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あの日の午後(2015/台湾)

 先に書いたように、今年のフィルメックスではミンリャンとホウちゃんの特集上映があった。今年は台湾文化センターが正式にオープンし、観光や映画だけでなく、文学や音楽、舞踊などの文化芸術を積極的に発信していたので、その一環としての特集かなと思ったけど、以前からこの映画祭ではこの両名の新作を特別招待作品として何度となく上映してきたし、『郊遊〈ピクニック〉』以降は短編作品や舞台演出に活動の軸を移してしまったミンリャンの新作をここ数年は確実にかけてくれるので、特集が組まれて当然といえば当然か。
 しかしなぜ、同じ年に一緒に?いや別に文句ではありませんが(笑)。

 『あの日の午後』は、2年前に『ピクニック』が発表された時、公開記念で本が台湾で出版されることになり、それに収録するために企画したミンリャンとシャオカンこと李康生の対談…というか、とりとめのない対話を、撮影ディスク3巻の交換もそのままにほぼ無編集フィックスで撮影したもの。

 台北郊外、山の中にあるような廃墟に置かれた2つの椅子。そこに白いシャツのシャオカンと黒いシャツのミンリャンが腰掛ける。足元は二人ともビーチサンダル。
 そこから始まる会話は、最初は途切れがち。口火を切ったミンリャンが語ったのは、自分の遺す遺言のように、死を語ること。そこから話題は転がり、この廃墟がなんと二人の新たな住処であることがわかる。そこから、生活、仕事、セクシュアリティ、旅、それぞれの家族への想い…話題はどんどん広がっていく。ガラスの嵌めこまれていない窓からは緑の森の一部がのぞき、光も様々な形に部屋に差し込んでくる。風も吹き込んできて、その様もそのまま映画に写し込まれる。なんとも贅沢な映像で、二人が22年間にわたって築いてきた信頼としっかりと結び合った絆が、137分に凝縮されているように思えた。

 ミンリャンはゲイであるけれど、シャオカンはストレート。(シャオカンは数年前に結婚したという話も聞いたのだけど、すぐに離婚したのか?それとも気のせいか?)もちろん二人は恋人同士ではないというのは、シャオカンがミンリャンに好みのタイプを聞くくだりでなんとなくわかるものである。今は二人で一緒に暮らし、料理はミンリャンが作り、一緒にジムに通って運動不足を解消したりしている。シャオカンも20年以上のキャリアを誇る中堅俳優(&映画監督)になったので、ミンリャン以外の監督と仕事をすることも増えてきた。ミンリャンの亡きお母上の、シャオカンがいま最も愛する甥御さんへのそれぞれの思いなどを聞いていると、この巨匠と名優もまた我々と変わらない一人の人間であることが伺え、親しみも湧いてくる。

 何より興味深かったのは、昨年の『西遊』Q&Aでもそうだったように 、とにかくよくしゃべるミンリャンと、やっぱりぼそぼそと言葉少なげで、だけどミンリャンのアシストに徹してるかのように彼の言葉を受け取るシャオカンの姿。公私に渡るパートナーであり、映画という絆で結ばれた二人だけど、師弟でありながらもまるで親子(それも母子!)でもあるようにも見える濃密さを感じる。シャオカンがいたから映画を撮ってこられたというミンリャンと、決して美男ではないのに、どこか捨てがたい魅力を持つシャオカンのコンビは、これからもずっと続くのだろう。どちらかの命が尽きるまでは。

 これまでもたびたび書いてきたが、以前は苦手だったミンリャン作品も、ここ数年の作品を観てその魅力を再確認するようになったから、ワタシもこれからまだまだ二人の作品を観ていきたい。郊外ぐらしですっかり元気とやる気を取り戻した(Q&A参照のこと)ミンリャンの心配はしなくていいとして(こらこら)、『河』で実際に首をやってしまってその後遺症の痛みがまだ取れなかったり、大病を患って体調が悪いシャオカンの健康を心配しつつ、彼らの未来と幸せを願うのでした。

 あ、蛇足。対話中に「中山堂のカフェの厨房にも立つよ」とか言ってたミンリャンだけど、もうあのカフェはないじゃないか(この春の台北行きの記事を参照のこと)と心の中で突っ込んでいたのだが、シャオカンの玄奘の劇と行者シリーズの撮影が始まったばかりというのが読み取れたので、どうやらこの対話は昨年の早い時期だった様子。今年は東京で『無無眠』、そして黒澤明作品の記録を担当された野上照代さんについての短編ドキュメンタリー『秋日』を撮っていて、映画作家として順調のようなので、当分カフェの再開はないかもしれないね…。
 まあ、映画撮影やる気満々のミンリャンにとってはいいことだと思うんだけど。

原題&英題:那日下午(Afternoon)
監督:ツァイ・ミンリャン
出演:ツァイ・ミンリャン リー・カンション

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