の記事に載せ忘れたので…というよりも、事故に遭ったアンディ先生の快復を心から願っております。


 さて、昨年は中華電影を15本しか観てなかったのでした。うち地元鑑賞は昨年2位に選んだ刺客を含めてたったの4本、そのうち中国映画『見えない目撃者』を見逃しました。当然香港映画は昨年にひき続いて上映なし(成龍作品はすでに中国映画ですしね)はあ…。
 だから選ぶのは楽でしたね、というか、必然的に映画祭作品が上位に来るのは致し方無いですね。てなわけで、今年は久々に1位からご紹介しますよ。

1 侠女(デジタル修復版)

 ああすみませんすみません、今回クラシック作品を初めて1位にしちゃいました。もうこの本数だからしょうがないと思って下さい。これ観たおかげでるろけん観ても守り人観ても、「あーこれ侠女リスペクトじゃん!」という日々を送っています。それくらい重要です、はい。

2 大樹は風を招く

 昨年つくづく残念だったのは、香港で話題を呼んだ問題作《十年》を観る機会に恵まれなかったこと。一般公開があるとしてもあの映画をあまり政治的に捉えてほしくないなーと思っているんだけど、その《十年》のいい影響を受けていて、まさに今の時代だからこそ返還時を客観的に観ることができるとも言えた映画でした。

3 シェッド・スキン・パパ

 めでたく今年4月の香港公開が決まって何より。演劇と映画とジャンユーと古天楽の幸せな出会いが、香港のポップカルチャーに繁栄をもたらしますように。

4 ゴッドスピード

 サイト「銀幕閑話」では見事昨年のアジア映画第1位に選出。マイケル・ホイさんの好演もあいまって、ユーモアと過激さが共存するなんとも言えない不思議な味わいのロードムービーは、やはりインパクト大きかった。

5 山河ノスタルジア

 ジャンクーが初めて描いた愛についての物語。利便性や欲望を求める人々も、愛には心を掴まれているといった具合だけど、それに希望を託すのも悪くない。

6 メコン大作戦

 次回作もポンちゃん主演のオペレーションものになるという話。ますます過酷なシチュエーションを設定する鬼ダンテっぷりが加速するんでしょうねー。ああそれもまた楽しみである。

7 タイペイ・ストーリー

 やっとヤンちゃん再評価の時がきた。もうこの世にいらっしゃらないのが切ないけど、おかげで噂だけ聞いていて観られなかった作品がやっと観られる。ホウちゃん、かわいかったよなあ。

8 台湾新電影時代 

 ホウちゃんやヤンちゃんの旧作がリマスタリングされていま観られるのも、台湾ニューシネマの再評価があってこそなのだろう。映画が消費されてきている今だからこそ、アジア映画史の重要な位置にある映画たちは、日本の古い邦画と同じように観られる頻度が上がってくれたらいい。

9 私の少女時代

 近年の若者向けの壁ドン系邦画がどうも苦手で、お願いだからこういうのばっかで選択の幅を狭めないでーって思っているんだが、あの頃とかこれのような、中高生以上も楽しめるちょっと時代設定の古い青春映画がもっと増えてくれてもいいんだけどね。

10 最愛の子

 このところアクションものが多かったピーターさんが、久々に人間ドラマに戻ってきた。もともと国境を股にかけて活躍してきた人だけど、今後中国で活動するのなら、あまりドメスティックにならないで、過去作品のような洗練されたものが観たいかなと思う。勝手な意見ですが。

次は個人賞ですよ。いつものごとく、賞に決まっても特に何も与えられませんが。

主演俳優賞:ン・ジャンユー(シェッド・スキン・パパ)マイケル・ホイ(ゴッドスピード)
ジャンユーは久々に香港映画での主演と、何役も演じ分ける無双っぷりが楽しかった。ホイさんも久々の主演、そしてユーモアとペーソスをたたえた安心感が面白かったので両雄受賞。

主演女優賞:チャオ・タオ(山河ノスタルジア)
いつも幸薄い印象の涛さんだけど、今回が一番役としては幸せに見えた感がある。おばちゃんの役も演じたけど、まだそこそこ若いんだよね。ジャンクーとお幸せに。

助演男優賞:レオン・ダイ(ゴッドスピード)
踏んだり蹴ったりだったというか、まさに「ままならない人生」を体現したような雰囲気が面白かった。そういえばまだ監督作を観たことないので、いつかその機会に恵まれますように。

助演女優賞:シルヴィア・チャン(山河ノスタルジア)
孫ほどの年齢の少年も恋に落ちる程の魅力とは!美魔女とかアンチエイジングなどを超えて、こういう60代を目指したいものです。

新人監督賞:ロイ・シートウ(シェッド・スキン・パパ)
あの『夜半歌聲』のキモいボンボンが、今や香港演劇界の大御所とは…(微笑)。役者としてはまだまだスクリーンで観る機会があるけど(パンちゃん最新作《春嬌救志明》にも端役で出るみたいだし)、また監督作も近いうちに。

最優秀アクション賞:シュー・フェン(侠女)
本当は最優秀女優賞にしようかと思ったのだけど、今はプロデューサー専業だしなあ、というわけで(そんな理由でいいのか?)まさに歴史に残るあの鮮烈なアクションを体現した中華電影史の重要人物として、この特別賞を。

心から尊敬しますで賞:キン・フー(侠女)
20年近く中華電影迷やってきて、やっとこの歳になって侠女が観られたのは遅かったかも…とも思ったけど、香港のアキラ黒澤とも称される名匠の作品を大きなスクリーンで観られたのは本当にいい映画体験だったし、中華電影を好きで本当によかった。というわけで、敬意を込めての特別賞。

 自分の昨年の中華電影鑑賞の低調ぶりは、武蔵野館の改装や日記blogでも愚痴っているような事情があるにしろ、それでも旧作をTV放映やソフトでフォローできなかったので惜しかったよなーとも思います。仕事も忙しく、中華以外の映画もガンガン観ている中でも、今後もやっぱりどういう形ででもちゃんと観ていかなきゃならんなあ。
 そんなわけで、この旧正月で何作か録画を観たので、暇のあるときに感想をアップしていきますね。

 最後に、今後地元で観られる中華電影の話も。
この年明けに東京で大量の中華電影が公開され、なんでそんなにいっぺんに、とか、どうせこんな田舎には来ないんでしょ?とか相変わらずやさぐれていましたが、なんと『人魚姫』は3月に観られます。ありがとう中劇さん!
 後は、年末年始に観られなかった『湾生回家』が2月に、そして『牯嶺街少年殺人事件』が4月にルミエールで上映です。この機会に、多くの人達が中華電影に楽しみ、今後もいろんな作品が盛岡までやってきてくることを願うばかりです。

 では、今年も中華電影迷の皆様にとっても良い年でありますように…。

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大樹は風を招く(2016/香港)

 今年は本当に香港映画を観ていない。そもそも勉強してたのに広東語も聞けてない。なんとなくストレスが溜まってる感がある。そんなわけで、フィルメックスの閉会式で上映される『大樹は風を招く』は楽しみにしていた。

 この映画は11年前から香港で実施されている「鮮浪潮國際短片展」の歴代コンペで受賞した3人の監督を起用し、トーさんとヤウ・ナイホイさんのプロデュースによって撮られた作品。今年の金像奨では、最優秀脚本賞と編集賞を受賞。3人の監督のうち、ジェヴォンズ・アウ(歐文傑)さんは今年の金像奨作品賞受賞作《十年》の一編「方言」を監督。
 1997年、返還直前の香港を舞台に、実在した3人のギャング―季炳雄、葉繼歡、そして張子強をモデルにした、季正雄(カートン)、葉國歡(リッチー)、卓子強(小春)の運命を描いた作品。ユニークなのは、3人の監督がそれぞれ主人公3人のパートを演出していること。


 警官を射殺して大陸に逃亡したが、再び香港に戻っては小規模な犯罪に手を染めている季。強盗事件を起こした後にやはり大陸に逃げたものの、身分を隠して家電製品の密輸に携わる葉。彼らとは対照的に、誘拐と脅迫を繰り返しては派手に暴れている卓。香港と大陸とを行き来するも、出会うことはなかった3人だが、ある日どこからか「あの3人が協力して、何か香港でやらかすらしい」という噂が流れてくる。

 それぞれの事情を抱え、それぞれの思惑を抱いて動く3人。返還も控え、黒社会も落ち着かない。名を残す大物たちも、どこで生き残り、どこで躓くかわからない。主題歌として使われるのが、「時の過ぎゆくままに」の広東語カバー、《讓一切隨風》。香港では阿Bを始め、多くの歌手に歌われている名曲。


 トーさん製作で主人公たちが黒社会の大物とは言え、トーさん色が出ているところはキャスティングくらいだし(林雪もしっかり出てるしね!)、そのへんを期待した人には結構ハズレっぽく思われるかもしれない。現にワタシも劇場で「イマイチだった」という声を聞いたし。
でも、3人のパートをそれぞれ3人の監督が撮ったとはとても思えず、バランスが取れていた。寡黙だけど狂犬のような季、一見してギャングには思えない葉、とにかく派手でうるさい卓と、それぞれのパートを分けても無問題なんだろうけど、あえて分けなかったのだろう。
 3人のうち、一番面白かったのが葉のパートで、堅実に行くかと思いつつ結局腰をあげることになり、そこから香港に戻った時にあるハプニングが起きるわけだが、この時にすでに香港人の大陸へのある種の偏見が見えるようだったし、それがかつて香港を拠点にしていた葉の逆鱗に触れたのもわからなくはない。そして、このパートを演出していたのがジェヴォンズさんと聞いて、そう意図したのもなんとなく納得したものだった。(ネタバレ回避してかなりボカしてますが、まあだいたい想像つきやすいんじゃないかと思って)

 香港返還から来年で20年が経とうとしているが、やはり20年という歳月はいろいろとモノを変える。返還当時に渦巻いたいろいろな感情が今はどうなっているかはこれまた人それぞれだろうけど、政治的な面でここまで変わるとは思えなかった現在なら、返還の頃を振り返るとまたいろいろな感情が沸き起こるのだろう、と少し真面目に思ってしまったのだった。 

 とかなんとか言ってますけど、面白かったですよ。ユーモアも効いていたし、カートンもリッチーも小春も渋くてカッコええし、広東語もガンガン聞けて嬉しかったし。
 後はね、題名にある通り、風の使い方が印象的だった。屋上に干した洗濯物をゆっくり揺らしたり、人影が写ったりとよくある演出なんだけど、こういうベタさ(と言い切っていいのか?)がうまく効いているのがやっぱり映画だよなって思うからね。

原題&英題:樹大招風(Trivisa)
製作:ジョニー・トー&ヤウ・ナイホイ 監督:フランク・ホイ&ジェヴォンズ・アウ&ヴィッキー・ウォン
出演:ラム・カートン リッチー・レン チャン・シウチョン(ジョーダン・チャン) ラム・シュー フィリップ・キョン ユエ・ワー ヴィンセント・イン ン・チーホン ホン・ヤンヤン 

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