香港映画

《擺渡人》(2016/中国・香港)

 今年の米国のアカデミー賞は作品賞の取り違えばかりが話題になったけど、その賞に選ばれた『ムーンライト』は、ゲイの黒人青年の成長を描いていて、同性愛者が主人公の作品として史上初めての受賞作だという。それと同じくらい話題にしていいと思ったのは、監督のバリー・ジェンキンスが王家衛の影響を受けているとはっきり公言していること。SNSでムーンライトの各場面と王家衛作品の比較動画が回っていて、いやいやいくらなんでもそれはこじつけすぎでしょ?と疑ってかかったのだけど、次の動画を見たらジェンキンスさんがガチで王家衛好きだったってことがわかって見直した次第(こらこら)。


 ああ、今や王家衛チルドレンは中華圏やアジアだけでなく、米国でも生まれているのか…と妙に感慨深くなってないで本題に行くが、その王家衛が率いる澤東電影公司も昨年で創立25周年を迎えたとのこと。自らの作品の製作を中心に、若手映画人への映画製作のサポート(張震監督×五月天石頭主演の短編《三生-尺蠖》も製作)、トニーや張震、台湾のアリス・クーやサンドリーナ・ピンナのマネージメント等も行って確実に仕事しているのを感じるのだが、その創立25周年記念として作られたのが、トニーの3年ぶりの主演作となる《擺渡人》。中国の作家張嘉佳による同名短編小説を原作者自らがメガホンを取ったもの。ちなみに原作はもともとネット小説だったそうだけど、現在は短編集『從你的全世界路過』に収録されて読めるらしい。気がついたら台湾で買っておけばよかったかな。


 舞台は上海あたりにあるバー「擺渡人」。経営者の陳末(トニー)は自らを擺渡人(フェリーマン)と名乗り、困っている人を助けるために奔走している。彼がこの商売を始めたのは10年前に出会ったバーテンダーの何木子(杜鵑)と出会って恋に落ちた後、ある事件で心を病んでしまったことがきっかけ。
 パートナーの菅春(金城くん)は、幼馴染の毛毛(サンドリーナ)に恋をしているが、老舗の焼餅屋を引き継いだ彼女は管春のことを全く覚えておらず、しかも名物だった焼餅はものすごく評判が悪く、店も危機を迎えていた。管春は彼女に振り向いてもらえるべく奮闘する。
 新しく擺渡人で働き始めた小玉(angelababy)は、幼いころに出会った馬力(ルハン)に恋をしていたが、現在の馬力(イーソン)は国際的な歌手となり、婚約者の江潔(リン・ホン)もいた。しかしある夜、擺渡人で彼はトラブルを起こし、江潔とも別れて再起不能にまで陥る。小玉は彼を自分の家に連れて帰り、復帰を手助けすべく擺渡人となることを決意する。

 …と、このような3つの物語をベースにして、山雞(サム)と十三妹(クリス・リー)というどっかで聞いたことのある名前の古惑仔兄妹が登場したり、懐かしのアーケードゲームが出てきたり、9つのバーをはしごして、提供されるお酒を飲み歩いて勝負するバー・ゴルフなんてものが行われてしっちゃかめっちゃかの大騒ぎ。まるで往年の香港映画のようなカオスなノリが全編を覆う。音楽も実に雑多で、無間道なあの曲から、なんでそこでこんな日本語曲が(ダイレクトな世代ならきっと爆笑なんだろうが、あいにくね)!まであれこれ。こういうカオスさの一方、陳末と何木子の失われた恋模様や全てを忘れた毛毛のために自らを犠牲にしてまで恋心を思い出させようとする管春のひたむきさは、確かに王家衛的モチーフでもあるし、遠回しに見れば村上春樹的であって、この原作者がいかにハルキ&王家衛チルドレンであるかというのは推測できるところである。
 …ただ、聞いた話だと、原作は全然全くこれっぽっちもコメディじゃなく、もっと切ない恋愛ものらしいようなのだが、なんでこうなった。

 封切当初は大ヒットだったものの、後から公開された星仔&徐克コンビの《西遊》に追いぬかれたり、大陸では酷評、香港でも旧正月映画の始まりと同時に終了したと聞く。(そういえば大陸ではトニーの声が北京語吹替と聞いてもしや台湾でも?と心配したが、トニーやベイビー、イーソンなどの広東語スピーカーはそのままだったのでホッとした)3年ぶりの王家衛製作作品、トニーも3年ぶりの主演、共演も金城くんやイーソン、脇にサムと香港度は確かに高いし、セルフパロディ的なモチーフだったり往年の香港映画にリスペクトを捧げているのがよくわかるし、これまで25年間澤東作品や90年代の香港映画を愛してきた我々にはご褒美のような作品であることは確かである。
 でも、それならいくら中国大陸で作ったとはいえ、香港を舞台にすべきじゃなかったのかなあ。それが実現できていたら、もうちょっとポイントは高かったかもよ、原作者さん。初監督&大物スタッフ&キャストでちょっとはしゃぎ過ぎてる感も多少覚えた。

 そんな作品でもトニーは楽しそうだし(まあ、王家衛に付き合うと長年かかるからね)、金城くんも笑かせてくれるし、イーソンもいい具合に演技派歌手っぷりを見せてくれるから、その点においてはちょっと甘く見ちゃう。女子だとベイビーよりサンドリーナがいいな、やっぱし。ちょっと出の皆さんも結構豪華で、特に台湾方面の大物も出ていて面白んだけど、アリスが出ていたのは気づかなかったよー。

 もしかしたら、こういう90年代的ノリの映画ももう中華圏では時代遅れなのかもしれない。先ほども書いたけど、もしこの映画の舞台が香港だったら、やはり多少は変わったのだろうか?香港映画も変わりつつあり、中華圏の映画に関わり続けている澤東もその傾向はよく気づいているだろうけど、今後この会社がどうなっていくのかということも気になるなあ。台湾でのプロデュースももちろん、もうちょっと香港でもやってくれてもいいのよー、などと勝手な希望を書いて感想は以上とします。

英題:See you tomorrow
製作:ウォン・カーウァイ ジャッキー・パン 監督&原作&脚本:チャン・ジャージャー 撮影:ピーター・パウ 編集:デビッド・ウー 衣裳:ウィリアム・チャン 音楽:ナサニエル・メカリー アクション指導:谷垣健治
出演:トニー・レオン 金城武 Angelababy イーソン・チャン サンドリーナ・ピンナ リン・ホン トウ・ジュエン ルハン クリス・リー サム・リー ジン・シージエ キン・ジェウェン アリス・クー 

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2016funkin'for HONGKONG的十大電影

恭喜發財 萬事如意!
というわけで、まずはお約束のこれを。
去年のヴァージョンなのは、去年の記事に載せ忘れたので…というよりも、事故に遭ったアンディ先生の快復を心から願っております。


 さて、昨年は中華電影を15本しか観てなかったのでした。うち地元鑑賞は昨年2位に選んだ刺客を含めてたったの4本、そのうち中国映画『見えない目撃者』を見逃しました。当然香港映画は昨年にひき続いて上映なし(成龍作品はすでに中国映画ですしね)はあ…。
 だから選ぶのは楽でしたね、というか、必然的に映画祭作品が上位に来るのは致し方無いですね。てなわけで、今年は久々に1位からご紹介しますよ。

1 侠女(デジタル修復版)

 ああすみませんすみません、今回クラシック作品を初めて1位にしちゃいました。もうこの本数だからしょうがないと思って下さい。これ観たおかげでるろけん観ても守り人観ても、「あーこれ侠女リスペクトじゃん!」という日々を送っています。それくらい重要です、はい。

2 大樹は風を招く

 昨年つくづく残念だったのは、香港で話題を呼んだ問題作《十年》を観る機会に恵まれなかったこと。一般公開があるとしてもあの映画をあまり政治的に捉えてほしくないなーと思っているんだけど、その《十年》のいい影響を受けていて、まさに今の時代だからこそ返還時を客観的に観ることができるとも言えた映画でした。

3 シェッド・スキン・パパ

 めでたく今年4月の香港公開が決まって何より。演劇と映画とジャンユーと古天楽の幸せな出会いが、香港のポップカルチャーに繁栄をもたらしますように。

4 ゴッドスピード

 サイト「銀幕閑話」では見事昨年のアジア映画第1位に選出。マイケル・ホイさんの好演もあいまって、ユーモアと過激さが共存するなんとも言えない不思議な味わいのロードムービーは、やはりインパクト大きかった。

5 山河ノスタルジア

 ジャンクーが初めて描いた愛についての物語。利便性や欲望を求める人々も、愛には心を掴まれているといった具合だけど、それに希望を託すのも悪くない。

6 メコン大作戦

 次回作もポンちゃん主演のオペレーションものになるという話。ますます過酷なシチュエーションを設定する鬼ダンテっぷりが加速するんでしょうねー。ああそれもまた楽しみである。

7 タイペイ・ストーリー

 やっとヤンちゃん再評価の時がきた。もうこの世にいらっしゃらないのが切ないけど、おかげで噂だけ聞いていて観られなかった作品がやっと観られる。ホウちゃん、かわいかったよなあ。

8 台湾新電影時代 

 ホウちゃんやヤンちゃんの旧作がリマスタリングされていま観られるのも、台湾ニューシネマの再評価があってこそなのだろう。映画が消費されてきている今だからこそ、アジア映画史の重要な位置にある映画たちは、日本の古い邦画と同じように観られる頻度が上がってくれたらいい。

9 私の少女時代

 近年の若者向けの壁ドン系邦画がどうも苦手で、お願いだからこういうのばっかで選択の幅を狭めないでーって思っているんだが、あの頃とかこれのような、中高生以上も楽しめるちょっと時代設定の古い青春映画がもっと増えてくれてもいいんだけどね。

10 最愛の子

 このところアクションものが多かったピーターさんが、久々に人間ドラマに戻ってきた。もともと国境を股にかけて活躍してきた人だけど、今後中国で活動するのなら、あまりドメスティックにならないで、過去作品のような洗練されたものが観たいかなと思う。勝手な意見ですが。

次は個人賞ですよ。いつものごとく、賞に決まっても特に何も与えられませんが。

主演俳優賞:ン・ジャンユー(シェッド・スキン・パパ)マイケル・ホイ(ゴッドスピード)
ジャンユーは久々に香港映画での主演と、何役も演じ分ける無双っぷりが楽しかった。ホイさんも久々の主演、そしてユーモアとペーソスをたたえた安心感が面白かったので両雄受賞。

主演女優賞:チャオ・タオ(山河ノスタルジア)
いつも幸薄い印象の涛さんだけど、今回が一番役としては幸せに見えた感がある。おばちゃんの役も演じたけど、まだそこそこ若いんだよね。ジャンクーとお幸せに。

助演男優賞:レオン・ダイ(ゴッドスピード)
踏んだり蹴ったりだったというか、まさに「ままならない人生」を体現したような雰囲気が面白かった。そういえばまだ監督作を観たことないので、いつかその機会に恵まれますように。

助演女優賞:シルヴィア・チャン(山河ノスタルジア)
孫ほどの年齢の少年も恋に落ちる程の魅力とは!美魔女とかアンチエイジングなどを超えて、こういう60代を目指したいものです。

新人監督賞:ロイ・シートウ(シェッド・スキン・パパ)
あの『夜半歌聲』のキモいボンボンが、今や香港演劇界の大御所とは…(微笑)。役者としてはまだまだスクリーンで観る機会があるけど(パンちゃん最新作《春嬌救志明》にも端役で出るみたいだし)、また監督作も近いうちに。

最優秀アクション賞:シュー・フェン(侠女)
本当は最優秀女優賞にしようかと思ったのだけど、今はプロデューサー専業だしなあ、というわけで(そんな理由でいいのか?)まさに歴史に残るあの鮮烈なアクションを体現した中華電影史の重要人物として、この特別賞を。

心から尊敬しますで賞:キン・フー(侠女)
20年近く中華電影迷やってきて、やっとこの歳になって侠女が観られたのは遅かったかも…とも思ったけど、香港のアキラ黒澤とも称される名匠の作品を大きなスクリーンで観られたのは本当にいい映画体験だったし、中華電影を好きで本当によかった。というわけで、敬意を込めての特別賞。

 自分の昨年の中華電影鑑賞の低調ぶりは、武蔵野館の改装や日記blogでも愚痴っているような事情があるにしろ、それでも旧作をTV放映やソフトでフォローできなかったので惜しかったよなーとも思います。仕事も忙しく、中華以外の映画もガンガン観ている中でも、今後もやっぱりどういう形ででもちゃんと観ていかなきゃならんなあ。
 そんなわけで、この旧正月で何作か録画を観たので、暇のあるときに感想をアップしていきますね。

 最後に、今後地元で観られる中華電影の話も。
この年明けに東京で大量の中華電影が公開され、なんでそんなにいっぺんに、とか、どうせこんな田舎には来ないんでしょ?とか相変わらずやさぐれていましたが、なんと『人魚姫』は3月に観られます。ありがとう中劇さん!
 後は、年末年始に観られなかった『湾生回家』が2月に、そして『牯嶺街少年殺人事件』が4月にルミエールで上映です。この機会に、多くの人達が中華電影に楽しみ、今後もいろんな作品が盛岡までやってきてくることを願うばかりです。

 では、今年も中華電影迷の皆様にとっても良い年でありますように…。

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大樹は風を招く(2016/香港)

 今年は本当に香港映画を観ていない。そもそも勉強してたのに広東語も聞けてない。なんとなくストレスが溜まってる感がある。そんなわけで、フィルメックスの閉会式で上映される『大樹は風を招く』は楽しみにしていた。

 この映画は11年前から香港で実施されている「鮮浪潮國際短片展」の歴代コンペで受賞した3人の監督を起用し、トーさんとヤウ・ナイホイさんのプロデュースによって撮られた作品。今年の金像奨では、最優秀脚本賞と編集賞を受賞。3人の監督のうち、ジェヴォンズ・アウ(歐文傑)さんは今年の金像奨作品賞受賞作《十年》の一編「方言」を監督。
 1997年、返還直前の香港を舞台に、実在した3人のギャング―季炳雄、葉繼歡、そして張子強をモデルにした、季正雄(カートン)、葉國歡(リッチー)、卓子強(小春)の運命を描いた作品。ユニークなのは、3人の監督がそれぞれ主人公3人のパートを演出していること。


 警官を射殺して大陸に逃亡したが、再び香港に戻っては小規模な犯罪に手を染めている季。強盗事件を起こした後にやはり大陸に逃げたものの、身分を隠して家電製品の密輸に携わる葉。彼らとは対照的に、誘拐と脅迫を繰り返しては派手に暴れている卓。香港と大陸とを行き来するも、出会うことはなかった3人だが、ある日どこからか「あの3人が協力して、何か香港でやらかすらしい」という噂が流れてくる。

 それぞれの事情を抱え、それぞれの思惑を抱いて動く3人。返還も控え、黒社会も落ち着かない。名を残す大物たちも、どこで生き残り、どこで躓くかわからない。主題歌として使われるのが、「時の過ぎゆくままに」の広東語カバー、《讓一切隨風》。香港では阿Bを始め、多くの歌手に歌われている名曲。


 トーさん製作で主人公たちが黒社会の大物とは言え、トーさん色が出ているところはキャスティングくらいだし(林雪もしっかり出てるしね!)、そのへんを期待した人には結構ハズレっぽく思われるかもしれない。現にワタシも劇場で「イマイチだった」という声を聞いたし。
でも、3人のパートをそれぞれ3人の監督が撮ったとはとても思えず、バランスが取れていた。寡黙だけど狂犬のような季、一見してギャングには思えない葉、とにかく派手でうるさい卓と、それぞれのパートを分けても無問題なんだろうけど、あえて分けなかったのだろう。
 3人のうち、一番面白かったのが葉のパートで、堅実に行くかと思いつつ結局腰をあげることになり、そこから香港に戻った時にあるハプニングが起きるわけだが、この時にすでに香港人の大陸へのある種の偏見が見えるようだったし、それがかつて香港を拠点にしていた葉の逆鱗に触れたのもわからなくはない。そして、このパートを演出していたのがジェヴォンズさんと聞いて、そう意図したのもなんとなく納得したものだった。(ネタバレ回避してかなりボカしてますが、まあだいたい想像つきやすいんじゃないかと思って)

 香港返還から来年で20年が経とうとしているが、やはり20年という歳月はいろいろとモノを変える。返還当時に渦巻いたいろいろな感情が今はどうなっているかはこれまた人それぞれだろうけど、政治的な面でここまで変わるとは思えなかった現在なら、返還の頃を振り返るとまたいろいろな感情が沸き起こるのだろう、と少し真面目に思ってしまったのだった。 

 とかなんとか言ってますけど、面白かったですよ。ユーモアも効いていたし、カートンもリッチーも小春も渋くてカッコええし、広東語もガンガン聞けて嬉しかったし。
 後はね、題名にある通り、風の使い方が印象的だった。屋上に干した洗濯物をゆっくり揺らしたり、人影が写ったりとよくある演出なんだけど、こういうベタさ(と言い切っていいのか?)がうまく効いているのがやっぱり映画だよなって思うからね。

原題&英題:樹大招風(Trivisa)
製作:ジョニー・トー&ヤウ・ナイホイ 監督:フランク・ホイ&ジェヴォンズ・アウ&ヴィッキー・ウォン
出演:ラム・カートン リッチー・レン チャン・シウチョン(ジョーダン・チャン) ラム・シュー フィリップ・キョン ユエ・ワー ヴィンセント・イン ン・チーホン ホン・ヤンヤン 

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シェッド・スキン・パパ(2016/香港)

 現在の東京国際映画祭には、コンペティション部門の他、アジアの新人監督を対象に賞が与えられるアジアの未来部門と、同じく日本映画の監督に与えられる日本映画スプラッシュ部門の3つがある。香港映画はだいたいアジアの未来部門でエントリーされるのだが、2011年の『夢遊〜スリープウォーカー』以来のコンペエントリーとなったのが、香港演劇界で活躍する演出家兼俳優ロイ・シートウ(司徒慧焯)監督の『シェッド・スキン・パパ』
 80年代から香港映画の脚本を手がけ、演劇に主軸を移した近年は『恋の紫煙』シリーズや『カンフー・ジャングル』に脇で出ていたそうだけど、全く気づかず(笑)。
そんな彼の俳優として一番説明しやすい役どころは、自ら脚本を手掛けたレスリーの『夜半歌聲』で演じた、ン・シンリンの婚約者役だと思う。ああ、あのキモいボンボンが、こんなに立派になって…とか意味不明に感慨深くなってすいません。

 三谷幸喜の『笑の大学』が上演されたり(近年はエリック・コット&ジャン・ラムのコンビも出演!)秋生さんやカーファイやカリーナ姐さんも舞台に立つなど、香港も演劇が盛んに上演されている。シートウさんは香港話劇團という劇団に所属して現代劇の演出を多く手がけてきているとか。
原作は2005年に発表された佃典彦氏の戯曲「ぬけがら」。翌年に岸田戯曲賞を受賞しています(ちなみに同時受賞したのが、やはり近年映画化された三浦大輔の『愛の渦』)。自らの劇団や外部公演で何度も上演しているそうですが、2年前には話劇團を迎えた日港連続上演も行ったそうです。これは知らなかった…。

 ある日突然若返っていく父親・田一雄(ジャンユー)と、父親と折り合いが悪い40代の映画監督・力行(古天楽)の物語。母親を失い、妻(蔡潔)とは離婚寸前、監督としてもヒット作が出ず、おまけに同居している父は認知症といろいろ崖っぷちに立たされている。そんな中に父は脱皮して10歳ずつ若返り、死んだ母もなぜか若い姿(春夏)で現れるようになる。

 このお父さんの若返り方が面白い。時に喧嘩っ早かったり、陽気な女ったらしだったり。しまいには母親と知り合った10代(もちろんジャンユーが自ら演じてる!)まで様々な姿を見せてくれる。それぞれの姿には、戦後間もなく移住した大陸からの移民であろう彼の背負ってきた社会が見える設定がなされていて興味深い。香港と大陸との微妙な関係とその変化もやや皮肉っぽく描かれているところもあって、そんなところにはニヤリ( ̄ー ̄)。
 そんな父の姿に戸惑い、生活を引っ掻き回されながら過ごす力行だけど、自分と同世代になってもやっぱり折り合いが悪いというのはなんともはやって感じでさらに苦笑い。でもまあ、そうやって親子はぶつかりあいながらもわかり合っていくもんであるわけだし。 



 舞台では各年代の父親を複数の俳優が演じているそうだけど、これは映像マジックが使える映画なので、80代から10代までを一人で演じるジャンユー無双が見られる。20代までは許容範囲だろうけど、まさか10代までやってくれるとは思わなかったし、それがとってもかわいい。それゆえ、各世代のぬけがらが生命を持ち、若い母親と力行と共に家族で食卓を囲む場面はやっぱり圧巻。一見シュールではあるけど、ファンタジーとして作られているので、可愛らしさとともに父親の人生と共に生活をする喜びにも溢れているようにも見えるのがよかった。

 後は使われている小道具や、全編に渡って見える飛行のモチーフも興味深い。映画監督らしく、力行のアパートの入り口には映画のポスターが貼られているのだが、それが『自転車泥棒』と『ゴッドファーザー』と『野良犬』(ちなみにアキラ黒澤はシートウさんが敬愛する監督だそうだ。Q&Aを参考のこと)で、どこか映画の内容ともリンクするところがあったり、少年時代(ちなみに演じているのはジャンユーのリアル息子ちゃん・ファインマンくん)から力行が好きだったのがガンダムで、その広東語版主題歌を「♪飛飛飛、飛飛飛、飛飛飛~」と歌ってしまうところ、そして挿入歌として使われる「虹の彼方に」。それぞれ意味があり、なおかつかわいらしい。素直にテーマが伝わる、愛らしい映画でした。

 残念ながらコンペでは入賞しなかったけど(今年は作品のレベルが高いとも言われてたしなあ)、プログラミングディレクターの谷田部吉彦さんがかなり力を入れて紹介されていたり、ジャンユー&古天楽の来日等もあって盛り上がったのが何より。久々に日本との結びつきがある香港映画というのもまたいいところ。
 香港ではこれから公開とのことで、どのように注目を集めるかも楽しみ。今後シートウさんはまた演劇の方に戻るとのことだけど、また映画を撮ってもらいたいな。日本でも演劇と映画の両方をこなす演出家も少なくないので、香港ローカルな視点を持った演劇と映画の両者に関わっていただけると香港映画ファンとしてはとっても嬉しいのでした。

原題:脱皮爸爸
監督&脚本:ロイ・シートウ 原作&脚本:佃 典彦 音楽:レオン・コー 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:ン・ジャンユー(フランシス・ン) ルイス・クー ジェシー・リー ジャッキー・チョイ クリスタル・ティン

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メコン大作戦(2016/香港・中国)

 ここからは、今年のTIFFで観た映画の感想。

 3年前の『激戦』、来年年明けに日本公開される『疾風スプリンター破風)』に続けてTIFFで上映された、ダンテ・ラム監督の新作『メコン大作戦』。誰が呼んだか鬼ダンテ、そして漢気映画の巨匠。
昨年9月から年をまたいで撮影していたそうで、昨年のTIFFでの来日時は確かバンコクから直で来たというようなことを言ってたのを覚えている。

 2011年、メコン川流域の「黄金の三角地帯」にて中国船が襲撃された事件を基にし、政府から特命を受けた雲南の麻薬捜査官高剛(張涵予)がタイに赴き、潜入捜査官の方新武(ポン)と共に三角地帯を仕切る麻薬組織に立ち向かう物語。


このサムネイルが…(泣)なぜ泣いてるのかは後ほど。

 ここ数作のダンテ作品の常連であるポンちゃんに加え、先ごろ無事にロケが終了したウーさん最新作《追捕 MANHUNT》にてフクヤマと共に主演を張るハンユーが主演。言語は普通話(北京語)なので、前作に続いて香港の要素は全くなし。
 それでも面白かったのは、リアリティのあるロケーションと力の入ったアクション、そして中国公安が主人公でありながら堅苦しく描かれていなかったことからだと思う。制作側もそれを期待してダンテさんを起用したのだろうけど、ずいぶん時代は変わったものである。

 上映後のティーチインによれば、ロケはほとんど実際の事件現場で行われたそうだとか。でもアクションはあれほど派手じゃなかったよ、とのことで、まあそれは当然ですね。当初は谷垣健治さんにもアクション指導のオファーがいっていたそうです。モテモテですな(こらこら)。 

 アクションだけでなく、人間ドラマも見応え充分。
高剛率いる特殊チームも個性的で、敵対する麻薬組織とも実に好対照で面白かった。前者は射撃・偵察・諜報などのスペシャリストが揃っていて、コードネームは中国の神々にちなんだもの。特によかったのが麻薬犬の哮天(シャオティエン)。そう、わんこ(といってもそれなりに立派なシェパード)もチームの一員なのである。勇敢かつ健気な活躍を見せてくれるので、犬派じゃないワタシも思わずグッときてしまった。
 後者の面々も内部で様々な軋轢があったり、いかに組織を動かしているかもわかって興味深かった。組織には子供も多く、少年兵として銃器を扱うので、劇中でどんどん殺されていくという残酷さも描かれる。辛いなあ。今後日本公開が検討されるなら、ここで引っかかりそうな気がする。うーむ。

 で、中心となるハンユーとポンちゃん。
ハンユーは代表作の『戦場のレクイエム』を観てないし、『孫文の義士団』で最後にやっと登場する孫文くらいで、じっくりと見るのはこれが初めてか…と思ったら、ああそうだった、特殊身分にも出ていたか。ダンテさん曰く、起用の理由は「中国警察が主人公なので男っぽい俳優が欲しかった」とのことで、生真面目で熱いキャラはまさに当たり役だった。これは否が応でも楽しみになるじゃないですか、追捕が!
 変幻自在な潜入捜査官の方はかなり過酷な役どころ。3作連続登板のポンちゃんにとっては、今回が一番過酷だったかもしれない。当然、トレーニングはやってもらったとか。登場時の髪型とヒゲが違和感あったので、リアルであっても似合わないと感じたのだが、変装用で取ってもらえてややホッとする。その彼もかつてはドラッグに恋人の命を奪われるという壮絶な過去を背負っており、高剛とは最初は対立するものの、やがて手を取り合って組織に挑むという展開はやはりぐっときますわ。

 社会派にも作れる実話をあえてアクションで彩ったのは、テーマに対する敬意をこめており、先行して発表された事件に関する書籍やTVドラマでは描かれなかった部分を描くことに重きをおいたそうだ。もっとドラマも盛り込みたかったそうだが、2時間でまとめるのは大変だったとのこと。
 中国大陸では記録的大ヒット(香港ではそうではなかったらしいが)を飛ばしたのも、そのダンテさんの意図を汲み取って観客が観たのかもしれない。なんといっても中国警察のプロパガンダになっていなかったのは見事であったし。

 

そんなわけでこのところは大作が続いているダンテさん。
新作も楽しみだけど、たまには香港にも戻ってきてほしい。
そして、そろそろ実現させてもいいかもですね、トニー&ニックさん主演の話を。^_^

原題(&英題):湄公河行動(Operation Mekong)
監督:ダンテ・ラム
出演:チャン・ハンユー エディ・ポン チェン・パオグオ ロー・ワイコン

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モンスター・ハント(2015/中国・香港)

 blogをお休みしている夏の間、ワタクシはこの巨大不明生物映画にまんまとハマっておりました(笑)。しかも3回も観に行っちゃいました、すみません。だっておもしろかったんだもーん、てへ(おいおい)
 ネットの記事もあれこれ読んでいるのだけど、中華趣味には日経ビジネスオンラインのこの記事(すいません要登録です)が面白かったですねー。他に中国関係で書かれていたのはこの記事この記事もあったけど、うーん、ちょっと悩んだ。というか、台湾と香港では既に公開済み。大陸ではこれからか?

 閑話休題。さて、この巨大不明生物は英語で言うとmonsterだけど、この夏は大陸からもずいぶんと小さくなるけどモンスターがやってきてました。はい、昨年大陸で大ヒットした『モンスター・ハント』ですよ。シネマートの紹介ページ一覧もリンクしておきます。

 中国では珍しい実写+CGアニメミックスのファンタジー映画。昨年末に星仔の『人魚姫』に越えられるまで歴代興行成績№1を記録していたそうだ。
 監督のラマン・ホイは香港出身で、ドリームワークスのシュレックシリーズ等に関わっていたそうだ。日本からは美術デザインで、お馴染みの種田陽平さんが参加。こちらのインタビュー記事もリンク貼っておきます。

 人間界と妖界が共存する昔の中国を舞台に、内乱から逃げてきた妖怪の王妃が、人間界にある小さな村の若き村長宋天蔭(井柏然)に托卵→妊娠!?という展開に、ついつい『精霊の守り人』かよ!と思わず叫んでしまったのは言うまでもない(笑)。
 そんな天蔭が王妃の腹心の部下だった夫婦妖怪(エリックとっつぁん&サンドラ)に狙われたり、妖怪ハンターの小嵐(白百何)に助けられて旅立ったり、彼女の同業者羅剛(姜武)にも追われたりなんだりしながら、なんとか出産を迎え…。

 で、こんなん↑が1匹生まれてきた。この人面大根…じゃなかった、これが妖怪王の忘れ形見。泣き声をもとにして名づけられたその名もフーバ(胡巴)。やがて、フーバを手に入れようと敵対する現妖怪王だけでなく、妖怪グルメの好き者人間たちも現れる。

 脇は香港コンビ(こらこら)や姜武の他、湯唯ちゃんやヤオ・チェン、ウォレス・チョンなどなかなかいいキャストで揃えられ、主役を張る井柏然(当初はコー・チェントンがキャスティングされる予定だったそうだ)&白百何コンビも熱演だし、アクションも楽しい。何より、いろいろ制約のありそうな大陸で、オリジナルのファンタジー映画ができたことがすごいと思う。

 しかし、某ポケモンも某ウォッチも登場するモンスターはかわいいんだけど、このフーバが…どうしてもかわいいとは思えないんだよなあ、個人的には。日本的かわいいや港台的かわいいとは全く違うものに思えたのよね。でも、この夏に日本公開されたとき、SNSではフーバかわいいーという意見も少なくなかった。うむ、ワタシの感覚が違うのだろうか。
 ま、意見には個人差がありますってことで許してつかーさい。

 大ヒットしたということで、当然続編も現在製作中。
アクション監督に我らが谷垣健治さんも加わるということで、楽しみが増しているのだけど、先日衝撃のニュースが飛び込んできましたよ!



 この画像でもわかるように、なんと、我らが梁朝偉先生が新キャストとして新加入ですよ!ついでに動画もつけますよ!


 いやあ、これはますます楽しみだわ。なんてったってフーバよりかわいいもの、もう50過ぎてるのに。※意見には個人差があります 
 動画によると、再来年公開を目指しているとのことで、続編完成及び日本公開の暁には、特集上映じゃなくてミニシアター系全国順次公開くらいの規模くらいでやってほしいものですね。

原題:捉妖記
監督:ラマン・ホイ 製作:ビル・コン 美術:種田陽平 音楽:レオン・コー
主演:バイ・バイホー ジン・ポーラン チアン・ウー ヤオ・チェン ウォレス・チョン サンドラ・ン エリック・ツァン タン・ウェイ エレイン・ジン

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ヘリオス 赤い諜報戦(2015/香港・中国)

 香港映画の新たな可能性を感じた100%香港メイドのサスペンス『コールド・ウォー』(以下寒戦)。現在、新たなキャストになんとユンファ(とトニー・ヤンも)を迎えた続編を製作中だとのことで、ロケは終了している様子。

 その監督コンビの第2作が『ヘリオス』。前作から一転して、大陸や韓国に舞台を広げた意欲作。學友さんやニックさんやショーン、張震など港台のお馴染の面々に加え、大陸からは王學圻さん、韓国からは『ウィンター・ソング』のチ・ジニ、そしてこの半年間ですっかりお馴染になってしまった(こらこら)チェ・シウォンが登場。日本での宣伝のメインは一番最後に紹介した人…。いや、言いたいことはあとでまとめていいます。


 大陸で起きた旅客機事故と、韓国の核兵器研究所で起こった強奪事件。両者を結びつけるのは、韓国で開発された超小型核兵器デビー・クロケットことDC-8。奪ったのは、国際的に暗躍する犯罪組織「ヘリオス」に所属する通称「使者」の一人、金(張震)。DC-8が香港に持ち込まれることを知った韓国の国家情報院は、開発を担当した崔理事官(チ・ジニ)と諜報員の朴(チェ・シウォン)を香港に送る。中国政府からも、政府調査局の宋部長(シュエチー)が香港に飛ぶ。
 香港警察は李隊長(ニック)を中心に危機対策本部を設置。原子力を専門とする肇教授(學友さん)を特別顧問に招き、部下の范(ショーン)を尖沙咀の金と張(ジャニス・マン)の取引先に送る。使者たちは取り逃したものの、DC-8は奪還。しかし逃走中のバイク事故で一部の破壊が発覚。崔と朴が文化中心に向かい、被曝の確認をするが、事なきを得て核兵器は本部に持ち帰られる。
 DC-8が政治的なカードになると考える中国政府の命を受けた宋は、韓国への返還を拒否したため、兵器は保安局預かりとなる。中国・韓国・香港の考えの相違が明らかになる中、李はヘリオスのメンバー逮捕を試みてマカオに渡り、元武器調達人のソフィア(ジョセフィーヌ・クー)と接触した後、張を逮捕する。
 そして、香港で爆発事故が起こる。ヘリオスからは犯行声明が届き、張にDC-8を運ばせるように指示を出される。しかし張に巻かれ、香港警察と崔と朴はそれぞれ張を追う。
 やがて、李は内部にヘリオスへの内通者がいるのではないかと察する。その人物はあまりにも意外な人物だった…!

 世界的に不安定な現在だからこそ、東アジアでも不測の事態が起こりうるかもしれない。荒唐無稽だけど、そんなことも観ながら考えた。
 大陸との対立があったとしても、それでも国際都市である香港に兵器が持ち込まれるという可能性がないわけではない。劇中にも宋と肇&李がお互いの腹を探りあうようにしていたようなくだりがあったと思うけど、そのへんのさじ加減のうまさはコールド・ウォーも思い出したなあ。
 韓国側も思ったより適切に活躍していたのも好ましかった。いや、もっと無駄に出はってるんじゃないかと余計な心配しちゃってたし(うわうわ、そんなこと言っちゃダメ)、片言の広東語でも普通話(北京語)でもなく、ちゃんと韓国語話してくれてたのもいい。これは同時通訳機のおかげなんだけど、こういう設定ってありがたい。(でも宋と李や肇が話をすると、案の定普通話と広東語の会話になっちゃうのだが、まあそれはお約束なのでしょうがないですな)チジニさんとシウォンのコンビもよかったし、登場時こそ韓国映画的だったけど、香港にちゃんと馴染んでいた。しかし、まさかクライマックスであんなことに…(以下ネタバレのため後略)あと、香港駐在の女性諜報員がなんかチャラかったんだけど。
 ヘリオス側では、やっぱり張震がカッコ良かったですね~。韓国語も喋れたのか!と驚きかけたが、そーいやギドク作品などにも出てるか>でもあれは喋れる役だったか?(未見)相方は『ミッドナイト・アフター』でも印象深かったジャニスだけど、全く違うクールさがあってこちらも素晴らしい。若い女優さんにはホントに頑張ってもらいたいよね。
 迎え撃つ香港側は、もう安定のニックさん&ショーン。主演級のショーンをあえて脇で使うのはちょっと新鮮。學友さんが理系の大学教授ってのも珍しいかな?前に大学教授をやった時は文系だったんじゃないかと(うろ覚え)。

 そんなわけでクライマックスまでは楽しく観たんだけど、内通者が誰かと匂わされた時にはもう分かったし、まさか!と驚いたのは言うまでもないのだが、そのままエンドマークになるのには衝撃を受けたよ!「ヘリオスとの戦いは始まったばかりである」って、ジャンプの連載打ち切りパターンかよ!と心のなかで叫んだのは言うまでもないわ。…まあ、考えてみれば、実は寒戦も大きな謎を残したまま結末を迎えていたので、2作連続かよ!とつっこまれたんじゃないかなー?などとね。今年の香港ラジー賞ともいうべき金話梅電影選挙にも2部門でノミネートされちゃってて、もう笑うしかないわ。
 ってこんな感想で、どうか許して下さいませ。

 で、『破風』の時から気にしていたことを、最後に書いてみる。
ここ数年は韓国と大陸が映画の合作でかなり協力な結びつきをしているので、ホ・ジノさんや今度日本でも『更年奇的な彼女』が公開されるクァク・ジェヨンさんが大陸に招かれて映画を撮ったり、普通話ができる韓国俳優の出演が相次いだりしているわけだけど、そこそこ大韓電影が好きだった頃は受け入れられても、あの怒涛の韓流ブームに頭を抱えたこともあって、これでいいのかなー?と思ったこともある。縄張りが荒らされるという危機感を抱いているわけじゃなくて、東アジア映画として一致団結しても、香港よりも韓国の俳優が一番注目されたりなんだか違和感を覚えたり(具体的には書かないよ)、以前も書いたけどその中になぜ日本の映画人が加われないのかということで歯がゆい思いを抱いてしまうからである。
 この映画、クライマックスでは京都で撮影しているんだけど、そこでそのまま幕を閉じてしまう。一体どう責任をとってくれるのよって言っちゃったよ。これは日本を舞台に続編を作ってもらうしかないじゃないか。そしたら必然的に日本の俳優も出せるし、スタッフも使えると思うよ。學友さんのスケジュール次第とも聞いているので、ちゃんと落とし前つけてくれることを願いますよ、リョンさん、サニーさん。

原題:赤道
監督&脚本:リョン・ロクマン&サニー・ルク 撮影:ジェイソン・クワン 美術:アレックス・モク 衣装:ドラ・ン&ハイ・チョンマン アクション指導:チン・ガーロッ 音楽:ピーター・カム
出演:ジャッキー・チュン ニック・チョン ショーン・ユー チ・ジニ チェ・シウォン ジャニス・マン ジョセフィーヌ・クー チャン・チェン ワン・シュエチー

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2015 funkin'for HONGKONG的十大電影

 えー、今年はここ数年の傾向(リンク先に書いてるので参考として)から元に戻しました。というか、農暦晦日までに中華電影を観る予定がないからです。そんなわけで、blog開設12年の記念日のタイミングでアップいたします。

 昨年我が地元で上映された中華電影は数えてみたら6作品(旧作再映含む)。香港映画に至っては1本も上映がありませんでした。そんな状況なので、仙台に行ったり映画祭で稼いだのがほとんどです。今年は3月に『最愛の子』『ドラゴン・ブレイド』が上映されますが、その後はどうなることやら。まあ、足りない分はWOWOW放映で補ったりしてみます。…ずんぬくまんじうとかな(こらこら)

 また、昨年は台湾映画をたくさん観ました。春先に台湾に行ったこともあるのでしょうが、そんなこともあって、ちょっといつもと違う趣の十大電影になったと思います。
 では、例年通りのカウントダウンで十大電影いってみましょうか。

10 戯夢人生

 昨年は旧作上映もいいものが来てよかったです。特にこれは初上映時にみのがしていて、ずっと観たかった作品。どうかデジタル・リマスタリングされて、悲情城市と一緒に午前十時の映画祭に選ばれますように。

9 九月に降る風

 昨年春のシネマート六本木の閉館上映時の再映で拝見。これを観て「トムさんいいなぁー」と改めて思った次第。その約半年後に新作が観られたのだけど…。

8 レクイエム 最後の銃弾

 昨年春の仙台の特集上映でやっと観られた映画。そうそう、香港映画における男たちの絆ってーのはこーゆーのなんだよ!これが観たかったんだよ!とついつい力こぶが入ってしまったのは言うまでもない。

7 全力スマッシュ

 香港映画の希望の星(半分マジで言っている)デレクさんの新作。ワールドプレミアは日本だったし、もっともっと盛り上げたかったなあ。そして今年の奥運會では、当然バドミントンも応援しますよ。

6 破風

 スポーツ映画が続きます。両岸三地だけにとどまらず、東アジア全体に目を向けて作られたのはヘリオスと同じ。こういう可能性もあるんだよなと思いつつ、日本がこの枠に入らない、もとい入れないのは中華びいきでもほんとうに残念。アミューズさんあたり、今年はどうですか?こんな東アジアコラボにかんでみるのは。

5 KANO 1931 海の向こうの甲子園

 はは、これもスポーツ映画だわ。 
 厳密には中華電影とは言えないんだろうな。でも、魏導&馬導には「これを作ってくれてありがとう!」と感謝したくなった。野球もまじめに観るようになったしね(笑)。

4 カンフー・ジャングル

 自分でも意外なんだけど、思ったよりも上位に来ました。もちろん洋画ベストの中にもランクイン。こっちで書いてるのでお暇があればどうぞー。
 ストーリーもよかったし、アクションもエモーショナルで感情移入しやすかったもんなあ。だからやっぱりド兄さんは宇宙最強なんだよなあ。《葉問3》は是非とも全国公開でお願いしまーす。

3 レイジー・ヘイジー・クレイジー

 今回はこれが最上位の香港映画。パンちゃんももう中堅として安定した地位を得たんだなと思いつつ、新星の登場にはいろいろある香港映画(&香港)の中でも、ひときわ眩しさを感じるのでした。今年の金像奨では、どこまで賞レースに絡めるかしら? 

2 黒衣の刺客

 思った以上に静かで、美しくスリリングな映画であった。古希を目前にして作り上げたのがこんな武侠電影なのだから、ホウちゃんってやっぱりすごいやー、これからもついていかなきゃ、と思った次第。しかし、これが地元で上映されなかったのはつくづく(強制終了)。

1 百日草

 はい、実は12年やってきて、今回初めて台湾映画が№1になりました。自分でもびっくりぽん>流行り言葉
とふざけるのはこのへんにして、観て本当によかったです。トムさん自身の悲しみももちろん感じるのだけど、大切な人を亡くす喪失はだれにでもあることだから、その描き方に強く胸を掴まれたのでした。是非とも日本公開してほしい作品。

お次は部門賞。

主演男優賞 ドニー・イェン『カンフー・ジャングル』『スペシャルID 特殊身分』

 やっぱり宇宙最強だし。『百日草』の石頭もよかったんだけど、比べちゃうと、ねえ(苦笑)。

主演女優賞 カリーナ・ラム『百日草』

 祝!復活。しかもとても印象的な役どころなのがよかった。
今年は久々に學友さんとの共演作もあるとのことで(旦那さんが監督らしい)、今後の活躍も楽しみ。

助演男優賞 アンドリュー・ラム『全力スマッシュ』
助演女優賞 スーザン・ショウ『全力スマッシュ』『レイジー・ヘイジー・クレイジー』

 ここはまとめてコメントしますか。いやー、このコンビは夫婦漫才みたいで最高でした!
デレクさんたちから鬼才のスカッド監督までカバーする、スーザン姐の香港映画界のゴッドマザーっぷりもすごいしね。

監督賞 ホウ・シャオシェン『黒衣の刺客』『風櫃の少年』『戯夢人生』
      トム・リン『百日草』『九月に降る風』

 台湾映画豊作の年ということもあり、ベテランと中堅コンビをチョイス。
両者とも、今後の作品が楽しみなんだけど、そういえば寡作でもあるのよね(汗)。

新人賞 ジョディ・ロック&アシーナ・クォック&フィッシュ・リウ&コーイー・マック『レイジー・ヘイジー・クレイジー』

 なかなかにセンセーショナルな作品でデビューした監督&三人娘。
いろいろある(とまた言っちゃうけど)香港映画界を大いに引っ掻き回してほしいなあ。

 今年はどんな映画に出会えるだろうか。日本での上映状況も厳しくなってきてるけど、それにもめげずに観ていきたいものです。
 では、ラストにこれを。今年は申年だし、葉問3と共に日本公開を期待したい作品。

 

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宋家の三姉妹(1997/香港・日本)

 古今東西の名作映画を1日1回全国各地の劇場で上映する企画「午前十時の映画祭」
開始当初はハリウッドクラシックが中心で、アジア映画もキアロスタミくらいしかなかったのだが、昨年は『覇王別姫』を1週間上映してくれたので、夏に時間を作って観に行った。これに続いてもっと中華電影やってくれないかしら?と思っていたら、今年はこの『宋家の三姉妹』がラインナップに加わった。ほう、懐かしい。…でもあまり思い入れがない作品だな。
 メイベルさんなら一番好きなのは、やっぱり『誰かがあなたを愛してる』なんだけど、なぜこれ?と思ったら、東京での上映館が岩波ホールで、98年の初上映時には大ヒット&ロングランを記録したそうだとか…ふーん。

 観に行ったのだが、オープニングクレジットにあのフジテレビの名前があってビックリ。これ、日本人スタッフがいたり日本ロケがあったりで合作扱いになっているのは知っていたけど、まさか富士電視台が関わっていたなんて夢にも思っていなかった!ゴールデンハーベスト製作だから、てっきりアミューズもかんでいたんじゃないかとか思ったのに!(でもメイベルさんのこの次の作品『玻璃の城』はゴールデンアミューズ製作作品。アミューズにまだ上映権があるらしくて日本で観られるとのこと)


宣教師から実業家となり、国一番の富豪となったチャーリー宋(姜文)と妻の桂珍(エレイン・ジン)の間に生まれた子供たちのうち、長女の靄齢(ミシェル)慶齢(マギー)美齢(ヴィヴィアン・ウー)の三姉妹の前半生を描いた物語。清朝末期に少女期を過ごし、新しい中国の成立を説く父や彼が支援していた革命家の孫文(ウィンストン・チャオ)の活動を目にして育ってきた彼女たちは、西洋式の教育を受け、10代のうちに3人とも米国に留学した。
 新中国成立後、靄齢は銀行家の孔祥熙(牛振華)と結婚。姉を引き継いで孫文の秘書となって亡命先の日本に同行した慶齢は、親と同じくらいの年齢の孫文と愛し合うようになる。しかし父の猛反対に遭い、東京で結婚式を行った。美齢は国民党で頭角を現していた
蒋介石(呉興国)と結婚する。中華民国の第1党となった国民党は、北伐を経て実験を握ったが、共産主義者からの抵抗を受けたため、彼らの弾圧に乗り出した。共産主義者との共存を目指していた孫文の遺志に反すると危惧した慶齢は蒋介石を激しく避難し、国民党から離党する。慶齢は美齢とも激しく対立するようになる。
 国共内戦は激しさを増すが、その合間に日本軍が侵攻し、事態は泥沼化する。そこで国民党は国共合作を実施し、一致団結して日本軍と戦うことを決意する。仲違いしていた三姉妹も協力して各地を慰問し、「宋家の三姉妹」は抗日運動のシンボルとなる…。

 確かに物語はダイジェスト感たっぷりだったし、日中戦争後から再びの国共内戦、そして国民党の台湾撤退と三姉妹のその後を観たかった気はするのだが、それでも完成度が高いのに、90年代香港映画の質の高さを実感した。多少事実とは違うようではあっても、あらすじは客観的で広平な視点で描かれているし、孫文が亡命していた日本でのロケも多数で、それも実に効果的かつ変には扱われてないのもいい。90年代から香港映画での仕事が増えたワダエミさんの衣装も安定の素敵さで、かつ余計な日本人キャストがいないのがいい。これがアジアンコラボの理想の一つでもある。90年代中盤は、アミューズが手がけた『南京の基督』や『Kitchen』であったり、こういう成功があってのいい感じの日港合作があって、これが返還後の香港映画でスタンダードになってくれたらなあ、と思ったのだけど…ええ、そうはならなかったのは残念。ゴールデンハーベストも、今や映画製作も行っていないものね。でも、まだこの時代背景で、日本にも合作の余裕があったからこそよかったのかもしれない。ここ10年ほどの中国映画におけるこの時代の扱われ方を見ると、今の時点でこういう作品を作るのはきっと難しいのだろうなと思ったし。

 安定感があって、威厳も芯の強さもはまり役だったマギーはいいとして、当時はアクション女優としての評価が高かったミシェル姐が靄齢を演じるというのはかなりビックリだったんじゃないだろうか。でも歴史の渦に巻き込まれて対立する二人の妹をしっかり支える役どころとしては安心して観られる役どころだったし、アクションも変わらずなわけだし、数年後にはアウンサンスーチーまで演じることになるのだからね(笑)。
 当初はこの二人にブリジットかチェリーを交えて三姉妹とするという話も昔聞いたことがあるのだが、二人とも引退直後だったので、『ラストエンペラー』に出演後はハリウッドで活躍していたヴィヴィアン・ウーに話が行ったんだっけ。三姉妹の中では一番アメリカナイズされていて語学に長けていたという設定にはハマっていたと思う。まあ、それくらいか。最近はTVドラマのほうで活躍しているみたいだね。
 あと、姜文さんは昔から老け顔だったなあとか、ウィンストンが孫文を演じたのはこれが初めてだっけかとか(最近の当たり役は中華な五郎ちゃんでお馴染みの《孤獨的美食家》ですな)、清朝末期から宋家に仕える使用人コンビが割と面白いんだけど、最後のほうあまり出番がなかったなあとかあれこれ思った次第。

それにしても午前十時、覇王別姫の次にまさかこれが来るとは思いもよらなかったですわ。初映時には(当時の)中高年女性から熱い支持を受けていたというのも選択理由なのかなと思ったりするのですが(私事ながら、我が母上も今回の再映を楽しみにしていて、地元シネコンに観に行ったそうですよ)、来年も何か1本中華電影が入ってほしいと思っております。そうだねー、一番やってほしいのはもちろん『悲情城市』。あと『ロアン・リンユィ』もかかってくれると嬉しいなあ。今からデジタル化できればいいんだけど、どうでしょうか? 

原題:宋家皇朝
監督:メイベル・チャン 脚本:アレックス・ロー 撮影:アーサー・ウォン 美術:ジェームズ・レオン&エディ・マー 音楽:喜多郎&ランディ・ミラー 衣装:ワダエミ 
出演:マギー・チャン ミシェル・ヨー ヴィヴィアン・ウー ウィンストン・チャオ ウー・シングオ エレイン・ジン チアン・ウェン

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華麗上班族(2015/香港・中国)

 今年の東京フィルメックスは、例年にも増して中華電影が目立った年だった。
これはTIFFでも同様だったのだけど、特に中国大陸でいい作品がかなり増え、それに合わせるように台湾や香港からも作品が集まってきたというのもあるみたい。さらに特集上映は蔡明亮&侯孝賢だし、旧作だって見直したくなるラインナップが嬉しくて、ついつい2週連続で上京してしまったもの。

 中国映画の力が増している(この場合は量だけでなく質ね)のというのは本当のことらしく、現に今年のコンペでは『オールド・ドッグ』で4年前に最優秀作品賞を受賞したペマツェテン監督の新作『タルロ』が作品賞と観客賞を受賞し、次点の審査員特別賞には趙亮監督のドキュメンタリー『ベヒモス』も受賞していたので、それが裏付けされている。どうしても台湾や香港の映画を優先させてしまうので大陸映画は後回しになりがちなのだけど、特に前者は観てみたいな。大陸製作といいつつも、監督はチベット人だしね。

 今年のコンペに審査員のひとりとして参加されたのが、女優にして映画監督のシルヴィア・チャン。今年は監督作『念念』(後ほど感想を書きます)に出演作『山河ノスタルジア』、そしてこの『華麗上班族』が招待作として上映されたので、個人的にはシルヴィアさん映画祭でもあったのは言うまでもない(笑)。しかも共演はユンファだし、監督はトーさん。『過ぎゆく時の中で』のトリオである。


せっかくなので、「鐵三角復活!」予告を。

 時は2008年、舞台は中華圏のどこかの大都市。地下鉄の駅が直結するビルを構える総合商社ジョーンズ&サン(衆信集団)には、今日も多くの社員が出勤してくる。ここにアシスタント職として配属が決まった新入社員の李想(王紫逸)は、役員専用エレベーターに自分と同じ新入社員が乗り込むのに目を留める。彼女の名はケイケイことカット・ホー(郎月婷)。実は会長であるホー(何仲平/ユンファ)の娘なのだが、父親の命により、正体を隠してアシスタントとして入社させられたのだった。
 ジョーンズ&サンは、ホーと現CEOのチャン(張威/シルヴィア)の二人が設立し、今後は中国大陸に事業を展開するべく、香港市場上場を控えていたが、チャンはホーと不倫をしており、ホーの妻は昏睡状態に陥って入院していた。上場と米国の商社マダムとの提携を画策しているチャン。彼女の右腕であるやり手の副社長のデイヴィッド・ウォン(イーソン)は、チャンの後ろ盾を得て個人的に株の売買を行っていたが、会社の金に手を付けていた。そのため彼は使途不明金の処理に悩む経理のソフィー(湯唯)にも接近している。アラフォーのソフィーは故郷に残した恋人との仲がこじれていて、仕事と恋のどちらを取るのかで大いに悩んでいる。
 ジョーンズ&サンにマダムの重役陣がやってきて、チャンはデイヴィッドと重役の一人のガーリンに交渉を任せた。李想とケイケイも接待に回り、様々な思惑を抱えながらも、無事に提携が成立する。しかし、実はマダムも経営危機に陥っていたことがわかる。そこで李想が提案した新しい事業が採用され、チャンにも気に入られる。
 やがて米国でリーマン・ブラザーズが破綻し、それはジョーンズ&サンの人々にも様々な影響を与えることになり…。

 オリジナルはシルヴィアさんと香港の演出家エドワード・ラムさんによる2008年の劇《華麗上班族之生活與生存》。wikipediaをざっくりと読んだところによると、エドワードさんが四川大地震の発生を知り、そこから人間の生活と生存について考えてシルヴィアさんと作り上げたというのが背景にあるのか。それから間もなく起こったリーマンショックも交えた、大都会のビジネスマンの喜怒哀楽を描いた劇というところか。2008年に初演、その後香港や台北、マカオやシンガポールを含む中華圏各地で10年5月まで上演されたらしい。

 

フィルメックスでのシルヴィアさんQ&Aによると、映画化はトーさんからの申し出であり、意外にもミュージカル仕立てでというのも彼の要請だったとのこと。とはいえ、インド映画でお馴染みの大群舞場面は全くないし、ユンファは歌わないから本格的なものを期待すると肩透かしを食らう。そのあたりで賛否分かれるところもあるんだろうけど、ワタシはトーさんのその無謀なチャレンジは割と買いたいところ。

 遠くから「没有時間、没有時間、没有時間、没有時間…」というコーラスが聞こえてきて、スケルトンの地下鉄に押し込められた人々と、駅と直結したエントランスが現れるシーンから、舞台はジョーンズ&サンの自社高層ビルを中心に、ほぼ全面セットで展開される。舞台劇的な装置を想定しながらも、エレベーターや吹き抜けを横切る渡り廊下を設置して上下を強調し、巨大な時計をオフィスの真ん中に据えて時間に追われるビジネスマンの悲しい性を匂わせるこの美術を手がけたのは、我らがウィリアム・チャンさん。欲望と上昇志向を象徴するこのセットがとにかく圧巻。先日の金馬奨(リンクはアジアンパラダイスさんより)ではこの作品で最優秀美術賞に選ばれてます。普通、舞台の映画化はステージで表現できないスケールの大きい何かを持ち込まないと成功しないと考えているのだけど(中には舞台だけなら面白いはずなのに、なぜ映画化した?と思わせられるものもあるしね)、これは舞台的なセットをよりスケールアップさせたことで成功しているかな、と思う。
 ただ、ミュージカルとしてはどうなのかなー?と。先に挙げたように躍らせることはせず、歌も全員が歌うわけじゃない(とはいえ、シルヴィアさんも歌えるし、歌手でない湯唯ちゃんも頑張っていたし)し、何よりも筋が楽しくな…ってそんなことを言っちゃいけない。ミュージカルだからってハッピーエンドで終わるって決め付けてはいけないよね。

 オリジナルキャスト&プロデューサーとして堂々の座長っぷりを発揮するシルヴィアさん。年齢を聞いて、そうか、ユンファより歳上…と遠い目になった (笑)。気品にあふれていて、かつ猛烈な肉食女子CEOはハマっておりました。ユンファ演じるホー会長は、オリジナルではチャンの元夫設定だったそうで、 それでもよかったんじゃないか?という気もしたんだけど、まあそのへんは何か意図があるのでしょう。…あとさー、いくら本人が死んでも歌いたくないとは 言っても、歌わせてもよかったのよートーさん、とちょっと鬼なことも言ってみる(笑)。

 強欲にまみれて破滅していく上昇志向の副社長デイヴィッドを演じたイーソン。クライマックスで追い込まれた場面での熱唱にはグッと掴まれ、そうか、これが一番の見せどころかと思ったのは言うまでもない。イケイケな中堅にありがちなゲスさも、後先なくなって母親的存在のチャンを頼る情けなさもよかった。でも基本的にはゲスい輩ですので、はい。

 プライベートなトラブルに悩まされながらもデイヴィッドに関わったことで大きく運命が変わっていくソフィーを演じたのが湯唯ちゃん。…すみません、実は劇中全然彼女だとは気づきませんでした(汗)。今年公開されたハリウッド映画『ブラックハット』に出ていたから、全然お久しぶりってわけじゃないし、広東語も話す一方で北京語も話してたから大陸の女優だとわかっていたのにもかかわらず!一生の不覚だ…(こらこら)。でも、ヴィヴィアン・ウエストウッドの眼 鏡が似合っていて、キレイ目のカジュアルで仕事に追われつつも、自分の意志はしっかり持ちたいと心得るソフィーは愛らしくてカッコよく、ろくでもないキャラどもの中では一番感情移入できる女子でしたよ。
 ただね、彼らに対する二人の新入社員は、もう少し花があってもよかった。普通はここで期待の若手俳優でも引っ張ってくるのだろうけど、決め台詞は「アン・リーの李に理想の想です!」の李想を演じた王紫逸(以前は王子義など芸名多数らしい)も、お嬢さんモロ出しのケイケイを演じた郎月婷の両名とも、銀河映像に所属してキャリアを積んだ若手俳優とのことで、熱演していてもイマイチなところがね…。そのへんもきっと意図があるのか、あるいは単にギャラの問題か?

 あと、面白かったのは使用言語。香港映画では大陸俳優は普通話のまま、香港人は広東語で押し切ることが多いのだけど、おそらく普通話ネイティブの李想だけが終始普通話だけでしゃべり、それ以外のキャラは状況と相手に応じて言語を切り替える。これはインタビューにあった中華圏のどこでもない街の想定もあるんだろうけど、立場の強調なども案外これからわかるのかもしれないね、などと考察したくなった。そしたらもう一度観る必要があるか(笑)。

 とまれ、賛否両論ありますが、トーさん作品として観れば『奪命金』をひっくり返したような実験的な意欲作として見られるし、強欲に沸き立つ中国経済を皮肉った作品でもあるから、ワタシは面白く観ましたよ。

英題:Office
製作&脚本:シルヴィア・チャン 製作&監督:ジョニー・トー 撮影:チェン・シウキョン 美術&衣装:ウィリアム・チャン 編集:デイヴィッド・リチャードソン 音楽:ロー・ターヨウ
出演:シルヴィア・チャン イーソン・チャン ワン・ズーイー ラン・ユエティン タン・ウェイ チョウ・ユンファ

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