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『流』東山彰良

 台北に生まれて福岡に暮らし、大学で中国語を教えながら日本語で小説を書く台湾人作家の東山彰良さん。そのプロフィールから一度作品を読んでみたいもんだと長らく思っていたのだけど、なかなか読めなくてすみません(笑)。昨年夏にこの『流』が直木賞を受賞したことで注目され、やっと読む機会ができたのはありがたいことでしたわ。
 同時発表の芥川賞で芸人の人が受賞したのでそっちばかり騒がれたけど、邱永漢氏に続く台湾生まれの直木賞作家誕生のニュースは日本のみならず台湾でも注目されました。受賞当時はまだ翻訳が台湾で売られてなかったっと聞いた気がするけど、翻訳も幾つか進んでいるかな。

 1975年4月、台湾を臨時政府と定めていた中国国民党の総統、蒋介石が死んだ。その1ヶ月後、台北に住む高中生の主人公、葉秋生の祖父・尊麟が迪化街の自宅で何者かによって殺害された。
 尊麟は山東省出身の外省人で、国民党の本土退却とともに妻と4人の子供を連れて台湾に移り住んだが、同世代の外省人のほとんどが夢見たように、いつか大陸に帰りたいと願っていた。同郷の年寄りたちによると、尊麟は故郷で凄腕の豪傑として腕を鳴らしており、どうも恨みを買われていたらしい。まさか、大陸からやってきた誰かが復讐のために祖父を殺したのか…?
 そんな時、秋生は悪友の小戦こと趙戦雄の誘いに乗って替え玉受験に乗ってしまい、それが失敗して通っていた進学校を退学処分になる。秋生はやむなく底辺校へ転校するが、行った先でもトラブルに見舞われるばかり。それでも一度しかない青春を走り抜ける秋生。幽霊との遭遇、幼馴染との淡い恋、大学受験の失敗、小戦との暫しの別れ。
 兵役を経て、食品公司に就職した秋生は、祖父の死の謎を追うべく、出張先の日本を経由して大陸に入った。日本軍の間諜と対立していた祖父の過去を追ううち、意外な真犯人が浮かび上がる…。

 迪化街に中華商場などよく知った固有名詞、中国語に日本語のルビを振った一部のセリフが面白く、裏道を疾走するワルガキどもの姿が見えるような描写とテンポの良さ。読んでいて思い出すのはヤンちゃんことエドワード・ヤンの作品群だったり、『モンガに散る』だったりの、これまで観てきた台湾映画の数々。そういえば東山さんもモンガの監督、豆導こと鈕承澤の映画がお好きだと語っていたらしく、なろほど!と膝を叩きたくなった。

    デビューが宝島社のこのミス大賞だそうで、読む前まではミステリー寄りなのかなと思えばそうでもなく、青春小説の色合いの方がぐっと濃い感じ。70年代台湾は映画でもあまり知らない時代であるし…と言おうとしたが、去年観た『風の中の家族』でちょっとだけ出てくるか。まあ、あれだけじゃ足りないのは承知。また、当時の台湾と大陸および日本との関係も興味深い。イーグルスの「デスペラード」や日本統治時代に育った登場人物の一人が日本語で歌う「朧月夜」、そして後半に登場する中森明菜の「セカンド・ラブ」など、引用されている歌も物語の展開にうまくマッチしていていい。さらにコックリさんまで登場するよ。

 こんなふうに書くと、なんだか雑多で取り止めがない感じだけど、もちろんそんなことはない。 大陸から台湾まで流れ来た祖父と、その血を受け継いで流れ行く青春を送りつつ、自らのルーツである祖父の過去に迫る秋生。20世紀の中華圏の激動を感じ、台湾の複雑さにも改めて思いを寄せられる。しかもハードボイルドであるから、とても楽しく読めた。
街はかなり変わってしまってはいるけど、今度台北に行ったら、文中に登場する地域に行って、秋生や戦雄がいたであろう路地を探してみるというのも面白いだろうな。
映画化するならもちろん日台合作で、監督は当然豆導でお願いしたいです。どうですか、最近再び中華圏進出を狙い始めた某藝神集団さんあたりで企画出ませんかね?>人頼みかい(苦笑)

 なお、今年の初めにこの小説の後日譚というべきスピンオフ短編『I Love You Debby』が発表されました。 前編後編にわかれています。読まれた方はぜひこちらも。

 そうそう、今回の受賞をきっかけに東山さんの過去の作品も読もうと思って、文庫化されたメガノベル『ブラックライダー』も読んだのだけど…いやあ、実に人を喰った話でビックリだった。ええ、字面通りの話ですよ?とだけ言っておきますか。
 あと、今年になって発行された初エッセイ集『ありきたりの痛み』(リンク先はインタビューです)をちょっと立ち読みしたのだけど、この本には新聞で連載されていた映画評や直木賞受賞時のジャーナル、台湾への帰国などについて書かれているので、近日買って改めて読み、感想を書く予定です。

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