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青春神話(1992/台湾)

 蔡明亮と李康生のデビュー作である『青春神話』を初めて観たのは知人からもらったNHKBS放映時のビデオだった。ちょうど『河』が公開されていて、果たしてミンリャン作品は面白いのかつ(後略)と悩んでいた頃である。だからスクリーン鑑賞はもちろん初見だけど、16年ぶりくらいの再見となる。
 舞台挨拶に立ったミンリャン曰く「『ピクニック』以降は若者が自作を観てくれることが増え、過去作品も観てもらっている」とのこと。実際劇場にも若い観客が多かったし、この映画が製作されていた頃に生まれてなかったという人もいたので、見ていてなんかものすごく遠い目になってしまった(笑)シャオカンと同世代のワタシ。
なお、この作品は第6回東京国際映画祭ヤングシネマコンペティションで東京ブロンズ賞を受賞。当時のゴールド賞はニン・イン監督の『北京好日』でした。

 台北の街をバイクで縦横無尽に駆け回り、公衆電話やゲームを壊しては金を盗んでいる青年阿澤(陳昭榮)は、兄の恋人である阿桂(王渝文)と親しくなる。一方、台北駅前の予備校に通う小康(シャオカン)は、ふと思い立って予備校をやめ、返金された金を手に街をふらつき歩くようになる。彼は父親(苗天)の運転するタクシーに乗せてもらった時、たまたまバイクに乗った阿澤と出会うが、父に注意された阿澤はキレて車のサイドミラーをぶち壊す。無気力なまま街を彷徨し、暴れまわる阿澤を見かけたシャオカンは、密やかな復讐としてバイクにいたずらをしかける…。


 この映画の原題は《青少年哪吒》。哪吒(ナタ、ナチャとも言う)とは、封神演義や西遊記に登場する少年の姿をした神の名前なのだけど、画面には、シャオカンが阿澤への復讐としてバイクにいたずらした際(落書きの言葉に時代を感じたよ…)に、路上に書き残した言葉が「哪吒参上」。哪吒はしばしばイタズラ神として描かれることも多いようで、鬱屈した気持ちを阿澤にぶつけ、それを見届けてはパンイチでベッドの上を跳びはねるシャオカンがそれにダブるようにも見える。でも、一方では衝動のままモノを壊し、悪事に手を染めては自分のしでかしたことのために痛い目に遭う澤も、ある意味では哪吒なのかもしれない、などと考えた。
 同じようにどこか現状を辛さを感じ、孤独であることを認識しているのだろうけど、シャオカンと阿澤は似ているようで全く違う。阿澤は阿桂を恋人にしたけれど、その結びつきだって戯れだろうし、追いつめられて逃亡したとしても未来が見えにくい。だけどその閉塞感はシャオカンの方がより大きく、予備校はやめたけど飛び出した家にも帰れず、友達もできずに街に消えていく。そんな読み取りができる。

 前も書いたかな、実は我が初ミンリャンはこの次の『愛情萬歳』。今回のレトロスペクティブでも上映されたのだけど、残念ながら都合で観ることはできず。だけど、新築のマンションを舞台に繰り広げられる一人の女と二人の男の愛と孤独の物語は、今でも強烈に覚えているもので。そのうちの二人の男がこの映画にも出ているシャオカンとシャオロンであるから、連続性だってもちろんある。さらにシャオカンの家族は『河』でも引き継がれるから、賑やかな台湾の中における現代人の孤独というテーマはもうこの時から描かれ始めて、そこにシャオカンがいたから、現在に至るまでブレずに描けたのだろうな、と思った。

 当時23歳位だったはずのシャオカンも、さすがにこの頃は若くて可愛い。口数少なく、あまり感情を表に出さず、白い下着姿で部屋をうろつくのはもうずっと変わらないので妙な安心感がある(笑)。
 やはりこの作品でデビューした、同い年のシャオロンはシャオカンよりハンサムで若々しく、刹那的なチンピラもよく似合う。でも『愛情萬歳』より後はミンリャン作品でもちょっと出るだけになっちゃうのね…。李安さんの『恋人たちの食卓』にも出たり(ヤン・クイメイも出てるし)、ジョーと秋生さんの『プラスティック・シティ』にも出演してるけど、『20世紀少年』にも出演してると知ってかなり衝撃を受けた(観てませんが)。今は大陸のドラマで活躍しているらしい。
 名前を見て、「あー、クイメイとシンリンの妹!」と声を上げそうになったユイウェン嬢。これを考えると、90年代初頭の台湾映画界の映画俳優の層って…といいそうになった(これは後にホウちゃんの話でも出てくるのでその時にでも)。90年にデビューして、まだ若いはずだったのにベッドシーンもあったりして割と大胆な演技をしていたなあ。その後どうしているのかと調べたら、2007年に双子を産んだとあった以降は出演作が途切れているので、もしかして子育てで仕事をセーブしているのかしら。

 平たく言ってしまえば、イマドキ(と言っても1992年当時)の若者の刹那と孤独を描いた物語とありきたりな説明で終われるのだが、なんといってもあのミンリャンのデビュー作であるから、その後の作品のことまで考えて再見するととても興味深い。
 部屋、降り続く雨、あふれる水、廃墟のようにも見える街(この場合は取り壊される寸前の中華商場と地下鉄工事が象徴的)…いずれもミンリャン作品には欠かせないモチーフであるから、デビュー作には作家の全てが詰まっているという良きお手本とも言える。ただ、BGMがあったり(金馬奨では最優秀音楽賞を受賞したとか)、カット数が多かったりというあたりが今とは違うのだろうけど。

 いずれにしろ、実に興味深い再見でした。
『愛情萬歳』も機会があれば、大きいスクリーンで見直したいものです。

原題&英題:青少年哪吒(Revels of the Neon God)
監督&脚本:ツァイ・ミンリャン 撮影:リャオ・ペンロン 音楽:ホワン・シューチュン
出演:リー・カンション チェン・シャオロン ワン・ユィウェン レン・チャンピン ルー・シャオリン ミャオ・ティエン 

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