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華麗上班族(2015/香港・中国)

 今年の東京フィルメックスは、例年にも増して中華電影が目立った年だった。
これはTIFFでも同様だったのだけど、特に中国大陸でいい作品がかなり増え、それに合わせるように台湾や香港からも作品が集まってきたというのもあるみたい。さらに特集上映は蔡明亮&侯孝賢だし、旧作だって見直したくなるラインナップが嬉しくて、ついつい2週連続で上京してしまったもの。

 中国映画の力が増している(この場合は量だけでなく質ね)のというのは本当のことらしく、現に今年のコンペでは『オールド・ドッグ』で4年前に最優秀作品賞を受賞したペマツェテン監督の新作『タルロ』が作品賞と観客賞を受賞し、次点の審査員特別賞には趙亮監督のドキュメンタリー『ベヒモス』も受賞していたので、それが裏付けされている。どうしても台湾や香港の映画を優先させてしまうので大陸映画は後回しになりがちなのだけど、特に前者は観てみたいな。大陸製作といいつつも、監督はチベット人だしね。

 今年のコンペに審査員のひとりとして参加されたのが、女優にして映画監督のシルヴィア・チャン。今年は監督作『念念』(後ほど感想を書きます)に出演作『山河ノスタルジア』、そしてこの『華麗上班族』が招待作として上映されたので、個人的にはシルヴィアさん映画祭でもあったのは言うまでもない(笑)。しかも共演はユンファだし、監督はトーさん。『過ぎゆく時の中で』のトリオである。


せっかくなので、「鐵三角復活!」予告を。

 時は2008年、舞台は中華圏のどこかの大都市。地下鉄の駅が直結するビルを構える総合商社ジョーンズ&サン(衆信集団)には、今日も多くの社員が出勤してくる。ここにアシスタント職として配属が決まった新入社員の李想(王紫逸)は、役員専用エレベーターに自分と同じ新入社員が乗り込むのに目を留める。彼女の名はケイケイことカット・ホー(郎月婷)。実は会長であるホー(何仲平/ユンファ)の娘なのだが、父親の命により、正体を隠してアシスタントとして入社させられたのだった。
 ジョーンズ&サンは、ホーと現CEOのチャン(張威/シルヴィア)の二人が設立し、今後は中国大陸に事業を展開するべく、香港市場上場を控えていたが、チャンはホーと不倫をしており、ホーの妻は昏睡状態に陥って入院していた。上場と米国の商社マダムとの提携を画策しているチャン。彼女の右腕であるやり手の副社長のデイヴィッド・ウォン(イーソン)は、チャンの後ろ盾を得て個人的に株の売買を行っていたが、会社の金に手を付けていた。そのため彼は使途不明金の処理に悩む経理のソフィー(湯唯)にも接近している。アラフォーのソフィーは故郷に残した恋人との仲がこじれていて、仕事と恋のどちらを取るのかで大いに悩んでいる。
 ジョーンズ&サンにマダムの重役陣がやってきて、チャンはデイヴィッドと重役の一人のガーリンに交渉を任せた。李想とケイケイも接待に回り、様々な思惑を抱えながらも、無事に提携が成立する。しかし、実はマダムも経営危機に陥っていたことがわかる。そこで李想が提案した新しい事業が採用され、チャンにも気に入られる。
 やがて米国でリーマン・ブラザーズが破綻し、それはジョーンズ&サンの人々にも様々な影響を与えることになり…。

 オリジナルはシルヴィアさんと香港の演出家エドワード・ラムさんによる2008年の劇《華麗上班族之生活與生存》。wikipediaをざっくりと読んだところによると、エドワードさんが四川大地震の発生を知り、そこから人間の生活と生存について考えてシルヴィアさんと作り上げたというのが背景にあるのか。それから間もなく起こったリーマンショックも交えた、大都会のビジネスマンの喜怒哀楽を描いた劇というところか。2008年に初演、その後香港や台北、マカオやシンガポールを含む中華圏各地で10年5月まで上演されたらしい。

 

フィルメックスでのシルヴィアさんQ&Aによると、映画化はトーさんからの申し出であり、意外にもミュージカル仕立てでというのも彼の要請だったとのこと。とはいえ、インド映画でお馴染みの大群舞場面は全くないし、ユンファは歌わないから本格的なものを期待すると肩透かしを食らう。そのあたりで賛否分かれるところもあるんだろうけど、ワタシはトーさんのその無謀なチャレンジは割と買いたいところ。

 遠くから「没有時間、没有時間、没有時間、没有時間…」というコーラスが聞こえてきて、スケルトンの地下鉄に押し込められた人々と、駅と直結したエントランスが現れるシーンから、舞台はジョーンズ&サンの自社高層ビルを中心に、ほぼ全面セットで展開される。舞台劇的な装置を想定しながらも、エレベーターや吹き抜けを横切る渡り廊下を設置して上下を強調し、巨大な時計をオフィスの真ん中に据えて時間に追われるビジネスマンの悲しい性を匂わせるこの美術を手がけたのは、我らがウィリアム・チャンさん。欲望と上昇志向を象徴するこのセットがとにかく圧巻。先日の金馬奨(リンクはアジアンパラダイスさんより)ではこの作品で最優秀美術賞に選ばれてます。普通、舞台の映画化はステージで表現できないスケールの大きい何かを持ち込まないと成功しないと考えているのだけど(中には舞台だけなら面白いはずなのに、なぜ映画化した?と思わせられるものもあるしね)、これは舞台的なセットをよりスケールアップさせたことで成功しているかな、と思う。
 ただ、ミュージカルとしてはどうなのかなー?と。先に挙げたように躍らせることはせず、歌も全員が歌うわけじゃない(とはいえ、シルヴィアさんも歌えるし、歌手でない湯唯ちゃんも頑張っていたし)し、何よりも筋が楽しくな…ってそんなことを言っちゃいけない。ミュージカルだからってハッピーエンドで終わるって決め付けてはいけないよね。

 オリジナルキャスト&プロデューサーとして堂々の座長っぷりを発揮するシルヴィアさん。年齢を聞いて、そうか、ユンファより歳上…と遠い目になった (笑)。気品にあふれていて、かつ猛烈な肉食女子CEOはハマっておりました。ユンファ演じるホー会長は、オリジナルではチャンの元夫設定だったそうで、 それでもよかったんじゃないか?という気もしたんだけど、まあそのへんは何か意図があるのでしょう。…あとさー、いくら本人が死んでも歌いたくないとは 言っても、歌わせてもよかったのよートーさん、とちょっと鬼なことも言ってみる(笑)。

 強欲にまみれて破滅していく上昇志向の副社長デイヴィッドを演じたイーソン。クライマックスで追い込まれた場面での熱唱にはグッと掴まれ、そうか、これが一番の見せどころかと思ったのは言うまでもない。イケイケな中堅にありがちなゲスさも、後先なくなって母親的存在のチャンを頼る情けなさもよかった。でも基本的にはゲスい輩ですので、はい。

 プライベートなトラブルに悩まされながらもデイヴィッドに関わったことで大きく運命が変わっていくソフィーを演じたのが湯唯ちゃん。…すみません、実は劇中全然彼女だとは気づきませんでした(汗)。今年公開されたハリウッド映画『ブラックハット』に出ていたから、全然お久しぶりってわけじゃないし、広東語も話す一方で北京語も話してたから大陸の女優だとわかっていたのにもかかわらず!一生の不覚だ…(こらこら)。でも、ヴィヴィアン・ウエストウッドの眼 鏡が似合っていて、キレイ目のカジュアルで仕事に追われつつも、自分の意志はしっかり持ちたいと心得るソフィーは愛らしくてカッコよく、ろくでもないキャラどもの中では一番感情移入できる女子でしたよ。
 ただね、彼らに対する二人の新入社員は、もう少し花があってもよかった。普通はここで期待の若手俳優でも引っ張ってくるのだろうけど、決め台詞は「アン・リーの李に理想の想です!」の李想を演じた王紫逸(以前は王子義など芸名多数らしい)も、お嬢さんモロ出しのケイケイを演じた郎月婷の両名とも、銀河映像に所属してキャリアを積んだ若手俳優とのことで、熱演していてもイマイチなところがね…。そのへんもきっと意図があるのか、あるいは単にギャラの問題か?

 あと、面白かったのは使用言語。香港映画では大陸俳優は普通話のまま、香港人は広東語で押し切ることが多いのだけど、おそらく普通話ネイティブの李想だけが終始普通話だけでしゃべり、それ以外のキャラは状況と相手に応じて言語を切り替える。これはインタビューにあった中華圏のどこでもない街の想定もあるんだろうけど、立場の強調なども案外これからわかるのかもしれないね、などと考察したくなった。そしたらもう一度観る必要があるか(笑)。

 とまれ、賛否両論ありますが、トーさん作品として観れば『奪命金』をひっくり返したような実験的な意欲作として見られるし、強欲に沸き立つ中国経済を皮肉った作品でもあるから、ワタシは面白く観ましたよ。

英題:Office
製作&脚本:シルヴィア・チャン 製作&監督:ジョニー・トー 撮影:チェン・シウキョン 美術&衣装:ウィリアム・チャン 編集:デイヴィッド・リチャードソン 音楽:ロー・ターヨウ
出演:シルヴィア・チャン イーソン・チャン ワン・ズーイー ラン・ユエティン タン・ウェイ チョウ・ユンファ

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