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2015年10月

カンフー・ジャングル(2014/香港)

 友人から教えてもらったのだが、現在公開中の『図書館戦争』の主演、岡田准一氏(以下諸事情により「園長」と呼ぶ。根拠はこれ)が、雑誌プラスアクトでのインタビューで、なんとド兄さんについて熱く語っていたという。まままマジですか園長!と叫ぶ我…って裏が取れなくてすんまそん。書店で雑誌を見つけられなかったんですよ。
 まあ園長は某事務所きっての武闘派だから、宇宙最強ド兄さんもチェックしていて当然なんだろうけど、こうやって名前を出してくれたのは嬉しいし、影響の大きい人に語ってもらえるのもいいよなーと思った次第。でもどうして全国順次公開で、我が北とーほぐまで映画が来ないのかしらね?不思議よねー。

 という毎度ながらの愚痴は止めといて、TIFF上京のついでに『カンフー・ジャングル』を観てきましたよ。


 警察にやってきて、「カンフーで人を殺した」と告げた血まみれの拳の男、夏侯武(ド兄さん)。逮捕されて、刑務所で服役した3年後、尖沙咀のトンネルで南拳王の称号を持つ殺された事件が起こる。ニュース番組でそれを観た武は、捜査を担当する陸玄心警部(チャーリー)へのコンタクトを求め、所内でひと暴れする。それを知って刑務所にやってきた陸警部に、彼は即時仮釈放を条件に捜査協力を申し出る。佛山出身の武はもと警察の武術教官であり、南拳王が拳で殴り殺されていたという事実から、ある仮説を導き出す。まず拳、次は腿、そして擒拿、武器…。南拳王が殺されても、連続殺人は続く、と。
 彼の予想通り、「北腿王」の名を持つ芸術家の譚(釋延能)、「擒拿王」である旺角の刺青師王(ユー・カン)、屋台を営む陳(姜大衛)から「武器王」の名を受け継いだアクションスターの洪葉(ルイス・ファン)が次々と殺されていく。現場に残された武器から、この連続殺人には脚の長さが違う武術家・封于修(王寶強)には関わっていることがわかる。しかも、封はかつて武に弟子入りを願ったことから面識があったが、武はそれを隠していた。一門の名のもとにかつて人を殺してしまった武と、ハンディキャップと悲しい過去を背負いつつ当代の武林の猛者たちを倒していった封。二人の決戦がついに火蓋を切った!

 「一個人の武林」という題名はなかなかに詩的であるなと思ってたら、最初に観たティーザーで「カンフーは殺人技だ…」というフレーズが飛び出し(上に挙げた予告にも登場)、飛び散る血とともに結構戦々恐々とさせられた。えーこれまさか、サイコなアクションものなのですか?
 ええ、それはもちろん杞憂でしたわ。人を殺せるほどの力を持ちながら、それを使わない強い意志と、その封印を破らざるを得なくなるほどに彼に迫る強大な危機。おお、これは見事にるろけんですな!ってまたかよーと言われるくらい引き合いに出しますけど、アレ(ワタシが言うと映画版限定になっちゃうけど)もまた戦いや力に対して普遍的なメッセージがあるし、武侠映画や武林ものにも通じるからね。
 ド兄さん演じる夏侯武(この複姓は三国志の登場人物を思い出しますな)が立ち向かう相手、封于修は大胆不敵にして不気味。演じる王寶強がファニーフェイスである分、なおさら不気味。しかも、妻を失ったことでコントロールが失われているので(その真相もまた壮絶)、一歩間違えれば非常にサイコ。ただ、そこまで追い込まれることはなく、すれすれを走りながらも見せるのはあくまでも強烈で素晴らしいアクション。ド兄さんだけでなく、元彬さんとトンワイさんという二大アクションコリオグラファーも起用してのアクションシーンは堂々として観ていてワクワクする。ひたすらアクションを楽しむには言うことなしであった。
 『孫文の義士団』に続いてド兄さんとタッグを組んだテディさんの演出も大いに見ごたえあり。アクションもドラマもバランスがよく、過去作品では『パープルストーム』も好きなので、相性のいい監督。尖沙咀、旺角、中環と香港の街ナカで数々の戦いが沸き起こり、最終決戦が深夜の高速道路という驚愕のセッティングが心憎い。通る車はみな大型トレーラーだから、ハラハラ感は2倍どころか4倍だしね。

 ド兄さんは宇宙最強なので何も言わないけど(逃げてスマン)、敵役が王寶強ってのは、彼を『罪の手ざわり』でほぼ初めて知った身としては驚きものだった。あの映画での彼は寡黙で次々と悪事を働く男だったけど、少林寺出身って知らなかったもの。それならばあの壮絶なアクションにも説得力はあるし見応えあるわけだよ。『激戦』にも出てたらしいけど、全く覚えてないぞ。あんなに特徴的な容貌なのに。うーむ。
 最近良く顔を見る白冰小姐は足で…じゃなくてちゃんと戦えるからよしとするか。ド兄さんのお相手役としても適してたしね。チャーリー&中信さんは警察にいるとわりと安定感ある(笑)。封が倒していくカンフーの王者たちの面々はこれまたすごい人たちばかりだしね。あと姜大衛さんやブルース・ローさん、オレたちのデレク(・クォック)さんなどのそうそうたるカメオ出演も嬉しいし、香港のアクション映画を支えた人々を紹介したエンドロールも愛を感じて嬉しくなった。彼らもまた、闘いながら現在の隆盛を作り上げていった人々だし、だからこそアクション映画を楽しく観られるわけだしね。

 次回作はいよいよの《葉問3》だし、谷垣さんの師匠筋としても紹介されるようになったし、これだけド兄さんの知名度が上がってきているのに、主演映画の上映規模が狭いのはやっぱり惜しい。毎度言うけど、るろけんの激烈アクションに魅了された人には是非観てもらいたいし、全国的にももっと広く上映されてほしいですよ、ド兄さんの映画。殿方だけではなく、るろけん好きな女子にだってオススメいたしますよ。ええ。

原題:一個人的武林
監督:テディ・チャン アクション監督:ドニー・イェン 武術監督:ユン・ブン&トン・ワイ 撮影:ホーレス・ウォン 音楽:ピーター・カム
出演:ドニー・イェン ワン・バオチャン チャーリー・ヤン バイ・ピン アレックス・フォン ルイス・ファン シー・シンユー ユー・カン デレク・クォック ブルース・ロー デビッド・チャン レイモンド・チョウ

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全力スマッシュ(2015/香港)

 ここ数年ですっかり香港映画の最前線に踊り出たデレク・クォック監督の最新作『全力スマッシュ』は、世界初のバドミントン映画。星仔との共同監督で成功した『西遊記 はじまりのはじまり』をうけ、星仔つながりで「バドミントン版少林サッカー」などと日本では宣伝されたけど、それはともかく久々に香港映画を観た!って思う作品だった。


 呉久秀(ジョシー)は元女子バドミントンチャンピオン。10年前は栄華を極めた彼女だけど、プライドが高く短気なためにアシスタントと混合ダブルスのパートナーに暴力を働いて永久追放処分を食らってしまった。今や兄の久俊(謝君豪)の経営するレストランでこき使われる毎日で、たまたま配達に行った先で現チャンピオンとなったアシスタント王鳳飛(グレース・イップ)と出会って手酷い屈辱を受ける。泣きながら店を飛び出し、死んでしまおうと三輪トラックで森を走る彼女は、空の彼方からバドミントンのシャトルのような形の隕石が降ってくるのを目撃する。あわてて車を飛び出し、迷い込んだ古い館で彼女は奇妙な男たちと出会う…。
 実はその館、久秀とその兄の亡き親が残したバドミントンクラブだった。最近そこを借りてバドミントンの練習をしたいと名乗りでたのが、よりによって12年前に逮捕された元囚人たち―難聴の劉丹(イーキン)、片腕の林昭(エドモンド)、弱視の馬坤(ウィルフレッド・ラウ)と、酔っぱらいの中年戚冠軍(アンドリュー・ラム)だった。彼らがコーチを募集していることに乗じて追い払って欲しいと兄は久秀に告げ、店で働く梅おばさん(スーザン・ショウ)と共に館に出向かさせる。最初はおっかなびっくりだった久秀だが、どうやら彼らは本当にバドミントンに打ち込んで更生したいのだ、ということに気づく。さらに地主であるアメリカ帰りのチョン坊やこと呉久祥(ロナチェン)が館を使いたいと彼らに迫った時、突如酔っぱらいの戚が大量のゲロを吐いて覚醒。実は彼こそは、20年前のバドミントン王者だったのだ。戚の指導により、劉丹同好会が正式に発足。久秀も彼らとともに練習に打ち込み、10年間についた贅肉もみるみるうちに落ちていく。同好会はTV局主催でマカオで行われる団体トーナメントに向かって猛練習を重ねていく。
 意気揚々とマカオに乗り込む久秀たち。しかし、TV局の面々はメンバーの大半が元強盗犯ということから彼らを完全に悪役扱い。偏ってショーアップされた演出とブーイングは当たり前の会場で、彼らは警察チーム(ヴィンセント・コック、ステファニー・チェ、ジョー・コック)やチョン坊や率いる精武体育会と戦うことになる。さらに林昭には、かつての強盗仲間狗が近づき、マカオの銀行襲撃を手伝えと誘いをかける。それも、集合時間は決勝戦の時間…!

 

今年の大阪アジアン映画祭ワールドプレミア、さらに9月に行われたしたまちコメディ映画祭でも上映されたので、この2つの映画祭ではデレクさんと共同監督のヘンリー・ウォンさんを筆頭に、ジョシー、スーザン姐さん、アンドリュー・ラム大師などが日本入りして作品を賑々しくアピールしてくれたのが嬉しい(下に写真載せてます)。ワタシはしたコメの上映で初めて観に行ったのだけど、レッドカーペットや舞台挨拶でスタッフ&キャストが楽しく盛り上がっているのを見られてとっても楽しかった。レッドカーペットではヘンリーさん、スーザン姐、大師、そしてウィルくんのサインを運よくもらえたのだけど、チームの撮っていた動画に知らず知らず写り込んでいたのでした。ははは。って閑話休題。


これは上映館・シネマカリテのディスプレイ。

 星仔やクレメントさんなど、タッグを組んで監督する機会も多いデレクさんだけど、今回は79年生まれで特殊効果マンのヘンリーさんをパートナーに抜擢。『あしたのジョー』を心の友とするデレクさん、日本のスポーツマンガをパク…もといオマージュを捧げたイメージイラストを描き下ろしたヘンリーさんの意向が見事に現れた今作は、主題がスポーツ、テイストはレトロ感(特に音楽に大抜擢された香港在住の日本人作曲家、波多野裕介さんのスコアは、確かに80年代日本TVドラマ的テイストをまといながら、ちゃーんとオリジナリティを発揮していてお見事)ときて、そのテーマとスピリッツはこれまたワタシの大好きな『燃えよ!じじぃドラゴン』に通底しているのでなんともたまらない。

実はキャストが全員歌手であることから実現した主題歌コーラス。波多野さん作曲による懐かしテイストがたまらんです。

 近年はますます成功が望まれ、今や一握りの成功者しか優遇されない時代になっていて、負け犬になってしまうことが多いと感じる世知辛さ。這い上がるのは容易じゃないが、全く救いがないってわけじゃない。デレクさんに限らず、近年の香港映画は負け犬のリベンジをテーマにした作品が多く、だからこそ夢中になってしまう。少林サッカーもじじぃドラゴンもそうだしね。
 特に今作は登場人物が全員アラフォー以上というのがまたいい。まあ確かに現在の香港映画界では、地元出身の若手がなかなか出てこないのが悩みなんだろうけど、それをうまーく逆手に取ったようにも思えるし、負け犬を描くにはちょうどいい年代でもある。ていうか、実は自分とも同年代なもんだから、大いに共感は持てるんだろうな。

 そして、物語の展開もじじぃドラゴンと通底しているのがいい。人生やり直しを賭けて晴れ舞台に立つものの、目指すものは勝利であっても、得たものが最終的には変化するというプロット。若者ならまだ可能性はあるけど、歳を経ると勝利とはまた違うものに価値が出る。それは若者にも中年にも大いなる励ましになるのだ。あのラストにすっきりしないものを感じる人もいるだろうけど、ただ強くなればいい、勝利で終わればいいというのもちょっと時代遅れだよね、と思ったりもしたので。

 今まで女戦士や殺人鬼などエキセントリックな役柄を多く演じてきて、自らバドミントンのプレイ経験もあるジョシーはこの役にピッタリではあるけど、ちゃんと可愛らしいのがいい。前半のオドオドした感じも、中盤の乙女感もそして後半の勇敢さもね。
 久々のイーキンもうまいアシストで適役。貫禄もついてヒゲも似合うんだけど、試合では…あれ?(笑)しかしそのせいかやっぱり若いなーって思っちゃうのであるよイーキン。
 デレク作品の常連であるスーザン姐も、久々のエドモンもウィルくんも熱演だけど、やっぱり一番持ってくのは、往年の名コンポーザーでもあるアンドリュー・ラム大師。英語喋るわおそらく世界最長のゲロを噴出するわ(詳細はこちらに)、平気でとんでもないホラを吹くわと大暴れなんだが、だがそこがいい。多分映画ではこれが初めてな気がするから、今後旧作を観るときには名前を探そう。

 スポーツマンガと80年代的ノリ、そして90年代香港映画のかほりもまとったこの作品、香港映画にどれだけ浸っているかで評価は分かれるかもしれないけど、愛とリスペクト、そして大まじめにコメディと試合場面を作り上げてくれたので、大いに楽しめた。日本でも競技としてのバドミントンが注目されるようになってきたので、その面からも観られても十分楽しいはず。また彼らに会いたいものだ。

原題&英題:全力扣殺(Full Strike)
監督&脚本:デレク・クォック 監督&特殊効果:ヘンリー・ウォン 撮影:ジェイソン・クワン 音楽:波多野裕介
出演:ジョシー・ホー イーキン・チェン ロナルド・チェン エドモンド・リョン ウィルフレッド・ラウ ツェー・クンホウ グレース・イップ ヴィンセント・コック ステファニー・チェー ジョー・コック スーザン・ショウ アンドリュー・ラム

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恐怖分子(1986/台湾)

かなり長い間blogを書いてきたが、意外にもこれが初めて感想を書くことになったエドワード・ヤン(以下ヤンちゃん)監督作品。考えてみれば、最後の作品だった『ヤンヤン 夏の思い出』が2000年製作で、2007年に亡くなるまでの間、旧作も観直していなかったのだった。
一番好きなのが『牯嶺街少年殺人事件』なのだが、これは日本では権利問題で再上映もソフト化が当分不可能だそうなので日本語字幕で再見できないのが悔しい。

そんなわけで早いところそのトラブルを解決して再上映を!と長年思い続けていたのだが、今から29年前に製作されたヤンちゃんの長編第3作『恐怖分子』が修復されて日本で再公開。しかも中華電影が滅多に来ない我が街にまで来てくれた。これは嬉しい。
ちなみに18年前のみちのく国際ミステリー映画祭で上映されて以来の再見となります。


兵役を目前にした青年カメラマン小強(馬邵君)は夜明けに銃声を聞く。恋人(黄嘉晴)をおいてカメラをもって出かけた彼が見たのは、路上に倒れる男と、賭場のあるアパートの2階から男と一緒に逃げ出そうとするショートカットの少女、淑安(王安)。小強は立て続けにシャッターを切る。それ以来、小強はファインダーに収まった淑安に心を奪われてしまう。
母親に幽閉された淑安は、電話帳を使ってあちこちにいたずら電話をしていた。ある日、不意につながった相手に、彼女は賭場のあるアパートを訪ねるように依頼する。電話を取ったのは小説家の周郁芬(コラ・ミャオ)。医師の夫李立中(李立群)と暮らす彼女だが、平凡な生活の中で深刻なスランプに陥っていた。旧友の沈(金士傑)は彼女の心配をして仕事を用意するが、二人は不倫の関係に陥っていた。そんな彼女が電話の指示で尋ねた先には、その部屋を借りて暗室にしていた小強がいた。そして、郁芬は数日失踪する…。
淑安は隙を見て家から逃げ出し、西門町で男を引っ掛けて金を巻き上げようとして刺してしまう。あの賭場まで逃げてきた彼女は小強と出会う。恋い焦がれた相手にやっと出会えた彼は彼女を泊めるが、淑安は彼のカメラを盗んで馴染みの質屋に売りに行く。すると、あの賭場で別れて警察に捕まった恋人の大順(游安順)が釈放されたという情報を得る…。
郁芬の小説が賞を受賞し、彼女は立中に離婚を切り出す。驚く彼に追い打ちをかけるように悲報が届く。どうしようもなくなった彼は、ある行動に出ることに…。

18年前に観た時は…あー、残念ながら覚えてない(泣)。まだ若かったし、映画観始めて間もない頃だったから、のめり込めずに終わった感が強かったんだよな。
でも、今観るとこの映画の面白さが充分に理解できる。必要最小限の台詞、偶然の出会いがドラマを転がし、悲劇に至らしめる展開、若い俳優に積極的にフォーカスする演出、確かにヤンちゃんの映画ってこういうのだったよな、と思い出させるのも早かった。都会で生きる人間の孤独を描くといえばミンリャンも思い出すけど、彼とも全然違うってのもよくわかるしね。ミンリャン作品はどこかウェットで、そこが魅力だと思うんだけど、ヤンちゃんはわりとドライな感じがする。米国で映画を学んで、外から台湾を観ていたというのもあるのかもしれないけど、それも一概にいえないよな。まあ、個性なんだと思う。

この映画の再映に寄せる評論やエッセイを読むと、ニューシネマ的な観点から語られているのが多いし、実際そうだからねえ、って感じでついついなんちゃってシネフィルになっちゃうんだけど、実はそういう面で(てか、なった気して)あまり語りたくないんだよね。手塚治虫を愛し、日本にも心を寄せていたことを知っているし、もっとカジュアルな面で彼を見たいよなって思うの…なーんて言ってみても、もっと長生きして映画を撮ってもらいたかったなってのが正直な気持ちでしょうか。生意気なこと言っちゃってますけどね。

あと、30年前の台北の風景にはやっぱり懐かしさを覚えたな。数年後に自分が留学することもあるんだけど、直接画面には映らないものの、西門町の場面にはちょっと歩けば中華商場が存在しているのを感じるからかな。
と、突然そんなことを言い出したのは、最近『歩道橋の魔術師』と『流』という、中華商場が出てくる小説を立て続けに読んだからでした(笑)。この2冊の小説については、近々感想を書きますね、とここで予告しておきます。

英題:Terrorizers
監督&脚本:エドワード・ヤン 脚本:シャオ・イエ 撮影:チャン・ジャン 編集:リャオ・チンソン 音声:トゥー・ドゥーチー
出演:コラ・ミャオ リー・リーチュン チン・シージエ マー・シャオチュン ワン・アン ヨウ・アンシュン

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黒衣の刺客(2015/台湾・香港・中国・フランス)

ホウちゃんこと侯孝賢監督8年ぶりの新作『黒衣の刺客』
実は全作品コンプリートはしてないし、監督作品も11年前に台北之家で観た『珈琲時光』以来の鑑賞。
ちなみに地元での上映は98年の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』以来ありません…(泣)。
そんなわけで、先頃の連休で東京に行った時に、観てきました。


8世紀後半の唐代。地方には藩鎮という地方自治を行う組織が設置されたが、唐の朝廷の力が弱まると共に、藩鎮の朝廷からの離反が始まっていた。舞台はそんな藩鎮のひとつ、魏博。
聶隠娘(すーちー)は魏博の重臣の娘だが、13年前に女道士嘉信(許芳宜)のもとに預けられた。成長した彼女を両親は暖かく迎え入れるが、実は彼女は嘉信からある使命を受けていた。それは魏博を治める節度使(藩鎮の首長)田季安(張震)の暗殺。彼はかつての隠娘の許婚であったが、田家が強大な力を持つ元家との縁組を望み、季安は元家の娘田元氏(チョウ・ユン)と結婚した。
凄腕の刺客となった隠娘であったが、それでも弱き者や自分が心を傾けていた者には止めが刺せないという決定的な欠点があった。彼女の伯父で魏博の重臣・田興が左遷されることになり、隠娘の父も護衛のために同行する。その道中で危機感を覚えた元家の刺客が隊を襲い、密かに同行していた隠娘が怪我を負う。彼女たちを助けたのは、遣唐使として日本から来た鏡磨き(ぶっきー)だった。

唐代の伝奇小説が原作で、武侠映画として撮られたこの映画だけど、監督しているのがホウちゃんだから、もちろん一筋縄ではいかないことは予測していた。
『悲情城市』を何度か観ていると、これ実はアクション映画として撮ったんじゃないか?と思わせられる場面に幾つか遭遇する。先のリンクでも書いているけど、例えば、手前から奥へと道を行く人が隠し持った刀をいきなり振りかざして、画面の片隅で突発的に大乱闘が始まるなどという場面。あの場面を思い出していたので、だいたいどういうふうにアクションが展開するのかは了解していたわけだし、「ホウちゃんの武侠映画」と聞いて「武侠」の方に多大な期待を寄せてしまえば大いに失望するだろうな、と思ったのであったし、実際見事なまでにホウちゃんスタイルであったので、興味深く観たのであった。
…え?寝たかどうかって?それはもちろんね(強制終了)

木々の間から流れてくる風の音、鳥の囀り、虫の声。おなじみ杜篤之さんによるサウンドデザインでは、撮影当時のものをそのまま使っているのではないかと思うほどライヴ感のあるものであった。もちろん、ピンビンさんによるカメラワークも美しい。季安の邸宅の紅い灯り、山の頂近くに佇む隠娘と嘉信を捉えたロングショット、髪をなびかせながら戦う隠娘。
アクションは思った以上に少なく、一瞬だけもあり。セリフもかなり少ない。ついでに言えば各場面もじっくり撮られていて、その中でゆっくり日常動作も見せてくれる。登場人物の心情は、演技も含めた場面全体のルックで語られる。
師匠・嘉信には田家に嫁入りした嘉誠(許芳宜)という双子の妹がいた。季安の養母でもある嘉誠は聶家と田家を取り持った人物であるが、それは結局潰えてしまった。ゆえに嘉信は妹が果たせなかった無念を復讐するために、隠娘を刺客に仕立てあげたわけだが、その隠娘は戦闘マシーンであっても、心までは失ったわけではなかった。その揺れる心情は、隠娘のアクションだけでなく、彼女がいる場面で流れる風や背景の流れも語ってくれる。それがわかると、ものすごく興奮してしまうのだ。だから、目を閉じたくなくなる。

通り一遍の武侠を期待すると、確かに拍子抜けさせられるだろう。でも、これもまたホウちゃんだからこその「武侠映画」だと思う。逆にホウちゃんの映画で、我々が思い描くようなそれを見せられると、多分ワタシは失望したかもしれない。(言い過ぎ?失礼)
ホウちゃんはこれを作るにあたって、中華電影での武侠アクションだけでなく日本の時代劇アクションも参考にされているとのことだから、ただ斬り合うだけでなく、感情も含めて物語の流れに完全に取り込みたいと考えたからなのだろう。アクションが感情を示すものというのは、日本ではるろけんで、香港では一代宗師で語られている。スタイルは二者とも全然違うけど、この映画は先の二つにも通じるところが多かった(もちろんワタシが勝手に思ってるだけで、意見には個人差がありますよ)。

ただの男装とも違うし、唐代にこういう服装あったのかな?と思いつつもモダンな戦闘服に身を包んだ凛々しいすーちー。ホウちゃんがミューズと呼んでやまない彼女たけど、『色情男女』から『トランスポーター』を経てずっと彼女を観てきた身としては、なんだかもう意味なく感慨深いものがある。すいませんうまく説明できないわ(笑)。もしかしたら『精霊の守り人』のバルサもいけたかも、と妄想…(意見には個人差があります)。
名コンビ(一時期恋の噂も…ってのはどれくらい真実なんだろう?)の張震も、彼女の演技をしっかり受ける。しかし殿様役がよく似合うのう。『光にふれる』で覚えた許芳宜もよかった。
今回の秘密兵器(笑)ぶっきーは、台詞も一言だし、変に足を引っ張ってないし、ルックにも馴染んでいたので言うことなし。追加場面のみ登場の忽那嬢もいい雰囲気でしたよ。彼女の場面が追加されたことで「オリジナル版じゃないから観たくない」なんて意見をSNSで見かけましたが、そう言っちゃうのは実にもったいないですよ。
そして、ロケは意外にも日本撮影が多いというのも嬉しい。平安神宮や大覚寺等、ここ数年の時代劇映画や大河ドラマのロケ地として使われた名所古跡で撮影されているのだけど、ちゃんと唐代の雰囲気が出ていたのが素敵。

これ、もう一度大きなスクリーンで観たいです。再見は地元で観られたら嬉しいなあ。どうか上映をお願いたします>盛岡市内の映画館の皆様。

原題&英題:刺客 聶隠娘(The Assasin)
監督:ホウ・シャオシェン 脚本:チョン・アーチョン、チュウ・ティエンウェン、シエ・ハイモン 原作:ハイ・ケイ 撮影:リー・ピンビン 編集:リャオ・チンソン 録音:トゥー・ドゥーチー 音楽:リン・チャン
出演:スー・チー チャン・チェン 妻夫木聡 チョウ・ユン イーサン・ルアン 忽那汐里 シュー・ファンイー 

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