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念念(2015/台湾)

 フィルメックス鑑賞記のラストは、今年の審査員であるシルヴィアさんの監督作品『念念』
 シルヴィアさんの監督作品は金城くんとジジとカレンの『君のいた永遠』は観ているのだが『少女シャオユー』(95)や『20、30、40の恋』(04)などの映画祭で高く評価された作品はなぜかスルーしちゃってる。つまり観る機会に恵まれなかった。だから実際は『君のいた永遠』以来15年以上ぶりの監督作品鑑賞ってことになる。

 台東の横に位置する緑島。ここは長年刑務所が多く設置されていて、台湾のアルカトラズ等と言われてきた歴史があるが、今や刑務所も一つしかなく、豊かな自然と美しい海が楽しめることで知られている。
 黄育美(イザベラ)と育男(ルンルン)の兄妹は、この島で食堂を営む両親に育てられたが、二人が小学生の時に離婚し、育美は母(アンジェリカ)に連れられて台北に移住し、育男は父(陳志朋)と共に島に残った。さらに育美は母が自分より兄を愛していて、自分を連れてきたことを後悔しているのではないかと思うようになる。そして母の死をきっかけにそれがトラウマとして残り、成人して画家となった現在においても彼女を苦しめることとなった。
 育美の恋人はボクサーの張永翔(ジョセフ)。スランプに陥った彼女は翔の合宿所を訪ね、彼と身体を重ねる。それでも彼女の心の傷は癒えなかったが、ある日自分が妊娠していることに気づく。翔は目の不調を感じ、試合で調子を上げることができなかった。眼科に行ったところ、網膜剥離の診断を受け、ボクサーとしてのキャリアを諦めることとなる。お互いに行き詰まってしまう二人。
 一方、台東の旅行代理店に勤務していた頃に父を亡くした育男は、緑島に戻ってフリーの旅行ガイドをしていたが、離婚後に消息を絶った育美の行方が気になってくる。自分にとっては大好きな家族だったのに、どうして別れてしまったのか…。それがきっかけで、育男も家族を持たずに一人で暮らしていた。
 そして、台北で暮らしていた頃に母親がやはり自分の弟か妹を妊娠していたことを思い出した育美。その記憶をたどることで、彼女は母の本当の想いを知ることになり…。

 この春に台北之家に行った時、ちょうど上映前だったことで(香港国際映画祭がプレミア上映だったそうだ)『小森食光(リトル・フォレスト)』や『D機関(ジョーカー・ゲーム)』と並んでポスターが貼ってあったのだが、お久しぶりのイザベラとジョセフを見て「ほー、ラブストーリーか…。TIFFで上映されそうだな」と思ったのだが、まさかフィルメックスでやるとは。まあ、監督が審査員だからってー理由なのでしょうが。
 ともあれ、日本では金城くんとジジの恋愛ものとして宣伝された『君のいた永遠』が、実はそれにカレンも交えた友情と恋愛が交じり合った関係と、一人が欠けて中年となった現在を対比して描かれた人間ドラマだったように、この映画もポスターではラブストーリーの顔をしているけど、実はこの二人にルンルンも加わった家族をめぐる苦悩と和解、そして再生の物語だった。
 
 母と娘の確執は、最近よくネットで話題になることが多い。幼少期に愛されなかったことや、虐待を受けたり親が叶えられなかった理想を押し付けられたりと様々なのだろうが、当人が捨てたいと思う気持ちは良くわかるし、それを悶々と一人で抱え込むのは確かに辛いことだ。だけど、それが解決できないものなのか、親を捨てるにしてもどこかに気持ちをちゃんとぶつけられるか、よければ和解できないものかと思うのは余計なお世話だろうか、まあそうだろうな(反語)。すいません。
 だけど、この物語が毒親と思えた母親への恨みと、故郷を捨てる話で終わらなかったのは、家族の崩壊が必ずしも一面的ではなかったことだ。それは育美の情緒不安定が母へのトラウマが原因だとしても、兄の育男にとってそんな思い出はなく、母が育美にありったけの愛を寄せていることはよくわかっていた。同じ家族でも全く違った視点で家族を捉えると、辛い思い出は意外にも思い込みが先行するものであるというように書かれていたからだ。そこに共感できた。だから、育美と育男が母に関する思い出を幻影として見たことで、育美が母を誤解していたことに気づいたり、育男が改めて別れた母と妹に思いを寄せる場面は素直に受け入れることができた。
 また、翔自身も漁師だった父親を海難事故で失っているというエピソードが挿入されているが、翔も父親と「出会う」ことで、次に進む勇気を持つ。育男・育美兄妹と共に、死者となった親が次の世代に家族をつなぎ、未来を見させるような作りになっているように見えた。そこにも好感を持てた。
 とは言うものの、実は同じフィルメックスのコンペに参加した、『夏休みの宿題』のチャン・ツォーチ監督の新作『酔・生夢死』とカブる部分が多いらしく、こっちの方が完成度が非常に高かった(金馬奨多数受賞)と聞いて、気になっている。これと比べてみると、また違うのかしらね。

 嬉しかったのは、かつて香港映画で活躍を見せていた二人の女優、イザベラとアンジェリカがいずれも健在だったこと。二人とも結婚しており、特にイザベラは2008年の『ハムナプトラ3』以来の本格的な銀幕復帰(!!)だったとは驚いた。『百日草』のカリーナが5年ぶりの復帰だったので、同じくらいのブランクかと思ったがとんでもなかったな(苦笑)。台湾映画も『刺青』で経験済みだったので、復帰作としてもよかったのだろうな。しかし、27歳で3児(双子含む)の母か…。アンジェリカは劇中で育美の描いた絵を手がけているとか(Q&Aより)。
 そういえば最近台湾人男優で顔を見るのってポンちゃんかジョセフだなってくらいの頻度で観てるんだが、どっちが好みだろう…ってそこで考えこむな(笑)。知的な役も肉体派もこなせるいい俳優になってたけど、そうね、シルヴィアさんがおっしゃった通り、ピンクの脇が深いタンクトップからのぞく立派な二の腕には目がいっちゃったわね。
 それでもワタシはどちらかと言えばルンルンの方が好き(こらこら)。今回はいつものような暗めの役じゃなくて、比較的明るい(でも寂しそうな)役どころだったのがよかった。幸せになってほしいなーと思った次第。後はちょっと特徴ある人が特徴的に出てくるなーと思ったら、台湾を代表する占い師の星星王子であると教えてもらった。

 あと、この映画の脚本を書いたのは、『海角七号』『KANO』でもお馴染みの蔭山征彦さんで、劇中にも出演しているらしいけど気がつかなくてすみません(追記:台北出張中に帰れなくなった育男と相乗りし、バー「藤」に案内する不思議な男性役だとか。教えてもらいました)。また、この夏岩手めんこいテレビで製作されたドキュメンタリー『新渡戸稲造の台湾』で紹介された日本人俳優・目代雄介さん『27℃-世界一のパン』 『恋するヴァンパイア』に出演…って両方観てなかったよ)も出演し、劇中で印象的に登場する「陰のない男」を演じたそうです。


英題:Murmur of the Hearts
監督&脚本:シルヴィア・チャン 脚本:蔭山征彦 撮影:リョン・ミンカイ 音楽:チェン・カイ 録音:トゥー・ドゥーチー
出演:イザベラ・リョン ジョセフ・チャン(チャン・シャオチュアン) クー・ユールン アンジェリカ・リー ジュリアン・チェン

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