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2015年11月

レイジー・ヘイジー・クレイジー(2015/香港)

 世界中で映画祭があると、いつも楽しみにしているのが河北新報サイトの連載コラム「シネマに包まれて―映画祭報告」。アジア映画のプログラミングを一手に引き受ける石坂健治さん(得意分野は中央アジア&中東とのこと)のインタビューをふむふむと読んでいて、思わず遠い目になってしまった。
 そうか、パンちゃんの作品が日本に紹介されて、もう10年が過ぎちゃったのよね…。それなら彼の弟子がメガホンを取るのは自然の流れだよなあって。

 今年のパンちゃん作品は、TIFF提携企画の東京中国映画週間で、大陸で撮った最新作『愛のカケヒキ』が、その前の『アバディーン』が大阪アジアンでそれぞれ上映されている。その勢いにのりプロデューサーとしてTIFFに持ってきたのは、『恋の紫煙2』『低俗喜劇』の脚本を書いたロック・イーサム改めジョディ・ロックの初監督作『レイジー・ヘイジー・クレイジー』

 新界の学校に通うメガネのトレイシー(アシーナ・クォック)、ボブカットのアリス(フィッシュ・リウ)、茶髪のクロエ(コーイー・マック)の女子高生三人組。仲よく学校生活を送る一方、それぞれ売春をしている。両親がそれぞれ海外で別居しているアリスは、他の生徒から安マンと陰口を言われるが、生活のためと割り切ってしまう。祖母(スーザン・ショウ)と姉(ダダ・チャン)との生活に窮屈さを感じ、衝動的に犬を買ってしまったトレイシーはアリスの家に転がりこみ、クロエと共に生活を始める。
 クロエの紹介で売春クラブの合コンに参加したトレイシーは、その場の雰囲気に馴染めなくなって飛び出してしまうが、参加者の会社社長レイモンド(グレゴリー・ウォン)に気遣われ、優しくされる。その後、実家に戻ってコンドームを見つけられてしまい、祖母に責められた彼女レイモンドの家に行き、彼と寝てしまう。
 その一方で、三人組はクラスメイトのアンドリューに熱を上げていた。彼と一番仲がよかったのはクロエだが、一番夢中になったのはトレイシーだった。しかしアンドリューと深い関係にあったのはアリスであり、それを知ってショックを受けたトレイシーは…。


左から、トレイシー役のアシーナ、アリス役のフィッシュ、クロエ役のコーイー。
TIFFでの上映がワールドプレミアでした。

ぶっちゃけ言ってしまえば、援助交際女子高生の話である。だけど、援交という言葉は使いたくなかった。どんな年齢であっても、体を売れば年齢性別関係なく売春は売春で、オヤジな連中が援交なんていう生温い言葉で言い換えて一般化されるのはなんかやーな感じなもんで。まあ、売春が援交と言い換えられるようになったのは、ワタシが社会人になって間もなくだったし、体を売ることを考えるといろいろ解せないと当時は思ったもんな。
そんなわけで、援交という言葉や売春には実際には抵抗感はあるのだが(実際、体を売るほど困ってなかったし、自信なかったし…っておいおい)、この映画で登場する売春にはそこまで抵抗感を持たない。だって実話を基にしたなどと言われても、あくまでもフィクションだから。


左からアシーナ、パンちゃん、ジョディさん。通訳は安定の周さん。

 売春を扱った映画は香港でも数多い。そういえば今年の春に大阪アジアンで上映されたハーマン・ヤウ監督の『セーラ』も売春を扱った話だっけか(すいません未見なもんで。厳密に言うとかつて若いころに家庭で虐待され、経済援助を受けていた女性の話、だそうです)。
 こういうものだとどうしても後ろ暗くなったり、イタい部分を見せられたりしそうなのだが、実はこの映画にはそういうものを全く感じなかった。それは主人公三人組のキャラの絶妙さもあるし、ガーリーさをもちながらも、実はその斜め上をいく生の18歳女子の姿をストレートに表現した大胆な演出があったからだろうと思う。
 だってさー、三點露出が御法度な香港映画界でヌードを見せるだけでも大騒ぎなのに、おぱーい(ふざけた言い方ですんまそん)どころかヘアまで!オールヌードまで見せてしまうわ、それはセックスシーンではなくて白昼の屋上でだったりするし、「タンポン抜けないんだけどー」とか「仲がいいと生理も一緒に始まっちゃうんだよー」なんてのも隠すことなく見せてしまう。こういう感覚、邦画でも多少似たようなものがあったなと思ったら、安藤桃子監督がデビュー作でやってたなあ、と。ちなみにこの映画
 そんなわけでいい意味であけすけで、ちっともいやらしさや悲壮感を覚えない。むしろ共感すら抱きたくなったよ。あ、言っておきますけど意見には個人差がありますよ。人によっては売春が受け入れ難い人だっているだろうし。

 ワールドプレミア上映だったので、質問はひとつしか受け付けられなかったのだが、そのひとつに当たったので、「初監督においてこれだけは譲れない!と思ったことは?」と質問したところ、ジョディさんの言葉には眼から鱗だった。こちらにも載っているけど、「女性が裸でいるのは、通常ならセックスシーンがほとんどである。でも、そうしたくはなかった。ワタシは裸のシーンを昼間の光のなかで撮ることで、裸は日常の中に普通にあるもので、女の子たちには自分のカラダが自分のものとしてどう受け入れるか意識してほしいと思った」と答えていた。
 カラダも心も自分のもの。生活のためとか興味本位でカラダを売っても、それはセックスの相手のものじゃなくてあくまでも自分のもの。心ならむしろそれ以上に大事。男と寝ることを繰り返しても、夢中になるのはクラスのイケてる男子だし、どんなに性戯が上達しようとも、恋をすれば心はときめく。アンドリューをめぐってさまざまな思惑を繰り広げ、トレイシーがやっとのことで彼に近づいてしでかすある行為は滑稽には見えるけど、アレをやられたらさすがに退くだろうし、拒否されればショックだろうな、とはちょっと思ったけど、イタさまでは思えなかったな。いや、30代(多分ね)男子が書いたこの感想を読んでて、まあオトコ目線ならそう思わざるをえないんだろうなって感じたんだけど(でも参考になりましたわ)


ジョディさんはキャスケットがよく似合ってて、長身でかっこよい女子。でもまだ若いのよねー。

 ただ、彼女たちの結びつきは男ぐらいで揺らぐことはない。友情が愛で壊れることはない。たまに仲違いをしたりはするけど、なんのかの言いつつもすぐに仲直りする。アリスとクロエの間には、どこか愛情に近い友情が発生したりする。そんな感じの、まさに女子会的に突き進む三人組には、ハラハラさせられながらも愛おしさを感じたものだ。



 メガネを掛けても外してもかわいいアシーナ、ボブカットの美少女フィッシュ、いかにもギャルだけど大人っぽい(だって24歳だものー)のコーイーの3人組は、オーディションで選ばれたモデル出身とのこと。トレイシーの姉役で久々に顔を見たダダちゃんと同じように、映画デビューでかなり大胆な演技が求められたけど、若手俳優不在の香港で、なんとか生き残ってもらいたいものである。ローカル香港映画でしっかり出て、中華圏進出はその後でもいいから、まずは地元で!
 トレイシーをヴァージンブレイクさせてしまう(としか思えなかったよ)罪な男、レイモンドはパンちゃん組俳優にして、NHKやWOWOWのドラマ出演の経験があるグレゴリー。相変わらずええ男だ。ええ男だがスケベだ。スケベだけど王子様だ。以上(おいおい)
 トレイシーがバイトするメイド喫茶の面々も面白い。徐天佑が執事やってると思えば、マダム(!)役がデレクで似合ってるんだけど衝撃的。恋の紫煙2でお馴染み「有名人に似ている一般人」枠はなんと世界の蒼井そら先生(敬意を込めての敬称)だが、特にそこには全くちっとも驚かなかったのは異常に偏っているワタシだからですか?どうですか?

 ま、ワタシはおもいっきり楽しんだし、気に入った作品なんだけど、人によっては抵抗感もあるだろうし、オンナの出来損ないみたいなワタシの感想はオトコの人たちとは明らかに違うだろうしなあ。ま、ワタシの心もカラダも感想も、ワタシのものですからね、とオチを無理やり付けてみたりするのでしたよ、あはははは。
 18歳よ、永遠に!>とおばちゃんが言っても意味がない


プレミア鑑賞者へのプレゼントは、日本人漫画家に描き下ろしてもらったビジュアルのペーパーファイル。中は三人組の衝撃フォトがあしらわれているけど、見せてやらなーい(笑)

原題:同班同學
監督&脚本:ジョディ・ロック 製作:パン・ホーチョン 撮影:ジャム・ヤウ   編集:ウェンダース・リー
出演:アシーナ・クォック フィッシュ・リウ コーイー・マック グレゴリー・ウォン ダダ・チャン チョイ・ティンヤウ デレク・ツァン 蒼井そら スーザン・ショウ

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百日草(2015/台湾)

 3年前に大阪アジアン映画祭で観た『星空』、今年のシネマート六本木閉館祭りで観た長編デビュー作『九月に降る風』がいずれもよくて、好きな監督となったトム・リンさんの最新作が『百日草』。主演は『恋人のディスクール』以来(多分)の映画出演となるカリーナ・ラム、そして星空にも出演して印象的な演技を見せてくれた五月天のギタリスト石頭。

 台北の高速道路で発生した多重交通事故が全ての始まりだった。多くの死者を出したその事故に巻き込まれたのは、結婚を目前にした心敏(カリーナ)と、婚約者で調理師の仁祐(馬志翔)、旅行代理店に勤める育偉(石頭)と、妻でピアノ教師の曉雯(アリス・クー)。心敏は軽症だったが仁祐は死亡し、育偉は腕の骨折で一命は取り留めたが、妻は妊娠していた子供とともに命を落とす。心敏のもとには、高雄から仁祐の両親がやってきて、彼女の知らぬ間に勝手に葬儀が進められる。突然パートナーを亡くしてしまった育偉と心敏は、お互いにそれが受け入れられぬまま、初七日から合同法要に参加する。

 初七日から四十九日、そして百日法要と佛式の法要と重ね合わせて、それぞれの喪失に向き合う心敏と育偉。勝手に進められる葬儀の段取り、置き去りにされる気持ち、もういない事故の加害者への怒り、以前と同じように訪ねてくる生徒など、二人の日常の描写は淡々と描かれる。起きて、食べて、仕事をして、人に会って、そして寝て…それでも最愛の人の不在は彼らに大きくのしかかる。
 ピアノが見えるところにあるのが耐えられずに片付けてしまう育偉、妹の助けを得て仁祐の得意な料理を作ってみる心敏。また、彼女はハネムーンとして仁祐と一緒に行くはずだった沖縄へ一人で旅立ち、仁祐と一緒に回るはずだった食べ歩きをする。そこで出会う人の語りかけも、彼女をほっとさせても悲しみから救うことはない。

 そんな淡々とした日常の中でもこちらがドキッとする場面はいくつか潜んでいる。自らも命を絶とうとする場面もある。また、セックスは日々の営みの中では当たり前に行われるはずなのだが、それが悲しみの底に沈む育偉と心敏がそれぞれ経験してしまう(注・二人が寝てしまうわけではないです、あしからず)。そこには悲しみからの逃避や、あるいは解放もあるのだろうかと後も思うことが少し、あった。

 そうそう、合同法要で心敏と育偉はお互いいろいろと言葉を交わすけど、彼らは決して恋になんか落ちない。そういうものだと思う。それぞれ、愛する人への想いは残っているし、悲しみをやめるための日と言われている百日の法要(日本の場合ですが参考としてここを)が過ぎても、悲しみが完全に癒えるわけではない。だけど、いつかはそれが終わりを迎えることを彼らも自覚している。そう若くはない彼らの未来がどうなるかはわからないけど、ほんの少しの光を感じさせるように物語が終わる。

 悲しみを追体験し、決して感傷的にはならない物語。うまく言えないけど、そう感じた。

ボケボケで失礼します。右の帽子が石頭、真ん中がトムさん。

 今年の金馬奨では主演女優賞にノミネートされたカリーナ、多分本格的に演技を観た気がする石頭、両者とも好演。
 そういえば國語を話すカリーナを台湾映画で観たのは初めてかもしれない。全編通してほぼノーメイク、全く飾り気のない姿はこれまで香港映画で観てきた彼女とは違う。ご当人はこの5年間で結婚&出産を経ているとはいえ、やはりいい具合に歳を重ねていて嬉しい。石頭はイケメンというより、良い味わいのある顔つきしていると思ったな。片腕を封じられ、演技も制限されるけど、後ろ姿が非常に印象的だった。もちろん表情もね。
 カリーナの恋人役は我らがKANO監督馬志翔(その弟・仁毅は売れっ子張書豪)、石頭の妻はこれまた売れっ子のアリス・クー。二人とも美男美女だし、在りし日の姿が映し出されるたびに切なくなる。脇のキャスティングも贅沢である。

 そう言いつつもやはり一番ずっしりきたのは、この物語がトムさんの実体験から生まれたという事実。彼は3年前に夫人を亡くしていたのである。ということは、大阪アジアンでお会いした直後くらい…と考えると、やはり衝撃が大きい。九月にしろ星空にしろ、彼の作品には喪失と悲しみが常に底に流れているけど、今回それが大きかったのもよくわかる。
 大阪アジアンで観た星空に、震災1年でまだ荒んでいた心を掴まれた思いがあったので、今作のティーチインの後でもしサインをもらえたら、あの時の御礼と感謝を伝えたかったものだった。なんせ終了後別件で(次の記事で書きますが)気を取られてたワタシも悪かったんですが。石頭も一緒だったから賑わったんだろうなあ。うう、つくづく残念である。

 感想を書くのが難しいなあと思いつつも、つい長々と書き散らしましたが、今年のTIFFで観た作品では間違いなくこれがベスト。
 最近ますます中華電影の一般公開が難しくなってきていますが、中華電影ファン以外の方々の間でも高評価だったと聞くし、五月天も日本で活動するようになったので、なんとか一般公開を決めてほしいです。五月天つながりでアミューズに提供いただいてもいいだろうしね。もちろん、順次でもいいから全国公開もマストで。

ラストはこの主題歌MVで締めましょう。音楽を担当したのは蘇打綠のメンバー。

原題&英題:百日告別(Zinnia Flower)
監督&脚本:トム・リン 音楽:コン・ユイチー(蘇打綠) 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:カリーナ・ラム ストーン(MayDay) アリス・クー マー・ジーシアン チャン・シューハオ

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風の中の家族(2015/台湾)

 ホウちゃんやヤンちゃんより上の世代で、台湾映画界の大御所である王童監督の最新作『風の中の家族』。福岡映画祭などで作品は上映されてきたけど、意外にもこれでTIFF初登場。そしてワタシ的にも初王童作品。
お馴染み王家衛のとこの澤東がマネージメントしている『共犯』のアリス・クーが出演していることもあり、澤東のFBページでたびたび取り上げられていたのだけど…どうみてもこれ、某三丁目のなんたらっぽくない?と思わせられるのであった。その証拠はこのポスター。

 しかし、肝心の映画はあれみたいなノスタルジアなんて微塵も感じられない、第二次大戦直後の国共内戦から始まる骨太の歴史大作であった。

 国共内戦下の中国大陸。国民党兵士の盛鵬連長(トニー・ヤン)と部下の范(ジョージ・フー)、順子(李曉川)は、家族を失い、名前も持たない少年と出会う。3人の父親に育てられたという呂布の故事から盛は少年を奉先と名付け、連れて逃げることにする。折しも戦況は共産党に有利に働き、4人は国民党の撤退とともに台湾へ。左肩を負傷した盛は除隊し、奉先を連れて台北に向かうが、なんと范と順子も軍から脱走。4人は大稻埕のドブ川のほとりにあるあばら家を借り、共同生活を始める。
 力仕事のできない盛は車夫を始め、范は団扇作りで生活費を稼ぐ。順子は炊事兵のキャリアを活かし、牛肉麺の屋台を出すが、評判はイマイチ。ある日、いたずらで奉先たちが汁に香辛料を大量に混ぜたところ、客に褒められる。順子は近所で屋台を出す阿玉(アリス・クー)にひかれていく。
 また、順子の牛肉麺の評判に引かれて大稻埕にやって来た邱香(ヘイデン・クオ)は、ここで一緒の船に乗ってきた盛と奉先に再会する。奉先と同い年の妹邱梅も再会を喜び、奉先は姉妹の家でピアノを習うことになる。
貧しくとも一生懸命暮らす4人だが、決して楽しいことばかりではない。范は生活に不満を漏らすようになり、順子と阿玉の結婚でついに我慢の限界を迎える。盛は元上司を介して台中の山間部に農地を提供してもらい、范にそこで働くことを勧めた。また、奉先が國中に進学した頃、近所で火災が発生し、子供を救おうとして炎の中に飛び込んだ順子が命を落とす。
 邱香は外国留学を勧められたが、それは見合い同様のものだった。盛に想いを寄せていることを知っている奉先(メイソン・リー)と邱梅(アンバー・クオ)は、盛と邱香を会わせるが、大陸に残した妻と子供を忘れられない彼はその思いに応えられない。そして、左派の学者であった姉妹の父親が白色テロ首謀の疑いをかけられて逮捕され、一家は台北から姿を消す。
 それから10年後、盛たちは大稻埕から古亭に居を移し、盛は阿玉の店を手伝っていた。学校を出て印刷工にはなったものの、西門で遊びまわっていた奉先は、郵便局で働く邱梅に再会するー。

 描かれる時代は1949年から2009年ごろまで。ということは、『悲情城市』ラストから牯嶺街、そして『好男好女』までかつてホウちゃんやヤンちゃんが描いてきた台湾現代史をほぼ全てカバーする。直木賞受賞の小説『流』とも後半はかなり被るし、東アジアに視野を広げたら、今年日本公開された韓国映画『国際市場で逢いましょう』の時代も重なる。
 最近は『セデック・バレ』『KANO』などの先住民や本省人の側に立つ歴史を描く作品が多く登場しているが、そういえば外省人の歴史は詳しくは知らなかった。牯嶺街は外省人子弟が主人公となるけど、それは背景であってメインになることはなかったから。『流』も外省人の家族の物語だったからタイミングもよかったし、非常に興味深く観た。
 『三丁目の夕日』も合わせて、アジアの20世紀後半史を描く作品は家族がその中心になることが多いけど、この作品がユニークなのは、全く血縁のないものが家族として寄り添うこと。奉先は三人の兵士たちをそれぞれお父さんと呼び、順子亡き後も彼らと暮らす阿玉をお母さんと呼ぶ。寡婦となった阿玉は盛にも心を寄せるけど、彼はやはり大陸の妻のことを思って拒否してしまう。それによって阿玉は彼らの元を去るのだけど、奉先にとって彼女も親。だから、クライマックスの結婚式で招待する。血がつながらなくても、関係がギクシャクしても、共に暮らし苦難も乗り越えればそれは家族なのである。このような描写は王童さんが多くの元兵士への取材を重ねた上で作り上げたようだけど(参考として公式インタビューを)、実際あったかもしれないなあ、とは思わされる。



 そういえば当日のQ&Aでは上海で上映された時のことなどにも触れられていて、当時を知らない人にも大変好評だったと聞く。そこは素直に観たんだろうなって思う。
 まあ、複雑な台湾史の一面を知るにはいい作品だったけど、質としては?というと…意外と大味?(こらこら)でも、観られてよかったですよ。重ねて言いますが。

キャストはもちろん、全員若手。
特に盛を演じたトニー・ヤンは、『祝宴!シェフ』で開いた新境地に続き、また新たな一歩を踏み出した感がある。30年以上に渡る物語なので、話が進むにつれて当然どんどん老けていくのだが、実は外見的にはあまり老けない(笑)。だけど、ちゃんとその年代相応の重みを演技に加えていくのだ。そこに思わず膝を打ちたくなった。いやあ、『僕の恋、彼の秘密』『ブラッドブラザーズ 天堂口』も遥か彼方なのね…。弟分の2人もいい味出してました。
 女性陣では、アリス・クーがよかったかな。『共犯』より出番が多かったから印象深かったってのもあるけど。邱家の姉妹を演じたヘイデン嬢&アンバーちゃんは同じ郭性だけど、調べてみたら別に姉妹じゃなくて、ヘイデン嬢はハーフのモデルさんなのね。
 加えて驚いたのが、青年期の奉先を演じた李淳ことメイソン・リーくん。なんと李安さんの息子さん!『ハングオーバー!!』の2作目に出ていたらしいが、すまん未見である。生粋のABCなので、國語は全く喋れなく猛特訓したとか。そうね、伊藤ちびノリだー淳史くんに似てるってのには同意します。今後も中華電影に登場してきそうだね、李淳くんは。



 まあ、あまりにもド直球のエンタメ系歴史大作なので、映画祭でかけるには大味かもって意見もわかるけど、こういう作品は確実に一般公開は低そうな気がするし、映画祭で上映する意義は大いにあるでしょう。映画は文化や歴史を知るのには絶好なメディアだしね。

原題&英題:風中家族(When the Wind Settles)
監督&脚本:ワン・トン 編集:リャオ・チンソン 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:トニー・ヤン アンバー・クオ ヘイデン・クオ メイソン・リー アンバー・クオ アリス・クー ジョージ・フー リー・シャオチュアン

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破風(2015/香港・中国)

 2年前の『激戦  ハート・オブ・ファイト』以来のTIFF登場となるダンテ・ラム作品『破風』は、自転車王国台湾から始まる、サイクルロードレースにかける若者たちの熱い物語。主演は激戦に続いて登板のエディ・ポンに、『サンザシの樹の下で』のカナダ出身のショーン・ドウ、そしてK-POPグループスーパージュニアのメンバーで『墨攻』のチェ・シウォン(来年日本公開の學友さんやニックさんや張震出演の『ヘリオス 赤い諜報戦』にも出演)。…あれ?香港映画なのに香港人がメインキャストにいなくない?


 プロのサイクルレーサー、仇銘(エディ・ポン)は高雄のサイクルチーム、ラディアントに加入した。同時に加入した邱田(ショーン・ドウ)と共に、韓国人エースの鄭知元(チェ・シウォン)を引っ張るアシストに抜擢され、全島レースで成績を上げる。仇銘と邱田は練習中に出会った女性アマチュアレーサー黄詩瑤(王珞丹)に恋をするが、彼女は仇銘を選ぶ。
アシストながら時に強引な突破を試みる大胆さが玉に瑕の仇銘と真面目にアシストを務める邱田、そして知元は友情を深めていくが、チームからスポンサーが撤退することになり、絶好調なはずのラディアントは解散に追い込まれる。監督の立(連凱)は仇銘に香港のチーム・アイオロスへの移籍を用意し、彼はエースとして迎えられる。邱田と知元もそれぞれ新天地へと旅立ち、香港と上海のレースでは敵同士としてレースを戦うことになる。
 しかし、仇銘は大胆さが災いして悪評を呼び、邱田は心肺能力の弱さを指摘されたことから薬物に手を出してしまい、共にレース界から失脚する。仇銘は詩瑤の愛を失ってしまい、邱田は釜山で競輪選手となる。さらに詩瑤は女子スプリントレースの事故でアキレス腱を断裂してしまい、選手生命の危機に立たされる…!

 いやあ、爽やかだった。ものすごく爽やかなスポーツ映画。
 サイクルロードレースについては、アニメ映画『茄子 アンダルシアの夏』や近藤史恵の小説『サクリファイス』くらいでしか知識がないが(最近人気の『弱虫ペダル』は観てないんだ)、チームで走りながらも記録と表彰はエースのみという特殊性は押さえていた。それだけわかれば結構のれるし、前半の3人の友情と、後半の各自の葛藤とも対比できるなと思った。
 主演がポンちゃんということで、激戦とも共通する部分が多いけど、ドロドロ感は少ないし、失脚してもすぐ立ち上がれるのは若さゆえかな。仇銘&邱田と詩瑤の恋のさや当てはいらないという意見が多かったし、気持ちはわかるけど、これがあると意外と若者への共感も呼べるんじゃないかなとも思う。※意見には個人差があります
 高雄から台湾各地の美しい海岸線を走るレースの迫力は、自転車にカメラをつけて地面すれすれを走ることで生まれる。これは面白いし、音も臨場感を呼ぶ。まるで自分も一緒に走っているみたい。香港や上海に転戦する展開も同様で、韓国の競輪や2人1チームでバンクを走るレースなど、様々なタイプのレースも見せてくれる。そして、クライマックスは中国の内モンゴル、砂塵吹く中で行われる過酷なレース。これなら本物のサイクルレースも見てみたくなる。
 しかし、惜しむらくはアジア各地が登場するのに、日本のロケがないこと。昨年公開された『南風』では、今治と尾道を結ぶしまなみ海道が登場したし、全国各地でロードレースも盛んなので、来てくれてもよかったのに。そしたら脇で日本のレーサーの出演もあっただろうし(劇中のレースで日本人レーサーの名前も登場するけどね)監督は香港、キャストが台湾・大陸・韓国という東アジア映画に日本が絡めないのは惜しいよ。これはきっと『ヘリオス』の時にも言う予定なので、脇に置いておく。



  初回上映時のQ&Aでの話だと、ポンちゃんは撮影のために12万キロ走ったらしい。さすが鬼ダンテ(これ、いいネーミングだ…)。今回は堂々の主演で、俺様っぷりがいい感じにハマってる。これまで見てきた中ではベストかな、とは言ってもいつもながらの惚れないけどねー(笑)。そんな彼と絶妙なコンビネーションを見せるのがドウくん。サンザシを観た時、イーモウ作品では珍しい美形くんだと思ったが(こらこら)こちらも負けず嫌いな坊ちゃんがハマっている。もっと坊ちゃんでもいいのよーと思ったけど、まあええか。
 恐らく一番注目度が高そうだったシウォンは、墨攻の時を全く覚えていませんでした、あはは。しかもK-POPアイドルとくれば縁遠いしさ。でも思った以上は表に出ていなかった気がする。二番手だけどむしろ控えめだったくらいだし、うまい具合にポン&ドウコンビを引き立てて好感。いやもちろん惚れる気なんか全然ないから安心してください。しかし、ヘリオスではどうなんだろうね?日本公開ではなんかイチオシされているらしいんだけど。
 詩瑤を演じた王珞丹小姐、Wikipediaによると内モンゴル出身の大陸女優で、『いつか、また』やポンちゃん版黄飛鴻にも出演してるらしい。ショートカットで清々しく、男たちに寄りかかることなく、自分の情熱を持って歩いていける女の子。いくら恋愛パートいらねとか言われても、こういうキャラはステキだよ。もう一人のヒロインは高雄チームのメカニックを演じる歐陽娜娜ちゃん。普通女子のメカニックはいないとの実際のロードレースを知る人のコメントだけど、これまた映画の清涼剤となってる。



 これまで香港では本格的なスポーツ映画がなかったという。そういえば全力スマッシュ少林サッカーもコメディだし、激戦はどちらかといえばアクション映画だもんな。大陸だけでなく東アジアを視野に納めたスケールと合わせて、今後の香港映画の展開の行方を示してくれるような作品。サイクルレースを前面に押し出しての日本公開を希望。そして続編ができるのなら、是非日本でもロケをしてほしい。日本の映画関係の皆さん、是非お願いいたします。

英題:To the fore
監督&脚本:ダンテ・ラム 音楽:ヘンリー・ライ
出演:エディ・ポン ショーン・ドウ チェ・シウォン ワン・ルオタン オウヤン・ナナ アンドリュー・リン

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