映画・テレビ

【覚書】これまで観た中華電影、読んだ中華関連本一覧

(5/14追記)鑑賞作追加。

(3/13追記)鑑賞作及びリンクを追加して更新。noteは更新しています。

(1/14追記)blogとは別に、短いコラムのようなものを書く場所として、noteを始めました。
期間限定か、ダブル更新かはまだ未定ですが、こちらもよろしくお願いします。

大変ご無沙汰してしまいました。生きてます。まあtwitterではほぼ毎日tweetしてるから、そっちで生存確認はできますね。SNSメインになって申し訳ありません。
本業がかなり忙しくなっているのに加え、未だにPCもvistaなので、もう更新も大変で大変で(今年中には買い替えます)。春の香港旅行記以来、映画や本の感想もかなり溜まってしまいました。それでも完成次第なんとか感想等をアップしていこうと思います。短く客観的かつ批評的な文章を目指して書きますね。
全部記事を書くまで、この覚書をblogのトップにおいておきます。

映画祭で鑑賞 した映画
『メイド・イン・ホンコン』 デジタルリマスター版

『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』

『怪怪怪怪物!』
『超級大国民』 デジタルリマスター版
『ミスター・ロン』
『相愛相親』

『山中傳奇』デジタルリマスター版
『ジョニーは行方不明』

『天使は白をまとう』

劇場で鑑賞 した映画
『人魚姫』
『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』
『牯嶺街少年殺人事件』デジタルリマスター版

『イップ・マン 継承』
『グレートウォール』
『おじいちゃんはデブゴン』
『コール・オブ・ヒーローズ  武勇伝』
『レイルロード・タイガー』
『草原の河』
『湾生回家』
『十年』

『スキップトレース』
『海の彼方』
『マンハント』
『52Hzのラヴソング』
『空海 KU-KAI』
『ナイルの娘』

TV録画等で鑑賞
『誘拐捜査』
『ブラッド・ウェポン』
『やがて哀しき復讐者』
『盗聴犯 狙われたブローカー』
『九龍猟奇殺人事件』
《殺破狼・貪狼》
『77回、彼氏をゆるす』

読んだ中華関係本
『台湾少女、洋裁に出会う  母とミシンの60年』鄭鴻生
『日本×香港×台湾 若者はあきらめない』SEALDs
『星空』ジミー・リャオ
『蔡英文 新時代の台湾へ』蔡英文
『ハゲタカ2.5 ハーディ』真山 仁
『13・67』陳浩基
『僕が殺した人と僕を殺した人』東山彰良

以上です。
では、頑張って記事書きます。
書き上がり次第、随時UPいたしますね。

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天使は白をまとう(2017/中国)

原題の「嘉年華」は、カーニバルという意味で、英語の音に合わせて作られた単語らしい。中華圏では映画祭のカテゴリや小売店のバーゲンなどでこの言葉をよく見かける。英題直訳である『天使は白をまとう』は、題名の華やかなイメージを想像して見始めると、思い切り裏切られる。

舞台は中国南部のリゾート地に立つモーテル。そこに2人の小学生女子を連れて、街の党幹部が宿泊した。その翌日、モーテルに捜査が入る。どうやら泊まった小学生たちが性的暴行を受けたのではないかという疑いがかけられる。捜査を担当する検事は従業員の小米に協力を要請する。
当日夜勤に入っていた小米は18歳と自称しているが、実は最近16歳になったばかり。出生地の戸籍がない黒孩子で、一人でも暮らせるようにと暖かな南部までやってきたのだ。身分証明書を作成するには多額の費用が必要。彼女は当日の監視カメラの録画で幹部と少女たちが同じ部屋にいたことを確認していたことから、それを武器に幹部をゆすり、大金をせしめようと画策する。

海水浴にはまだ早いような早春の海辺に立つ、巨大な女性の足の像。全身こそ見えないが、赤いヒールやちらりと見える白いスカートから、その像がマリリン・モンローの像であることは容易に想像できる。その像を足の間から見上げる小米の姿がファーストシーンとなるが、事件の経過とともに像も大きく変化する。この像は中国に実際に建てられたものの、すぐ取り壊されたのを地元の少女たちが悲しがっていたという実話から想を得たと、監督のヴィヴィアン・チュウがQ&Aで話していたが、無戸籍児の小米や暴行を受けた小文が持つはずだった無垢の喪失と、マリリンが不遇の正直を経てスターになり、セックスシンボルとしてゴシップに晒されながら若くして亡くなった事実を重ね合わせていたと考えられる。(マリリンについての一般的なものと地元女子たちの認識の差も興味深かったとも)

小文も小米も心身ともに傷ついていく。訳の分からない災難が自分に降りかかり、母親になじられることも理解できずに、離婚して別居した父親の元に逃げる小文。故郷を離れて流浪し、南の地で安定した生活を手に入れたいのに、理不尽な暴力にも晒される小米。暴行事件は見えざる力が働いてあっさりと終結する。重く苦い展開は、中国だけでなく世界中の女性や子どもの受難でもある。しかし、事件の影響でモーテルがなくなり、行き場をなくして売春を強要された小米にはまだ選択する道があった。それはおぞましい場所から逃げ出すこと。傷ついてばかりの人生は嫌だ、まだ戦えるはずだという表情を見せ、捨てられたバイクに白いドレス姿で跨り、取り壊されたマリリン像と並走する姿には、先の見えなさもあったけど、希望もあると感じた。
このように、かなり皮肉めいていて、いくらでも深読みもできるこの作品があっさりと中国国内で上映が認可されたというのは考えれば不思議なものだ。ヴェネチア映画祭のコンペ部門に選出され、ジャ・ジャンクーが主催する平遙国際映画祭で最優秀賞と監督賞を受賞し、さらには金馬奨でチュウ監督が監督賞を受賞など、非常に評価が高いことが、ここ数年独立系作品に対して上映許可を出してこなかった当局の背中を押したのだろうか。チュウ監督はベルリン映画祭で金熊賞を受賞した『薄氷の殺人』のプロデューサーでもあるというので、現在の中国独立系映画の中心人物として今後とも注目したい。(フィルメックスで一緒に写真も撮ってもらったので、とちょっと自慢してみる。笑)

小米を演じたのは、劇中の年齢よりさらに若い14歳で衝撃を受けた文淇小姐。「ヴィッキー・チェン」という英語名の通り、確かにヴィッキーに似ている。台湾に生まれて北京で育ち、子役として活躍しているそうだが、なぜか実年齢以上の役どころが多いらしい。今年の金馬奨では、ヤン・ヤーチェ監督の新作《血觀音》で見事に最優秀助演女優賞を受賞。台湾はもちろん香港でも活躍してほしい若手女優。オーディションで選ばれたという小文役の周美君ちゃん(撮影当時11歳)も熱演。脇は事件の捜査にあたる検事に阿部力の奥さんといえば通じるのかな?の史可、遊園地でエンジニアをしている小文の父に耿樂、モーテルのオーナーに大活躍の陳竹昇と手堅いキャストも揃っている。
#MeToo ムーブメントもあって今や世界的な問題となった女性への暴力だが、事件発覚直前に映画として世界に披露された先見の明を感じる。この手の問題に腰が上がらない日本で、これを一般公開してくれる配給会社は現れてくれるのだろうか。

原題:嘉年華
監督&脚本:ヴィヴィアン・チュウ
出演:ヴィッキー・チェン チョウ・メイジュン シー・クー カン・ルー バンブー・チェン 

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ジョニーは行方不明(2017/台湾)

大都市台北に暮らす若者たちが抱える孤独を描く映画といえば、真っ先に思い浮かぶのが、エドワード・ヤンの『恐怖分子』『台北ストーリー』であり、蔡明亮の『愛情萬歳』である。80年代後半から90年代にかけ、歴史的にも経済的にも大きな変化を遂げていく台北で、家族や恋人と分かり合えなかったり、思いの届かない片思いやひとときの情事に身を任せても満たされない人々の姿をスクリーンで観てきた。
台北ストーリーの主演俳優であるホウちゃんこと侯孝賢のスタッフだった黄煕監督のデビュー作『ジョニーは行方不明』を観てまず感じたのは、先に挙げたような、いわゆる“台湾新電影”の名手たちが描いてきた作品群であった。しかし、これらの作品には似ていても、全く同じというわけではない。21世紀を迎えた若者たちの孤独の描き方と、それへの向かい方は先の作品とは違う。



予告はこちらから。

車のガス欠により地下鉄に向かう男、同じく地下鉄で出会う青年と女が、それぞれ同じダウンタウン台北の古めのアパートに向かう。青年李立はアパートの大家の息子で、発達障害があるために家族から心配されている。このアパートに越してきたばかりの女・徐子淇はインコと共に暮らしている。そして男・張以風は大家の依頼でアパートのリノベーション工事を請け負うことになる。
心配されるのが苦手で、だけど自由気ままにいたい立くん。台中から一人で出てきて、友人や恩師の悩みに親身になって付き合う風くん。そして香港からやってきた徐さんには恋人がいるらしいが、どうもうまくいっていない。そんなことがわかった時、徐さんが新しく家に迎えたインコが逃げ出し、それと時を同じくして彼女のスマートフォンには「ジョニー、いる?」と間違い電話が次々とかかってくるようになる。

徐さん、立くん、風くんに共通するのは、形は違えど、それぞれが孤独に向き合っていることだ。だけど、彼らは孤独を悲しむことはない。立くんには家族がいるし、風くんは人助けが好きだ。彼らは孤独と向き合うことで、今の自分の状況を確認し、次にどこに向かおうかと思案しているように見える。決して行き場のない絶望ではない。それは、この三人の中で最も悩んでいる様子が伺える徐さんにも見られる。好きな仕事に就き、好きなインコと気ままに暮らしているけど、不倫の関係を精算できないし、実は香港に子どもを残してきている。だから、この台北の真ん中で足踏みして迷っているようなのだ。
そんな彼女は風くんと出会い、他愛もない話をしていく。彼らの関係は決して恋愛とはいえない。あくまでもご近所さん的に描かれる。それでも彼女には救いになっている。風くんも時折淋しげな佇まいを見せるし、彼のバックボーンも詳細には語られない。だけど、人に寄り添って助けてあげる親切心があり、それが大切であることを知っている。そんな親切が徐さんを解きほぐし、一歩前に踏み出すことを決意させてくれたのではないか。

ゆったりした街の映し方、住宅地のすぐ横を流れる川の風景、そして台北のマチナカに架かる道路。徐さんと風くんが疾走する夜の高架沿いの躍動感は、王家衛にも通ずる。TVドラマから派生しての良質な青春映画を多く産み出してきた台湾映画界だけど、そのみずみずしさを経由して、新電影時代に見られたテーマを描くとこのように深化していくのだろうか、ということも観終わって考えた。そして、孤独であることは決してネガティヴではないこと、そしてどんなに辛くても人とふれあい、親切にしていく/してもらうことがいかに大切なのかを語ってくれたと思った。
我らがルンルンことクー・ユールン、黄遠の2人も好演だし、レバノンと台湾のハーフというタレントのリマ・ジダン嬢(金馬奬最優秀新人賞受賞。恭喜!)の無国籍さを活かした伸びやかな佇まいも実にいい。大きな事件もなく、淡々としたスケッチのように物語は展開するけど、その淡々さがなんともよい味わいだった。

フィルメックスの監督Q&Aはこちらで読めます。動画もあり。

原題&英題:強尼・凱克(Missing Johnny)
監督:ホアン・シー 製作:ホウ・シャオシェン イエ・ルーフェン 音楽:リン・チャン シュー・シーユエン
出演:クー・ユールン リマ・ジダン ホアン・ユエン チャン・クオチュー

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霊幻道士 こちらキョンシー退治局(2017/香港)

最近、twitterでこんな気になるやり取りを見かけた。

田中泰延氏古賀史健氏は共にフォロワーも多く、インフルエンサーでもあるお二方。
特に田中氏は映画コラムの連載も持っているので、映画に造詣が深いのもわかる。
…でもさ、正直いってがっかりしちゃった、このやり取りは。
確かに映画でも旅行でも返還以前で時が止まっている人が世の中にあまりにも多すぎて、返還直後から香港に通い、全てではないけど90年代の黄金期晩期からの香港映画を観てきた身としては、それだけを言われることにムズムズしてくる。ましてやノワールとか言われても、それは何を指すの?インファ?トーさん?とツッコミたくなるし。そして取りこぼされる王家衛。
ああ、書いてて虚しいけど、オタクだからそういうところには過敏に反応しちゃいますね。悪い癖です。すんません。

そんな往年の香港コメディ映画が懐かしい、田中さんと古賀さんにもぜひ観てほしい最新作の感想を書いちゃいますよ。

 



予告はこちらから。

この春の香港旅行は、珍しく香港国際電影節の開催前という谷間のシーズンで、興味を引く映画が少なく、あと1日帰国を遅らせたら、ショーンとエリックとっつぁんの社会派映画《一念無明》が観られたのにとガッカリしてた。でもその中でヒットしていたのがこの映画。
おっ、主演は最近名前と顔をよく見かける香港映画の新たなるスター、ベイビージョン・チョイ(以下べビジョン)じゃないか!そして共演にはずいぶんお久しぶりの錢小豪!久しぶりじゃないけどリチャード・ン!そして安心のゴッドマザー、スーザン姐!…で、これ何なの?キョンシーもの?

お気づきかと思われますが、実はワタクシは、霊幻道士と幽幻道士を全スルーしたまま、ここまできた中華電影迷なのであります。ちなみにジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』もこの秋やっと初めて観ました>あまり関係ないか
中国の古代伝承や志怪小説からヒントを得たキョンシーものは、Wikipediaによると1980年前後から映画に取り上げられており、香港映画黄金期の85年に公開された『霊幻道士』がその決定版となり、台湾映画の『幽幻道士』やアイドルものの『ハッピー・キョンシー』など多くの作品が生まれた。近年では、ジュノ・マックがやはりシウホウ主演で撮った「リゴル・モルティス 死後硬直(一般公開題・キョンシー)」という、コメディ要素抜きのがっつり怖そうなオマージュ作もある、とまとめておこう。

そんないちいち調べないとキョンシーものを語れないくらいのヘタレ香港映画好きのワタシが、果たしてこれを楽しめるか否か?と心配して劇場に入ったのだが…大丈夫でした、楽しめました(^O^)

香港開闢以来、この地には常にキョンシーが跋扈していた。そのため密かにキョンシーに対抗し、発見次第駆除する秘密捜査処理班を当時の行政が設立した。それはイギリス統治と中国への返還を経た現在も続き、香港市民の安全は彼らによって保たれていた。現在の部署名は、食環處秘密行動組。英語名はVampire Cleanup Depertment、略してVCD。
これはべビジョン演じるオタク青年の張春天が、ある夜VCDとキョンシーの格闘に巻き込まれてしまったことから始まり、キョンシーと戦う宿命を背負った彼がVCDの新人メンバーとして昼は街の清掃、夜はキョンシー退治に勤しみ、これまた宿命的な恋に落ちてしまうといういろいろとてんこ盛りな物語である…。

…と物語を説明すると、よくある話ではあるんだけど、これがまたとっても楽しい。
オリジナルの道士役・林正英は既に亡くなっているけど、シリーズ出演者であるシウホウ&リチャードさんがしっかり脇を固めているので、世界観的には間違いはないんだろう。特にシウホウはさすが!と嘆息するアクションの切れ味。キャリアを重ねてもキレキレだったので、これは若い頃の作品も観なきゃかな、と。
それでも現在進行系の香港映画好きとしてはやっぱりべビジョンに注目してしまう。今年で31歳だというのに、かわいらしい英語名とそれにふさわしいベイビーフェイス、香港演藝学院を卒業後、しばらく演劇をやっていたという地元人的にはいいキャリア、日本公開作では『ドラゴン×マッハ!』や葉問3にも出演し、主役も脇役もこなす器用さ、そして既婚者!はいそこでガッカリしないように。もちろん、アクションだって難なくこなしますよ。

日本では早くも今年の夏のカリコレで上映され、出演者が重複することから「霊幻道士」シリーズ最新作と銘打たれてしまったけど、もちろんつながりはない。ユーモラス感はもちろんあるけど、春天の両親の悲劇や彼と美少女キョンシー小夏との恋、そしてどちらかといえばグロ指向のラスボスキョンシーとの闘いなどの現代的アレンジは、オールドファンにはどう観られたのか気になるところ。

劇場公開は特集上映のみで終わってしまい、地方上映もないままソフト化されてしまったのは残念だけど、これからはCSの映画専門チャンネル等で放映されるし、youtubeムービーでレンタル視聴もできるようなので、多くの方にご覧いただければ幸いです。

田中さ~ん、古賀さ~ん、もし未見だったらぜひ是非これ観てくださいねー。
今の香港映画は決してノワールばっかりじゃないんですよー!>届くことはないとわかっているけど、このサイバー空間の片隅から一応叫んでみる

原題&英題:救殭清道夫(Vampire Cleanup Depertment)
監督:ヤン・パクウィン&チウ・シンハン
出演:ベイビージョン・チョイ チン・シウホウ リチャード・ン リン・ミンチェン ロー・ベン ボンディ・チウ ユエン・チョンヤン エリック・ツァン スーザン・ショウ

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相愛相親(2017/中国・台湾)

シルヴィア・チャン監督の『相愛相親』は、監督自身が演じる主人公・岳慧英が老いた母親を看取る場面から始まる。慧英自身も定年を間近に迎えた高校教師で、自動車教習所の教官である夫と地元TV局に勤務する成人した娘を持つ身であり、ここから物語は彼女の老い支度が始まるのかと思いきや、約20年前に亡くなった彼女の父親との合葬に、田舎に住む父の墓を守る最初の妻が猛反対するという展開になる。
そのおばあちゃんから見れば、慧英は妾の子。しかも「夫に先立たれ、その後ずっと独身を貫いた妻の貞節を称える」などという碑のある村に住んでいるものだから、村人も当然おばあちゃんの味方。おまけに娘の薇薇が撮った村での様子がテレビ局の看板番組に取り上げられることになり、さらに大騒ぎに…。

予告はこちら

父親の死をめぐり、最初の妻と最後の妻の子どもが争うなどというプロットは決して珍しいものではなく、総じてスキャンダラスに描かれるものであり、かつどこか古臭く感じる。しかし、この映画ではそうならなかった。20世紀後半からの中国の人々の背負った歴史も背景に匂わせつつ、急激に発展した21世紀の地方都市を舞台に、価値観や立場の違う人々のぶつかり合いから和解に至るまでを、ユーモアを交えて温かく描いている。

生真面目で家長を自認しているからこそ、愛し合っていた父と母を一緒の墓に納めたい慧英、貧しさから若いうちに別れることになってしまったけれど、死んでもなお夫を強く愛するおばあちゃん、そして慧英に反抗して家出し、恋人の阿達と共になぜかおばあちゃんのもとに住み着いてしまう薇薇の三世代の描き方が面白い。
慧英の強引さもおばあちゃんの一途さも同じ土俵に載せられているので、人によってはおばあちゃんに同情してしまう人も少なくないだろうし、その狙いも明白である。
ここで物語に客観性を呼び込むのが慧英の夫である尹孝平。妻の尻に敷かれ、家庭でも存在感が薄い、いかにも今時らしいお父さんなのだが、暴走する慧英と母親に不満ばかりを抱く薇薇の間に入って宥める役どころも果たしている。子は鎹ではなく父が鎹と言ったところか。彼を演じるのがあの田壮壮監督。『呉清源』がきっかけで面識ができ、キャスティングも想定して脚本を書いたということだが、その試みは成功していて、いいアクセントになっている。

また、岳家のファミリーアフェアも描きながら、慧英の担任するクラスで問題を抱えている学生・盧くんとその父親で売れない俳優・盧明偉と彼女の関係、西安から北京に行く途中で街にとどまり、ライヴハウスで歌うようになった歌手の阿達と薇薇の発展しない恋愛など、脇の人間関係も興味深い。これらの筋が物語にうまくハマり、慧英とおばあちゃんがそれぞれ決意をして争いを収めようとする結末に向かう。それを思うと、Love Educationという英題からは、自分と異なる人の行動や思考から相手を理解し、考えを深めて次に進むという意味がこめられていると考えられる。
発展著しい中国の地方都市の文化や生活も見え、いろいろと考えさせられながらもポジティヴ良心的な作品。『戦狼』のようなビッグバジェットではなく、第五世代のような巨匠たちの作品ともまた違う中国映画である。一般公開する価値は十分にあるので、各配給会社さんに是非期待したい。

東京フィルメックスではオープニングフィルムとして上映。
2年前に審査員を務めたシルヴィアさんが再び有楽町にやってきました。

上映時のQ&Aはこちらから。
動画は上記の題名にリンクした作品紹介ページでも観られます。

英題:Love Education
監督:シルヴィア・チャン 脚本:シルヴィア・チャン&ヨウ・シャオイン 撮影:リー・ピンビン 音楽:ケイ・ホアン
出演:シルヴィア・チャン ティエン・チュアンチュアン ラン・ユエティン ソン・ニンフォン ウー・イェンメイ タン・ウェイウェイ カン・ルー レネ・リウ

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イップ・マン 継承(2015/香港・中国)

昨年の『ローグ・ワン』と今年初めに公開された『トリプルX:再起動』という2本のハリウッド大作に次々と出演し、香港映画ファン以外にも知られるようになってきたんじゃないかと思われる我らが宇宙最強ド兄さんことドニー・イェン。
ただ、ハリウッドに出てくれたことで説明しやすくなったのはありがたいが、主演作が地方までくることは少なく、本当に悩ましいのもまた事実。現にこっちには『捜査官X』以降の主演作は全く来ていない。ファンの中には「映画館にきても入らないから、ソフトや配信で観る」などと思っている人もいるかもしれない(そんな人いないと信じたい)が、そう思うのは本当にもったいない。と、ド兄さんの出世作となったシリーズの最新作『イップ・マン 継承』を観て思ったのであった。

日中戦争を背景に、故郷の佛山を占領した日本兵との対立を中心においた2008年の『イップ・マン 序章』、戦後移住した香港で功夫の先達から認められ、彼らを見下す英国人ファイターに挑んだ2010年の『イップ・マン 葉問』から5年が経って登場した第3作。この間にはもともと企画が先行していたものの、例によっての王家衛だから完成まで13年かかった『グランド・マスター(以下一代宗師)』もやっと公開された。この他には、デニス・トー主演でハーマン・ヤウ監督の『イップ・マン 誕生』、同じくハーマンさん監督で秋生さん主演の『イップ・マン 最終章』も作られているけど、すみませんこの2本は未見です。



1作目は金像奨で作品賞も獲り、ド兄さんの熱演で映画界における葉問ブームが湧き上がったのが(ただし一代宗師は除く)もう10年近く前になるのにびっくりしているが、以前の感想にも書いているけど、実は諸手を挙げて評価しているわけじゃないんだよね、前2作は。大陸を向き始めた頃ってのもあってか、敵を中国以外の者に設定してイデオロギーやや高めな感じになってるのが引っかかった。そのあたり数年の時代ものアクション映画になぜか抗日的要素が入ってしまっていたのは、谷垣健治さんも著書で触れられていましたっけね。

今回の舞台は1950年代の香港。ド兄さん演じる葉師傳もすっかり香港の生活に馴染み、次男の葉正もやんちゃな小学生へと成長。貿易港湾都市として好景気に沸く香港での問題は地上げであり、葉正の通う小学校が標的にされることから、物語は不穏な方向へ動き出す。
この事件から出会うのは葉正の同級生の父親で、車夫をしている詠春拳使いの張天志(張晉)。向上心に燃える張天志は、いつかは葉問のように香港の武林に認められることを望んでいる。しかし生活のために闇の格闘技試合に出場し、上昇志向が強いために、やがて葉問と対立することになる。



戦時中→対戦直後→50年代香港と時代を移し、その時々の状況に応じた好敵手が要問の前に現れ、彼と拳を合わせる。先に書いたように、全2作の敵はいずれも香港(というか中国)の外からの敵であったのだが、今回は同じ香港居民であり詠春の使い手であるというところが特徴的である。それをベースにして語られる物語は、果たして強いだけでいいのかという基本中の基本でもあるのだが、対抗する張天志の事情もよく分かるだけあって、ちょっとしたボタンの掛け違いのようなすれ違いで葉問を越える野望を露わにしてしまったのは切ない。演じる張晉もまた良いキャラだからなおさらそう感じた。

しかし今回の葉問しーふーの、まあなんとエレガントなこと。
それはド兄さんが重ねたキャリアと年齢が活かされているのは言うまでもないのだけど、品格があって愛妻家で息子思いで人を尊んでご近所のマダームにもモテモテでなんとまあ隙がない。あまり品行方正なのもどうかと思うけど、まあしーふーだからそれはそれでいいか(笑)。冒頭で登場する、陳國坤演じる生意気なあの青年(とだけ言っておこう)との痛快なやりとりなどは、まさにしーふーとしての品格からなるものであったしね。
香港の武林界でもリスペクトをもらった彼が語るのは、守るための詠春という考えを受けての、未来の世代にそれを受け継ぐという決意がこめられていたこと。
こういうのがあるから、ワタシはこの映画に好感が持てたし、邦題もうまかったよなって思うのであった。



史実では、葉問の妻永成は彼が香港に渡っても佛山に残り、そこで一生を終えたというのであるが(だから一代宗師ではそのへんは忠実である)、ここでは彼女も一緒に香港で暮らしているという設定になっている。この永成(熊黛林)と葉問との愛もシリーズの見どころであるのだけど、今回は永成が胃ガンにより余命わずかとなったことも物語に絡んでくる。佛山の苦難の時代からずっと葉問のそばにいて、彼が危機を冒して戦う姿をずっと見てきただけあるので、病を抱えながらも、小学校をめぐるいざこざや、「詠春正宗」を名乗ってはなんとか戦いの場に引っ張り出そうとする張天志に向かう葉問を大いに心配する。だけど夫である彼も彼女の気持ちは痛いほどわかっているので、最期の時を一緒に過ごそうとする。フィクションではあるけど、こういうエピソードもバトルと並べても浮いてはいないのだから、今回はとても良くバランスの取れた構成だった。
製作発表当初はマイク・タイソンの特別出演で話題になったけど、これも物語から浮かずに処理できたのもよかったしね(まあ、タイソン自身のルックに「そういう顔にタトゥー入れたイギリス人不動産屋さんはさすがにおらんだろ?」という気にはなったが、映画だから気にするな)

そして最後にこれだけはいいたい。
今こそこのシリーズはド兄さんの代表作となり、この3作目はシリーズでも最高傑作となった。でもだからといって、一部にある「ド兄さんの葉問こそ唯一」という意見には納得できないし、返す刀で一代宗師を批判されたくない。むしろしたら倒してやる、と逆上する。
それはここでも書いてきたように、一代宗師が先行しているわけだし、どちらも同じ葉問であっても、アプローチも違えば演技も違う。だからこそ、アクションや娯楽性だけで同じまな板に乗せて論じることは意味がない。同じ映画としてエールを送り合っているようにも見えるから、比べることなどできないのだ。そこを心得ないといけないと思う。

原題:葉問3(Ip Man3)
監督:ウィルソン・イップ 製作:レイモンド・ウォン 脚本:エドモンド・ウォン 撮影:ケニー・ツェー アクション指導:ユエン・ウーピン 音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン リン・ホン マックス・チャン パトリック・タム ベイビージョン・チョイ チャン・クォックワン マイク・タイソン ケント・チェン

注:youtubeの仕様が変わり、縮小できないまま予告を貼ってしまいましたが、画面上のタイトルをクリックorタップすれば該当ページが開きますので、そちらでご覧下さい。

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残酷ドラゴン 血斗竜門の宿(1967/台湾)

先月、岩手県北の二戸で行われたカシオベア星空映画祭という野外上映イベントにるろけんを観に行った。「なんどめだるろけん!」というツッコミは承知の助だが、監督の大友さんがトークをされるので、久々にるろけん話が聞けるのは嬉しいぞ♪ってなわけで行ったのである。
内容としては人気マンガの映画化の苦労などを中心に今まで聞いてきた話をまとめた感じになっていたけど、20年前の米国留学時にキン・フーから始まる香港のアクション映画に多く触れ、そこで谷垣健治さんを知ったというくだりにはやっぱりニヤニヤさせられたのでした。以前フィルメックスで『侠女』を観て、「この映画がるろけんにつながるのかあああああぁぁぁ!」と大興奮していたのだけど、「つながった!これでやっぱり裏付けされたわねー!」とまた一人で妙に盛り上がっていたのでした。すいません、ほんとに単純バカっすねオレ。

さて、今年の始めに侠女と共に東京で公開されたキン・フー監督作品がこの『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』2月の五月天ライヴの翌日、予定が変わり日中のスケジュールが空いたので、劇場で観ることができました。ああ、スクリーンで観られて本当によかった…。

↑は劇場でもらったオリジナルポスター版ポストカード。
そしてオリジナル予告はこちら(埋め込みサイズが大きいのでリンク)

 

 追われる者と追う者、あるいは目的は同じなれど様々な思惑を抱えた者共が一つの宿に集まり、一触即発の状態を保ちながら駆け引きをし、クライマックスに雪崩れ込む…これは後の『ドラゴン・イン(1992/すいませんいまだに未見です)』や『ドラゴンゲート(2012)』など後に徐克さんがリメイクした2作品ももちろん同じ。そしてドキドキハラハラしながらも、非常に燃えるシチュエーションだったりする。
 追われる将軍の遺児たち(徐楓さん)、追う側は太監・曹少欽(白鷹)の部下たち、守るのは将軍の元部下とその妹(薛漢&上官靈風)、風に吹かれてやってきたような義士・簫少鎡(石雋)。曹の部下が辺境の地の宿・龍門客棧を借りきり、そんな中に簫が飛び込み、場を引っ掻き回すくだりが楽しい。椅子など日常のものを使ったコミカルなアクションは成龍さん作品でよく見られるけど、すでに60年代にキン・フーさんが先駆けていたとは、と感心。上官靈風さんが演じる男装の剣士も中華電影ではお約束なので、彼女の存在もまた楽し。石雋さんは侠女でのややボンクラ入った知性派とは違う役どころで、もちろんアクションも見せてくれるんだけど、すっとぼけながら密偵たちを手玉に取るユーモアがあって軽快でよかった。
 宿の主人も簫たちと合流し、曹の部下の密偵たちを撃破。そしてついに曹が彼らに立ちふさがるのだけど、さすがラスボスの貫禄ありで、ものすごく強くて憎々しい。そこまでに至るテンポもよく、観ていてほんとうに楽しかった。京劇のメロディを織り込んだ音楽も、現代の作品では定番になっているけど、公開当時は結構珍しかったんじゃないかな。

 しかし、これのどこが残酷なんだ?日本公開は74年だったそうなので、もろに燃えよドラゴンのフォロワー的扱いを受けての邦題なのだろうけど、人はガンガン死んでいても、そんなに残酷じゃないじゃん…と思ってラストにたどり着いたら、うわーっ、それは残酷だー!たしかに誰が観ても残酷だー!と心のなかで叫んで大いに納得したのでした。
以上、ちゃんちゃん♪

なんかすんません、ふざけた感想で。でもものすごく面白かったんです。
『楽日』で苗天さんと石雋さんがしみじみと観ていたのが、この映画だったんだなあとジーンとしたのも確かだったし。

原題(&英題):龍門客棧(Dragon Inn/Dragon gate inn)
監督&脚本:キン・フー 撮影:ホア・ホイイン 武術指導&出演:ハン・インチェ
出演:シャンクァン・リンフォン シー・チュン バイ・イン ツァオ・ジエン シュエ・ハン ミャオ・ティエン シュー・フォン

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《健忘村》(2017/台湾・中国)

3年前、『祝宴!シェフ』で16年ぶりに台湾映画界に復帰を果たした陳玉勳。もう面白くて大好きで、思えばこの映画があったから台南に通うようになったと言ってもいいくらいなんだが、大ヒットを飛ばした次は何年後?また10年開くの?と思ったら、さすがにそんなことはなかった。と言うかFBをチェックして驚いた。え、今やホウちゃんのミューズとして知られるすーちーが主演?そして時代劇?で、題名が健忘村?

時は清末民国初期。幼いころに父親とともにある村に移り住んだ秋蓉(すーちー)は王村長の息子丁遠(トニー・ヤン)と将来の約束を交わしたが、彼は3年待てと行って村を出てしまい、彼女が気に入らない村長は秋蓉と物売りの朱大餅を無理やり結婚させてしまう。
ある日、行商から帰ってきた大餅が死んでいるのが発見された。正確に言えばこれは、戻らない丁遠を待ち続けながら大餅にこき使われる生活に絶望した秋蓉が死のうとしてネズミ捕り薬を混ぜた包子を大餅が食べてしまったという事故であった。秋蓉に思いを寄せる萬大侠(ジョセフ)は彼女をかばうが、村長は秋容が殺したと疑う。
そんなギスギスした村に、天虹真人と名乗る怪しい男・田貴(王千源)がやってきて、周代から伝わる万能機器で、人々の悩みや煩悩を忘れさせる「忘憂神器」を村人に見せる。村長は彼を疑って幽閉するが、最悪の状態から脱したい秋容は迷いながらも彼を信じる。しかし、散々な目に遭わされた田貴は、忘憂機器を悪用して全ての村人の記憶を奪い、秋容を自分の妻に仕立てて村長に収まり、村を支配してしまう。
のんきで不自然なパラダイスと化した村。どうしてもここを支配下に置きたい隣村の実力者石剝皮(エリックとっつぁん)は郵便配達に身をやつした侠客集団の頭領・烏雲(林美秀)を村に送り込む。実はこの集団に丁遠が加わっており、先んじて村に帰るのだが、当然ながら村はすっかり変わっていて、これまた大騒ぎになり…。



すーちーが台湾語で語る予告編をどーぞ。しかしこのサムネイルだけ見ればなんかるろけんっぽい。ってなぜ侠女じゃなくるろけんを思い出す…。

予告にもある「村長好~♪」のポーズ付き挨拶は笑えるんだけど、中盤でまーさーかーそーゆー展開かあ!と驚愕>予告だけだとすーちーだけがそうなったのかと思ったので。
悲しいことは忘れたいけど、もしも誰もがみんな忘れてしまったら?というのがテーマかな、と思って観ていた。今回は初の中国との合作&初の時代劇でしかも賀歳片ということで、いつものようなひねりを加えずに割とストレートに行ったのかな、と思ったりして。とは言ってもちょっとブラックユーモアも効いている。小ネタの応酬も相変わらずだけど、祝宴よりは抑えめになっているのは、大陸向け対策?
でもねー、その大陸向きっていうのがあってなのかな、もちろん大笑いはできたんだけど、なにか物足りなかった。何が物足りなかったって、ユーシュン作品の魅力はやはり台湾ローカルのコテコテ感にあるのだから、それが大作になって出しづらくなったんだろうなってことなんだけど。コテコテにするなら、台詞を全編台湾語にしちゃうのも手だったか?(こらこら)
しかも大陸では上映前にこんなことになっちゃうし。あの映画には特に政治的メッセージは感じなかったけどなあ。多分ない…と思うんだが、深読みは…あまりするまい。

物足りない物足りないとは言うけど、それでもキャストの演技は楽しかったですよ。
この撮影が終わってからステと見事なゴールインを果たしたすーちーは、刺客の次にこれなので、いやあもうかわいいかわいい。大陸から呼ばれた王千源は『ブレイド・マスター』や近日感想を書く予定のアンディ主演『誘拐捜査』などでシリアスな演技を見せていたけど、何やっぱりコメディアンだったの?まあコメディアン顔だとは思っていたけどね。(それを言うたら王寶強もコメディアン顔か?)
前作の“台湾のビヨンセ”っぷりが未だに強烈な林美秀は、今回はうって変わって本編ではほとんど笑わない女刺客(!)。もちろん観てる分には笑えるんですけどね。彼女の部下たちのボイパ(ボイスパフォーマンスね)は楽しい。これで威嚇したりするもんだからなおさらね。
でも今回一番面白かったのがジョセフかなー。初見からどシリアスな役どころばかり続いてたからだろうけど、今回彼が演じた萬大侠はもう見事なまでの脳筋キャラで、件の立派な二の腕も見事にその威力を見せる。笑えるジョセフをほぼ初めて観たからってのもあるんだけど、クライマックスはホントに笑った笑った。

まあ、感想はこんな感じかなあ。結構さっくりしててすみません。もう一度観たら感想も変わるかも。
んじゃ、最後は楽しくこれで締めますか。

英題:The Village of No Return
製作:リー・リエ&イエ・ルーフェン 監督&脚本:チェン・ユーシュン
出演:スー・チー ジョセフ・チャン ワン・チエンユエン リン・メイシウ トニー・ヤン クー・ユールン エリック・ツァン  

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《擺渡人》(2016/中国・香港)

 今年の米国のアカデミー賞は作品賞の取り違えばかりが話題になったけど、その賞に選ばれた『ムーンライト』は、ゲイの黒人青年の成長を描いていて、同性愛者が主人公の作品として史上初めての受賞作だという。それと同じくらい話題にしていいと思ったのは、監督のバリー・ジェンキンスが王家衛の影響を受けているとはっきり公言していること。SNSでムーンライトの各場面と王家衛作品の比較動画が回っていて、いやいやいくらなんでもそれはこじつけすぎでしょ?と疑ってかかったのだけど、次の動画を見たらジェンキンスさんがガチで王家衛好きだったってことがわかって見直した次第(こらこら)。


 ああ、今や王家衛チルドレンは中華圏やアジアだけでなく、米国でも生まれているのか…と妙に感慨深くなってないで本題に行くが、その王家衛が率いる澤東電影公司も昨年で創立25周年を迎えたとのこと。自らの作品の製作を中心に、若手映画人への映画製作のサポート(張震監督×五月天石頭主演の短編《三生-尺蠖》も製作)、トニーや張震、台湾のアリス・クーやサンドリーナ・ピンナのマネージメント等も行って確実に仕事しているのを感じるのだが、その創立25周年記念として作られたのが、トニーの3年ぶりの主演作となる《擺渡人》。中国の作家張嘉佳による同名短編小説を原作者自らがメガホンを取ったもの。ちなみに原作はもともとネット小説だったそうだけど、現在は短編集『從你的全世界路過』に収録されて読めるらしい。気がついたら台湾で買っておけばよかったかな。


 舞台は上海あたりにあるバー「擺渡人」。経営者の陳末(トニー)は自らを擺渡人(フェリーマン)と名乗り、困っている人を助けるために奔走している。彼がこの商売を始めたのは10年前に出会ったバーテンダーの何木子(杜鵑)と出会って恋に落ちた後、ある事件で心を病んでしまったことがきっかけ。
 パートナーの菅春(金城くん)は、幼馴染の毛毛(サンドリーナ)に恋をしているが、老舗の焼餅屋を引き継いだ彼女は管春のことを全く覚えておらず、しかも名物だった焼餅はものすごく評判が悪く、店も危機を迎えていた。管春は彼女に振り向いてもらえるべく奮闘する。
 新しく擺渡人で働き始めた小玉(angelababy)は、幼いころに出会った馬力(ルハン)に恋をしていたが、現在の馬力(イーソン)は国際的な歌手となり、婚約者の江潔(リン・ホン)もいた。しかしある夜、擺渡人で彼はトラブルを起こし、江潔とも別れて再起不能にまで陥る。小玉は彼を自分の家に連れて帰り、復帰を手助けすべく擺渡人となることを決意する。

 …と、このような3つの物語をベースにして、山雞(サム)と十三妹(クリス・リー)というどっかで聞いたことのある名前の古惑仔兄妹が登場したり、懐かしのアーケードゲームが出てきたり、9つのバーをはしごして、提供されるお酒を飲み歩いて勝負するバー・ゴルフなんてものが行われてしっちゃかめっちゃかの大騒ぎ。まるで往年の香港映画のようなカオスなノリが全編を覆う。音楽も実に雑多で、無間道なあの曲から、なんでそこでこんな日本語曲が(ダイレクトな世代ならきっと爆笑なんだろうが、あいにくね)!まであれこれ。こういうカオスさの一方、陳末と何木子の失われた恋模様や全てを忘れた毛毛のために自らを犠牲にしてまで恋心を思い出させようとする管春のひたむきさは、確かに王家衛的モチーフでもあるし、遠回しに見れば村上春樹的であって、この原作者がいかにハルキ&王家衛チルドレンであるかというのは推測できるところである。
 …ただ、聞いた話だと、原作は全然全くこれっぽっちもコメディじゃなく、もっと切ない恋愛ものらしいようなのだが、なんでこうなった。

 封切当初は大ヒットだったものの、後から公開された星仔&徐克コンビの《西遊》に追いぬかれたり、大陸では酷評、香港でも旧正月映画の始まりと同時に終了したと聞く。(そういえば大陸ではトニーの声が北京語吹替と聞いてもしや台湾でも?と心配したが、トニーやベイビー、イーソンなどの広東語スピーカーはそのままだったのでホッとした)3年ぶりの王家衛製作作品、トニーも3年ぶりの主演、共演も金城くんやイーソン、脇にサムと香港度は確かに高いし、セルフパロディ的なモチーフだったり往年の香港映画にリスペクトを捧げているのがよくわかるし、これまで25年間澤東作品や90年代の香港映画を愛してきた我々にはご褒美のような作品であることは確かである。
 でも、それならいくら中国大陸で作ったとはいえ、香港を舞台にすべきじゃなかったのかなあ。それが実現できていたら、もうちょっとポイントは高かったかもよ、原作者さん。初監督&大物スタッフ&キャストでちょっとはしゃぎ過ぎてる感も多少覚えた。

 そんな作品でもトニーは楽しそうだし(まあ、王家衛に付き合うと長年かかるからね)、金城くんも笑かせてくれるし、イーソンもいい具合に演技派歌手っぷりを見せてくれるから、その点においてはちょっと甘く見ちゃう。女子だとベイビーよりサンドリーナがいいな、やっぱし。ちょっと出の皆さんも結構豪華で、特に台湾方面の大物も出ていて面白んだけど、アリスが出ていたのは気づかなかったよー。

 もしかしたら、こういう90年代的ノリの映画ももう中華圏では時代遅れなのかもしれない。先ほども書いたけど、もしこの映画の舞台が香港だったら、やはり多少は変わったのだろうか?香港映画も変わりつつあり、中華圏の映画に関わり続けている澤東もその傾向はよく気づいているだろうけど、今後この会社がどうなっていくのかということも気になるなあ。台湾でのプロデュースももちろん、もうちょっと香港でもやってくれてもいいのよー、などと勝手な希望を書いて感想は以上とします。

英題:See you tomorrow
製作:ウォン・カーウァイ ジャッキー・パン 監督&原作&脚本:チャン・ジャージャー 撮影:ピーター・パウ 編集:デビッド・ウー 衣裳:ウィリアム・チャン 音楽:ナサニエル・メカリー アクション指導:谷垣健治
出演:トニー・レオン 金城武 Angelababy イーソン・チャン サンドリーナ・ピンナ リン・ホン トウ・ジュエン ルハン クリス・リー サム・リー ジン・シージエ キン・ジェウェン アリス・クー 

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2016funkin'for HONGKONG的十大電影

恭喜發財 萬事如意!
というわけで、まずはお約束のこれを。
去年のヴァージョンなのは、去年の記事に載せ忘れたので…というよりも、事故に遭ったアンディ先生の快復を心から願っております。


 さて、昨年は中華電影を15本しか観てなかったのでした。うち地元鑑賞は昨年2位に選んだ刺客を含めてたったの4本、そのうち中国映画『見えない目撃者』を見逃しました。当然香港映画は昨年にひき続いて上映なし(成龍作品はすでに中国映画ですしね)はあ…。
 だから選ぶのは楽でしたね、というか、必然的に映画祭作品が上位に来るのは致し方無いですね。てなわけで、今年は久々に1位からご紹介しますよ。

1 侠女(デジタル修復版)

 ああすみませんすみません、今回クラシック作品を初めて1位にしちゃいました。もうこの本数だからしょうがないと思って下さい。これ観たおかげでるろけん観ても守り人観ても、「あーこれ侠女リスペクトじゃん!」という日々を送っています。それくらい重要です、はい。

2 大樹は風を招く

 昨年つくづく残念だったのは、香港で話題を呼んだ問題作《十年》を観る機会に恵まれなかったこと。一般公開があるとしてもあの映画をあまり政治的に捉えてほしくないなーと思っているんだけど、その《十年》のいい影響を受けていて、まさに今の時代だからこそ返還時を客観的に観ることができるとも言えた映画でした。

3 シェッド・スキン・パパ

 めでたく今年4月の香港公開が決まって何より。演劇と映画とジャンユーと古天楽の幸せな出会いが、香港のポップカルチャーに繁栄をもたらしますように。

4 ゴッドスピード

 サイト「銀幕閑話」では見事昨年のアジア映画第1位に選出。マイケル・ホイさんの好演もあいまって、ユーモアと過激さが共存するなんとも言えない不思議な味わいのロードムービーは、やはりインパクト大きかった。

5 山河ノスタルジア

 ジャンクーが初めて描いた愛についての物語。利便性や欲望を求める人々も、愛には心を掴まれているといった具合だけど、それに希望を託すのも悪くない。

6 メコン大作戦

 次回作もポンちゃん主演のオペレーションものになるという話。ますます過酷なシチュエーションを設定する鬼ダンテっぷりが加速するんでしょうねー。ああそれもまた楽しみである。

7 タイペイ・ストーリー

 やっとヤンちゃん再評価の時がきた。もうこの世にいらっしゃらないのが切ないけど、おかげで噂だけ聞いていて観られなかった作品がやっと観られる。ホウちゃん、かわいかったよなあ。

8 台湾新電影時代 

 ホウちゃんやヤンちゃんの旧作がリマスタリングされていま観られるのも、台湾ニューシネマの再評価があってこそなのだろう。映画が消費されてきている今だからこそ、アジア映画史の重要な位置にある映画たちは、日本の古い邦画と同じように観られる頻度が上がってくれたらいい。

9 私の少女時代

 近年の若者向けの壁ドン系邦画がどうも苦手で、お願いだからこういうのばっかで選択の幅を狭めないでーって思っているんだが、あの頃とかこれのような、中高生以上も楽しめるちょっと時代設定の古い青春映画がもっと増えてくれてもいいんだけどね。

10 最愛の子

 このところアクションものが多かったピーターさんが、久々に人間ドラマに戻ってきた。もともと国境を股にかけて活躍してきた人だけど、今後中国で活動するのなら、あまりドメスティックにならないで、過去作品のような洗練されたものが観たいかなと思う。勝手な意見ですが。

次は個人賞ですよ。いつものごとく、賞に決まっても特に何も与えられませんが。

主演俳優賞:ン・ジャンユー(シェッド・スキン・パパ)マイケル・ホイ(ゴッドスピード)
ジャンユーは久々に香港映画での主演と、何役も演じ分ける無双っぷりが楽しかった。ホイさんも久々の主演、そしてユーモアとペーソスをたたえた安心感が面白かったので両雄受賞。

主演女優賞:チャオ・タオ(山河ノスタルジア)
いつも幸薄い印象の涛さんだけど、今回が一番役としては幸せに見えた感がある。おばちゃんの役も演じたけど、まだそこそこ若いんだよね。ジャンクーとお幸せに。

助演男優賞:レオン・ダイ(ゴッドスピード)
踏んだり蹴ったりだったというか、まさに「ままならない人生」を体現したような雰囲気が面白かった。そういえばまだ監督作を観たことないので、いつかその機会に恵まれますように。

助演女優賞:シルヴィア・チャン(山河ノスタルジア)
孫ほどの年齢の少年も恋に落ちる程の魅力とは!美魔女とかアンチエイジングなどを超えて、こういう60代を目指したいものです。

新人監督賞:ロイ・シートウ(シェッド・スキン・パパ)
あの『夜半歌聲』のキモいボンボンが、今や香港演劇界の大御所とは…(微笑)。役者としてはまだまだスクリーンで観る機会があるけど(パンちゃん最新作《春嬌救志明》にも端役で出るみたいだし)、また監督作も近いうちに。

最優秀アクション賞:シュー・フェン(侠女)
本当は最優秀女優賞にしようかと思ったのだけど、今はプロデューサー専業だしなあ、というわけで(そんな理由でいいのか?)まさに歴史に残るあの鮮烈なアクションを体現した中華電影史の重要人物として、この特別賞を。

心から尊敬しますで賞:キン・フー(侠女)
20年近く中華電影迷やってきて、やっとこの歳になって侠女が観られたのは遅かったかも…とも思ったけど、香港のアキラ黒澤とも称される名匠の作品を大きなスクリーンで観られたのは本当にいい映画体験だったし、中華電影を好きで本当によかった。というわけで、敬意を込めての特別賞。

 自分の昨年の中華電影鑑賞の低調ぶりは、武蔵野館の改装や日記blogでも愚痴っているような事情があるにしろ、それでも旧作をTV放映やソフトでフォローできなかったので惜しかったよなーとも思います。仕事も忙しく、中華以外の映画もガンガン観ている中でも、今後もやっぱりどういう形ででもちゃんと観ていかなきゃならんなあ。
 そんなわけで、この旧正月で何作か録画を観たので、暇のあるときに感想をアップしていきますね。

 最後に、今後地元で観られる中華電影の話も。
この年明けに東京で大量の中華電影が公開され、なんでそんなにいっぺんに、とか、どうせこんな田舎には来ないんでしょ?とか相変わらずやさぐれていましたが、なんと『人魚姫』は3月に観られます。ありがとう中劇さん!
 後は、年末年始に観られなかった『湾生回家』が2月に、そして『牯嶺街少年殺人事件』が4月にルミエールで上映です。この機会に、多くの人達が中華電影に楽しみ、今後もいろんな作品が盛岡までやってきてくることを願うばかりです。

 では、今年も中華電影迷の皆様にとっても良い年でありますように…。

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