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2015年12月

今年もお世話になりました。来年も宜しくお願いいたします。なお、本blogは相変わらず花巻-台湾間の国際線定期便の就航を願っています。

 さて、今年最後の更新がこの記事です。
 ここ数年、更新が滞っており、特に今年は初めて1か月も記事を書かなかった月もあったりして、大丈夫だろうかと心配しましたが、今年観た映画の感想は全部書けてホッとしております。
 来年初頭は、地元で上映される中華電影も『ドラゴン・ブレイド』くらいしかないので(『ヘリオス』は来るとしてもかなり待たないとダメでしょう)、今年観た映画の総括は毎年恒例の十大電影の時にではお話しましょう。

 で、今回はまたしても我が地元岩手と台湾を結ぶ完全俺得記事です。
 岩手日報によると、来年のチャーター便の成果次第では、早くとも再来年に就航とのことです。ああ、ワタシもチャーター便に一度乗ってみたいわ…でも、就航時期っていつも繁忙期なんですけど。それなら有給もらって思い切って週末にでも行ってみるか?

 まあそれはともかく。昨年創刊された「秋刀魚」という台湾の日本旅行&文化雑誌があるのですが、この秋に盛岡特集号が発行されました。

 この夏、地元リトルプレスのてくりやわんこそばの東家に取材が入ったと聞き、どんな特集になるのかなーと楽しみにしてました。そんなわけで我が師匠経由で台湾から送ってもらいました。
 歴史的建造物と独自の食べ物(先に挙げたわんこそばの他、平壌式をアレンジした冷麺、中華や韓国のものとはまた違うじゃじゃ麺、全国区になってしまって嬉しいやら困るやらの福田パン)など個性が強い盛岡の名物や行事、民芸品などをバランスよく取り上げてくれていて、翻訳したらそのまま日本のガイドにも使えそう(笑)。まあ、盛岡ゆかりの偉人紹介で石川啄木と金田一京助のイラストが入れ替わっていたり、これまた全国的に有名なさわや書店じゃなくて大型チェーン書店の盛岡TSUTAYAが紹介されているのは地元本好きにはなんか解せなかったり(台湾人は代官山蔦屋書店が好きそうだもんな、誠品書店に似てるから)、いろいろツッコミたいのだが、まあそれは許す。あはははは。
 そうそう、盛岡ゆかりの偉人といえば新渡戸稲造がいますが、以前この本の感想でも書いた通り、台湾にも縁の深い人。今年は地元で台湾時代の稲造をめぐるドキュメンタリーも作られました。ついでに、「映画監督・大友啓史が旅する『新渡戸稲造の青春』展」という企画展が、今月20日まで地元の記念館で開催されていました。詳しくはこちらの記事を。

 おっと、閑話休題。この秋刀魚みたいな感じで日本でも台湾の文化が紹介されたらいいのにねーと思っていたら、雑誌Penの別冊Pen+で、台湾カルチャークルーズなる特集号が発売されました。これが思った以上の充実度で、かなり楽しめる保存版特集であった。永瀬と張震がインタビューで登場しているのが嬉しいのだが、カワイイ好き女子に人気のフォトグラファー川島小鳥氏の話題の写真集はまだ見たことないです、すいませんね。
 そう、最近の台湾観光ブームはカワイイ系で語られることが多いから、なんだかくすぐったいカンジがするんですよ。もう若くないのもあったり、あまりカワイイ連発されても、なんだかなーって感じがしてね。アートや建築なら男の人にも勧められるし、書店文化の充実もあって文学や歴史にも目が向けられれば、映画にだって結びつくしね。

 文化といえば、先のフィルメックスの記事にも書いた通り、今年は台湾文化センターのリニューアルによって、日本への台湾文学の紹介が活発化したのも嬉しい。昨年から文学を中心とした台湾カルチャーを案内するサイト「もっと台湾」も開設されたしね。
過去にここでも『蛋白質ガール』とか朱天文さんの短篇集ジミーの絵本などの感想を書いてきたけど、書籍カテゴリをざっと眺めたら、10年くらい台湾の小説は途切れていたなあ。
 それを考えたら、今年に入ってからの台湾文学と日本における台湾小説の登場は本当に充実したものであった。なにせ、我が盛岡に近い紫波町の出版社、桜出版からも、20年前にベストセラーとなった「塩田児女」シリーズ第1弾の『明月』(蔡素芬)が刊行されたくらい。先月、盛岡で講座があったので参加してきたのでした。参考としてこれ
なお、シリーズ第2弾の『オリーブの樹』も桜出版より刊行されたそうです。これも来年あたり読みますね。
参考として、先頃朝日新聞に掲載された著者のインタビュー記事を。

 その他、今年はリアルタイムでのベストセラー作家、呉明益の短篇集『歩道橋の魔術師』や、芥川賞を獲った某芸人と同時に直木賞を受賞した台湾出身の東山彰良さんの『流』、そして文庫化された吉田修一さんの『路』など、ホントにいろんな台湾小説が読めて嬉しかったですよ。



 で、嬉しかったのはいいんだけど、映画の感想を優先していたので、本の感想は全然書けませんでした。すみませぬ。
 まあ、来年初頭はあまり映画の感想もないと思うので、手元にある中華ネタの小説やエッセイを再読して、改めて感想アップします。ということを予告しておきます。後は台湾旅行も計画していますしね。
 本業も忙しくなってきて、なかなか大変なこの頃ですが、13年目も張り切って行きたいと思います。
 では、祝大家生活愉快,平平安安!
 一足お先に、良いお年を~(^^)/~~~

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宋家の三姉妹(1997/香港・日本)

 古今東西の名作映画を1日1回全国各地の劇場で上映する企画「午前十時の映画祭」
開始当初はハリウッドクラシックが中心で、アジア映画もキアロスタミくらいしかなかったのだが、昨年は『覇王別姫』を1週間上映してくれたので、夏に時間を作って観に行った。これに続いてもっと中華電影やってくれないかしら?と思っていたら、今年はこの『宋家の三姉妹』がラインナップに加わった。ほう、懐かしい。…でもあまり思い入れがない作品だな。
 メイベルさんなら一番好きなのは、やっぱり『誰かがあなたを愛してる』なんだけど、なぜこれ?と思ったら、東京での上映館が岩波ホールで、98年の初上映時には大ヒット&ロングランを記録したそうだとか…ふーん。

 観に行ったのだが、オープニングクレジットにあのフジテレビの名前があってビックリ。これ、日本人スタッフがいたり日本ロケがあったりで合作扱いになっているのは知っていたけど、まさか富士電視台が関わっていたなんて夢にも思っていなかった!ゴールデンハーベスト製作だから、てっきりアミューズもかんでいたんじゃないかとか思ったのに!(でもメイベルさんのこの次の作品『玻璃の城』はゴールデンアミューズ製作作品。アミューズにまだ上映権があるらしくて日本で観られるとのこと)


宣教師から実業家となり、国一番の富豪となったチャーリー宋(姜文)と妻の桂珍(エレイン・ジン)の間に生まれた子供たちのうち、長女の靄齢(ミシェル)慶齢(マギー)美齢(ヴィヴィアン・ウー)の三姉妹の前半生を描いた物語。清朝末期に少女期を過ごし、新しい中国の成立を説く父や彼が支援していた革命家の孫文(ウィンストン・チャオ)の活動を目にして育ってきた彼女たちは、西洋式の教育を受け、10代のうちに3人とも米国に留学した。
 新中国成立後、靄齢は銀行家の孔祥熙(牛振華)と結婚。姉を引き継いで孫文の秘書となって亡命先の日本に同行した慶齢は、親と同じくらいの年齢の孫文と愛し合うようになる。しかし父の猛反対に遭い、東京で結婚式を行った。美齢は国民党で頭角を現していた
蒋介石(呉興国)と結婚する。中華民国の第1党となった国民党は、北伐を経て実験を握ったが、共産主義者からの抵抗を受けたため、彼らの弾圧に乗り出した。共産主義者との共存を目指していた孫文の遺志に反すると危惧した慶齢は蒋介石を激しく避難し、国民党から離党する。慶齢は美齢とも激しく対立するようになる。
 国共内戦は激しさを増すが、その合間に日本軍が侵攻し、事態は泥沼化する。そこで国民党は国共合作を実施し、一致団結して日本軍と戦うことを決意する。仲違いしていた三姉妹も協力して各地を慰問し、「宋家の三姉妹」は抗日運動のシンボルとなる…。

 確かに物語はダイジェスト感たっぷりだったし、日中戦争後から再びの国共内戦、そして国民党の台湾撤退と三姉妹のその後を観たかった気はするのだが、それでも完成度が高いのに、90年代香港映画の質の高さを実感した。多少事実とは違うようではあっても、あらすじは客観的で広平な視点で描かれているし、孫文が亡命していた日本でのロケも多数で、それも実に効果的かつ変には扱われてないのもいい。90年代から香港映画での仕事が増えたワダエミさんの衣装も安定の素敵さで、かつ余計な日本人キャストがいないのがいい。これがアジアンコラボの理想の一つでもある。90年代中盤は、アミューズが手がけた『南京の基督』や『Kitchen』であったり、こういう成功があってのいい感じの日港合作があって、これが返還後の香港映画でスタンダードになってくれたらなあ、と思ったのだけど…ええ、そうはならなかったのは残念。ゴールデンハーベストも、今や映画製作も行っていないものね。でも、まだこの時代背景で、日本にも合作の余裕があったからこそよかったのかもしれない。ここ10年ほどの中国映画におけるこの時代の扱われ方を見ると、今の時点でこういう作品を作るのはきっと難しいのだろうなと思ったし。

 安定感があって、威厳も芯の強さもはまり役だったマギーはいいとして、当時はアクション女優としての評価が高かったミシェル姐が靄齢を演じるというのはかなりビックリだったんじゃないだろうか。でも歴史の渦に巻き込まれて対立する二人の妹をしっかり支える役どころとしては安心して観られる役どころだったし、アクションも変わらずなわけだし、数年後にはアウンサンスーチーまで演じることになるのだからね(笑)。
 当初はこの二人にブリジットかチェリーを交えて三姉妹とするという話も昔聞いたことがあるのだが、二人とも引退直後だったので、『ラストエンペラー』に出演後はハリウッドで活躍していたヴィヴィアン・ウーに話が行ったんだっけ。三姉妹の中では一番アメリカナイズされていて語学に長けていたという設定にはハマっていたと思う。まあ、それくらいか。最近はTVドラマのほうで活躍しているみたいだね。
 あと、姜文さんは昔から老け顔だったなあとか、ウィンストンが孫文を演じたのはこれが初めてだっけかとか(最近の当たり役は中華な五郎ちゃんでお馴染みの《孤獨的美食家》ですな)、清朝末期から宋家に仕える使用人コンビが割と面白いんだけど、最後のほうあまり出番がなかったなあとかあれこれ思った次第。

それにしても午前十時、覇王別姫の次にまさかこれが来るとは思いもよらなかったですわ。初映時には(当時の)中高年女性から熱い支持を受けていたというのも選択理由なのかなと思ったりするのですが(私事ながら、我が母上も今回の再映を楽しみにしていて、地元シネコンに観に行ったそうですよ)、来年も何か1本中華電影が入ってほしいと思っております。そうだねー、一番やってほしいのはもちろん『悲情城市』。あと『ロアン・リンユィ』もかかってくれると嬉しいなあ。今からデジタル化できればいいんだけど、どうでしょうか? 

原題:宋家皇朝
監督:メイベル・チャン 脚本:アレックス・ロー 撮影:アーサー・ウォン 美術:ジェームズ・レオン&エディ・マー 音楽:喜多郎&ランディ・ミラー 衣装:ワダエミ 
出演:マギー・チャン ミシェル・ヨー ヴィヴィアン・ウー ウィンストン・チャオ ウー・シングオ エレイン・ジン チアン・ウェン

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念念(2015/台湾)

 フィルメックス鑑賞記のラストは、今年の審査員であるシルヴィアさんの監督作品『念念』
 シルヴィアさんの監督作品は金城くんとジジとカレンの『君のいた永遠』は観ているのだが『少女シャオユー』(95)や『20、30、40の恋』(04)などの映画祭で高く評価された作品はなぜかスルーしちゃってる。つまり観る機会に恵まれなかった。だから実際は『君のいた永遠』以来15年以上ぶりの監督作品鑑賞ってことになる。

 台東の横に位置する緑島。ここは長年刑務所が多く設置されていて、台湾のアルカトラズ等と言われてきた歴史があるが、今や刑務所も一つしかなく、豊かな自然と美しい海が楽しめることで知られている。
 黄育美(イザベラ)と育男(ルンルン)の兄妹は、この島で食堂を営む両親に育てられたが、二人が小学生の時に離婚し、育美は母(アンジェリカ)に連れられて台北に移住し、育男は父(陳志朋)と共に島に残った。さらに育美は母が自分より兄を愛していて、自分を連れてきたことを後悔しているのではないかと思うようになる。そして母の死をきっかけにそれがトラウマとして残り、成人して画家となった現在においても彼女を苦しめることとなった。
 育美の恋人はボクサーの張永翔(ジョセフ)。スランプに陥った彼女は翔の合宿所を訪ね、彼と身体を重ねる。それでも彼女の心の傷は癒えなかったが、ある日自分が妊娠していることに気づく。翔は目の不調を感じ、試合で調子を上げることができなかった。眼科に行ったところ、網膜剥離の診断を受け、ボクサーとしてのキャリアを諦めることとなる。お互いに行き詰まってしまう二人。
 一方、台東の旅行代理店に勤務していた頃に父を亡くした育男は、緑島に戻ってフリーの旅行ガイドをしていたが、離婚後に消息を絶った育美の行方が気になってくる。自分にとっては大好きな家族だったのに、どうして別れてしまったのか…。それがきっかけで、育男も家族を持たずに一人で暮らしていた。
 そして、台北で暮らしていた頃に母親がやはり自分の弟か妹を妊娠していたことを思い出した育美。その記憶をたどることで、彼女は母の本当の想いを知ることになり…。

 この春に台北之家に行った時、ちょうど上映前だったことで(香港国際映画祭がプレミア上映だったそうだ)『小森食光(リトル・フォレスト)』や『D機関(ジョーカー・ゲーム)』と並んでポスターが貼ってあったのだが、お久しぶりのイザベラとジョセフを見て「ほー、ラブストーリーか…。TIFFで上映されそうだな」と思ったのだが、まさかフィルメックスでやるとは。まあ、監督が審査員だからってー理由なのでしょうが。
 ともあれ、日本では金城くんとジジの恋愛ものとして宣伝された『君のいた永遠』が、実はそれにカレンも交えた友情と恋愛が交じり合った関係と、一人が欠けて中年となった現在を対比して描かれた人間ドラマだったように、この映画もポスターではラブストーリーの顔をしているけど、実はこの二人にルンルンも加わった家族をめぐる苦悩と和解、そして再生の物語だった。
 
 母と娘の確執は、最近よくネットで話題になることが多い。幼少期に愛されなかったことや、虐待を受けたり親が叶えられなかった理想を押し付けられたりと様々なのだろうが、当人が捨てたいと思う気持ちは良くわかるし、それを悶々と一人で抱え込むのは確かに辛いことだ。だけど、それが解決できないものなのか、親を捨てるにしてもどこかに気持ちをちゃんとぶつけられるか、よければ和解できないものかと思うのは余計なお世話だろうか、まあそうだろうな(反語)。すいません。
 だけど、この物語が毒親と思えた母親への恨みと、故郷を捨てる話で終わらなかったのは、家族の崩壊が必ずしも一面的ではなかったことだ。それは育美の情緒不安定が母へのトラウマが原因だとしても、兄の育男にとってそんな思い出はなく、母が育美にありったけの愛を寄せていることはよくわかっていた。同じ家族でも全く違った視点で家族を捉えると、辛い思い出は意外にも思い込みが先行するものであるというように書かれていたからだ。そこに共感できた。だから、育美と育男が母に関する思い出を幻影として見たことで、育美が母を誤解していたことに気づいたり、育男が改めて別れた母と妹に思いを寄せる場面は素直に受け入れることができた。
 また、翔自身も漁師だった父親を海難事故で失っているというエピソードが挿入されているが、翔も父親と「出会う」ことで、次に進む勇気を持つ。育男・育美兄妹と共に、死者となった親が次の世代に家族をつなぎ、未来を見させるような作りになっているように見えた。そこにも好感を持てた。
 とは言うものの、実は同じフィルメックスのコンペに参加した、『夏休みの宿題』のチャン・ツォーチ監督の新作『酔・生夢死』とカブる部分が多いらしく、こっちの方が完成度が非常に高かった(金馬奨多数受賞)と聞いて、気になっている。これと比べてみると、また違うのかしらね。

 嬉しかったのは、かつて香港映画で活躍を見せていた二人の女優、イザベラとアンジェリカがいずれも健在だったこと。二人とも結婚しており、特にイザベラは2008年の『ハムナプトラ3』以来の本格的な銀幕復帰(!!)だったとは驚いた。『百日草』のカリーナが5年ぶりの復帰だったので、同じくらいのブランクかと思ったがとんでもなかったな(苦笑)。台湾映画も『刺青』で経験済みだったので、復帰作としてもよかったのだろうな。しかし、27歳で3児(双子含む)の母か…。アンジェリカは劇中で育美の描いた絵を手がけているとか(Q&Aより)。
 そういえば最近台湾人男優で顔を見るのってポンちゃんかジョセフだなってくらいの頻度で観てるんだが、どっちが好みだろう…ってそこで考えこむな(笑)。知的な役も肉体派もこなせるいい俳優になってたけど、そうね、シルヴィアさんがおっしゃった通り、ピンクの脇が深いタンクトップからのぞく立派な二の腕には目がいっちゃったわね。
 それでもワタシはどちらかと言えばルンルンの方が好き(こらこら)。今回はいつものような暗めの役じゃなくて、比較的明るい(でも寂しそうな)役どころだったのがよかった。幸せになってほしいなーと思った次第。後はちょっと特徴ある人が特徴的に出てくるなーと思ったら、台湾を代表する占い師の星星王子であると教えてもらった。

 あと、この映画の脚本を書いたのは、『海角七号』『KANO』でもお馴染みの蔭山征彦さんで、劇中にも出演しているらしいけど気がつかなくてすみません(追記:台北出張中に帰れなくなった育男と相乗りし、バー「藤」に案内する不思議な男性役だとか。教えてもらいました)。また、この夏岩手めんこいテレビで製作されたドキュメンタリー『新渡戸稲造の台湾』で紹介された日本人俳優・目代雄介さん『27℃-世界一のパン』 『恋するヴァンパイア』に出演…って両方観てなかったよ)も出演し、劇中で印象的に登場する「陰のない男」を演じたそうです。


英題:Murmur of the Hearts
監督&脚本:シルヴィア・チャン 脚本:蔭山征彦 撮影:リョン・ミンカイ 音楽:チェン・カイ 録音:トゥー・ドゥーチー
出演:イザベラ・リョン ジョセフ・チャン(チャン・シャオチュアン) クー・ユールン アンジェリカ・リー ジュリアン・チェン

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戯夢人生(1993/台湾)

 『恋恋風塵』で初登場し、ホウちゃんの名を広く知らしめた『悲情城市』にも出演した李天祿さん(1910-1998)。伝統的な人形劇・布袋戯の人間国宝的な人物である彼は、若い頃から公演で台湾中を回り歩いていたそうだ。生まれた時代は日本統治時代のど真ん中。そんな彼の前半生を映画にした『戯夢人生』は、悲情城市とは対をなす傑作として言えるのだろう。…しかし、恥ずかしながら未見でありました。実際日本でも長い間上映が途絶えていたそうで、今回がチャンスであり、貴重な機会だと思ったのは言うまでもなく。

 物語は幼少期から始まり、人形劇団で布袋戯使いとして才能を表す青年期(林強)、日中戦争の影響を受けた時代を経て終戦で幕が閉じられる。ポイントになる場面には李天祿さん自らが語り手として時を超えるように現れるのだが、そこで語られる当時の思い出もなかなか驚かされるものばかりで面白い。各時代についての背景は天祿さんのモノローグでも言及されるが、ドラマティックな盛り上げは一切ないし、感情過多になっていない。悲情城市でも歴史に翻弄される人々の姿はドラマティックであったが、それでも淡々としたものだったし、姉妹編として撮り上げたこの作品ではその淡々さがさらに一歩進んでいったのは言うまでもないんだろう。それ故にホウちゃんの作風にあまり親しみのない一般的な方々の感想に「名作と言われるけど、悲情城市はピンとこなかった」というのが多少あるのはわかる。

 興味深かったのは各時代に出てくる布袋戯の場面。手のひらにすっぽりとかぶせるサイズの可愛らしい人形が賑やかに物語を転がし、その時代で変化する様子もわかる。戦時下では日本の兵士の活躍まで日本語で上演されていたとは知らなかった。
 また、統治時代における日本人の見方も客観的だったのが意外だった。日本人と共に布袋戯を演じることになる後半で、やさぐれて悪態ばかりつき、天祿さんにも突っかかっていく日本人の同僚がいたが、それを咎め、天祿さんたちを気にかける上司もいるわけで、美化もしなければ批判もしない描き方はよかった。この描写について、当時はどう捉えられていたのだろうか?

 広角で大胆に遠景を捉えるショットや、自然光で室内を映し込む場面は昔も今も変わらなく、それだからこそスキな人間には安心できる。でも初心者に厳しいってわけじゃない。こういう映画こそ、大画面で時間を忘れるほどゆったりした気持ちで味わう価値がある。スヤッたらたらもう一度大画面で観ればいいのさ…って贅沢言ってすいません。

 日本統治時代に生まれ、日本語もわかれば漢文の教養もあったという天祿さん。なくなってもう15年以上が経ってしまったけど、一度お話が聞いてみたかったなあ。布袋戯の公演を日本でもしたことがあるらしいけど、気がつかなかったものなあ。

Q&Aも和やかに進行。この回では制作協力にお名前があった野上照代さんも参加されていて、ホウちゃんを「アナタは天才よりすごいよ!」と大絶賛。そして、かの黒澤明監督が日本公開時にこれを観て、黒澤プロの新年会で会う人ごとに「『戯夢人生』観たか?アレはすごいぞ!」と言っていたというエピソードを披露してくださってました。こういう話を聞くと、日本映画と台湾映画、ひいてはアジア映画のつながりの強さを再確認したくなるなあ。


 しかし、長らく上映機会が途絶えていたということがあって、フィルムがかなり古かったのが残念。風櫃同様にデジタル修復されてほしいと思うのだけど、権利関係の解決がかなり難しいらしい。悲情城市同様、映画史に残る作品だし、映画ファンだけじゃなく台湾やアジア史に興味の深い人に広く観られてほしいと思うので、デジタルリマスター化を希望します。クラウドファウンディングがあれば、もちろん参加しますよ。

英題:The Puppetmaster
監督:ホウ・シャオシェン 原案:リー・ティエンルー 脚本:ウー・ニエンジェン&ジュー・ティエンウェン 撮影:リー・ピンビン 
出演:リー・ティエンルー リン・チャン ツァイ・ジェンナン カオ・トンシウ 伊東史朗

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風櫃の少年(1983/台湾)

 今年のフィルメックスの特集上映は3本立てだった。一つはメインビジュアルに採用されているフランスの往年のマルチクリエイター&コメディ映画の旗手、ピエール・エテックス。もう一つがミンリャン、そしてホウちゃんである。

 今年のホウちゃんは8年ぶりの長編作品にして初のアクション時代劇『黒衣の刺客』を発表。これでカンヌの監督賞を受賞するにとどまらず、金馬奨では作品賞を始め5部門を受賞し、年間最優秀映画人賞も受賞といういいタイミングでの特集上映となったのだが、問答無用の代表作『悲情城市』と久々の上映となる『戯夢人生』の2本に合わせ、ベルギーで修復された、この『風櫃の少年』の初期作品が上映されるとならば、黙っておれないワタシであった…といえども、実は悲情城市は平日上映だったので、泣く泣く断念したんだけどね。



これはフランスで上映された時か何かのハイライト動画かな?

 台湾と大陸の間に位置する澎湖島。その突端にある小さな村・風櫃。
ここで育った青年阿清(豆導)は、2人の幼馴染と毎日悪ふざけをしたりケンカをしたり過ごしていた。阿清の父親は若いころに野球の試合で頭に打球を受けたことがきっかけで身体機能を失っており、母親に叱られながらもブラブラと過ごしていた。
彼らは兵役を控えており、その前に何かをしたいと考えていた。同郷の先輩が高雄の工場で働いており、トラブルを引き起こして村に居づらくなった彼らに仕事を提供する。故郷を後に一旗揚げようと考える彼らは、様々な人に出会い、事件に巻き込まれる。そんな中、父親の訃報を受け取った阿清はひとり風櫃に戻る。父との思い出に浸りながらも、もうここにも戻れないことに気づく。
 そして、仲間の一人に兵役の連絡が届き、いよいよ3人はバラバラになる時が来る。

 実はこの作品、一度観てました。学生の時ビデオで。しかも論文書くために。
ええ、実は卒論が「映画で振り返る台湾の現代史」でした。何を書いたかなんて覚えていません(泣)。で、実は内容もほとんど忘れてるなーと思ってみていたら、割と覚えているところは覚えていました(笑)。

 眼の前に海はあるものの、どこか裏寂れた感じの風櫃。遠くまでをワイドに写しだした全景の端っこの方でじゃれあう若者たち。こんな感じのショットがゆるやかに続く前半。常々言っていることだが、ホウちゃん作品は人物をクローズアップで捉えることもなく、アクションがあってもカメラは安定のフィックスである。だから最近のエンタメ系映画とは全く違う流れでゆったりと進む。そして、物語も淡々としている。
 この淡々さ、いくらスヤァ…としてしまうからといっても、だからと言ってつまらないと言われるのは心外だ。いや、たしかにワタシも気合を入れて観ないとたまに記憶が切れていることもあるのだが(汗)。全景をワイドで移すことで日常の淡々とした感覚も映画的な時間に取り込み、ノンフィクションな現象を物語に変える力があるのではないかな。それはきっと彼が敬愛する小津安二郎も使った手なのであろうし、だからこそアジアを代表する映画監督となり得たのだろうと思っている。
 数年前のフィルメックス開催時に「最近の映画監督を志す人達の間でさえ『侯孝賢って誰?』というような現実がある」というディレクターの林加奈子さんの発言を読んで驚いたことがあるのだけど、日本では『悲情城市』や『恋恋風塵』や、松竹と合作した『フラワーズ・オブ・シャンハイ』は観られても、過去作品はなかなかかからなかったからか?などと思っている。ソフトで観るにも何だかもったいない感じもするし、こういうふうに過去作品が大画面にかかることは若い人にとってもいい体験だと思うし、映画製作を目指す人には良いお手本となるよな、と感じた。これはベルギーで修復されたとのことだけど、今後世界中の映画学校や映画大学に貸し出されて上映されたらいいのになあ。
 なお、当日はホウちゃんの研究書を書かれた米国のNYバード大教授リチャード・サチェンスキー氏の講演が行われ、ワタシも大学生に戻った気分で聞きました。オーディエンスにはかの映画批評家蓮實重彦御大もいらしておりました。ほぼ斜め前にお座りになっていたので、なぜか緊張しちゃったワタクシ(笑)。

 主人公の阿清を演じるのは、今や台湾のエンタメ界を牽引するプロデューサー&映画監督となった豆導。…んー、まー、あまり男前じゃないのに自作では美味しい役やっちゃうことで有名だけど(おいおい)、若いころもそれほどハンサムじゃなかったか(こらこら)。彼の生き方にスポットが当たるけど、物言わぬお父さんとの場面はそれなりに切なくて印象的だったりして。阿清の先輩格で、彼らに就職を斡旋しながら工場の品物を横流しする青年を演じていたのが『ラスト、コーション』『ウォリアー&ウルフ』でいい脇役やっていたツォンホワさん。これ、後で気づいて「おお、出てたのか」とちょっと驚いた。かなり昔に観たので感想は書いてないけど、『南京の基督』で家輝さんの友人役をやってたのも印象的だったな。

 ゆったりとした風櫃の時間の中でふざけ合い笑い合い、忙しない高雄で世の中に揉まれたり、出会いと別れを味わった少年たち。それぞれの別れが近づくラストシーン、仲間の一人が兵役に向かうことがわかり、一緒にいる最後の思い出を作ろうという感じで屋台でカセットテープを思いっきり叩き売る阿清の姿。これは初見時にも覚えていた。画面に封じ込められた少年期の終わりは、30年以上経ってもこうして永遠に残っている。そんなふうに感じたのであった。

おまけ:この感想を書くにあたって参考にした風櫃についてのウェブページとして、ロケ地情報と当地の澎湖民宿、そしてフォートラベルの旅行記をリンクとしてご紹介。
機会があったら行きたいんだけど、どうかしらん?

原題&英題:風櫃來的人(The Boys from FengKuei)
監督:ホウ・シャオシェン 原案&脚本:ジュー・ティエンウェン 撮影:チェン・クンホウ 編集:リャオ・チンソン 音楽:ボビー・チェン
出演:ニウ・チェンザー チャン・シイ チャオ・ポンシュエ トゥオ・ツォンホア 

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青春神話(1992/台湾)

 蔡明亮と李康生のデビュー作である『青春神話』を初めて観たのは知人からもらったNHKBS放映時のビデオだった。ちょうど『河』が公開されていて、果たしてミンリャン作品は面白いのかつ(後略)と悩んでいた頃である。だからスクリーン鑑賞はもちろん初見だけど、16年ぶりくらいの再見となる。
 舞台挨拶に立ったミンリャン曰く「『ピクニック』以降は若者が自作を観てくれることが増え、過去作品も観てもらっている」とのこと。実際劇場にも若い観客が多かったし、この映画が製作されていた頃に生まれてなかったという人もいたので、見ていてなんかものすごく遠い目になってしまった(笑)シャオカンと同世代のワタシ。
なお、この作品は第6回東京国際映画祭ヤングシネマコンペティションで東京ブロンズ賞を受賞。当時のゴールド賞はニン・イン監督の『北京好日』でした。

 台北の街をバイクで縦横無尽に駆け回り、公衆電話やゲームを壊しては金を盗んでいる青年阿澤(陳昭榮)は、兄の恋人である阿桂(王渝文)と親しくなる。一方、台北駅前の予備校に通う小康(シャオカン)は、ふと思い立って予備校をやめ、返金された金を手に街をふらつき歩くようになる。彼は父親(苗天)の運転するタクシーに乗せてもらった時、たまたまバイクに乗った阿澤と出会うが、父に注意された阿澤はキレて車のサイドミラーをぶち壊す。無気力なまま街を彷徨し、暴れまわる阿澤を見かけたシャオカンは、密やかな復讐としてバイクにいたずらをしかける…。


 この映画の原題は《青少年哪吒》。哪吒(ナタ、ナチャとも言う)とは、封神演義や西遊記に登場する少年の姿をした神の名前なのだけど、画面には、シャオカンが阿澤への復讐としてバイクにいたずらした際(落書きの言葉に時代を感じたよ…)に、路上に書き残した言葉が「哪吒参上」。哪吒はしばしばイタズラ神として描かれることも多いようで、鬱屈した気持ちを阿澤にぶつけ、それを見届けてはパンイチでベッドの上を跳びはねるシャオカンがそれにダブるようにも見える。でも、一方では衝動のままモノを壊し、悪事に手を染めては自分のしでかしたことのために痛い目に遭う澤も、ある意味では哪吒なのかもしれない、などと考えた。
 同じようにどこか現状を辛さを感じ、孤独であることを認識しているのだろうけど、シャオカンと阿澤は似ているようで全く違う。阿澤は阿桂を恋人にしたけれど、その結びつきだって戯れだろうし、追いつめられて逃亡したとしても未来が見えにくい。だけどその閉塞感はシャオカンの方がより大きく、予備校はやめたけど飛び出した家にも帰れず、友達もできずに街に消えていく。そんな読み取りができる。

 前も書いたかな、実は我が初ミンリャンはこの次の『愛情萬歳』。今回のレトロスペクティブでも上映されたのだけど、残念ながら都合で観ることはできず。だけど、新築のマンションを舞台に繰り広げられる一人の女と二人の男の愛と孤独の物語は、今でも強烈に覚えているもので。そのうちの二人の男がこの映画にも出ているシャオカンとシャオロンであるから、連続性だってもちろんある。さらにシャオカンの家族は『河』でも引き継がれるから、賑やかな台湾の中における現代人の孤独というテーマはもうこの時から描かれ始めて、そこにシャオカンがいたから、現在に至るまでブレずに描けたのだろうな、と思った。

 当時23歳位だったはずのシャオカンも、さすがにこの頃は若くて可愛い。口数少なく、あまり感情を表に出さず、白い下着姿で部屋をうろつくのはもうずっと変わらないので妙な安心感がある(笑)。
 やはりこの作品でデビューした、同い年のシャオロンはシャオカンよりハンサムで若々しく、刹那的なチンピラもよく似合う。でも『愛情萬歳』より後はミンリャン作品でもちょっと出るだけになっちゃうのね…。李安さんの『恋人たちの食卓』にも出たり(ヤン・クイメイも出てるし)、ジョーと秋生さんの『プラスティック・シティ』にも出演してるけど、『20世紀少年』にも出演してると知ってかなり衝撃を受けた(観てませんが)。今は大陸のドラマで活躍しているらしい。
 名前を見て、「あー、クイメイとシンリンの妹!」と声を上げそうになったユイウェン嬢。これを考えると、90年代初頭の台湾映画界の映画俳優の層って…といいそうになった(これは後にホウちゃんの話でも出てくるのでその時にでも)。90年にデビューして、まだ若いはずだったのにベッドシーンもあったりして割と大胆な演技をしていたなあ。その後どうしているのかと調べたら、2007年に双子を産んだとあった以降は出演作が途切れているので、もしかして子育てで仕事をセーブしているのかしら。

 平たく言ってしまえば、イマドキ(と言っても1992年当時)の若者の刹那と孤独を描いた物語とありきたりな説明で終われるのだが、なんといってもあのミンリャンのデビュー作であるから、その後の作品のことまで考えて再見するととても興味深い。
 部屋、降り続く雨、あふれる水、廃墟のようにも見える街(この場合は取り壊される寸前の中華商場と地下鉄工事が象徴的)…いずれもミンリャン作品には欠かせないモチーフであるから、デビュー作には作家の全てが詰まっているという良きお手本とも言える。ただ、BGMがあったり(金馬奨では最優秀音楽賞を受賞したとか)、カット数が多かったりというあたりが今とは違うのだろうけど。

 いずれにしろ、実に興味深い再見でした。
『愛情萬歳』も機会があれば、大きいスクリーンで見直したいものです。

原題&英題:青少年哪吒(Revels of the Neon God)
監督&脚本:ツァイ・ミンリャン 撮影:リャオ・ペンロン 音楽:ホワン・シューチュン
出演:リー・カンション チェン・シャオロン ワン・ユィウェン レン・チャンピン ルー・シャオリン ミャオ・ティエン 

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あの日の午後(2015/台湾)

 先に書いたように、今年のフィルメックスではミンリャンとホウちゃんの特集上映があった。今年は台湾文化センターが正式にオープンし、観光や映画だけでなく、文学や音楽、舞踊などの文化芸術を積極的に発信していたので、その一環としての特集かなと思ったけど、以前からこの映画祭ではこの両名の新作を特別招待作品として何度となく上映してきたし、『郊遊〈ピクニック〉』以降は短編作品や舞台演出に活動の軸を移してしまったミンリャンの新作をここ数年は確実にかけてくれるので、特集が組まれて当然といえば当然か。
 しかしなぜ、同じ年に一緒に?いや別に文句ではありませんが(笑)。

 『あの日の午後』は、2年前に『ピクニック』が発表された時、公開記念で本が台湾で出版されることになり、それに収録するために企画したミンリャンとシャオカンこと李康生の対談…というか、とりとめのない対話を、撮影ディスク3巻の交換もそのままにほぼ無編集フィックスで撮影したもの。

 台北郊外、山の中にあるような廃墟に置かれた2つの椅子。そこに白いシャツのシャオカンと黒いシャツのミンリャンが腰掛ける。足元は二人ともビーチサンダル。
 そこから始まる会話は、最初は途切れがち。口火を切ったミンリャンが語ったのは、自分の遺す遺言のように、死を語ること。そこから話題は転がり、この廃墟がなんと二人の新たな住処であることがわかる。そこから、生活、仕事、セクシュアリティ、旅、それぞれの家族への想い…話題はどんどん広がっていく。ガラスの嵌めこまれていない窓からは緑の森の一部がのぞき、光も様々な形に部屋に差し込んでくる。風も吹き込んできて、その様もそのまま映画に写し込まれる。なんとも贅沢な映像で、二人が22年間にわたって築いてきた信頼としっかりと結び合った絆が、137分に凝縮されているように思えた。

 ミンリャンはゲイであるけれど、シャオカンはストレート。(シャオカンは数年前に結婚したという話も聞いたのだけど、すぐに離婚したのか?それとも気のせいか?)もちろん二人は恋人同士ではないというのは、シャオカンがミンリャンに好みのタイプを聞くくだりでなんとなくわかるものである。今は二人で一緒に暮らし、料理はミンリャンが作り、一緒にジムに通って運動不足を解消したりしている。シャオカンも20年以上のキャリアを誇る中堅俳優(&映画監督)になったので、ミンリャン以外の監督と仕事をすることも増えてきた。ミンリャンの亡きお母上の、シャオカンがいま最も愛する甥御さんへのそれぞれの思いなどを聞いていると、この巨匠と名優もまた我々と変わらない一人の人間であることが伺え、親しみも湧いてくる。

 何より興味深かったのは、昨年の『西遊』Q&Aでもそうだったように 、とにかくよくしゃべるミンリャンと、やっぱりぼそぼそと言葉少なげで、だけどミンリャンのアシストに徹してるかのように彼の言葉を受け取るシャオカンの姿。公私に渡るパートナーであり、映画という絆で結ばれた二人だけど、師弟でありながらもまるで親子(それも母子!)でもあるようにも見える濃密さを感じる。シャオカンがいたから映画を撮ってこられたというミンリャンと、決して美男ではないのに、どこか捨てがたい魅力を持つシャオカンのコンビは、これからもずっと続くのだろう。どちらかの命が尽きるまでは。

 これまでもたびたび書いてきたが、以前は苦手だったミンリャン作品も、ここ数年の作品を観てその魅力を再確認するようになったから、ワタシもこれからまだまだ二人の作品を観ていきたい。郊外ぐらしですっかり元気とやる気を取り戻した(Q&A参照のこと)ミンリャンの心配はしなくていいとして(こらこら)、『河』で実際に首をやってしまってその後遺症の痛みがまだ取れなかったり、大病を患って体調が悪いシャオカンの健康を心配しつつ、彼らの未来と幸せを願うのでした。

 あ、蛇足。対話中に「中山堂のカフェの厨房にも立つよ」とか言ってたミンリャンだけど、もうあのカフェはないじゃないか(この春の台北行きの記事を参照のこと)と心の中で突っ込んでいたのだが、シャオカンの玄奘の劇と行者シリーズの撮影が始まったばかりというのが読み取れたので、どうやらこの対話は昨年の早い時期だった様子。今年は東京で『無無眠』、そして黒澤明作品の記録を担当された野上照代さんについての短編ドキュメンタリー『秋日』を撮っていて、映画作家として順調のようなので、当分カフェの再開はないかもしれないね…。
 まあ、映画撮影やる気満々のミンリャンにとってはいいことだと思うんだけど。

原題&英題:那日下午(Afternoon)
監督:ツァイ・ミンリャン
出演:ツァイ・ミンリャン リー・カンション

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華麗上班族(2015/香港・中国)

 今年の東京フィルメックスは、例年にも増して中華電影が目立った年だった。
これはTIFFでも同様だったのだけど、特に中国大陸でいい作品がかなり増え、それに合わせるように台湾や香港からも作品が集まってきたというのもあるみたい。さらに特集上映は蔡明亮&侯孝賢だし、旧作だって見直したくなるラインナップが嬉しくて、ついつい2週連続で上京してしまったもの。

 中国映画の力が増している(この場合は量だけでなく質ね)のというのは本当のことらしく、現に今年のコンペでは『オールド・ドッグ』で4年前に最優秀作品賞を受賞したペマツェテン監督の新作『タルロ』が作品賞と観客賞を受賞し、次点の審査員特別賞には趙亮監督のドキュメンタリー『ベヒモス』も受賞していたので、それが裏付けされている。どうしても台湾や香港の映画を優先させてしまうので大陸映画は後回しになりがちなのだけど、特に前者は観てみたいな。大陸製作といいつつも、監督はチベット人だしね。

 今年のコンペに審査員のひとりとして参加されたのが、女優にして映画監督のシルヴィア・チャン。今年は監督作『念念』(後ほど感想を書きます)に出演作『山河ノスタルジア』、そしてこの『華麗上班族』が招待作として上映されたので、個人的にはシルヴィアさん映画祭でもあったのは言うまでもない(笑)。しかも共演はユンファだし、監督はトーさん。『過ぎゆく時の中で』のトリオである。


せっかくなので、「鐵三角復活!」予告を。

 時は2008年、舞台は中華圏のどこかの大都市。地下鉄の駅が直結するビルを構える総合商社ジョーンズ&サン(衆信集団)には、今日も多くの社員が出勤してくる。ここにアシスタント職として配属が決まった新入社員の李想(王紫逸)は、役員専用エレベーターに自分と同じ新入社員が乗り込むのに目を留める。彼女の名はケイケイことカット・ホー(郎月婷)。実は会長であるホー(何仲平/ユンファ)の娘なのだが、父親の命により、正体を隠してアシスタントとして入社させられたのだった。
 ジョーンズ&サンは、ホーと現CEOのチャン(張威/シルヴィア)の二人が設立し、今後は中国大陸に事業を展開するべく、香港市場上場を控えていたが、チャンはホーと不倫をしており、ホーの妻は昏睡状態に陥って入院していた。上場と米国の商社マダムとの提携を画策しているチャン。彼女の右腕であるやり手の副社長のデイヴィッド・ウォン(イーソン)は、チャンの後ろ盾を得て個人的に株の売買を行っていたが、会社の金に手を付けていた。そのため彼は使途不明金の処理に悩む経理のソフィー(湯唯)にも接近している。アラフォーのソフィーは故郷に残した恋人との仲がこじれていて、仕事と恋のどちらを取るのかで大いに悩んでいる。
 ジョーンズ&サンにマダムの重役陣がやってきて、チャンはデイヴィッドと重役の一人のガーリンに交渉を任せた。李想とケイケイも接待に回り、様々な思惑を抱えながらも、無事に提携が成立する。しかし、実はマダムも経営危機に陥っていたことがわかる。そこで李想が提案した新しい事業が採用され、チャンにも気に入られる。
 やがて米国でリーマン・ブラザーズが破綻し、それはジョーンズ&サンの人々にも様々な影響を与えることになり…。

 オリジナルはシルヴィアさんと香港の演出家エドワード・ラムさんによる2008年の劇《華麗上班族之生活與生存》。wikipediaをざっくりと読んだところによると、エドワードさんが四川大地震の発生を知り、そこから人間の生活と生存について考えてシルヴィアさんと作り上げたというのが背景にあるのか。それから間もなく起こったリーマンショックも交えた、大都会のビジネスマンの喜怒哀楽を描いた劇というところか。2008年に初演、その後香港や台北、マカオやシンガポールを含む中華圏各地で10年5月まで上演されたらしい。

 

フィルメックスでのシルヴィアさんQ&Aによると、映画化はトーさんからの申し出であり、意外にもミュージカル仕立てでというのも彼の要請だったとのこと。とはいえ、インド映画でお馴染みの大群舞場面は全くないし、ユンファは歌わないから本格的なものを期待すると肩透かしを食らう。そのあたりで賛否分かれるところもあるんだろうけど、ワタシはトーさんのその無謀なチャレンジは割と買いたいところ。

 遠くから「没有時間、没有時間、没有時間、没有時間…」というコーラスが聞こえてきて、スケルトンの地下鉄に押し込められた人々と、駅と直結したエントランスが現れるシーンから、舞台はジョーンズ&サンの自社高層ビルを中心に、ほぼ全面セットで展開される。舞台劇的な装置を想定しながらも、エレベーターや吹き抜けを横切る渡り廊下を設置して上下を強調し、巨大な時計をオフィスの真ん中に据えて時間に追われるビジネスマンの悲しい性を匂わせるこの美術を手がけたのは、我らがウィリアム・チャンさん。欲望と上昇志向を象徴するこのセットがとにかく圧巻。先日の金馬奨(リンクはアジアンパラダイスさんより)ではこの作品で最優秀美術賞に選ばれてます。普通、舞台の映画化はステージで表現できないスケールの大きい何かを持ち込まないと成功しないと考えているのだけど(中には舞台だけなら面白いはずなのに、なぜ映画化した?と思わせられるものもあるしね)、これは舞台的なセットをよりスケールアップさせたことで成功しているかな、と思う。
 ただ、ミュージカルとしてはどうなのかなー?と。先に挙げたように躍らせることはせず、歌も全員が歌うわけじゃない(とはいえ、シルヴィアさんも歌えるし、歌手でない湯唯ちゃんも頑張っていたし)し、何よりも筋が楽しくな…ってそんなことを言っちゃいけない。ミュージカルだからってハッピーエンドで終わるって決め付けてはいけないよね。

 オリジナルキャスト&プロデューサーとして堂々の座長っぷりを発揮するシルヴィアさん。年齢を聞いて、そうか、ユンファより歳上…と遠い目になった (笑)。気品にあふれていて、かつ猛烈な肉食女子CEOはハマっておりました。ユンファ演じるホー会長は、オリジナルではチャンの元夫設定だったそうで、 それでもよかったんじゃないか?という気もしたんだけど、まあそのへんは何か意図があるのでしょう。…あとさー、いくら本人が死んでも歌いたくないとは 言っても、歌わせてもよかったのよートーさん、とちょっと鬼なことも言ってみる(笑)。

 強欲にまみれて破滅していく上昇志向の副社長デイヴィッドを演じたイーソン。クライマックスで追い込まれた場面での熱唱にはグッと掴まれ、そうか、これが一番の見せどころかと思ったのは言うまでもない。イケイケな中堅にありがちなゲスさも、後先なくなって母親的存在のチャンを頼る情けなさもよかった。でも基本的にはゲスい輩ですので、はい。

 プライベートなトラブルに悩まされながらもデイヴィッドに関わったことで大きく運命が変わっていくソフィーを演じたのが湯唯ちゃん。…すみません、実は劇中全然彼女だとは気づきませんでした(汗)。今年公開されたハリウッド映画『ブラックハット』に出ていたから、全然お久しぶりってわけじゃないし、広東語も話す一方で北京語も話してたから大陸の女優だとわかっていたのにもかかわらず!一生の不覚だ…(こらこら)。でも、ヴィヴィアン・ウエストウッドの眼 鏡が似合っていて、キレイ目のカジュアルで仕事に追われつつも、自分の意志はしっかり持ちたいと心得るソフィーは愛らしくてカッコよく、ろくでもないキャラどもの中では一番感情移入できる女子でしたよ。
 ただね、彼らに対する二人の新入社員は、もう少し花があってもよかった。普通はここで期待の若手俳優でも引っ張ってくるのだろうけど、決め台詞は「アン・リーの李に理想の想です!」の李想を演じた王紫逸(以前は王子義など芸名多数らしい)も、お嬢さんモロ出しのケイケイを演じた郎月婷の両名とも、銀河映像に所属してキャリアを積んだ若手俳優とのことで、熱演していてもイマイチなところがね…。そのへんもきっと意図があるのか、あるいは単にギャラの問題か?

 あと、面白かったのは使用言語。香港映画では大陸俳優は普通話のまま、香港人は広東語で押し切ることが多いのだけど、おそらく普通話ネイティブの李想だけが終始普通話だけでしゃべり、それ以外のキャラは状況と相手に応じて言語を切り替える。これはインタビューにあった中華圏のどこでもない街の想定もあるんだろうけど、立場の強調なども案外これからわかるのかもしれないね、などと考察したくなった。そしたらもう一度観る必要があるか(笑)。

 とまれ、賛否両論ありますが、トーさん作品として観れば『奪命金』をひっくり返したような実験的な意欲作として見られるし、強欲に沸き立つ中国経済を皮肉った作品でもあるから、ワタシは面白く観ましたよ。

英題:Office
製作&脚本:シルヴィア・チャン 製作&監督:ジョニー・トー 撮影:チェン・シウキョン 美術&衣装:ウィリアム・チャン 編集:デイヴィッド・リチャードソン 音楽:ロー・ターヨウ
出演:シルヴィア・チャン イーソン・チャン ワン・ズーイー ラン・ユエティン タン・ウェイ チョウ・ユンファ

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