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風櫃の少年(1983/台湾)

 今年のフィルメックスの特集上映は3本立てだった。一つはメインビジュアルに採用されているフランスの往年のマルチクリエイター&コメディ映画の旗手、ピエール・エテックス。もう一つがミンリャン、そしてホウちゃんである。

 今年のホウちゃんは8年ぶりの長編作品にして初のアクション時代劇『黒衣の刺客』を発表。これでカンヌの監督賞を受賞するにとどまらず、金馬奨では作品賞を始め5部門を受賞し、年間最優秀映画人賞も受賞といういいタイミングでの特集上映となったのだが、問答無用の代表作『悲情城市』と久々の上映となる『戯夢人生』の2本に合わせ、ベルギーで修復された、この『風櫃の少年』の初期作品が上映されるとならば、黙っておれないワタシであった…といえども、実は悲情城市は平日上映だったので、泣く泣く断念したんだけどね。



これはフランスで上映された時か何かのハイライト動画かな?

 台湾と大陸の間に位置する澎湖島。その突端にある小さな村・風櫃。
ここで育った青年阿清(豆導)は、2人の幼馴染と毎日悪ふざけをしたりケンカをしたり過ごしていた。阿清の父親は若いころに野球の試合で頭に打球を受けたことがきっかけで身体機能を失っており、母親に叱られながらもブラブラと過ごしていた。
彼らは兵役を控えており、その前に何かをしたいと考えていた。同郷の先輩が高雄の工場で働いており、トラブルを引き起こして村に居づらくなった彼らに仕事を提供する。故郷を後に一旗揚げようと考える彼らは、様々な人に出会い、事件に巻き込まれる。そんな中、父親の訃報を受け取った阿清はひとり風櫃に戻る。父との思い出に浸りながらも、もうここにも戻れないことに気づく。
 そして、仲間の一人に兵役の連絡が届き、いよいよ3人はバラバラになる時が来る。

 実はこの作品、一度観てました。学生の時ビデオで。しかも論文書くために。
ええ、実は卒論が「映画で振り返る台湾の現代史」でした。何を書いたかなんて覚えていません(泣)。で、実は内容もほとんど忘れてるなーと思ってみていたら、割と覚えているところは覚えていました(笑)。

 眼の前に海はあるものの、どこか裏寂れた感じの風櫃。遠くまでをワイドに写しだした全景の端っこの方でじゃれあう若者たち。こんな感じのショットがゆるやかに続く前半。常々言っていることだが、ホウちゃん作品は人物をクローズアップで捉えることもなく、アクションがあってもカメラは安定のフィックスである。だから最近のエンタメ系映画とは全く違う流れでゆったりと進む。そして、物語も淡々としている。
 この淡々さ、いくらスヤァ…としてしまうからといっても、だからと言ってつまらないと言われるのは心外だ。いや、たしかにワタシも気合を入れて観ないとたまに記憶が切れていることもあるのだが(汗)。全景をワイドで移すことで日常の淡々とした感覚も映画的な時間に取り込み、ノンフィクションな現象を物語に変える力があるのではないかな。それはきっと彼が敬愛する小津安二郎も使った手なのであろうし、だからこそアジアを代表する映画監督となり得たのだろうと思っている。
 数年前のフィルメックス開催時に「最近の映画監督を志す人達の間でさえ『侯孝賢って誰?』というような現実がある」というディレクターの林加奈子さんの発言を読んで驚いたことがあるのだけど、日本では『悲情城市』や『恋恋風塵』や、松竹と合作した『フラワーズ・オブ・シャンハイ』は観られても、過去作品はなかなかかからなかったからか?などと思っている。ソフトで観るにも何だかもったいない感じもするし、こういうふうに過去作品が大画面にかかることは若い人にとってもいい体験だと思うし、映画製作を目指す人には良いお手本となるよな、と感じた。これはベルギーで修復されたとのことだけど、今後世界中の映画学校や映画大学に貸し出されて上映されたらいいのになあ。
 なお、当日はホウちゃんの研究書を書かれた米国のNYバード大教授リチャード・サチェンスキー氏の講演が行われ、ワタシも大学生に戻った気分で聞きました。オーディエンスにはかの映画批評家蓮實重彦御大もいらしておりました。ほぼ斜め前にお座りになっていたので、なぜか緊張しちゃったワタクシ(笑)。

 主人公の阿清を演じるのは、今や台湾のエンタメ界を牽引するプロデューサー&映画監督となった豆導。…んー、まー、あまり男前じゃないのに自作では美味しい役やっちゃうことで有名だけど(おいおい)、若いころもそれほどハンサムじゃなかったか(こらこら)。彼の生き方にスポットが当たるけど、物言わぬお父さんとの場面はそれなりに切なくて印象的だったりして。阿清の先輩格で、彼らに就職を斡旋しながら工場の品物を横流しする青年を演じていたのが『ラスト、コーション』『ウォリアー&ウルフ』でいい脇役やっていたツォンホワさん。これ、後で気づいて「おお、出てたのか」とちょっと驚いた。かなり昔に観たので感想は書いてないけど、『南京の基督』で家輝さんの友人役をやってたのも印象的だったな。

 ゆったりとした風櫃の時間の中でふざけ合い笑い合い、忙しない高雄で世の中に揉まれたり、出会いと別れを味わった少年たち。それぞれの別れが近づくラストシーン、仲間の一人が兵役に向かうことがわかり、一緒にいる最後の思い出を作ろうという感じで屋台でカセットテープを思いっきり叩き売る阿清の姿。これは初見時にも覚えていた。画面に封じ込められた少年期の終わりは、30年以上経ってもこうして永遠に残っている。そんなふうに感じたのであった。

おまけ:この感想を書くにあたって参考にした風櫃についてのウェブページとして、ロケ地情報と当地の澎湖民宿、そしてフォートラベルの旅行記をリンクとしてご紹介。
機会があったら行きたいんだけど、どうかしらん?

原題&英題:風櫃來的人(The Boys from FengKuei)
監督:ホウ・シャオシェン 原案&脚本:ジュー・ティエンウェン 撮影:チェン・クンホウ 編集:リャオ・チンソン 音楽:ボビー・チェン
出演:ニウ・チェンザー チャン・シイ チャオ・ポンシュエ トゥオ・ツォンホア 

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