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セデック・バレ(2011/台湾)

 本文の内容とは全く関係ありませんが、台湾つながりではまずこれを言っておかなければ。

 

本blogは、花巻―台湾間の国際線定期便の実現を願っています。

 このところ、初めての海外個人旅行先として台湾が一般的にも注目されてきているが、ここ10年ばかりは弟が断続的に働いていたり、師匠の生まれ故郷ということで、その関係で台湾を旅するということが多くなってる。
 そういえども、ワタシと台湾との関係ももう長くなる。初めての海外留学にして、初めて長く住んだ外国がここだった。そして、この留学に備えていろいろ調べていた時、霧社事件のことを知り、同期留学の友人とともに霧社を訪れたことを思い出した。

 

『セデック・バレ』は霧社事件を描く2部作の大作映画。ただ、地元では残念なことに劇場未公開。キネマ旬報ベストテン洋画部門で4位にランクインするなど、評価は非常に高かったものの、特集上映にも入らなかった。それはやはり上映時間約5時間という長さなのか、はたまた日本人と戦い、首を狩るという展開が残虐性や右寄りの人々に反感を買われるからと思われたからなのか…?そのあたりは後ほど。


 1895年、日清戦争での勝利により、日本は台湾を占領し、統治することになった。
 台湾には清から移り住んだ台湾人(漢人)の他、先住民(蕃人)も多い。その先住民の一族であるセデック族は中部の山間部にすみ、それぞれ社(部落)ごとで生活し、社間の闘争や社の儀式として「出草」と呼ばれる首狩りの儀式を行っていた。モーナ・ルダオ(大慶/林慶台)は出草を経てひとつの社を率いる統領となったが、彼らの住む山間にも日本軍はやってきた。
 1930年。セデック族のテリトリーには多くの日本人が入り込んでいた。セデックの者はダキス・ノービンこと一郎とダキス・ナウイこと二郎の花岡兄弟のように日本人名を名乗って暮らしたり、娘が日本人に嫁ぐなどしていたが、それを避けてさらに山奥へと登って暮らす者もあった。統治側の日本人警官にも、現地語を話せる小島巡査(安藤政信)のように、原住民を理解する者もいたが、セデック族と日本人との対立は絶えなかった。
 長年日本人に抑え込まれ、一触即発状態が長く続いてきたセデックたちは、その怒りを民族の誇りを取り戻すという決意に変えて、出草の実行を決意する。(第1部・太陽旗)

1930年10月27日。霧社の公学校で行われた連合運動会がセデック族の複数の社の者によって襲撃され、男たちだけでなく女子供も区別なく殺され、首を狩られた。二郎の妻のセデック人高山初子(ビビスー)のように現場に居合わせたものの難を逃れた者もいたが、小島の妻(田中千絵)は命を失った。日本軍は鎌田司令官(河原さぶ)の指揮により反撃を開始。高地戦に長けたセデック族は苦戦を強いられるが、長年モーナと対立してきたタイモ・ワリス(馬志翔)もモーナたちを追う。そして追い詰められた戦士たちは次々と倒れ、あるいは自決の道を選ぶ…(第2部・虹の橋)

こっちの方を載せてみたよ。

 先にも書いた通り、多くの観客に衝撃かつ抵抗を与えるのが、セデック族の出草、すなわち首狩り場面であろう。その標的となるのが日本人であるから、実際、抗日映画だと一部団体からのクレームを恐れたのもよくわかるし、一方この映画を大々的にフィーチャーしたムック「別冊映画秘宝・惨劇の世界映画事件史」で某映画評論家が「ゴア映画(人体破壊やスプラッタ描写のある映画を最近こう呼ぶらしい)」扱いしていたのに引いてしまったのもまた事実だ。
 今でこそ首狩りなどという習慣はほとんどなくなっているのだろうけど、南方民族においてはこれを部族の男たちのアイデンティティとしていた。つまりセデックたちは近代化=日本の統治下によりそれを喪いつつあったが、自らの民族の誇りを取り戻すための戦いとしてあの行動に出た、というわけだ。第1部の冒頭では、若きモーナと、まだ幼いタイモが出草のさなかに出会って因縁の始まりとなるわけだが、ここで同じ部族であっても、所属している社が違えば首狩りの対象になるということも描かれる。これも含め、セデックに伝わる「虹の橋」の伝説にも言及されているので、この描写が必然的だったのもよく理解できる。(虹の橋を始めとしたセデックの伝承について詳しく書かれたblogがあるので、参考資料として貼っておく。これね)
 だからこそ、ここと第1部クライマックスの暴動のくだりでただの血祭り切株祭り(人体切断描写を一部の人はこう呼ぶらしい。比喩的に上手くても悪趣味で嫌だなあ>個人的意見) にならなかったのは幸いだ。グロ描写が苦手なワタシがこう思うのだから間違いない。そんなこともあって、文化的背景とかそういうのを理解しないままでこの映画を「切株ヒャッハー!」とか言ってる人は信じがたいな…ってキツイ言い方しているようで失礼します。

 ウーさん&テレンス・チャン氏のプロデュース効果大ありといった(素直にほめております)激烈な戦闘シーンが全面を覆う第2部。日本人統治による長年の抑圧の中で古来の掟(ガヤ)に従い、出草を行った社の少年たちは男となる。セデックたちは民族の誇りを取り戻す。しかし、その代償に彼らは多くのものを喪う。日本軍だけでなく、同じ民族からも追われるようになった先にあるのは、自滅であった…。
 巨大な力に立ち向かい、それを倒すという展開は日本の戦国武将の逸話にも、戦時中の襲撃にもよくある話ではあるが、その勢力はかならず倍の力で反撃に出る。その力にはやはりかなわない。反撃されたら投降するしか道はないのに、そうできなかったセデックの男たちとその家族はほとんどが自決を選ぶ。つまり、自ら落とし前をつけたということだ。これは武士の落とし前に確かに共通する。
 反乱を起こした者のほとんどが自決し、首謀者のモーナが姿をくらました後、鎌田司令官はセデックたちを「彼らは武士道の持ち主だった」と評した。確かに、先に述べたようなことから、セデックの誇りやその行動は日本の武士に近しいものが多いとは思ったが、はたしてそれは新渡戸稲造のいう思想としての「武士道」とはどこまで重なり合ったのだろうか、と少し気になった。いや、武士道という言葉はいろいろと一人歩きしやすい危険性もどこかにあると思うし、新渡戸の武士道は必ずしも「死ぬことと見つけたり」とは読み取れない感もあってね。そういえば新渡戸も台湾にゆかりの深い人物でありましたな。

 セリフのほとんどがセデック語(だと思った)か日本語で、國語は脇役の漢人キャラがわずかに話すのみ。セデック族の俳優はプロアマ不問で原住民キャストが演じており、本業が現役の牧師という林慶台さんが演じるモーナはカリスマ性を帯びており、これが初演技とは思えない気迫であった。『KANO』で監督を務めた馬志翔(先住民名はウミン・ボヤ)はドラマでキャリアを積んだ俳優で、30代半ばということもあって、モーナとは好対照なタイモにぴったりだったと思う。ビビスーがタイヤル族の血筋というのはこの映画で初めて知った。日本人キャストも安藤くんやキム兄、河原さんや春田さんなど渋くて軍服が似合う面々が揃っていたが、それぞれの役どころの複雑さもあって、これも適材適所であった。海角に続いて登場した田中千絵は…思ったより出番少なかったね。そしてやっぱりキツさが気になってしまう。これはもうしょうがないのか?

 魏徳聖監督の前作『海角七号』 は普通の日本人はこれまであまり知ることのなかった日本統治時代に着目し、歴史から日本と台湾との繋がりに光を当てた快作だが、やっぱりどうしてもラブストーリーが蛇足に見えて個人的にはあまり好きではなかった。いや、いい映画だし、いろんな人にはオススメしていますけどね。でも、これを見ると、やっぱり魏徳聖が一番作りたい作品、一番思い入れがある作品はやはりこれであるとわかるし、その思いをがっつりと受け止められる。よくやったもんである。
 まあ、あまりも彼の思い入れが強いからなのか、台湾ではセデックの視点から見てかなり矛盾もあると言われているらしいが(実際、台湾ではそういった批判的視点で書かれた論文もあると弟に聞いた)、何よりもこの映画が台湾統治時代に明るくない人間に及ぼしたインパクトは大きいし、そこから台湾と日本との関係史も掘り起こせる。統治には陰も闇もつきものだが、決してそればかりではない。なんといっても、この映画の後に魏徳聖が馬志翔と共に撮りあげた『KANO』が、先住民・台湾人・日本人が一丸となって、海の向こうの甲子園を目指した話であるのだから、決して恥ずべき過去ではない。むしろ知らなければいけない事実はまだまだ埋れているはずなのだ。それをもっと知りたい、という気持ちが今とても強い。

 だから、KANOとセデックはセットで観るのがいいのかもしれない。
セデックを抗日と大批判し、KANOを誉めたというどこぞの右っぽい人がいると言うが、その人にもKANOを観た後で、もっかいセデックを観て欲しいもんだが…まあ、無理だろうな。しょうがないんだけどね。
(以上、政治的と受け取られる発言についてのコメントは、同意・批判にかかわらず、お控えください。本blogは政治的スタンスなど何もない場末のアマチュアブロガーが執筆しておりますので)
 というわけで、政治的主張の代わりに繰り返します。

本blogは、花巻―台湾間の国際線定期便の早期実現を願っています。

 大事なことなので、2回言いました。以上。

原題&英題:賽德克・巴萊(Seediq Bale)
監督&脚本:ウェイ・ダーション 製作:ジョン・ウー&テレンス・チャン プロダクションデザイン:種田陽平 美術プロデューサー:赤塚佳仁
出演:リン・チンタイ マー・ジーシアン ダーチン 安藤政信 ビビアン・スー 木村祐一 ルオ・メイリン 田中千絵 春田純一 河原さぶ  

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