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『路』吉田修一

 前回の『流』の東山さんは直木賞作家なので、今回は賞つながりで芥川賞作家の書く台湾小説の感想を。

 2002年に『パーク・ライフ』で芥川賞を受賞した吉田修一さん。『パレード』『悪人』『横道世之介』『さよなら渓谷』など映画化された作品も多く、今年は『悪人』を手がけた李相日監督による『怒り』の公開が控えています。純文学の賞を受賞しましたが、書かれる作品の幅がかなり広いのが面白いです。と言いつつ、実際に読んだのは世之介と渓谷くらいです、はい。
 そんな吉田さんは4年前に、アジアを舞台にした長編小説を立て続けに2作発表しました。一作は、南シナ海の油田開発と新エネルギーを巡る日中のにらみ合いの中で暗躍する産業スパイ鷹野一彦を主人公にした冒険小説『太陽は動かない』。そしてもう一作が、今回取り上げる『路』

 台北と高雄を結ぶ台湾新幹線(高鐡・THSR)は、二転三転の上、日本方式による建設が決まった。 商社の台湾新幹線事業部から台北勤務となった多田春香は、学生時代の初の台湾旅行で知り合ったエリックという青年の行方を気にしていた。そのエリックこと劉人豪は、当時は淡江大学の建築系の学生だったが、春香と出会った直後に発生した阪神大震災に衝撃をうけて日本に渡り、ボランティアに従事後、春香の行方を探して日本の大学院に進学し、そのまま日本で建築士として職を得ていた。
 この二人を中心に、春香の歳上の同僚・安西誠、高雄の車輌整備工場で働く陳威志、湾生の老人・葉山勝一郎など、さまざまな人々のエピソードが受注成功から開通までの8年間で綴られる群像劇的小説。

…とあらすじを書いてから、特設サイトにあった吉田さんのインタビューを読んでみたんだけど、おお、おお、そうだったのか、これは恋愛小説だったのか!と膝をたたいた次第。って気づくの遅いよ自分(笑)。

 これは3年間雑誌に連載された後、2012年秋に単行本が出版されたとのこと。書かれたきっかけは、ご本人が台湾が好きで(おお、嬉しい)、先行して日本人女性と台湾人男性の短編を書いたので、それを膨らませるためにたどり着いたのが、日本方式で作られた台湾新幹線だったとか。
 学生時代に一時を過ごし、その後もお互いを探し求めていた春香と人豪のエピソードはとても瑞々しくておねーちゃんは羨ましい(こらこら)。かすかな記憶の中でお互いを探し合うので、二人が再会するのも中盤頃である。だけどそれまでがもどかしくなく読み進められるのは、新幹線の建設をめぐる人々にもそれぞれのドラマがあり、しっかりと書き込まれているからだ。
 新幹線の建設も、いくら日本が関わっているからとはいえ順調には進まない。春香より先に台湾に赴任して、様々な交渉に当たるものの、壁にぶち当たっては神経をすり減らしていく安西の苦悩はリアルな痛々しさを覚える。実際に台湾の商社で働く日本人も、あれこれ大変な思いをしているのだろうなって思ったもの。結局ワタシ自身も留学をしたとはいえ、台湾で仕事をする道は選ばなかったけど、もし選んでいたらどうなっていただろう…こんなお気楽blogを書いているってことはきっとなかっただろうな。

 嬉しいのは、日本人だけじゃなくて台湾人の人間模様もしっかり書いてもらえたこと。フリーターからやがて新幹線に関わっていく高雄の阿志こと陳威志の青春物語は、読んでて頬がゆるんでしまう愛おしさがある。彼らの話だけでももっと深く掘り下げられそうな感じ。
そして湾生の勝一郎さんの、生まれた地である台湾への望郷の念。文中では『悲情城市』を観る場面などもあるし、そんな彼と人豪が結びつくという縁も。湾生の方々の思いは、これから読む『日本統治時代の台湾』でも書くつもりだけど、これらは台湾を知る上で語られることが必要不可欠だと改めて思った次第。

 吉田さんの作品は、『悪人』や『怒り』、『さよなら渓谷』など、罪を抱えた人間の姿を描くことに定評があるけど、闇ばかり抱えているのではなく、くっきりとした明るさもまた持ち合わせていることを『世之介』でちゃんと書いている。この小説は明るさを保って書かれているのがいい。国は違えど、いろんな複雑さを抱えていても、人と人は思いを結ぶことができる。
国境を飛び越えてつながることは、そんなに難しいことじゃない。重厚な作品が多い吉田さんがこの小説で軽やかにそれを語ってくれたのが実に嬉しいのでありました。

 完全映像化は難しいかもしれないけど、これも日台合作で映像が観たいですねー。映画か、WOWOWのドラマWで観たいところ(ホントはNHKの土ドラがいいのだろうけど、政治的に難しいと思うので)。もし実現したら演出は吉田作品を複数手がけている行定勲さんにお願いしてほしいなー。
 キャストもざっと考えてみたけど、春香は石原さとみ(近年中華圏進出を目論んでる長澤まさみじゃないのはあえてだよ)、人豪はジョセフあたりかしら。他のキャストもいろいろ考えてみたけど、思いついたのはそんなところ。

てなわけで企画書書けというなら書きますよー。
とか言ってもそんなコネもツテもないので、冗談ですよー。

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