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罪の手ざわり(2013/中国・日本)

 今、香港がえらいことになっているのだが、ちょっと考えもまとまらないし、アップする感想もたまっているので、そのへんは近いうちに。

 最近衝撃を受けたニュースの一つに、北京でインディペンデント映画祭の開催が取りやめになったという事件がある。先日のジェイシーの逮捕(ここで少し書いてます)を別にしても、最近中国では公安が文化芸能方面に妙な目をつけているようであり、『トゥヤーの結婚』王全安監督が買春の疑いで拘束されたなどというニュースを聞くと、どうも穏やかではない。

 最近日本の一部国民が嫌うように中国が日本を嫌ってはいないとは聞くのだが、こういうアート&エンタメ系に権力が介入することを聞くと、どうしても中国政府にも不信感を抱かずにはいられない。確かによく考えたら、昔から中国の映画人は不当に当局から目をつけられる傾向もあったのだが、結局それは昔よりエンタメ系中国映画の世界公開が増えてきた現在でも、創作状況はあまり変わっていないのか?などと考えてしまうのだけど。

 さて、そんな中国のアート系映画人であるジャ・ジャンクーだが、彼の場合も作品がなかなか中国では公開されないと聞く。それでも作れるのは、海外で高い評価を受けていて、フランスだったり日本のあのバカ監督の事務所(オフィス北野)でサポートしてもらえるからなんだが、彼が作品を作ることで、ワタシたちは現在中国の人間模様を知ることができる。好みかどうかはさておき、それは実に貴重な機会だと思う。そんなわけで、最新作『罪の手ざわり』をこの夏地元で観た。


↑台湾公開時の予告(多分)。おお、「中國禁片」などと書いてあって物々しいぞ。

 山西省。ある村の炭鉱で働く中年の大海(姜武)は、目の前でバイクに乗った男が銃で人を突然撃ち殺すという場面に出くわす。 その彼は最近、炭鉱の利益を同級生の実業家が独占していることに怒っている。村長も抱き込んでいるのではないかと疑う大海は訴えに出るが、妨害されてしまう。怒り心頭の彼はついに銃を手に取る。
 山西省で人を殺した男・周(王宝強)は妻や母親の待つ重慶の実家に帰還する。武漢で出稼ぎしていると家族には嘘をついていたが、彼は各地で殺し屋をしたり、強盗をして金を稼いでいた。妻が金の出処を訝しむ中、つかの間の帰省で落ち着く間もなく、周は再び旅立つ。その前に、街の中で現金を下ろした女性を撃ち殺し、金の入ったカバンを奪い取って…。
 湖北省・宜昌のサウナで働く小玉(趙濤)は、広州で工場を経営する男と不倫をしている。宜昌までやってきた男と幸せに浸る彼女だが、男は離婚する様子もなく、関係をずるずると続けている。男が帰った後、失意のままサウナで部屋を掃除していたところ、客(王宏偉)に相手になるように迫られてしまう。逆上した小玉は、ナイフを持ってきて客に振りかざす。
 小玉の愛人が持つ広州の縫製工場では、若い小輝(羅藍山)がうっかりして同僚に大怪我を負わせてしまう。同僚の稼ぎを自分の給料から天引きされると聞いた彼は工場から逃げ出し、東莞にある香港人や台湾人相手のナイトクラブで働くことになる。そこで出会ったホステスの少女(李夢)にほのかな思いを寄せるようになるが…。

 ジャンクー作品を観たのは実に6年ぶり。普段地元にはアート系の中華電影が来る機会が実に少ないのだが(台湾巨匠系ならなおさら。ホウちゃんもここ15年くらい新作来てないし、ミンリャンなんて7年前にプレノン・アッシュ配給の2作品+シャオカン監督作以来きてないぞ。魏徳聖「巨匠」もセデックがスルーされたし)、 なぜかジャンクー作品は6年前に『長江哀歌』の上映がきっかけで特集上映が組まれ、そこで『プラットホーム』『世界』を観ることができた。なんでだろう?上映館の社長さんがお好きなのかしら?
 それでもドキュメンタリーだった『四川のうた』(『無用』は映画祭のみ・追記)がこっちまで来なかったので、今回も来ないかな?と思って諦めてたもんで。

 ゆるやかなつながりを持つ4人の男女の物語。お馴染みの面々―今やジャンクー夫人となったミューズ・趙涛、王宏偉、そして韓三明―もいるのだけど、思った以上にエンターテインメントにシフトしている印象があるのは、素人の面々に加え、やはりプロの俳優が参加しているからだろうか。まあ、姜文さんの弟で兄貴以上に不敵な面構えがいい味出してる姜武さん(『捜査官X』にも出てますな)や『コンシェンス(近日観て感想書く予定)』にも出ているという王宝強、『フライング・ギロチン』にも出てたというが覚えてない(当たり前か?)李夢など、中国や香港絡みの映画に出ていて、日本でも知ってる人は知っているという面々なら、いつもと違う感覚を持って当たり前かもしれない。

Touchofsin

 実在の複数の事件を元にして、各編の主人公が罪に手を染めるという共通項を持つ物語構成もまたエンタメ的かもしれない。実際、山西省のエピソードでの、トマトを積んで横転したトラックの向こうで爆発が起こり、落ちたトマトを拾ってバイクに跨ったままかぶりつく大海の場面(上の写真ね)はノワール的だし、宜昌のエピソードでの、頭のてっぺんでポニーテールにした小玉が血まみれになりながら刃物を振りかざす場面は、これまたジャンクーが意図した通り、武侠映画のヒロインのようであったしね。自分のスタイルを保ちながらオマージュを捧げるやり方は、長江で突然耳に飛び込む『男たちの挽歌』のテーマのことを思えば、特に唐突だとは思わない。まあ、ジャンクーがここまでエンタメに傾く(と言ってもちゃんと観れば全くそうじゃないんだけどね)とは、と驚いたけど、個人的にはこっちより長江の方が好みかな。いや、決してこれがダメってわけじゃないよ。これはこれで割と気に入ってるもの。

 「ごく普通の人々が罪に触れてしまうまで」というようなコピーがつけられているが、ごく普通に見えながらもあらかじめ罪に落ちている者もいる。重慶の周は金のために罪もない人を殺していくし、小玉の不倫だって世間的にはほめられたものではない。小輝も故意ではなかったものの、同僚に大怪我をさせて責任を取らないまま逃げてしまったという点で罪に落ちている。程度はどうであれ、我々はどこかで罪を背負っており、さらに理不尽な暴力をしでかしたり、巻き込まれたりするのはやはり天の定めなのか、ということも語られている。その天の定め(中国語の原題がまさにそれ)が現代の中国ではこうなってしまう、ということにおいても、社会的な視点を起きながらエンターテインメントで語る必要性があったんだろうな。
 でも、これでもストレートに見えちゃうから、ジャンクーもちょっと今後が心配だぞって思うんだけど、それは余計なお世話かしら。ま、バカ社長んとこがバックにいれば、まだ安心できるのかな(そうか?)
 いずれにしろ、中国でのアート系監督では最重要人物であるのだから、たとえ当地での上映が難しかろうと、彼が今後もしっかり映画を作れるくらいの安定さは欲しいものですよ。ホント、いろいろと心配だなあ。

原題(英題) 天注定(A Touch of Sin)
監督&脚本&製作総指揮:ジャ・ジャンクー 製作総指揮:森   昌行   製作:市山尚三   撮影:ユー・リクウァイ  音楽:リン・チャン
出演:チャオ・タオ  チアン・ウー   ワン・パオチャン   ルオ・ランシャン   ハン・サンミン   ワン・ホンウェイ   リー・モン   

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