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最愛の子(2014/中国)

 日本に先駆けて香港・台湾・韓国で先行上映される岩井俊二監督の最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』。先日、岩井さんが香港と台湾をプロモで回られていたんだけど、SNSで回ってきた下のtweetを見て、朝っぱらからうなってしまった。

 岩井さんとピーターさんは同い年であったことを思い出した。キャリアには共通点もあれば違うところもあるけど、どこか通じるものはあるかな。とはいえ、岩井さんは実写長編映画の新作が実に12年ぶりで、その間にピーターさんは香港から大陸に映画製作の場を移して精力的かつ多種多彩な作品を作り上げたもんな。そのへんが決定的な相違点かな。
ついでに言えば是枝さんとトニーとトムクルとも同い年です。
 あ、そういえばピーターさんも先日来日してたんだっけなーと思いつつ、その週末に『最愛の子』を観た。


 2009年、深圳。下町でネットカフェを経営する田文軍(黄渤)には、田鵬という3歳の息子がいるが、離婚した妻魯曉娟(郝雷)との決め事で、週に一度妻のところに鵬鵬を行かせていた。帰ってきた鵬鵬は近所の友だちと連れ立ってローラースケートを見に行くが、曉娟の車を見かけて追いかけていき、そのまま消息を絶つ。
 いつまでも帰ってこない鵬鵬を探し、捜索願を出そうと警察に行く文軍だが、失踪後24時間は届けが出せないと言われる。そして後日、防犯カメラの映像によって鵬鵬の誘拐が明らかになったことから、二人は様々な手を使って鵬鵬を取り戻そうとする。インターネットを駆使し、懸賞金をかけるが、思うようには情報が集まらない。文軍は店を畳み、児童誘拐被害者の会にも加入し、情報を得ようとする。
 3年後、安徽省で協力者の刑事韓(張譯)から、鵬鵬に似た少年が安徽省にいるらしいとの情報を受け、文軍たちは安徽省に向かう。田舎の農家にいた鵬鵬を文軍たちは確保し、村人に追われながらも奪還するが、6歳の鵬鵬は一緒に暮らしていた農婦・李紅琴(ヴィッキー)には吉剛と呼ばれ、さらには文軍たちのことを全く覚えていなかった。
 韓と地元の公安の調べで、鵬鵬をさらったのは紅琴の夫の楊だったことがわかったが、楊はすでに亡く、紅琴が子供の産めない身体だったがために、夫がよその女に産ませて連れてきたと紅琴は信じていた。しかも家にはもう一人、吉芳という妹に当たる少女がいたのだが、彼女もまた楊によって深圳に連れて来られた子供だった。吉芳は紅琴から引き離され、深圳の児童養護施設に収容される。
 鵬鵬の帰還で一件落着するかに見えたが、鵬鵬は深圳に戻っても、紅琴を慕って安徽に戻りたがる。そして、鵬鵬は無理であっても、せめて吉芳の親権は持ちたいと決意した紅琴は、深圳に出て地元出身の弁護士・高夏(佟大為)の力を借りようとする…。

 この映画の背景となっている児童誘拐は、公式サイトのページに詳しいので、ここでは説明はしない。
 日本公開が決まった時にSNSで情報をシェアしたのだが、小さなお子さんがいる地元のフォロワーさんが「ショック。なんでこんな映画が日本で公開されるの?楽しい映画じゃないでしょ?」と言われたのが胸に刺さった。もちろん、リプライでフォローをしたが、確かにこういう現実が中国だけじゃなくて世界中にはあるんだけど、日本では信じがたいってことはよく分かるもの。
 産みの親と育ての親の問題。これは過去にも『そして父になる』や『もうひとりの息子』などの映画でも取り上げられたけど、両ケースとも出産時の取り違えなので状況は違う。しかも、田家の二人は離婚しているとはいえ、息子をそれぞれ深く愛している。だからこそ厄介である。
 この映画が評価されるのは、誘拐された側だけでなく、子供をもらって育てた側の事情も描いて構成を保とうとしているところだ。紅琴は子供が産めないという事情があるし、鵬鵬を親元に返されても、孤児だったと証明された吉芳を手元に置きたいと願い、身を売ってまでも奔走する。
 映画を受けて書かれたこの記事でも述べられているが、児童誘拐は非常に複雑な背景があるため、全てがすぐに解決されるというわけではない。ただ、映画の製作と公開によってこの問題が注目され、法的整備も始められたというのはいい兆しだと思う。映画が作られた意義は十分にある。

  とは言ってみたものの、それじゃ自分が感動したのか、泣いたのか、と聞かれたら、実はそうではない。いや、それは決してこの映画がまずいってわけじゃないのだが、ピーターさんらしい隙のない作りだからこそ、いろいろ引っかかるのである。それは、紅琴の夫を殺してしまった(!)ことで罪の行方が宙に浮いてしまったり、キーパーソンが途中で鵬鵬から吉芳にシフトしてしまったり(そうしないと紅琴が単に鵬鵬に会いたいだけで深圳に出てくるのが問題になりそうだからか?)、とどめは紅琴が覚悟して行ったある行為がラストに結びついて「え?」となったことだったり。それはアリなのか?それを解決法としていいのか?と思いっきり首をひねってしまったのだ。加えて、紅琴を慕っていた鵬鵬が結局文軍たちの元にどう戻っていったかがあってもよかったのだろうけど、それをやると安っぽくなってしまうんだろうな。
 後半では鵬鵬を連れた被害者の会の面々が、彼に近づいた紅琴を激しくなじったり、やはり愛児を誘拐されている韓とその妻(キティ・チャン)が新たに子供を作るために捜索を断念するなど、戻ってこない子を持つ親のことも描かれていて、そういう点からのフォローも隙がないなと思っただけ、なおさらラストは本当にあれでいいのか?と思った。誰も責められず、誰もが傷ついているのだから、せめて救いがほしい、というのもよくわかるからなあ。

 スッピンかつ安徽省の方言でしゃべるヴィッキーはさすがの熱演で、金像影后獲るのも納得ではあったけど、それでもやっぱり綺麗すぎるかな。まあ意見には個人差があります。それもあってか、かえって黄渤のシリアス演技と、悲しみと怒りと嫉妬の表現が巧みだった郝雷に目が行っちゃいました。特に黄渤はこれまで観てきたのがことごとくコメディだったので、シリアスもハマるのがかえって新鮮だった。ロウ・イエ作品で注目された郝雷も、観るたびに同一人物とは思えないしねえ。そしてどうして見て一発ですぐわかるんだ佟大為(笑)。これから公開される周迅の『更年奇的な彼女』では相手役だというのに、相変わらずのイケてなさはなぜなんだ、この穀潰し(赤壁ネタ)。

 調子に乗ってこれ以上ツッコミ入れるのも野暮なので、そろそろ締めますか。
 とかく最近はあまりよく言われない隣国での出来事だが、名もなく貧しい人々の苦しみは、我々にも理解は容易なはず。そういうところからもっと関心を寄せてもいいのである。利用している映画感想サイトで好意的な声が多かったのにはホッとしたのだった。
 あれこれ言っても、この映画が良作であるのは確かである。

原題&英題:親愛的(Dearest)
製作&監督:ピーター・チャン 脚本:チャン・チー 音楽:レオン・コー
出演:ヴィッキー・チャオ ホアン・ポー ハオ・レイ トン・ダーウェイ チャン・イー キティ・チャン

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