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2015年8月

妻への家路(2014/中国)

 以前も書いた気がするけど、ここ15年位(というか『英雄』以降)の張藝謀は、急激にエンタメへと傾斜していったので、それを喜んでいいのか悩んでいいのか、複雑な気分にさせられたことがある。それと同時に中国映画界も大きく変化し、香港映画をも飲み込もうとしているので、さらに輪をかけて…と話を逸しちゃダメですね。

 4年前の『サンザシの樹の下で』以来のイーモウ作品である『妻への家路』
この間にはこういう映画もありますが…、まあ、今の状況じゃ当分日本語字幕つきじゃ見られないでしょうねー。主演はダークナイトで、日本人キャストも悪くないけど。そういえば公式サイトでもスルーされてるわ(汗)。
 で、その作品にも携わったゲリン・ヤン(この表記いまだに慣れないのだが、まあ仕方がない)の原作を映画化したのがこれだが、『王妃の紋章』以来8年ぶりのコン・リー姐に、問答無用の名優・陳道明さんが夫婦を演じると聞けば、これはかなりいいものになるのでは?と思ったものだった。

 時は文革後期。教師をしている馮婉玉(コン・リー)の元に、50年代に右派分子として捕らえられていた夫の陸焉識(陳道明)が強制労働先から逃げてきた。アパートの扉越しに再会する二人だったが、革命バレエ団に所属する娘の丹丹(張慧雯)が焉識のことを当局に密告する。翌日、焉識に会いに行った婉玉だったが、目の前で夫が当局に捕らわれ、その騒ぎの中で転倒してしまう。
 数年後の1977年、焉識は解放されて婉玉のもとに戻ったが、自分を見てひどく怯える彼女の姿に衝撃を受ける。婉玉は記憶障害を起こし、焉識の記憶をすべて失くしてしまっていた。自分の密告が元で母に負い目を感じ、母から離れてしまった丹丹の助けを借りて、焉識はアパートの向かいに住み、他人のふりをして婉玉の支えになることにした。

 多くの人が言ってたことだけど、ここしばらくの大作路線から、イーモウが本来のフィールドに戻ってきたと感じさせられる作品だった。
 文革が人々に起こした影響はこれまでの中国映画にも繰り返し描かれてきたが、イーモウや陳凱歌から下の世代が映画界に現れてくると、その見方は全く変わってくるし、時代の要求によって描写も変わってくる。前作でも文革には触れていたけど、それほど強いものには思えなかった。
 今回もテーマは夫婦・家族の絆なので、一見して文革の描写は薄いのだが、それであっても文革が家族を壊す悲しみは十分に伝わる。夫の逃亡を職場で聞いて、動揺しながらも上の指示に従わざるをえない婉玉、憧れの「紅色娘子軍」のプリマになれるかもしれないという欲望にかられて実の父親を密告する丹丹。こういう残酷さが当時はどこでも起こっていたということをしっかり描いてくれている。それを受けて再生にむかう家族を描きつつ、婉玉の記憶障害がそれを阻む壁となることも、それを安易に回復させない結末も残酷ではある。だけど、希望は全く失われてはいないことだってわかるので、決して切なく悲しい物語じゃないし、こういうのが本来のイーモウ作品だよなと改めて思った。

 英雄以来のイーモウ作品登板になる(『一人と八人』にも出てたのか)道明さんと、コン・リーの夫婦役はもう言うことなし。道明さんは秦王様や終極無間のシェンもいいけど、市井の中年役も実に味わい深い。『唐山大地震』でも市井の兵士を演じていたけど、まあ出番はあまり多くなかったので、こちらの方が心に来る。
 コン・リー姐はすっぴんでも老け役でも何でもござれになっていて、さすがにもうベテランだしねえ…と感慨深いものを抱いたが、かつて「中国の山口百恵」と呼ばれていたことを久々に思い出したりする。まあ、お互い歳をとりましたよね。
 ネットメディアで盛んに「イーモウガール」と書かれていたのはどうよ?と本気で思うホイウェン小姐。予告編でも見せている綺麗な脚にも目が行ったけど、結構後ろ暗い役どころを演じるにはどう取り組んだんだろうか?というのも多少気になった。今後はどんな女優になっていくのだか。

 そういえば自分、わりとイーモウ作品には昔からキッツく観ていたのは以前からも書いていた通りなんだけど、今回はあまりそういう観点は持てず、比較的好意をもって観ることができた。…繰り返しちゃうけど、やっぱり歳をとったからかしらねー。

原題&英題:歸來(Coming Home)
監督:チャン・イーモウ 原作:ゲリン・ヤン
出演:チェン・ダオミン コン・リー チャン・ホイウェン  

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九月に降る風(2008/台湾)

 台湾映画といえば、ここ数年で高い評価を得て日本で公開されているのは圧倒的に青春映画が多い。時々、「青春映画推しはどうよ?」的な意見もネット内外で伺うが、一見同じように見えても各作品とも個性は強く押し出されている。日本でも青春映画は量産されているけど、マンガ原作の似たような恋愛ものが揃って飽き飽きしてしまうそれとは全く違う。ダメ押しすれば、台湾の青春映画は現代や製作年代と同時代設定もあるけど、それと同じくらい近過去設定、つまり監督や作り手の青春時代に設定したものも多く、現役高校生だけではなくそれ以上をターゲットにした作品も多いので、そのあたりで興味を持って観ることもできるし、共感を呼ぶのかもしれない。
 なお、日本の青春映画は面白くないとか言っていますが、近年の青春映画の大傑作である『桐島、部活やめるってよ』はワタシも好きです。あしからず。

 さて、『星空』(これが未公開のみならず、未ソフト化なのは惜しい…)のトム・リン監督の長編デビュー作『九月に降る風』も、そんな台湾青春映画群の一編。この映画をプロデュースし、役者としても参加している我らのエリック・ツァンとっつあんが、続けて香港と大陸の若手監督に同じ題名の映画を作らせた九降風プロジェクトの第1作でもある。まあ、日本ではこの作品のみ公開されているようですが。

ついでに貼っておこう。香港版《烈日當空》予告。ヘイワード・マック監督作品。



大陸版《攤開你的地圖》予告。雰囲気も違うねー。


 1996年9月、新竹。竹東高中3年の湯啟進(張捷)と同級生の希彦(リディアン)、超人こと敬超(林祺泰)、年上だが二度落第して現在2年生で最年長の曜行(王柏傑)、2年生の博助(沈威年)、1年生の志昇(邱翊橙)、正翰(李岳承)の7人は、いつもつるんでは野球観戦に出かけたり、学校で大騒ぎしては呼び出されるような問題児グループだ。リーダー格の希彦と優等生の湯は対照的な性格だが、湯は、希彦の彼女芸晴(ジェニファー・チュウ)に想いを寄せていた。一方、1年生のブラバン部員培馨(ペイホイ)は、同級生の志昇と正翰がグループにいることを心配する。ある日、志昇が誤認逮捕されるという事件が起こったが、それを巡り、曜行と博助が対立する。そのあたりから、グループに少しづつ変化が現れる。
 別のある日、湯は希彦と間違われてある男から暴行を受ける。希彦はその男の彼女をナンパしていたのだ。湯は希彦に反感を持つようになり、グループからも孤立していく。そこから仲間たちそれぞれの関係も微妙な変化を見せるが、湯と希彦が誤解を解いて再びよりを戻した直後、希彦の身に悲劇が起こる…。

 恋愛も多少あるけどそれは幾分控えめで、高校生(台湾的に言うなら高中生だね)男子のバカっぽさと、成長や感情のすれ違いによる友情の絆のゆるやかな崩壊は、あの頃は良かったと懐かしむ気持ちと、そう思うたびに起こる心の痛みが普遍的であることを教えてくれる。
 これを観ていて思い出したのが、2002年の日本映画『青い春』。舞台が男子校だし、こっちはゴリゴリの不良少年たちの物語だけど、男の子たちの間に生じる変化や別れに、前者に通じるものを感じたので(そういえばこちらの出演陣も今思えばかなり豪華)。
 作品にトム・リン監督の高中時代を反映させたということだが、当時の彼が湯に反映されているというのが興味深い。ハイティーンの若者を長年見てきているけど、男子がつるむのってわりと成績や家庭環境を問わない感があるし、ちょっとしたことでの決裂や結びつきも頻繁に起こる。これは『桐島』でも描かれてきたことだっけね。描こうと思えば同性愛的なつながりもできただろうし、パンフを読むと実際それを意識すれすれでやってみるような演出も俳優につけたとの記述もあったけど、あまりそういうものも感じず、若者男子的ホモソーシャルってこういうものだよな、と確信した次第。

 台湾青春映画の例にもれず、若者たちは新人から映画デビューを果たすスターまで揃っているけど、リディアン、『孫文の義士団』が初見だった王柏傑、『南風』のテレサことチー・ペイホイなど、今もよく観る子たちの若き日の姿を見られるのが楽しい。まあそれでもリディアンは相変わらず台湾の城田優…とか言ってしまってスマン、ではある。年代を見ると1987年~90年生まれとのことなので、日本で言えばタケルと同じ世代なのね。

 群像劇的青春映画といえば、もちろん『あの頃、君を追いかけた』もあるし、あれも面白かったけど、比べてしまえばワタシはこっちの方が好みかな。まあ、今の気分では、だけど。いい映画だったので、もっとヒットして地方にも回ってほしかったです(東北では仙台で上映されてらしいけど、その頃は行けなかったからねえ)。

原題&英題:九降風(Winds of September)
監督&脚本:トム・リン 製作:エリック・ツァン&イエ・ルーフェン 脚本:ヘンリー・ツァイ 撮影:フィッシャー・ユイ 音楽:ブレア・コー
出演:リディアン・ヴォーン チャン・チエ ジェニファー・チュウ ワン・ポージエ リン・チータイ シェン・ウェイニエン チウ・イーチェン チー・ペイホイ(テレサ・チー) リー・ユエチェン エリック・ツァン ルー・イーチン クー・ユールン リャオ・ミンション

 

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