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戯夢人生(1993/台湾)

 『恋恋風塵』で初登場し、ホウちゃんの名を広く知らしめた『悲情城市』にも出演した李天祿さん(1910-1998)。伝統的な人形劇・布袋戯の人間国宝的な人物である彼は、若い頃から公演で台湾中を回り歩いていたそうだ。生まれた時代は日本統治時代のど真ん中。そんな彼の前半生を映画にした『戯夢人生』は、悲情城市とは対をなす傑作として言えるのだろう。…しかし、恥ずかしながら未見でありました。実際日本でも長い間上映が途絶えていたそうで、今回がチャンスであり、貴重な機会だと思ったのは言うまでもなく。

 物語は幼少期から始まり、人形劇団で布袋戯使いとして才能を表す青年期(林強)、日中戦争の影響を受けた時代を経て終戦で幕が閉じられる。ポイントになる場面には李天祿さん自らが語り手として時を超えるように現れるのだが、そこで語られる当時の思い出もなかなか驚かされるものばかりで面白い。各時代についての背景は天祿さんのモノローグでも言及されるが、ドラマティックな盛り上げは一切ないし、感情過多になっていない。悲情城市でも歴史に翻弄される人々の姿はドラマティックであったが、それでも淡々としたものだったし、姉妹編として撮り上げたこの作品ではその淡々さがさらに一歩進んでいったのは言うまでもないんだろう。それ故にホウちゃんの作風にあまり親しみのない一般的な方々の感想に「名作と言われるけど、悲情城市はピンとこなかった」というのが多少あるのはわかる。

 興味深かったのは各時代に出てくる布袋戯の場面。手のひらにすっぽりとかぶせるサイズの可愛らしい人形が賑やかに物語を転がし、その時代で変化する様子もわかる。戦時下では日本の兵士の活躍まで日本語で上演されていたとは知らなかった。
 また、統治時代における日本人の見方も客観的だったのが意外だった。日本人と共に布袋戯を演じることになる後半で、やさぐれて悪態ばかりつき、天祿さんにも突っかかっていく日本人の同僚がいたが、それを咎め、天祿さんたちを気にかける上司もいるわけで、美化もしなければ批判もしない描き方はよかった。この描写について、当時はどう捉えられていたのだろうか?

 広角で大胆に遠景を捉えるショットや、自然光で室内を映し込む場面は昔も今も変わらなく、それだからこそスキな人間には安心できる。でも初心者に厳しいってわけじゃない。こういう映画こそ、大画面で時間を忘れるほどゆったりした気持ちで味わう価値がある。スヤッたらたらもう一度大画面で観ればいいのさ…って贅沢言ってすいません。

 日本統治時代に生まれ、日本語もわかれば漢文の教養もあったという天祿さん。なくなってもう15年以上が経ってしまったけど、一度お話が聞いてみたかったなあ。布袋戯の公演を日本でもしたことがあるらしいけど、気がつかなかったものなあ。

Q&Aも和やかに進行。この回では制作協力にお名前があった野上照代さんも参加されていて、ホウちゃんを「アナタは天才よりすごいよ!」と大絶賛。そして、かの黒澤明監督が日本公開時にこれを観て、黒澤プロの新年会で会う人ごとに「『戯夢人生』観たか?アレはすごいぞ!」と言っていたというエピソードを披露してくださってました。こういう話を聞くと、日本映画と台湾映画、ひいてはアジア映画のつながりの強さを再確認したくなるなあ。


 しかし、長らく上映機会が途絶えていたということがあって、フィルムがかなり古かったのが残念。風櫃同様にデジタル修復されてほしいと思うのだけど、権利関係の解決がかなり難しいらしい。悲情城市同様、映画史に残る作品だし、映画ファンだけじゃなく台湾やアジア史に興味の深い人に広く観られてほしいと思うので、デジタルリマスター化を希望します。クラウドファウンディングがあれば、もちろん参加しますよ。

英題:The Puppetmaster
監督:ホウ・シャオシェン 原案:リー・ティエンルー 脚本:ウー・ニエンジェン&ジュー・ティエンウェン 撮影:リー・ピンビン 
出演:リー・ティエンルー リン・チャン ツァイ・ジェンナン カオ・トンシウ 伊東史朗

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