« 風の中の家族(2015/台湾) | トップページ | レイジー・ヘイジー・クレイジー(2015/香港) »

百日草(2015/台湾)

 3年前に大阪アジアン映画祭で観た『星空』、今年のシネマート六本木閉館祭りで観た長編デビュー作『九月に降る風』がいずれもよくて、好きな監督となったトム・リンさんの最新作が『百日草』。主演は『恋人のディスクール』以来(多分)の映画出演となるカリーナ・ラム、そして星空にも出演して印象的な演技を見せてくれた五月天のギタリスト石頭。

 台北の高速道路で発生した多重交通事故が全ての始まりだった。多くの死者を出したその事故に巻き込まれたのは、結婚を目前にした心敏(カリーナ)と、婚約者で調理師の仁祐(馬志翔)、旅行代理店に勤める育偉(石頭)と、妻でピアノ教師の曉雯(アリス・クー)。心敏は軽症だったが仁祐は死亡し、育偉は腕の骨折で一命は取り留めたが、妻は妊娠していた子供とともに命を落とす。心敏のもとには、高雄から仁祐の両親がやってきて、彼女の知らぬ間に勝手に葬儀が進められる。突然パートナーを亡くしてしまった育偉と心敏は、お互いにそれが受け入れられぬまま、初七日から合同法要に参加する。

 初七日から四十九日、そして百日法要と佛式の法要と重ね合わせて、それぞれの喪失に向き合う心敏と育偉。勝手に進められる葬儀の段取り、置き去りにされる気持ち、もういない事故の加害者への怒り、以前と同じように訪ねてくる生徒など、二人の日常の描写は淡々と描かれる。起きて、食べて、仕事をして、人に会って、そして寝て…それでも最愛の人の不在は彼らに大きくのしかかる。
 ピアノが見えるところにあるのが耐えられずに片付けてしまう育偉、妹の助けを得て仁祐の得意な料理を作ってみる心敏。また、彼女はハネムーンとして仁祐と一緒に行くはずだった沖縄へ一人で旅立ち、仁祐と一緒に回るはずだった食べ歩きをする。そこで出会う人の語りかけも、彼女をほっとさせても悲しみから救うことはない。

 そんな淡々とした日常の中でもこちらがドキッとする場面はいくつか潜んでいる。自らも命を絶とうとする場面もある。また、セックスは日々の営みの中では当たり前に行われるはずなのだが、それが悲しみの底に沈む育偉と心敏がそれぞれ経験してしまう(注・二人が寝てしまうわけではないです、あしからず)。そこには悲しみからの逃避や、あるいは解放もあるのだろうかと後も思うことが少し、あった。

 そうそう、合同法要で心敏と育偉はお互いいろいろと言葉を交わすけど、彼らは決して恋になんか落ちない。そういうものだと思う。それぞれ、愛する人への想いは残っているし、悲しみをやめるための日と言われている百日の法要(日本の場合ですが参考としてここを)が過ぎても、悲しみが完全に癒えるわけではない。だけど、いつかはそれが終わりを迎えることを彼らも自覚している。そう若くはない彼らの未来がどうなるかはわからないけど、ほんの少しの光を感じさせるように物語が終わる。

 悲しみを追体験し、決して感傷的にはならない物語。うまく言えないけど、そう感じた。

ボケボケで失礼します。右の帽子が石頭、真ん中がトムさん。

 今年の金馬奨では主演女優賞にノミネートされたカリーナ、多分本格的に演技を観た気がする石頭、両者とも好演。
 そういえば國語を話すカリーナを台湾映画で観たのは初めてかもしれない。全編通してほぼノーメイク、全く飾り気のない姿はこれまで香港映画で観てきた彼女とは違う。ご当人はこの5年間で結婚&出産を経ているとはいえ、やはりいい具合に歳を重ねていて嬉しい。石頭はイケメンというより、良い味わいのある顔つきしていると思ったな。片腕を封じられ、演技も制限されるけど、後ろ姿が非常に印象的だった。もちろん表情もね。
 カリーナの恋人役は我らがKANO監督馬志翔(その弟・仁毅は売れっ子張書豪)、石頭の妻はこれまた売れっ子のアリス・クー。二人とも美男美女だし、在りし日の姿が映し出されるたびに切なくなる。脇のキャスティングも贅沢である。

 そう言いつつもやはり一番ずっしりきたのは、この物語がトムさんの実体験から生まれたという事実。彼は3年前に夫人を亡くしていたのである。ということは、大阪アジアンでお会いした直後くらい…と考えると、やはり衝撃が大きい。九月にしろ星空にしろ、彼の作品には喪失と悲しみが常に底に流れているけど、今回それが大きかったのもよくわかる。
 大阪アジアンで観た星空に、震災1年でまだ荒んでいた心を掴まれた思いがあったので、今作のティーチインの後でもしサインをもらえたら、あの時の御礼と感謝を伝えたかったものだった。なんせ終了後別件で(次の記事で書きますが)気を取られてたワタシも悪かったんですが。石頭も一緒だったから賑わったんだろうなあ。うう、つくづく残念である。

 感想を書くのが難しいなあと思いつつも、つい長々と書き散らしましたが、今年のTIFFで観た作品では間違いなくこれがベスト。
 最近ますます中華電影の一般公開が難しくなってきていますが、中華電影ファン以外の方々の間でも高評価だったと聞くし、五月天も日本で活動するようになったので、なんとか一般公開を決めてほしいです。五月天つながりでアミューズに提供いただいてもいいだろうしね。もちろん、順次でもいいから全国公開もマストで。

ラストはこの主題歌MVで締めましょう。音楽を担当したのは蘇打綠のメンバー。

原題&英題:百日告別(Zinnia Flower)
監督&脚本:トム・リン 音楽:コン・ユイチー(蘇打綠) 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:カリーナ・ラム ストーン(MayDay) アリス・クー マー・ジーシアン チャン・シューハオ

|

« 風の中の家族(2015/台湾) | トップページ | レイジー・ヘイジー・クレイジー(2015/香港) »

台湾映画」カテゴリの記事

日本の映画祭」カテゴリの記事

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/14197/62608836

この記事へのトラックバック一覧です: 百日草(2015/台湾):

« 風の中の家族(2015/台湾) | トップページ | レイジー・ヘイジー・クレイジー(2015/香港) »