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黒衣の刺客(2015/台湾・香港・中国・フランス)

ホウちゃんこと侯孝賢監督8年ぶりの新作『黒衣の刺客』
実は全作品コンプリートはしてないし、監督作品も11年前に台北之家で観た『珈琲時光』以来の鑑賞。
ちなみに地元での上映は98年の『フラワーズ・オブ・シャンハイ』以来ありません…(泣)。
そんなわけで、先頃の連休で東京に行った時に、観てきました。


8世紀後半の唐代。地方には藩鎮という地方自治を行う組織が設置されたが、唐の朝廷の力が弱まると共に、藩鎮の朝廷からの離反が始まっていた。舞台はそんな藩鎮のひとつ、魏博。
聶隠娘(すーちー)は魏博の重臣の娘だが、13年前に女道士嘉信(許芳宜)のもとに預けられた。成長した彼女を両親は暖かく迎え入れるが、実は彼女は嘉信からある使命を受けていた。それは魏博を治める節度使(藩鎮の首長)田季安(張震)の暗殺。彼はかつての隠娘の許婚であったが、田家が強大な力を持つ元家との縁組を望み、季安は元家の娘田元氏(チョウ・ユン)と結婚した。
凄腕の刺客となった隠娘であったが、それでも弱き者や自分が心を傾けていた者には止めが刺せないという決定的な欠点があった。彼女の伯父で魏博の重臣・田興が左遷されることになり、隠娘の父も護衛のために同行する。その道中で危機感を覚えた元家の刺客が隊を襲い、密かに同行していた隠娘が怪我を負う。彼女たちを助けたのは、遣唐使として日本から来た鏡磨き(ぶっきー)だった。

唐代の伝奇小説が原作で、武侠映画として撮られたこの映画だけど、監督しているのがホウちゃんだから、もちろん一筋縄ではいかないことは予測していた。
『悲情城市』を何度か観ていると、これ実はアクション映画として撮ったんじゃないか?と思わせられる場面に幾つか遭遇する。先のリンクでも書いているけど、例えば、手前から奥へと道を行く人が隠し持った刀をいきなり振りかざして、画面の片隅で突発的に大乱闘が始まるなどという場面。あの場面を思い出していたので、だいたいどういうふうにアクションが展開するのかは了解していたわけだし、「ホウちゃんの武侠映画」と聞いて「武侠」の方に多大な期待を寄せてしまえば大いに失望するだろうな、と思ったのであったし、実際見事なまでにホウちゃんスタイルであったので、興味深く観たのであった。
…え?寝たかどうかって?それはもちろんね(強制終了)

木々の間から流れてくる風の音、鳥の囀り、虫の声。おなじみ杜篤之さんによるサウンドデザインでは、撮影当時のものをそのまま使っているのではないかと思うほどライヴ感のあるものであった。もちろん、ピンビンさんによるカメラワークも美しい。季安の邸宅の紅い灯り、山の頂近くに佇む隠娘と嘉信を捉えたロングショット、髪をなびかせながら戦う隠娘。
アクションは思った以上に少なく、一瞬だけもあり。セリフもかなり少ない。ついでに言えば各場面もじっくり撮られていて、その中でゆっくり日常動作も見せてくれる。登場人物の心情は、演技も含めた場面全体のルックで語られる。
師匠・嘉信には田家に嫁入りした嘉誠(許芳宜)という双子の妹がいた。季安の養母でもある嘉誠は聶家と田家を取り持った人物であるが、それは結局潰えてしまった。ゆえに嘉信は妹が果たせなかった無念を復讐するために、隠娘を刺客に仕立てあげたわけだが、その隠娘は戦闘マシーンであっても、心までは失ったわけではなかった。その揺れる心情は、隠娘のアクションだけでなく、彼女がいる場面で流れる風や背景の流れも語ってくれる。それがわかると、ものすごく興奮してしまうのだ。だから、目を閉じたくなくなる。

通り一遍の武侠を期待すると、確かに拍子抜けさせられるだろう。でも、これもまたホウちゃんだからこその「武侠映画」だと思う。逆にホウちゃんの映画で、我々が思い描くようなそれを見せられると、多分ワタシは失望したかもしれない。(言い過ぎ?失礼)
ホウちゃんはこれを作るにあたって、中華電影での武侠アクションだけでなく日本の時代劇アクションも参考にされているとのことだから、ただ斬り合うだけでなく、感情も含めて物語の流れに完全に取り込みたいと考えたからなのだろう。アクションが感情を示すものというのは、日本ではるろけんで、香港では一代宗師で語られている。スタイルは二者とも全然違うけど、この映画は先の二つにも通じるところが多かった(もちろんワタシが勝手に思ってるだけで、意見には個人差がありますよ)。

ただの男装とも違うし、唐代にこういう服装あったのかな?と思いつつもモダンな戦闘服に身を包んだ凛々しいすーちー。ホウちゃんがミューズと呼んでやまない彼女たけど、『色情男女』から『トランスポーター』を経てずっと彼女を観てきた身としては、なんだかもう意味なく感慨深いものがある。すいませんうまく説明できないわ(笑)。もしかしたら『精霊の守り人』のバルサもいけたかも、と妄想…(意見には個人差があります)。
名コンビ(一時期恋の噂も…ってのはどれくらい真実なんだろう?)の張震も、彼女の演技をしっかり受ける。しかし殿様役がよく似合うのう。『光にふれる』で覚えた許芳宜もよかった。
今回の秘密兵器(笑)ぶっきーは、台詞も一言だし、変に足を引っ張ってないし、ルックにも馴染んでいたので言うことなし。追加場面のみ登場の忽那嬢もいい雰囲気でしたよ。彼女の場面が追加されたことで「オリジナル版じゃないから観たくない」なんて意見をSNSで見かけましたが、そう言っちゃうのは実にもったいないですよ。
そして、ロケは意外にも日本撮影が多いというのも嬉しい。平安神宮や大覚寺等、ここ数年の時代劇映画や大河ドラマのロケ地として使われた名所古跡で撮影されているのだけど、ちゃんと唐代の雰囲気が出ていたのが素敵。

これ、もう一度大きなスクリーンで観たいです。再見は地元で観られたら嬉しいなあ。どうか上映をお願いたします>盛岡市内の映画館の皆様。

原題&英題:刺客 聶隠娘(The Assasin)
監督:ホウ・シャオシェン 脚本:チョン・アーチョン、チュウ・ティエンウェン、シエ・ハイモン 原作:ハイ・ケイ 撮影:リー・ピンビン 編集:リャオ・チンソン 録音:トゥー・ドゥーチー 音楽:リン・チャン
出演:スー・チー チャン・チェン 妻夫木聡 チョウ・ユン イーサン・ルアン 忽那汐里 シュー・ファンイー 

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