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2015年7月

EXIT -エグジット-(2014/台湾)

 意見には個人差があるので、話半分に聞いてほしいのだが(笑)、かつての台湾の女優の活動にはだいたい2パターンあった。香港映画でブレイクするのと、台湾での活動を中心に置くものと。前者はブリジット・リン、ジョイ・ウォン、ン・シンリン、スー・チー、カリーナ・ラムなどの多数で、後者がヤン・クイメイ、チェン・シャンチーなどか。最近ではバーヴィー・スーやグイ・ルンメイなど、ドラマや台湾映画で高く評価されてから香港や大陸に進出する女優も増えてきているので、もうはっきりと線引できるわけではないし、ジュディ・オングやビビアン・スーなど日本で評価されるタレントもいるから、思った以上に多様である。

 そんななかでヤン・クイメイやチェン・シャンチーは、エドワード・ヤンやツァイ・ミンリャンが90年代に高く評価されたことで顔と名前を覚えた台湾女優である。特にシャンチーは、『エドワード・ヤンの恋愛時代』でヒロインを演じた時、「台湾のオードリー・ヘップバーン」と呼ばれたキュートさが強く印象に残った。そこからミンリャン作品の常連となって、シャオカンとあーんなことしたりこーんなことやらされたりだったから、ああ…なんてつい遠い目をしてしまいましたねえ。

 その『恋愛時代』から20年近く経ち、台湾映画は長い低迷期があったものの、21世紀初頭からのTVドラマのアジア的人気をうけてのここ10年の大復活に至るわけであるが、その間にはヤンちゃんがこの世を去り、ミンリャンが長編映画の製作を休止している。一昨年の『郊遊/ピクニック』で姿を見られたのは嬉しかったけど、そういえばシャンチーの主演作はあまり観てこなかった気がする。
 例のシネマート六本木閉館企画の一つに、台湾映画特集があったのだが、特集限定新作上映として、『祝宴!シェフ』の撮影監督が手がけたこの作品が上映されたので、観に行った。その時は、決してシャンチー目当てでってわけじゃなかったんだよね。


 玲子(リンズ/シャンチー)は高雄に住む40代半ばの裁縫師。夫は上海出張から帰らず、中学生の娘も彼氏を作って家を出たまま、帰ってこない。さらに勤めていた裁縫工場を解雇されたので、病院に入院した義母の介護をすることになった。
 ある日、義母の向かいのベッドに意識不明の重症患者が運ばれた。四肢をグルグル巻きにされ、目も塞がれた若い男・張(イーストン・ドン)だ。全身の痛みに苦しみ、時折恐ろしい呻き声を上げる。見舞いに来るものはだれもいない。義母の介護の傍ら、玲子はだれもいないのを見計らって、男の身体を拭き、痛みを和らげようとする。その秘密の介護を始めたことから、彼女の心に忘れていたものが立ち上がってきて…。

 セリフは少なく、登場人物も限られ、描かれる内容も非常に内省的。こう言うとまるでミンリャンじゃん、と言いたくなるが、上映時間も短いし、極端な長回しもない。あ、もしかしてヤンちゃんもこんな感じの作品を作ってなかったっけか?台詞の応酬やらを面白いと考えてしまい、こういう静かな作品を退屈とかつまらないとか言ってしまうのは実にもったいないものだ。
 その静けさの中で、玲子がどう日々の生活を過ごし、その隙間に差し込んできた嵐にいかに心動かされるのかは彼女の仕草や行動が語ってくれる。そう考えたら、アクション映画のようにも観られると思う。それが、若い男性に出会った突然のときめきに自らが封じていた女としての自分をかき乱され、しばしその官能に浸りつつもふとしたことで醒めてしまう話であっても。

 そう、簡単に話せば、崖っぷちの40代人妻の密かな恋の未遂話なんですよ。若いころなら、きっとそれを人ごととして観ていたはず。だけどね、自分もそういう年代になっちゃったんですよ。だからなんだかもういろいろと重なっちゃってもう痛くて切なくて…。
 そして、それをシャンチーがリアルに演じ、心の乱れを細やかに見せてくれるのだから、なおさら心にきてしまったし、昔から彼女を観てきたことを思えば、なんだか遠くまで来てしまったわねえ…と遠い目になってしまったのでした。

 ああ、この感想を書いていたら、久々に『恋愛時代』を観たくなったなあ。
『恐怖分子』は今年になって日本でも再映されたけど、これは観られるのかな?



 

原題:迴光奏鳴曲
監督:チエン・シアン 製作:チェン・パオイン
出演:チェン・シャンチー イーストン・ドン

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唐山大地震(2010/中国)

 この映画『唐山大地震』の感想は、あえて東日本大震災の月命日にアップしました。
先日、復興担当相のこの信じらない発言に唖然としましたが、この方にはこの映画とともに、現在の被災地の状況をこの目で見て欲しいです。いや、1ヶ月位泊まりこんで、そこで業務していただきたいです、と忘れないうちにこじつけ承知で前書きを書きました。

 当初は2011年3月下旬に公開が予定されていたこの映画、同じ年の2月にニュージーランドで起こった地震で、公開延期が一時検討されていたそうだが、地震防災への啓発として予定通り公開を決めたものの、3月11日にと言っておいて後は説明不要ではないかと。

 

 1976年7月28日に河北省唐山市で発生した唐山地震は、マグニチュード7.5の直下型地震だったという。あの地震のマグニチュードが9に近いと言われているけど、簡単に比較してはいけないだろう。冒頭の地震発生場面は、被害がそれほど大きくなかったとはいえ、あの揺れを経験していることもあり、どうしても思い出さざるを得なくて辛かった。
 このマグニチュードは1923年に発生した関東大震災とほぼ同じ。この地震では同時発生した火災と強風で10万人の死亡者を出したと言われるが、唐山地震での被害は建物の崩壊による圧死が一番大きく、24万人の死亡者を出したという。それぞれの地震では、揺れによって起こる現象に巻き込まれた犠牲が一番大きいということがよく分かる。
 主人公の母親(徐帆)と双子の姉弟(成長後は張静初&李晨)の運命は瓦礫の下で大きく変わる。埋もれてしまった姉と弟、どちらも救えたのに一人しか救えないと判断されてしまった非情さ。運よく姉は救援活動にやってきた軍人夫妻(陳道明&陳瑾)に救われ、良い教育も受けさせてもらえたからよかったものの、もし救われても…と考えた。実際、生き残っても大変な目に遭った子供たちは多いのだろうな。
 そういえば、学生時代に関わった中国語劇が80年代初頭の河北省の大家族を主人公にした喜劇だったんだが、主人公の孫と愛し合ってる女性が、唐山地震で両親を亡くして引き取られた設定だったので、今思うとこの地震の引き起こした悲劇はたくさんあったのだと気づいた次第。…ちなみに役者として関わったのですが、演じたのは残念ながらその女性じゃなく、彼女を引き取った家の義理の姉役でした。ははは。閑話休題。

 地震で引き離され、それぞれ別々に人生を送ってきた姉の方登と弟の方達、そして母の李元妮を結びつけたのは、それから32年後に発生した四川大地震であった。旅行代理店の社長となった弟と、シングルマザーとしてかつての恋人(陸毅)との子を育て、カナダ人男性と結婚して国を離れていた姉が被災地で再会するものの、それをドラマティックに描くことはせず、姉と母親との再会も非常にさり気なく描かれる。日本でエンタメど真ん中な監督がもし同じような題材で撮るのなら(その場合阪神と東日本が扱われるとは思うが)、ガンガン泣かせてベタに盛り上げるに違いないし、馮小剛自身もそれができる人なんだろうけど、あえてそれをやらなかったのはかなり好感度が上がった。そして、これだけでも充分泣けるのである。

 東日本大震災から4年3か月。被災地を抱える県に住んでいるので、当然思いは大きい。だけど、急激に風化しているのも感じる。今だってまだ、余震が続いているし、チベットでも大きな地震が起こったばかりだ。
 この震災をフィクションとして描いた作品は数多くあるし、優れたテレビドラマにもなっているけど、映画としてはまだ客観的に描けない時期ではないかと思う。この映画だって、地震発生から34年後に作られている。今後の東北および関東北部沿岸の復興がどこまで進むのかまだまだ先は見えないが、ちゃんと検証されてほしいし、今後都心で世界的イベントがあるからといって、開発を集中されるのも困る。心の復興を目指して、今この映画が公開された意義も考えつつ、未来を考えたいものだ。

 うまい感想にならなくて申し訳ない。唐山・四川大地震はもとより、東日本・阪神淡路大震災、そしてチベット大地震の犠牲者の皆さんに対して、心よりご冥福をお祈りいたします。

英題:Aftershock
監督:フォン・シャオカン 脚本:スー・シャオウェイ
出演:シュー・ファン チャン・チンチュー リー・チェン ルー・イー チェン・ジン チェン・ダオミン

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