中国映画

相愛相親(2017/中国・台湾)

シルヴィア・チャン監督の『相愛相親』は、監督自身が演じる主人公・岳慧英が老いた母親を看取る場面から始まる。慧英自身も定年を間近に迎えた高校教師で、自動車教習所の教官である夫と地元TV局に勤務する成人した娘を持つ身であり、ここから物語は彼女の老い支度が始まるのかと思いきや、約20年前に亡くなった彼女の父親との合葬に、田舎に住む父の墓を守る最初の妻が猛反対するという展開になる。
そのおばあちゃんから見れば、慧英は妾の子。しかも「夫に先立たれ、その後ずっと独身を貫いた妻の貞節を称える」などという碑のある村に住んでいるものだから、村人も当然おばあちゃんの味方。おまけに娘の薇薇が撮った村での様子がテレビ局の看板番組に取り上げられることになり、さらに大騒ぎに…。

予告はこちら

父親の死をめぐり、最初の妻と最後の妻の子どもが争うなどというプロットは決して珍しいものではなく、総じてスキャンダラスに描かれるものであり、かつどこか古臭く感じる。しかし、この映画ではそうならなかった。20世紀後半からの中国の人々の背負った歴史も背景に匂わせつつ、急激に発展した21世紀の地方都市を舞台に、価値観や立場の違う人々のぶつかり合いから和解に至るまでを、ユーモアを交えて温かく描いている。

生真面目で家長を自認しているからこそ、愛し合っていた父と母を一緒の墓に納めたい慧英、貧しさから若いうちに別れることになってしまったけれど、死んでもなお夫を強く愛するおばあちゃん、そして慧英に反抗して家出し、恋人の阿達と共になぜかおばあちゃんのもとに住み着いてしまう薇薇の三世代の描き方が面白い。
慧英の強引さもおばあちゃんの一途さも同じ土俵に載せられているので、人によってはおばあちゃんに同情してしまう人も少なくないだろうし、その狙いも明白である。
ここで物語に客観性を呼び込むのが慧英の夫である尹孝平。妻の尻に敷かれ、家庭でも存在感が薄い、いかにも今時らしいお父さんなのだが、暴走する慧英と母親に不満ばかりを抱く薇薇の間に入って宥める役どころも果たしている。子は鎹ではなく父が鎹と言ったところか。彼を演じるのがあの田壮壮監督。『呉清源』がきっかけで面識ができ、キャスティングも想定して脚本を書いたということだが、その試みは成功していて、いいアクセントになっている。

また、岳家のファミリーアフェアも描きながら、慧英の担任するクラスで問題を抱えている学生・盧くんとその父親で売れない俳優・盧明偉と彼女の関係、西安から北京に行く途中で街にとどまり、ライヴハウスで歌うようになった歌手の阿達と薇薇の発展しない恋愛など、脇の人間関係も興味深い。これらの筋が物語にうまくハマり、慧英とおばあちゃんがそれぞれ決意をして争いを収めようとする結末に向かう。それを思うと、Love Educationという英題からは、自分と異なる人の行動や思考から相手を理解し、考えを深めて次に進むという意味がこめられていると考えられる。
発展著しい中国の地方都市の文化や生活も見え、いろいろと考えさせられながらもポジティヴ良心的な作品。『戦狼』のようなビッグバジェットではなく、第五世代のような巨匠たちの作品ともまた違う中国映画である。一般公開する価値は十分にあるので、各配給会社さんに是非期待したい。

東京フィルメックスではオープニングフィルムとして上映。
2年前に審査員を務めたシルヴィアさんが再び有楽町にやってきました。

上映時のQ&Aはこちらから。
動画は上記の題名にリンクした作品紹介ページでも観られます。

英題:Love Education
監督:シルヴィア・チャン 脚本:シルヴィア・チャン&ヨウ・シャオイン 撮影:リー・ピンビン 音楽:ケイ・ホアン
出演:シルヴィア・チャン ティエン・チュアンチュアン ラン・ユエティン ソン・ニンフォン ウー・イェンメイ タン・ウェイウェイ カン・ルー レネ・リウ

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イップ・マン 継承(2015/香港・中国)

昨年の『ローグ・ワン』と今年初めに公開された『トリプルX:再起動』という2本のハリウッド大作に次々と出演し、香港映画ファン以外にも知られるようになってきたんじゃないかと思われる我らが宇宙最強ド兄さんことドニー・イェン。
ただ、ハリウッドに出てくれたことで説明しやすくなったのはありがたいが、主演作が地方までくることは少なく、本当に悩ましいのもまた事実。現にこっちには『捜査官X』以降の主演作は全く来ていない。ファンの中には「映画館にきても入らないから、ソフトや配信で観る」などと思っている人もいるかもしれない(そんな人いないと信じたい)が、そう思うのは本当にもったいない。と、ド兄さんの出世作となったシリーズの最新作『イップ・マン 継承』を観て思ったのであった。

日中戦争を背景に、故郷の佛山を占領した日本兵との対立を中心においた2008年の『イップ・マン 序章』、戦後移住した香港で功夫の先達から認められ、彼らを見下す英国人ファイターに挑んだ2010年の『イップ・マン 葉問』から5年が経って登場した第3作。この間にはもともと企画が先行していたものの、例によっての王家衛だから完成まで13年かかった『グランド・マスター(以下一代宗師)』もやっと公開された。この他には、デニス・トー主演でハーマン・ヤウ監督の『イップ・マン 誕生』、同じくハーマンさん監督で秋生さん主演の『イップ・マン 最終章』も作られているけど、すみませんこの2本は未見です。



1作目は金像奨で作品賞も獲り、ド兄さんの熱演で映画界における葉問ブームが湧き上がったのが(ただし一代宗師は除く)もう10年近く前になるのにびっくりしているが、以前の感想にも書いているけど、実は諸手を挙げて評価しているわけじゃないんだよね、前2作は。大陸を向き始めた頃ってのもあってか、敵を中国以外の者に設定してイデオロギーやや高めな感じになってるのが引っかかった。そのあたり数年の時代ものアクション映画になぜか抗日的要素が入ってしまっていたのは、谷垣健治さんも著書で触れられていましたっけね。

今回の舞台は1950年代の香港。ド兄さん演じる葉師傳もすっかり香港の生活に馴染み、次男の葉正もやんちゃな小学生へと成長。貿易港湾都市として好景気に沸く香港での問題は地上げであり、葉正の通う小学校が標的にされることから、物語は不穏な方向へ動き出す。
この事件から出会うのは葉正の同級生の父親で、車夫をしている詠春拳使いの張天志(張晉)。向上心に燃える張天志は、いつかは葉問のように香港の武林に認められることを望んでいる。しかし生活のために闇の格闘技試合に出場し、上昇志向が強いために、やがて葉問と対立することになる。



戦時中→対戦直後→50年代香港と時代を移し、その時々の状況に応じた好敵手が要問の前に現れ、彼と拳を合わせる。先に書いたように、全2作の敵はいずれも香港(というか中国)の外からの敵であったのだが、今回は同じ香港居民であり詠春の使い手であるというところが特徴的である。それをベースにして語られる物語は、果たして強いだけでいいのかという基本中の基本でもあるのだが、対抗する張天志の事情もよく分かるだけあって、ちょっとしたボタンの掛け違いのようなすれ違いで葉問を越える野望を露わにしてしまったのは切ない。演じる張晉もまた良いキャラだからなおさらそう感じた。

しかし今回の葉問しーふーの、まあなんとエレガントなこと。
それはド兄さんが重ねたキャリアと年齢が活かされているのは言うまでもないのだけど、品格があって愛妻家で息子思いで人を尊んでご近所のマダームにもモテモテでなんとまあ隙がない。あまり品行方正なのもどうかと思うけど、まあしーふーだからそれはそれでいいか(笑)。冒頭で登場する、陳國坤演じる生意気なあの青年(とだけ言っておこう)との痛快なやりとりなどは、まさにしーふーとしての品格からなるものであったしね。
香港の武林界でもリスペクトをもらった彼が語るのは、守るための詠春という考えを受けての、未来の世代にそれを受け継ぐという決意がこめられていたこと。
こういうのがあるから、ワタシはこの映画に好感が持てたし、邦題もうまかったよなって思うのであった。



史実では、葉問の妻永成は彼が香港に渡っても佛山に残り、そこで一生を終えたというのであるが(だから一代宗師ではそのへんは忠実である)、ここでは彼女も一緒に香港で暮らしているという設定になっている。この永成(熊黛林)と葉問との愛もシリーズの見どころであるのだけど、今回は永成が胃ガンにより余命わずかとなったことも物語に絡んでくる。佛山の苦難の時代からずっと葉問のそばにいて、彼が危機を冒して戦う姿をずっと見てきただけあるので、病を抱えながらも、小学校をめぐるいざこざや、「詠春正宗」を名乗ってはなんとか戦いの場に引っ張り出そうとする張天志に向かう葉問を大いに心配する。だけど夫である彼も彼女の気持ちは痛いほどわかっているので、最期の時を一緒に過ごそうとする。フィクションではあるけど、こういうエピソードもバトルと並べても浮いてはいないのだから、今回はとても良くバランスの取れた構成だった。
製作発表当初はマイク・タイソンの特別出演で話題になったけど、これも物語から浮かずに処理できたのもよかったしね(まあ、タイソン自身のルックに「そういう顔にタトゥー入れたイギリス人不動産屋さんはさすがにおらんだろ?」という気にはなったが、映画だから気にするな)

そして最後にこれだけはいいたい。
今こそこのシリーズはド兄さんの代表作となり、この3作目はシリーズでも最高傑作となった。でもだからといって、一部にある「ド兄さんの葉問こそ唯一」という意見には納得できないし、返す刀で一代宗師を批判されたくない。むしろしたら倒してやる、と逆上する。
それはここでも書いてきたように、一代宗師が先行しているわけだし、どちらも同じ葉問であっても、アプローチも違えば演技も違う。だからこそ、アクションや娯楽性だけで同じまな板に乗せて論じることは意味がない。同じ映画としてエールを送り合っているようにも見えるから、比べることなどできないのだ。そこを心得ないといけないと思う。

原題:葉問3(Ip Man3)
監督:ウィルソン・イップ 製作:レイモンド・ウォン 脚本:エドモンド・ウォン 撮影:ケニー・ツェー アクション指導:ユエン・ウーピン 音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン リン・ホン マックス・チャン パトリック・タム ベイビージョン・チョイ チャン・クォックワン マイク・タイソン ケント・チェン

注:youtubeの仕様が変わり、縮小できないまま予告を貼ってしまいましたが、画面上のタイトルをクリックorタップすれば該当ページが開きますので、そちらでご覧下さい。

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《健忘村》(2017/台湾・中国)

3年前、『祝宴!シェフ』で16年ぶりに台湾映画界に復帰を果たした陳玉勳。もう面白くて大好きで、思えばこの映画があったから台南に通うようになったと言ってもいいくらいなんだが、大ヒットを飛ばした次は何年後?また10年開くの?と思ったら、さすがにそんなことはなかった。と言うかFBをチェックして驚いた。え、今やホウちゃんのミューズとして知られるすーちーが主演?そして時代劇?で、題名が健忘村?

時は清末民国初期。幼いころに父親とともにある村に移り住んだ秋蓉(すーちー)は王村長の息子丁遠(トニー・ヤン)と将来の約束を交わしたが、彼は3年待てと行って村を出てしまい、彼女が気に入らない村長は秋蓉と物売りの朱大餅を無理やり結婚させてしまう。
ある日、行商から帰ってきた大餅が死んでいるのが発見された。正確に言えばこれは、戻らない丁遠を待ち続けながら大餅にこき使われる生活に絶望した秋蓉が死のうとしてネズミ捕り薬を混ぜた包子を大餅が食べてしまったという事故であった。秋蓉に思いを寄せる萬大侠(ジョセフ)は彼女をかばうが、村長は秋容が殺したと疑う。
そんなギスギスした村に、天虹真人と名乗る怪しい男・田貴(王千源)がやってきて、周代から伝わる万能機器で、人々の悩みや煩悩を忘れさせる「忘憂神器」を村人に見せる。村長は彼を疑って幽閉するが、最悪の状態から脱したい秋容は迷いながらも彼を信じる。しかし、散々な目に遭わされた田貴は、忘憂機器を悪用して全ての村人の記憶を奪い、秋容を自分の妻に仕立てて村長に収まり、村を支配してしまう。
のんきで不自然なパラダイスと化した村。どうしてもここを支配下に置きたい隣村の実力者石剝皮(エリックとっつぁん)は郵便配達に身をやつした侠客集団の頭領・烏雲(林美秀)を村に送り込む。実はこの集団に丁遠が加わっており、先んじて村に帰るのだが、当然ながら村はすっかり変わっていて、これまた大騒ぎになり…。



すーちーが台湾語で語る予告編をどーぞ。しかしこのサムネイルだけ見ればなんかるろけんっぽい。ってなぜ侠女じゃなくるろけんを思い出す…。

予告にもある「村長好~♪」のポーズ付き挨拶は笑えるんだけど、中盤でまーさーかーそーゆー展開かあ!と驚愕>予告だけだとすーちーだけがそうなったのかと思ったので。
悲しいことは忘れたいけど、もしも誰もがみんな忘れてしまったら?というのがテーマかな、と思って観ていた。今回は初の中国との合作&初の時代劇でしかも賀歳片ということで、いつものようなひねりを加えずに割とストレートに行ったのかな、と思ったりして。とは言ってもちょっとブラックユーモアも効いている。小ネタの応酬も相変わらずだけど、祝宴よりは抑えめになっているのは、大陸向け対策?
でもねー、その大陸向きっていうのがあってなのかな、もちろん大笑いはできたんだけど、なにか物足りなかった。何が物足りなかったって、ユーシュン作品の魅力はやはり台湾ローカルのコテコテ感にあるのだから、それが大作になって出しづらくなったんだろうなってことなんだけど。コテコテにするなら、台詞を全編台湾語にしちゃうのも手だったか?(こらこら)
しかも大陸では上映前にこんなことになっちゃうし。あの映画には特に政治的メッセージは感じなかったけどなあ。多分ない…と思うんだが、深読みは…あまりするまい。

物足りない物足りないとは言うけど、それでもキャストの演技は楽しかったですよ。
この撮影が終わってからステと見事なゴールインを果たしたすーちーは、刺客の次にこれなので、いやあもうかわいいかわいい。大陸から呼ばれた王千源は『ブレイド・マスター』や近日感想を書く予定のアンディ主演『誘拐捜査』などでシリアスな演技を見せていたけど、何やっぱりコメディアンだったの?まあコメディアン顔だとは思っていたけどね。(それを言うたら王寶強もコメディアン顔か?)
前作の“台湾のビヨンセ”っぷりが未だに強烈な林美秀は、今回はうって変わって本編ではほとんど笑わない女刺客(!)。もちろん観てる分には笑えるんですけどね。彼女の部下たちのボイパ(ボイスパフォーマンスね)は楽しい。これで威嚇したりするもんだからなおさらね。
でも今回一番面白かったのがジョセフかなー。初見からどシリアスな役どころばかり続いてたからだろうけど、今回彼が演じた萬大侠はもう見事なまでの脳筋キャラで、件の立派な二の腕も見事にその威力を見せる。笑えるジョセフをほぼ初めて観たからってのもあるんだけど、クライマックスはホントに笑った笑った。

まあ、感想はこんな感じかなあ。結構さっくりしててすみません。もう一度観たら感想も変わるかも。
んじゃ、最後は楽しくこれで締めますか。

英題:The Village of No Return
製作:リー・リエ&イエ・ルーフェン 監督&脚本:チェン・ユーシュン
出演:スー・チー ジョセフ・チャン ワン・チエンユエン リン・メイシウ トニー・ヤン クー・ユールン エリック・ツァン  

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《擺渡人》(2016/中国・香港)

 今年の米国のアカデミー賞は作品賞の取り違えばかりが話題になったけど、その賞に選ばれた『ムーンライト』は、ゲイの黒人青年の成長を描いていて、同性愛者が主人公の作品として史上初めての受賞作だという。それと同じくらい話題にしていいと思ったのは、監督のバリー・ジェンキンスが王家衛の影響を受けているとはっきり公言していること。SNSでムーンライトの各場面と王家衛作品の比較動画が回っていて、いやいやいくらなんでもそれはこじつけすぎでしょ?と疑ってかかったのだけど、次の動画を見たらジェンキンスさんがガチで王家衛好きだったってことがわかって見直した次第(こらこら)。


 ああ、今や王家衛チルドレンは中華圏やアジアだけでなく、米国でも生まれているのか…と妙に感慨深くなってないで本題に行くが、その王家衛が率いる澤東電影公司も昨年で創立25周年を迎えたとのこと。自らの作品の製作を中心に、若手映画人への映画製作のサポート(張震監督×五月天石頭主演の短編《三生-尺蠖》も製作)、トニーや張震、台湾のアリス・クーやサンドリーナ・ピンナのマネージメント等も行って確実に仕事しているのを感じるのだが、その創立25周年記念として作られたのが、トニーの3年ぶりの主演作となる《擺渡人》。中国の作家張嘉佳による同名短編小説を原作者自らがメガホンを取ったもの。ちなみに原作はもともとネット小説だったそうだけど、現在は短編集『從你的全世界路過』に収録されて読めるらしい。気がついたら台湾で買っておけばよかったかな。


 舞台は上海あたりにあるバー「擺渡人」。経営者の陳末(トニー)は自らを擺渡人(フェリーマン)と名乗り、困っている人を助けるために奔走している。彼がこの商売を始めたのは10年前に出会ったバーテンダーの何木子(杜鵑)と出会って恋に落ちた後、ある事件で心を病んでしまったことがきっかけ。
 パートナーの菅春(金城くん)は、幼馴染の毛毛(サンドリーナ)に恋をしているが、老舗の焼餅屋を引き継いだ彼女は管春のことを全く覚えておらず、しかも名物だった焼餅はものすごく評判が悪く、店も危機を迎えていた。管春は彼女に振り向いてもらえるべく奮闘する。
 新しく擺渡人で働き始めた小玉(angelababy)は、幼いころに出会った馬力(ルハン)に恋をしていたが、現在の馬力(イーソン)は国際的な歌手となり、婚約者の江潔(リン・ホン)もいた。しかしある夜、擺渡人で彼はトラブルを起こし、江潔とも別れて再起不能にまで陥る。小玉は彼を自分の家に連れて帰り、復帰を手助けすべく擺渡人となることを決意する。

 …と、このような3つの物語をベースにして、山雞(サム)と十三妹(クリス・リー)というどっかで聞いたことのある名前の古惑仔兄妹が登場したり、懐かしのアーケードゲームが出てきたり、9つのバーをはしごして、提供されるお酒を飲み歩いて勝負するバー・ゴルフなんてものが行われてしっちゃかめっちゃかの大騒ぎ。まるで往年の香港映画のようなカオスなノリが全編を覆う。音楽も実に雑多で、無間道なあの曲から、なんでそこでこんな日本語曲が(ダイレクトな世代ならきっと爆笑なんだろうが、あいにくね)!まであれこれ。こういうカオスさの一方、陳末と何木子の失われた恋模様や全てを忘れた毛毛のために自らを犠牲にしてまで恋心を思い出させようとする管春のひたむきさは、確かに王家衛的モチーフでもあるし、遠回しに見れば村上春樹的であって、この原作者がいかにハルキ&王家衛チルドレンであるかというのは推測できるところである。
 …ただ、聞いた話だと、原作は全然全くこれっぽっちもコメディじゃなく、もっと切ない恋愛ものらしいようなのだが、なんでこうなった。

 封切当初は大ヒットだったものの、後から公開された星仔&徐克コンビの《西遊》に追いぬかれたり、大陸では酷評、香港でも旧正月映画の始まりと同時に終了したと聞く。(そういえば大陸ではトニーの声が北京語吹替と聞いてもしや台湾でも?と心配したが、トニーやベイビー、イーソンなどの広東語スピーカーはそのままだったのでホッとした)3年ぶりの王家衛製作作品、トニーも3年ぶりの主演、共演も金城くんやイーソン、脇にサムと香港度は確かに高いし、セルフパロディ的なモチーフだったり往年の香港映画にリスペクトを捧げているのがよくわかるし、これまで25年間澤東作品や90年代の香港映画を愛してきた我々にはご褒美のような作品であることは確かである。
 でも、それならいくら中国大陸で作ったとはいえ、香港を舞台にすべきじゃなかったのかなあ。それが実現できていたら、もうちょっとポイントは高かったかもよ、原作者さん。初監督&大物スタッフ&キャストでちょっとはしゃぎ過ぎてる感も多少覚えた。

 そんな作品でもトニーは楽しそうだし(まあ、王家衛に付き合うと長年かかるからね)、金城くんも笑かせてくれるし、イーソンもいい具合に演技派歌手っぷりを見せてくれるから、その点においてはちょっと甘く見ちゃう。女子だとベイビーよりサンドリーナがいいな、やっぱし。ちょっと出の皆さんも結構豪華で、特に台湾方面の大物も出ていて面白んだけど、アリスが出ていたのは気づかなかったよー。

 もしかしたら、こういう90年代的ノリの映画ももう中華圏では時代遅れなのかもしれない。先ほども書いたけど、もしこの映画の舞台が香港だったら、やはり多少は変わったのだろうか?香港映画も変わりつつあり、中華圏の映画に関わり続けている澤東もその傾向はよく気づいているだろうけど、今後この会社がどうなっていくのかということも気になるなあ。台湾でのプロデュースももちろん、もうちょっと香港でもやってくれてもいいのよー、などと勝手な希望を書いて感想は以上とします。

英題:See you tomorrow
製作:ウォン・カーウァイ ジャッキー・パン 監督&原作&脚本:チャン・ジャージャー 撮影:ピーター・パウ 編集:デビッド・ウー 衣裳:ウィリアム・チャン 音楽:ナサニエル・メカリー アクション指導:谷垣健治
出演:トニー・レオン 金城武 Angelababy イーソン・チャン サンドリーナ・ピンナ リン・ホン トウ・ジュエン ルハン クリス・リー サム・リー ジン・シージエ キン・ジェウェン アリス・クー 

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2016funkin'for HONGKONG的十大電影

恭喜發財 萬事如意!
というわけで、まずはお約束のこれを。
去年のヴァージョンなのは、去年の記事に載せ忘れたので…というよりも、事故に遭ったアンディ先生の快復を心から願っております。


 さて、昨年は中華電影を15本しか観てなかったのでした。うち地元鑑賞は昨年2位に選んだ刺客を含めてたったの4本、そのうち中国映画『見えない目撃者』を見逃しました。当然香港映画は昨年にひき続いて上映なし(成龍作品はすでに中国映画ですしね)はあ…。
 だから選ぶのは楽でしたね、というか、必然的に映画祭作品が上位に来るのは致し方無いですね。てなわけで、今年は久々に1位からご紹介しますよ。

1 侠女(デジタル修復版)

 ああすみませんすみません、今回クラシック作品を初めて1位にしちゃいました。もうこの本数だからしょうがないと思って下さい。これ観たおかげでるろけん観ても守り人観ても、「あーこれ侠女リスペクトじゃん!」という日々を送っています。それくらい重要です、はい。

2 大樹は風を招く

 昨年つくづく残念だったのは、香港で話題を呼んだ問題作《十年》を観る機会に恵まれなかったこと。一般公開があるとしてもあの映画をあまり政治的に捉えてほしくないなーと思っているんだけど、その《十年》のいい影響を受けていて、まさに今の時代だからこそ返還時を客観的に観ることができるとも言えた映画でした。

3 シェッド・スキン・パパ

 めでたく今年4月の香港公開が決まって何より。演劇と映画とジャンユーと古天楽の幸せな出会いが、香港のポップカルチャーに繁栄をもたらしますように。

4 ゴッドスピード

 サイト「銀幕閑話」では見事昨年のアジア映画第1位に選出。マイケル・ホイさんの好演もあいまって、ユーモアと過激さが共存するなんとも言えない不思議な味わいのロードムービーは、やはりインパクト大きかった。

5 山河ノスタルジア

 ジャンクーが初めて描いた愛についての物語。利便性や欲望を求める人々も、愛には心を掴まれているといった具合だけど、それに希望を託すのも悪くない。

6 メコン大作戦

 次回作もポンちゃん主演のオペレーションものになるという話。ますます過酷なシチュエーションを設定する鬼ダンテっぷりが加速するんでしょうねー。ああそれもまた楽しみである。

7 タイペイ・ストーリー

 やっとヤンちゃん再評価の時がきた。もうこの世にいらっしゃらないのが切ないけど、おかげで噂だけ聞いていて観られなかった作品がやっと観られる。ホウちゃん、かわいかったよなあ。

8 台湾新電影時代 

 ホウちゃんやヤンちゃんの旧作がリマスタリングされていま観られるのも、台湾ニューシネマの再評価があってこそなのだろう。映画が消費されてきている今だからこそ、アジア映画史の重要な位置にある映画たちは、日本の古い邦画と同じように観られる頻度が上がってくれたらいい。

9 私の少女時代

 近年の若者向けの壁ドン系邦画がどうも苦手で、お願いだからこういうのばっかで選択の幅を狭めないでーって思っているんだが、あの頃とかこれのような、中高生以上も楽しめるちょっと時代設定の古い青春映画がもっと増えてくれてもいいんだけどね。

10 最愛の子

 このところアクションものが多かったピーターさんが、久々に人間ドラマに戻ってきた。もともと国境を股にかけて活躍してきた人だけど、今後中国で活動するのなら、あまりドメスティックにならないで、過去作品のような洗練されたものが観たいかなと思う。勝手な意見ですが。

次は個人賞ですよ。いつものごとく、賞に決まっても特に何も与えられませんが。

主演俳優賞:ン・ジャンユー(シェッド・スキン・パパ)マイケル・ホイ(ゴッドスピード)
ジャンユーは久々に香港映画での主演と、何役も演じ分ける無双っぷりが楽しかった。ホイさんも久々の主演、そしてユーモアとペーソスをたたえた安心感が面白かったので両雄受賞。

主演女優賞:チャオ・タオ(山河ノスタルジア)
いつも幸薄い印象の涛さんだけど、今回が一番役としては幸せに見えた感がある。おばちゃんの役も演じたけど、まだそこそこ若いんだよね。ジャンクーとお幸せに。

助演男優賞:レオン・ダイ(ゴッドスピード)
踏んだり蹴ったりだったというか、まさに「ままならない人生」を体現したような雰囲気が面白かった。そういえばまだ監督作を観たことないので、いつかその機会に恵まれますように。

助演女優賞:シルヴィア・チャン(山河ノスタルジア)
孫ほどの年齢の少年も恋に落ちる程の魅力とは!美魔女とかアンチエイジングなどを超えて、こういう60代を目指したいものです。

新人監督賞:ロイ・シートウ(シェッド・スキン・パパ)
あの『夜半歌聲』のキモいボンボンが、今や香港演劇界の大御所とは…(微笑)。役者としてはまだまだスクリーンで観る機会があるけど(パンちゃん最新作《春嬌救志明》にも端役で出るみたいだし)、また監督作も近いうちに。

最優秀アクション賞:シュー・フェン(侠女)
本当は最優秀女優賞にしようかと思ったのだけど、今はプロデューサー専業だしなあ、というわけで(そんな理由でいいのか?)まさに歴史に残るあの鮮烈なアクションを体現した中華電影史の重要人物として、この特別賞を。

心から尊敬しますで賞:キン・フー(侠女)
20年近く中華電影迷やってきて、やっとこの歳になって侠女が観られたのは遅かったかも…とも思ったけど、香港のアキラ黒澤とも称される名匠の作品を大きなスクリーンで観られたのは本当にいい映画体験だったし、中華電影を好きで本当によかった。というわけで、敬意を込めての特別賞。

 自分の昨年の中華電影鑑賞の低調ぶりは、武蔵野館の改装や日記blogでも愚痴っているような事情があるにしろ、それでも旧作をTV放映やソフトでフォローできなかったので惜しかったよなーとも思います。仕事も忙しく、中華以外の映画もガンガン観ている中でも、今後もやっぱりどういう形ででもちゃんと観ていかなきゃならんなあ。
 そんなわけで、この旧正月で何作か録画を観たので、暇のあるときに感想をアップしていきますね。

 最後に、今後地元で観られる中華電影の話も。
この年明けに東京で大量の中華電影が公開され、なんでそんなにいっぺんに、とか、どうせこんな田舎には来ないんでしょ?とか相変わらずやさぐれていましたが、なんと『人魚姫』は3月に観られます。ありがとう中劇さん!
 後は、年末年始に観られなかった『湾生回家』が2月に、そして『牯嶺街少年殺人事件』が4月にルミエールで上映です。この機会に、多くの人達が中華電影に楽しみ、今後もいろんな作品が盛岡までやってきてくることを願うばかりです。

 では、今年も中華電影迷の皆様にとっても良い年でありますように…。

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ストームブレイカーズ 妖魔大戦(2015/中国)

 新宿武蔵野館が復活して中華電影の上映が徐々に増加しつつありますが、この年末年始の帰省期間は、ちょうど新作公開の谷間にあたってしまい、残念ながら湾生回家(2月に地元公開予定)も小さな園も見逃しました。でもなぜかこれは観ました。
『ストームブレイカーズ 妖魔大戦』という壮大な邦題に反して、原題は《万万没想到》。なんだそれは。 

Surprise

ジャパンプレミアは広島国際映画祭だったようです。

 天竺に向かう唐僧(ボーリン)と悟空一行が巻き込まれた大ピンチはおいといて(笑)、主人公はなぜか人間界で暮らすアホな下級妖怪の王大錘(白客)は自分を大物だと思っているけど、周りの人間にはバカにされてる。今日も雇い主の小美(楊子珊)にこき使われながら焼餅を売っている。そんな彼が霊力を失って人間になった悟空と出会ったことから始まる大騒動。

 元ネタの《万万没想到》というのは、監督も務めるネットクリエイターの叫魯易小星が2013年から製作したネットドラマ(現在4シリーズまで製作。某ちうぶでも観られるのでリンク貼っとく)だとか。主人公の名前は常に王大錘で、この映画同様白客が演じているとのこと。検索したら日本語の紹介記事もあったのでリンク貼っておくけど、中国実写版ギャグマンガ日和ですか、はあそうですか、としかリアクション取れなくてすみませぬ。

 ああ、これを知って大いに納得したわ。映画を観た時に感じた軽さと安さとおバカさと大味さに。でもね、それでも嫌いにはなれないんだよねー。かえってそれを逆手に取って楽しく作ってる感があって。日本でも同じようなノリの安いドラマや映画はあるけど、あまり安いとこっちも腹が経つからね(笑)。むしろ、人気があることによって、スケールアップした中で安さを武器に自由にやっちゃってる感が楽しいとは思った。

 メインキャストは若手、ゲストにボーリンとエリックとっつぁんを迎えていても、あまり大作感が出てないのも悪くない。近年の大陸映画は監督や俳優を大陸以外から迎えて台湾や香港の力を借りる感を覚えてそこで多少もにょるところもあったんだけど、これは完全に大陸オリジナルだし、そのへんの感覚は以前書いたモンスター・ハントにも通ずるところもあるかな。なによりも健全で、頭空っぽにして楽しめるのはいいんじゃないの?

 それでも煩悩まみれの唐僧はもっといじめてよかったんじゃないのとか、王大錘の村を治める呪術師の慕容白(馬天宇)が、全員アホアホキャラが揃っている中で唯一最初から最後までどシリアスだったのはもっとなんとかしてもいいかも、なんて多少思ったけどね。あ、そうそう、スペシャルゲストはまだいた、この慕容白の先祖を演じていたのが、孫文または中華な五郎ちゃんことウィンストン・チャオだったのですが、うっかり流してしまいました。ははははは。

 しかし、一番謎なのは、なぜこの映画が日本で買われて公開されたかなんだよな。それが知りたい。元ネタのネットドラマも結構な現代中国語スラングの勉強になるというので、ちょっと観てみたくはあるんだけど…。 

原題(&英題):万万没想到(surprise)
監督:ジョシュア・イ・シャオシン 製作:ホアン・ジエンシン ジェフリー・チャン 美術:ハン・ハン 音楽:高梨康治
出演:バイ・クー ヤン・ズーシャン マー・ティエンユー チェン・ボーリン エリック・ツァン ウィンストン・チャオ

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メコン大作戦(2016/香港・中国)

 ここからは、今年のTIFFで観た映画の感想。

 3年前の『激戦』、来年年明けに日本公開される『疾風スプリンター破風)』に続けてTIFFで上映された、ダンテ・ラム監督の新作『メコン大作戦』。誰が呼んだか鬼ダンテ、そして漢気映画の巨匠。
昨年9月から年をまたいで撮影していたそうで、昨年のTIFFでの来日時は確かバンコクから直で来たというようなことを言ってたのを覚えている。

 2011年、メコン川流域の「黄金の三角地帯」にて中国船が襲撃された事件を基にし、政府から特命を受けた雲南の麻薬捜査官高剛(張涵予)がタイに赴き、潜入捜査官の方新武(ポン)と共に三角地帯を仕切る麻薬組織に立ち向かう物語。


このサムネイルが…(泣)なぜ泣いてるのかは後ほど。

 ここ数作のダンテ作品の常連であるポンちゃんに加え、先ごろ無事にロケが終了したウーさん最新作《追捕 MANHUNT》にてフクヤマと共に主演を張るハンユーが主演。言語は普通話(北京語)なので、前作に続いて香港の要素は全くなし。
 それでも面白かったのは、リアリティのあるロケーションと力の入ったアクション、そして中国公安が主人公でありながら堅苦しく描かれていなかったことからだと思う。制作側もそれを期待してダンテさんを起用したのだろうけど、ずいぶん時代は変わったものである。

 上映後のティーチインによれば、ロケはほとんど実際の事件現場で行われたそうだとか。でもアクションはあれほど派手じゃなかったよ、とのことで、まあそれは当然ですね。当初は谷垣健治さんにもアクション指導のオファーがいっていたそうです。モテモテですな(こらこら)。 

 アクションだけでなく、人間ドラマも見応え充分。
高剛率いる特殊チームも個性的で、敵対する麻薬組織とも実に好対照で面白かった。前者は射撃・偵察・諜報などのスペシャリストが揃っていて、コードネームは中国の神々にちなんだもの。特によかったのが麻薬犬の哮天(シャオティエン)。そう、わんこ(といってもそれなりに立派なシェパード)もチームの一員なのである。勇敢かつ健気な活躍を見せてくれるので、犬派じゃないワタシも思わずグッときてしまった。
 後者の面々も内部で様々な軋轢があったり、いかに組織を動かしているかもわかって興味深かった。組織には子供も多く、少年兵として銃器を扱うので、劇中でどんどん殺されていくという残酷さも描かれる。辛いなあ。今後日本公開が検討されるなら、ここで引っかかりそうな気がする。うーむ。

 で、中心となるハンユーとポンちゃん。
ハンユーは代表作の『戦場のレクイエム』を観てないし、『孫文の義士団』で最後にやっと登場する孫文くらいで、じっくりと見るのはこれが初めてか…と思ったら、ああそうだった、特殊身分にも出ていたか。ダンテさん曰く、起用の理由は「中国警察が主人公なので男っぽい俳優が欲しかった」とのことで、生真面目で熱いキャラはまさに当たり役だった。これは否が応でも楽しみになるじゃないですか、追捕が!
 変幻自在な潜入捜査官の方はかなり過酷な役どころ。3作連続登板のポンちゃんにとっては、今回が一番過酷だったかもしれない。当然、トレーニングはやってもらったとか。登場時の髪型とヒゲが違和感あったので、リアルであっても似合わないと感じたのだが、変装用で取ってもらえてややホッとする。その彼もかつてはドラッグに恋人の命を奪われるという壮絶な過去を背負っており、高剛とは最初は対立するものの、やがて手を取り合って組織に挑むという展開はやはりぐっときますわ。

 社会派にも作れる実話をあえてアクションで彩ったのは、テーマに対する敬意をこめており、先行して発表された事件に関する書籍やTVドラマでは描かれなかった部分を描くことに重きをおいたそうだ。もっとドラマも盛り込みたかったそうだが、2時間でまとめるのは大変だったとのこと。
 中国大陸では記録的大ヒット(香港ではそうではなかったらしいが)を飛ばしたのも、そのダンテさんの意図を汲み取って観客が観たのかもしれない。なんといっても中国警察のプロパガンダになっていなかったのは見事であったし。

 

そんなわけでこのところは大作が続いているダンテさん。
新作も楽しみだけど、たまには香港にも戻ってきてほしい。
そして、そろそろ実現させてもいいかもですね、トニー&ニックさん主演の話を。^_^

原題(&英題):湄公河行動(Operation Mekong)
監督:ダンテ・ラム
出演:チャン・ハンユー エディ・ポン チェン・パオグオ ロー・ワイコン

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モンスター・ハント(2015/中国・香港)

 blogをお休みしている夏の間、ワタクシはこの巨大不明生物映画にまんまとハマっておりました(笑)。しかも3回も観に行っちゃいました、すみません。だっておもしろかったんだもーん、てへ(おいおい)
 ネットの記事もあれこれ読んでいるのだけど、中華趣味には日経ビジネスオンラインのこの記事(すいません要登録です)が面白かったですねー。他に中国関係で書かれていたのはこの記事この記事もあったけど、うーん、ちょっと悩んだ。というか、台湾と香港では既に公開済み。大陸ではこれからか?

 閑話休題。さて、この巨大不明生物は英語で言うとmonsterだけど、この夏は大陸からもずいぶんと小さくなるけどモンスターがやってきてました。はい、昨年大陸で大ヒットした『モンスター・ハント』ですよ。シネマートの紹介ページ一覧もリンクしておきます。

 中国では珍しい実写+CGアニメミックスのファンタジー映画。昨年末に星仔の『人魚姫』に越えられるまで歴代興行成績№1を記録していたそうだ。
 監督のラマン・ホイは香港出身で、ドリームワークスのシュレックシリーズ等に関わっていたそうだ。日本からは美術デザインで、お馴染みの種田陽平さんが参加。こちらのインタビュー記事もリンク貼っておきます。

 人間界と妖界が共存する昔の中国を舞台に、内乱から逃げてきた妖怪の王妃が、人間界にある小さな村の若き村長宋天蔭(井柏然)に托卵→妊娠!?という展開に、ついつい『精霊の守り人』かよ!と思わず叫んでしまったのは言うまでもない(笑)。
 そんな天蔭が王妃の腹心の部下だった夫婦妖怪(エリックとっつぁん&サンドラ)に狙われたり、妖怪ハンターの小嵐(白百何)に助けられて旅立ったり、彼女の同業者羅剛(姜武)にも追われたりなんだりしながら、なんとか出産を迎え…。

 で、こんなん↑が1匹生まれてきた。この人面大根…じゃなかった、これが妖怪王の忘れ形見。泣き声をもとにして名づけられたその名もフーバ(胡巴)。やがて、フーバを手に入れようと敵対する現妖怪王だけでなく、妖怪グルメの好き者人間たちも現れる。

 脇は香港コンビ(こらこら)や姜武の他、湯唯ちゃんやヤオ・チェン、ウォレス・チョンなどなかなかいいキャストで揃えられ、主役を張る井柏然(当初はコー・チェントンがキャスティングされる予定だったそうだ)&白百何コンビも熱演だし、アクションも楽しい。何より、いろいろ制約のありそうな大陸で、オリジナルのファンタジー映画ができたことがすごいと思う。

 しかし、某ポケモンも某ウォッチも登場するモンスターはかわいいんだけど、このフーバが…どうしてもかわいいとは思えないんだよなあ、個人的には。日本的かわいいや港台的かわいいとは全く違うものに思えたのよね。でも、この夏に日本公開されたとき、SNSではフーバかわいいーという意見も少なくなかった。うむ、ワタシの感覚が違うのだろうか。
 ま、意見には個人差がありますってことで許してつかーさい。

 大ヒットしたということで、当然続編も現在製作中。
アクション監督に我らが谷垣健治さんも加わるということで、楽しみが増しているのだけど、先日衝撃のニュースが飛び込んできましたよ!



 この画像でもわかるように、なんと、我らが梁朝偉先生が新キャストとして新加入ですよ!ついでに動画もつけますよ!


 いやあ、これはますます楽しみだわ。なんてったってフーバよりかわいいもの、もう50過ぎてるのに。※意見には個人差があります 
 動画によると、再来年公開を目指しているとのことで、続編完成及び日本公開の暁には、特集上映じゃなくてミニシアター系全国順次公開くらいの規模くらいでやってほしいものですね。

原題:捉妖記
監督:ラマン・ホイ 製作:ビル・コン 美術:種田陽平 音楽:レオン・コー
主演:バイ・バイホー ジン・ポーラン チアン・ウー ヤオ・チェン ウォレス・チョン サンドラ・ン エリック・ツァン タン・ウェイ エレイン・ジン

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山河ノスタルジア(2015/中国・日本・フランス)

 先に書いた『台湾新電影時代』の中で、「台湾映画に比べて中国映画は人間が描けていない」という論評をした映画人がいた。あれ?かつての第五世代は政府やら検閲に文句をつけられようとしても、自分の描きたいテーマをもってスクリーンに人間をうつしだしてきたんじゃないのか?などと、多少昔のことを知っている人間はついそう思いがちなのだが、その中心人物であった張藝謀も陳凱歌も、今やすっかり大作映画の巨匠になっちゃったので、今の時代でなら彼らがそう言うのもまあわからなくはないかな、と多少思い直した。

 ここ数年では中国映画もかなりエンタメ方面によってきたものが日本でも紹介されるようになったが(香港との合作の急激な増加も、もちろんその背景にはあるのだろうけど)、そんな中でも映画作家の作品が引き続き紹介されるのは今や貴重な機会となった気がする。それなら好むと好まざるとにかかわらずしっかり観なきゃ、って気持ちを持っている。特にジャンクーは、中華圏映画の上映がすっかりなくなってしまった地方都市で、ジャッキー作品と同じように日本で公開されたらかならずこっちでもやるという感じになっているのでね、と以前書いたことをまた書いてみる。
 そんなわけで新作『山河ノスタルジア』を観た。

 
 

 1999年、汾陽。ペットショップボーイズの「Go West」に合わせて踊る男女の中にいる沈涛(趙涛)。彼女と実業家の晉生(張譯)、鉱山工の梁建軍(梁景東)は中学の同級生。二人とも涛に想いを寄せているが、彼女は野心を持つ晉生のプロポーズを受け入れてしまう。二人は結婚し、失意の建軍は内モンゴルの鉱山へ転職する。やがて涛は男の子を産み、晉生は米ドルにちなんで「到樂(ダオラー)」という名前をつける。しかしその幸せも束の間、涛と晉生は離婚し、ダオラーは晉生に引き取られて上海に移り住む。
 2014年。涛は汾陽でガソリンスタンド会社経営により実業家として成功し、高級マンションに暮らしてはいたが、最愛の息子の不在に寂しさを覚えていた。久々に汾陽を訪れた建軍とも再会するが、昔のような関係には戻れないことを知る。そんな中、友人を訪ねて出かけた父親が旅先で急死。涛は上海からダオラーを呼び出し、しばらく一緒に生活するが、息子は幼いころに別れた母親を本当の母親と思えない。そして、涛に間もなく父と共にオーストラリアに移住することを告げる。
 2025年、オーストラリア。ダオラー(董子健)は19歳の大学生になっていた。晉生は銃刀法の改正に乗じて、本物の銃を売りさばいて大金持ちになっていた。すっかり中国語を忘れてしまい、父とも話ができなくなってしまった彼は、カナダから移住してきた香港出身の中国語教師ミア(シルヴィア)と出会い、彼女の講座を受けることになる。
 母親と同年代のミアとダオラーはたちまち恋に落ちてしまう。彼女との恋愛で彼が得たものは、遠く離れてしまった故郷と、全く覚えていない母への郷愁だった…。


PSB版はリアルタイムで聴いたので曲は知ってたけど、このMVなかなか強烈…。

「Go West」がかなり印象的な使われ方をしていると聞いていたけど、確かにファーストシーンで涛たちが踊るのに合わせてこの曲がかかるのは強烈。2年前のドキュメンタリーで、彼は自らの映画の原体験や青春時代を語っていたけど、当時の中国の地方都市のいかにも田舎ーな風景とこの曲とのマッチングに、これで同時代感を覚えても間違いではないのだ、と改めて思わされた。
 でも印象的だったのは断然こっちの方。サリー姐さんのこの曲。
こっちの方がジャンクーらしいし、90年代の中華好きには親しみ持てるよね?

 先のドキュメンタリーでは『プラットホーム』の現代版を作ると言っていたけど、この第1部がまさにそれか、と思った。時代はあれより10年後になるけど、主人公の三人がリアルタイムで青春を送り、ジャンクーも経験した時代。そういえば建軍役の梁景東もプラットホームに出ていたんだっけ。これを経てもう一度見直すと、印象も変わるんだろうな。それもあって、涛が中心になる第1部と第2部はいかにもジャンクーらしい。

 だけど、それらよりよかったと思ったのが、ダオラーが主人公となる第3部だったりする。そしてこれがあるからこそ、ジャンクーが何を描きたかったのかハッキリした。それは愛だった。愛と言っても、男女間の恋愛も含む、母性愛に親子愛、そして故郷への愛。西へ行こうと踊りながらも、結局は故郷に留まる涛と、母の思い出が薄く、自由な地に生きても不自由を感じるダオラーを結ぶのがその愛で、個々の想いにそれが集約される。そこにグッと掴まれるし、ラストで雪の舞う汾陽の地で中年になった涛が再び「Go West」を踊るのは、ある意味方角的には西を目指して舞い戻ってくるだろうダオラーとの再会を期待されるようにも感じるしね。

 とかなんとか言いつつも、実はシルヴィア姐さんがよかったんですよ。
ご本人のキャリアを彷彿とさせ、かつ40歳年下の男の子と恋に落ちてしまう役どころだから。しかもちゃんとそこに説得力があるからいい。ああ、あと20年くらいしたらワタシもこーゆー女になりたい(無理)。
 あと、ダオラーを演じた董子健も印象的だった。ググってみたら東京倶樂部さんで紹介されていて、『カンフーハッスル』のあの粥麺屋のおっちゃんがお父ちゃんと知って驚き。1993年生まれとなると、日本だと菅田将暉くんや福士蒼汰くんと同じか。現在台湾で公開中の《六弄咖啡館》にも出演しているとのことなので、今後いろんな映画で顔を観る機会が増えそうだな。
 しかし、ちょっと前ではジャンクー映画って趙涛を始めいつも同じ面々(今回も韓三明はもちろん出ていた)だったのに、ここ数作はメジャーな俳優がどんどん出演してくるよなあ。『カンフー・ジャングル』でも書いたけど、王寶強を知ったのも『罪の手ざわり』からだったわけだし。まあ、こういう進化は嫌いじゃないし、それあっても我が道を行ってる感はあるわけなのでね。

 とりとめのない感想になりそうなので、ここで締めますか。
でも最後に音楽について。ここしばらくは行定勲監督作品でお名前を目にすることが多かった半野喜弘さんが久々にジャンクー作品に復帰。最近のホウちゃんとジャンクー作品の音楽は林強と彼がそれぞれやっているって感じを受けるけど、画面に馴染むサントラは割と気にいってます。初監督作品の『雨にゆれる女』が今年公開予定とのことで、フィルメックスで上映があったり、ホウちゃんやジャンクーと何かしら絡んで展開できたら面白いかなーと希望しております。ああ、なんかものすごく話題が離れてしまった。まあこういう時でしか書けないので、許してくだされ。

原題&英題:山河故人(Mountains may depart)
監督&脚本:ジャ・ジャンクー 製作:市山尚三 撮影:ユー・リクウァイ 音楽:半野喜弘
出演:チャオ・タオ チャン・イー リャン・ジンドン トン・ズージエン シルヴィア・チャン

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最愛の子(2014/中国)

 日本に先駆けて香港・台湾・韓国で先行上映される岩井俊二監督の最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。先日、岩井さんが香港と台湾をプロモで回られていたんだけど、SNSで回ってきた下のtweetを見て、朝っぱらからうなってしまった。

 岩井さんとピーターさんは同い年であったことを思い出した。キャリアには共通点もあれば違うところもあるけど、どこか通じるものはあるかな。とはいえ、岩井さんは実写長編映画の新作が実に12年ぶりで、その間にピーターさんは香港から大陸に映画製作の場を移して精力的かつ多種多彩な作品を作り上げたもんな。そのへんが決定的な相違点かな。
ついでに言えば是枝さんとトニーとトムクルとも同い年です。
 あ、そういえばピーターさんも先日来日してたんだっけなーと思いつつ、その週末に『最愛の子』を観た。


 2009年、深圳。下町でネットカフェを経営する田文軍(黄渤)には、田鵬という3歳の息子がいるが、離婚した妻魯曉娟(郝雷)との決め事で、週に一度妻のところに鵬鵬を行かせていた。帰ってきた鵬鵬は近所の友だちと連れ立ってローラースケートを見に行くが、曉娟の車を見かけて追いかけていき、そのまま消息を絶つ。
 いつまでも帰ってこない鵬鵬を探し、捜索願を出そうと警察に行く文軍だが、失踪後24時間は届けが出せないと言われる。そして後日、防犯カメラの映像によって鵬鵬の誘拐が明らかになったことから、二人は様々な手を使って鵬鵬を取り戻そうとする。インターネットを駆使し、懸賞金をかけるが、思うようには情報が集まらない。文軍は店を畳み、児童誘拐被害者の会にも加入し、情報を得ようとする。
 3年後、安徽省で協力者の刑事韓(張譯)から、鵬鵬に似た少年が安徽省にいるらしいとの情報を受け、文軍たちは安徽省に向かう。田舎の農家にいた鵬鵬を文軍たちは確保し、村人に追われながらも奪還するが、6歳の鵬鵬は一緒に暮らしていた農婦・李紅琴(ヴィッキー)には吉剛と呼ばれ、さらには文軍たちのことを全く覚えていなかった。
 韓と地元の公安の調べで、鵬鵬をさらったのは紅琴の夫の楊だったことがわかったが、楊はすでに亡く、紅琴が子供の産めない身体だったがために、夫がよその女に産ませて連れてきたと紅琴は信じていた。しかも家にはもう一人、吉芳という妹に当たる少女がいたのだが、彼女もまた楊によって深圳に連れて来られた子供だった。吉芳は紅琴から引き離され、深圳の児童養護施設に収容される。
 鵬鵬の帰還で一件落着するかに見えたが、鵬鵬は深圳に戻っても、紅琴を慕って安徽に戻りたがる。そして、鵬鵬は無理であっても、せめて吉芳の親権は持ちたいと決意した紅琴は、深圳に出て地元出身の弁護士・高夏(佟大為)の力を借りようとする…。

 この映画の背景となっている児童誘拐は、公式サイトのページに詳しいので、ここでは説明はしない。
 日本公開が決まった時にSNSで情報をシェアしたのだが、小さなお子さんがいる地元のフォロワーさんが「ショック。なんでこんな映画が日本で公開されるの?楽しい映画じゃないでしょ?」と言われたのが胸に刺さった。もちろん、リプライでフォローをしたが、確かにこういう現実が中国だけじゃなくて世界中にはあるんだけど、日本では信じがたいってことはよく分かるもの。
 産みの親と育ての親の問題。これは過去にも『そして父になる』や『もうひとりの息子』などの映画でも取り上げられたけど、両ケースとも出産時の取り違えなので状況は違う。しかも、田家の二人は離婚しているとはいえ、息子をそれぞれ深く愛している。だからこそ厄介である。
 この映画が評価されるのは、誘拐された側だけでなく、子供をもらって育てた側の事情も描いて構成を保とうとしているところだ。紅琴は子供が産めないという事情があるし、鵬鵬を親元に返されても、孤児だったと証明された吉芳を手元に置きたいと願い、身を売ってまでも奔走する。
 映画を受けて書かれたこの記事でも述べられているが、児童誘拐は非常に複雑な背景があるため、全てがすぐに解決されるというわけではない。ただ、映画の製作と公開によってこの問題が注目され、法的整備も始められたというのはいい兆しだと思う。映画が作られた意義は十分にある。

  とは言ってみたものの、それじゃ自分が感動したのか、泣いたのか、と聞かれたら、実はそうではない。いや、それは決してこの映画がまずいってわけじゃないのだが、ピーターさんらしい隙のない作りだからこそ、いろいろ引っかかるのである。それは、紅琴の夫を殺してしまった(!)ことで罪の行方が宙に浮いてしまったり、キーパーソンが途中で鵬鵬から吉芳にシフトしてしまったり(そうしないと紅琴が単に鵬鵬に会いたいだけで深圳に出てくるのが問題になりそうだからか?)、とどめは紅琴が覚悟して行ったある行為がラストに結びついて「え?」となったことだったり。それはアリなのか?それを解決法としていいのか?と思いっきり首をひねってしまったのだ。加えて、紅琴を慕っていた鵬鵬が結局文軍たちの元にどう戻っていったかがあってもよかったのだろうけど、それをやると安っぽくなってしまうんだろうな。
 後半では鵬鵬を連れた被害者の会の面々が、彼に近づいた紅琴を激しくなじったり、やはり愛児を誘拐されている韓とその妻(キティ・チャン)が新たに子供を作るために捜索を断念するなど、戻ってこない子を持つ親のことも描かれていて、そういう点からのフォローも隙がないなと思っただけ、なおさらラストは本当にあれでいいのか?と思った。誰も責められず、誰もが傷ついているのだから、せめて救いがほしい、というのもよくわかるからなあ。

 スッピンかつ安徽省の方言でしゃべるヴィッキーはさすがの熱演で、金像影后獲るのも納得ではあったけど、それでもやっぱり綺麗すぎるかな。まあ意見には個人差があります。それもあってか、かえって黄渤のシリアス演技と、悲しみと怒りと嫉妬の表現が巧みだった郝雷に目が行っちゃいました。特に黄渤はこれまで観てきたのがことごとくコメディだったので、シリアスもハマるのがかえって新鮮だった。ロウ・イエ作品で注目された郝雷も、観るたびに同一人物とは思えないしねえ。そしてどうして見て一発ですぐわかるんだ佟大為(笑)。これから公開される周迅の『更年奇的な彼女』では相手役だというのに、相変わらずのイケてなさはなぜなんだ、この穀潰し(赤壁ネタ)。

 調子に乗ってこれ以上ツッコミ入れるのも野暮なので、そろそろ締めますか。
 とかく最近はあまりよく言われない隣国での出来事だが、名もなく貧しい人々の苦しみは、我々にも理解は容易なはず。そういうところからもっと関心を寄せてもいいのである。利用している映画感想サイトで好意的な声が多かったのにはホッとしたのだった。
 あれこれ言っても、この映画が良作であるのは確かである。

原題&英題:親愛的(Dearest)
製作&監督:ピーター・チャン 脚本:チャン・チー 音楽:レオン・コー
出演:ヴィッキー・チャオ ホアン・ポー ハオ・レイ トン・ダーウェイ チャン・イー キティ・チャン

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