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2015年3月

KANO 1931 海の向こうの甲子園(2014/台湾)

 日本統治下の台湾から、甲子園に初出場して準優勝した嘉義農林学校(現:国立嘉義大学)野球部の実話を描いた大作『KANO』。昨年冬の台湾旅行時にプレミアが行われており(当然見られなかったのだがな)、それから待つこと約1年、やっとやっと観ることができましたよ。
 『セデック・バレ』で描かれた霧社事件の翌年、台湾の中南部にある地方都市から始まったこの物語、セデックほどのボリュームではないものの、3時間6分というとんでもない長尺だったけど、大いに楽しんで観られました。

Taiwan6

 1929年。かつて松山商業の野球部で監督を務めていた近藤兵太郎(永瀬正敏)は、ある日嘉義農林のグラウンドで行われた野球の練習試合を見かける。一方的な敗戦を喫した試合ではあったが、部員達の姿に何かを感じた彼は、ずっと断っていた嘉義農林野球部顧問・濱田(吉岡そんれい)から請われていた監督の話を引き受ける。
 嘉農野球部は、当時は蕃人と呼ばれていた台湾原住民、漢人、そして日本人で構成される混成チーム。部員たちは和気あいあいと野球に打ち込んでいたが、突然現れた日本人監督の「オレがお前たちを甲子園に連れて行く」という宣言に大驚き。なぜなら新設されたばかりの嘉農野球部は、地区大会でもいつも初戦敗退してしまうような弱小チームだったからだ。近藤は彼らに厳しい練習を課した。市内をランニングさせ、球場を神聖な場所と教え、陸上部に所属するアミ族の平野保郎(張弘邑)や打球をラケットで打ち返した(!)テニス部の蘇正生(陳勁宏)をスカウトし、足の早い原住民、打撃力のある漢人、守備に長けた日本人とそれぞれの民族の特性を見ぬいたチーム作りをする。さらに漢人のアキラこと呉明捷(曹佑寧)をピッチャーに抜擢する。しかし、当時の台湾で甲子園に出場する学校の部員は日本人ばかりだったため、嘉農野球部は奇異の目で見られ、他校との衝突もしばし起こった。そんな中で自らを鍛え、実力をつけていく嘉農の部員たち。
 1931年、甲子園出場を賭けた全島大会の初戦、勝利を味わうことなく卒業していった先輩たちの遺志を引き継いたアキラが見事完封し、ついに公式戦初勝利をおさめる。彼らは次々と勝ち進み、決勝戦では常勝チームの台北商業を打ち負かし、念願の甲子園出場を果たす。台湾南部の学校としても初出場となった。嘉義での凱旋パレードの日は、地域の水害を避けるために作られた烏山頭ダムの運用開始日でもあった。工事責任者の八田與一(大沢たかお)は農業を志す嘉農生たちの憧れであり、ナインたちもパレードを放り出してダムを見に行く。八田の激励を胸に、ナインは海を渡って甲子園の地を踏む。
 初出場ながら初戦を突破し、たちまち中等学校野球選手権の台風の目となった嘉農。二回戦は豪腕投手・錠者博美(青木健)を擁する札幌商業(現・北海学園札幌)だったが、錠者は彼らの力に圧倒されてしまう。
 準決勝も勝ち、残るは決勝の中京商業(現・中京大中京)戦。しかし、ここまで一人で投げ抜いてきたアキラには、ある異変が現れていた…。

 結構ベタな話だな、こうやってあらすじを書き出してみると(笑)。
まあ、3時間超えはやっぱり長すぎるとか、統治時代は日本人以外も日本語流暢だったんじゃないの?とか、女性の髪の結い方に違和感とか、ダムの完成は前年じゃなかったっけ?とか、部員たちの描写が薄いとか、何よりも葛藤がないとか、欠点は取り出せばいくらでもある。しかし、それが全く気にならないくらい面白く、大いに楽しんだ。とにかく豪腕なのである、アキラの常に大きく振りかぶるピッチングのように。その豪腕にねじ伏せられた。

 ワタシ個人は野球ファンではない。かつて父が巨人ファンだったので(関西圏出身だったらやっぱり阪神ファンだったのかな)、試合に連れて行ってもらったりしたけど、チームがガラッと変わっちゃったので、さすがに引き継がなかったなあ。でも、野球マンガはそれなりに楽しめたし、仕事を始めた頃は職場チームに混ぜてもらったりもしたっけ。そんなわけで多少野球の素地はあるし、この映画の栄誉顧問を務めている王貞治さんのインタビュー本も最近読んだもんね。(以前も書いたと思うけど、王さんは台湾に国籍をおいています。お父様が浙江省出身なんですよね)
 弱小チームが日々の鍛錬により、地方大会を勝ち抜いてしまい、甲子園でもあれよあれよと快進撃を遂げる。いくつかの感想に「川原泉のマンガ『甲子園の空に笑え!』みたいだなー」というのをいくつか見かけたけど、それには力いっぱい同意。ワタシも好きなマンガなもんで。もっとも、映画は強豪を率いた鬼監督、マンガはなぜかパワーヒッターの素質は持つものの基本的にド素人な女性監督と違いははっきりしているんだけど、どこか根底に共通感を覚える。両作品とも守備に重点を置き、それを強みとしたチームとしていたからかな。ま、技術的にはあれこれ言えないのでこのへんで。

 キャストはよくぞここまでいい人を揃えたねー、偉い!と思わず誉めたくなった。
永瀬(敬意を込めて呼び捨てさせていただきます。以下同)の抜擢は林海象さんつながりなのはよくわかるんだけど、ちゃんと貫禄があったのがいい。まあ、昔のおっかないおじさんキャラなのでちと合わん、という人もいるだろうけど、日本映画だけにとどまらないフットワークの軽さが変わらないのは嬉しいですわ。ご本人も気さくな方で素敵でした(うふふ)。
 八田與一がたかおというのもなかなかやるのお、台湾語もちょっとしゃべるしね♪と思ったら、何ですって、台南市長が似てるとかJINで人気とかじゃなくて、『花とアリス』がきっかけでオファー出したんだって?あらまあ。あとはお久しぶりだった坂井真紀嬢とか、セデックに続いて出演のそんれいさんとか、意地悪な新聞記者だけど実は菊池寛がモデルというある意味儲けモンな役どころだった小市さんとか、面白い人達が次々と出てきてた。
 KANOナインは野球経験者で選ばれたというけど、日本人キャストが少年野球を経験してきた俳優たちなのに対して、台湾人キャストはほとんどが素人さんなのねー。さすがにみんな現代っ子な顔してたけど、ルックスがいいので見てて可愛かったからいいわ(笑)。アキラ&蘇くんは両方とも現役の大学生プレイヤーで、役を離れてもやっぱりアキラと呼んでしまう曹佑寧くんは昨年秋の21Uワールドカップでも大活躍。TVで見てたけど楽しかったよ。アキラは俳優としても活動するとのことだけど(MVなどに出演しているらしい)、もうちょっと筋肉つけて野球を続けて欲しいかも。
 あと、あの無駄に壮大な音楽!ワタシは大好きです。だって大友組作品でお馴染みで、そちらでも無駄に壮大な音楽を連発する佐藤直紀さんですもの。この無駄に壮大な音楽がホントにいい意味で無駄に壮大なのがたまりません。多分これまでの彼のサントラで一番好きかも、なんてね。あ、ホントに誉めてますからね、誤解のないように。

 他にあれこれ書いているときりがなくなるのでこのへんにしたいんだけど、これはうまいと思ったのが、札幌商業のエースである錠者くんを語りに置くことで、後半の直接対決に持って行くことでまた別な視線をもたせたこと。勝者の喜びだけではなく、未知数のチームに負けることの恐れで少し引いて見ることができ、やがて共感へと結びつけていく。海の向こうから来た選手たちが決して異人ではなく、同じ野球を愛する人間であること。それも強調されている。
 ともかく、国同士の関係とか文明の衝突とかなんだかざわついているこの頃、台湾は親日だからいいとかなんて言わないし、もちろんその裏には霧社事件もあるし、陰があるってのもわかっているけど、台湾の皆さんが楽しんだこの映画を、日本の映画館で楽しく観られたのはやっぱり貴重だと思うし、オススメもしたい。
 何はともあれ、見事なまでのエンターテインメントには心から拍手した。こういう系統の作品はめったにないし、同じような作品はもう二度と作れないと思うから、本当に貴重だよ。

製作・脚本:ウェイ・ダーション 製作:ジミー・ファン 監督:マー・ジーシアン 撮影:チン・ディンシャン 美術:浅野 誠 音楽:佐藤直紀 音響:トウ・ドゥーチー
出演:永瀬正敏 坂井真紀 ツァオ・ヨウニン チャン・ホンイー チェン・ジンホン ジョン・ヤンチェン シエ・ジュンチャン シエ・ジュンジェ 大倉裕真 飯田のえる 山室光太郎 チェン・ビンホン ツァイ・ヨウフォン チェン・ヨンシン ウェイ・チーアン チョウ・シュンハオ イエ・シンチェン 斉藤一美 小市慢太郎 吉岡そんれい 青木 健 伊川東吾 大沢たかお

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