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2013年12月

『香港トラムでぶらり女子旅』池上千恵・永田幸子・小野寺光子

 クリスマスも過ぎ、旧正月が終わるまでは香港はイルミネーションが賑やかになる季節。 昨年の今頃は香港で一人、ブラブラしていた。目的もなくブラブラするのってつくづく贅沢な時間の過ごし方だと思うのだが、文字どおりの意味でブラブラするので、後からいいお店を教えてもらったら、そこは何も知らずに通り過ぎてたところだったりするので、やっぱり旅の先達に教えてもらうことは大切なんだな、と『徒然草』にあったようなことを思うのであった。

今の香港は良くも悪くも大陸様特需で、ホテルは高くなり、繁華街にある老舗店は次々に撤退してブランドショップになるなど、ちょっとつまらなくなってたり、あるいはチープに楽しむことはなかなか難しくなっている。香港という街は狭い割に未体験の場所がかなり多く、行くたびに遠出したりしているわけだが、日程のタイトなときでも楽しめる近場の遊びはあってもいいよなと思っていた。
 それを示してくれたのがこの本である。

以前ここで紹介した『香港女子的裏グルメ』『香港路地的裏グルメ』の著者&イラストレーターの池上さんと小野寺さんのコンビに、20年来香港とマカオを撮り続けているフォトグラファーの永田さんが加わった香港通トリオが、香港島を東西に走り、どこまで乗っても片道2.3元(香港ドル)という庶民の乗り物、トラムの旅をご案内。
 一般的に利用頻度が高いのは、上環から銅鑼湾、あるいは北角くらいまでだと思うけど、来年MTRの新路線が開通して行きやすくなりそうな西の起点・ケネディタウンと西營盤、香港電影資料館がある西湾河、そして東の起点である筲箕灣まで網羅して、リピーターにも楽しめる内容になっている。 さらに、3人の著者おすすめのトラム散歩プラン+香港映画ロケ地マップもあるのも嬉しく、後者は香港映画にハマり始めた人にはぜひ読んでもらいたいくらい。
 九龍と香港島は同じ香港でも結構違ってる。それは官公庁と高級ホテル等が島に集まっているので、どこかハイソな印象を醸し出しているのかもしれないけど、それでも香港大学近辺の西側や西湾河方面の東側ではまだまだ庶民的な面も見られるのだから、香港島だけの観光も案外楽しいかもしれない。これでホテルがもう少し安かったらよかったかな。北角やケネディタウンあたりのホテルにも泊まってみたいけど、このへんもまだまだ高いんだっけ?来年の夏あたりに短期間で行きたいと考えているので、今のうちにリサーチしておこう。

 ↑あ、小柳さんのこの本もチェックしておかなきゃね。

 そうそう、以前の記事で紹介した香港エクスプレスですが、来年の春から羽田発着がいずれも早朝になるそうです。(詳しくはこちらなど。羽田発6:20→香港着9:50、香港発23:50→羽田着4:40)。
 おお、これなら羽田前泊で帰りはそのまま始発の新幹線で遅刻出勤のエクストリーム出社的なツアーができる!とかまた無謀なことを考えたのですが、よく考えたら夏休みの時期なので、LCCの雄ピーチを使えば、

 盛岡→仙台→関空片道→香港往復→関空→成田→実家に帰省

というエクストリーム帰省な香港ツアーができるんだよな。これ、本気で考えてみよう。

 ☆通常運行ならば、今年の更新は本日で終了です。
 今年は公私ともに多忙になってきたため、あまり更新できなかったことをお詫びいたします。
 また、来年初頭で本blogは開設10年を迎えます。今後は地元での香港映画上映が増加することを願いつつ、未見作品を多く消化しつつ感想を書いていきたいと思います。
 では皆様、よいお年を…。

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東京に来たばかり(2012/日本・中国)

 時々「あれー、この企画まだ生きてたの?」という映画が、「どうしてあの企画がこんなになっちゃうわけ?」と同じくらいの頻度で登場する。(例えば邦画でいえば、最近では小栗旬主演の『ルパン三世』実写版とか、監督交代で復活した『進撃の巨人』実写版とか…ってみんなマンガの実写版ばかりじゃないか)この映画はその前者である。最初に聞いたのも10年くらい前で、主役の留学生役もリウ・イエだったんだよな。
 この10年間の中国映画の変化…よりも日中関係の変化を考えると、よくぞ今これを作って一般上映するまでにこぎつけたよ、偉いねえと思ったものであった。まあ、評価はまた別としますが。
 そんなわけで『東京に来たばかり』を観た。

 囲碁の名手である中国人青年・吉流(チン・ハオ)が碁を学ぶために東京で暮らし始めてから2カ月。シャイで引っ込み思案な性格が災いしてアルバイトにも就けず、十分に囲碁も打てない。
 吉流はバスの中で、千葉から野菜を背負って行商にやってきた老女・五十嵐君江(倍賞千恵子)と知り合う。彼が仕事を探していることを知った君江は、小岩のカプセルホテルを紹介する。吉流は清掃係として働き出し、フロント係の内藤(田原)や囲碁好きの客たちともすぐに仲良くなる。
 君江は千葉の南部にある古い農家で一人暮らしをしていた。夫と息子夫婦はすでになく、東京で暮らす孫の翔一(中泉英雄)が唯一の血縁だが、時折帰ってくる孫を快く思わない。しかし吉流と翔一はなぜか仲良くなり、一緒に東京で遊ぶようになる。やがて吉流はCS囲碁チャンネル主催のアマチュア囲碁トーナメントに出場することになる。
 翔一には奈菜子(チャン・チュンニン)という名の、台湾人のガールフレンドがいた。彼女は美容師として独立していたが、借金取りに追われていた。翔一は彼女を助けようとして、重傷を負ってしまう…。

 観ていて気付いたのは、吉流が日本の生活で苦労している描写はあっても、人間関係で対立したり、日本人にいじめられて悪い印象を持つというネガティブなイメージで決して描かれないこと。合作という経緯を抜きにしても、中国人監督がこういう視点に立つことって、結構珍しい気がする。
 蒋欽民監督は北京電影学院で学んだ後、20年前に来日して日本映画学校と日大芸術学部映画学科で学び、修士を取得している(公式HPを参考のこと)。そしてデビュー作が緒形直人主演の日中合作『戦場に咲く花』(00)。その後、TIFFに出品したリウ・イエ&董潔の『天上の恋人』(02)を監督し、中国で活動する女優・小林桂子の企画を彼女自身の主演で撮った『JUN-AI 純愛』(07)に続く監督第4作とのことだが…う、全部未見だし、最後の作品は全然知らなかったよ。
 まあ、こういうフィルモグラフィで、留学時代の体験を元に、日中合作(しかもほとんど日本ロケ)ともなれば、日本人には(一応)優しい作りになるのは分かるなあ。そして苦労した思い出より、いい思い出の方がきっと多かったんだろうなあ。

 そんな監督の思いがよくわかるのが、当初から千恵子様の出演で企画を練られていたということ。リウ・イエ主演で発表があった時も、ヒロインにはすでに千恵子様の名前があったしね。多くの松竹映画作品に出演し、美しく心優しき日本女性を多く演じてきた千恵子様は、日本で映画を学んできた監督にとっては、まさにマドンナだったのだろうな。…ちなみにワタシは妹の美津子さんの方が好きですが(ってそんなこた誰も聞いてねーよ)。
 腰を丸めた行商のおばあちゃん姿で登場したときは、あれ、千恵子様ってこんなにお年を召されていたっけ?とかなりびっくりしたのだが、話が進むにつれてただの農家のおばちゃんではないということがわかる。そもそも吉流との出会いからして、彼が落とした碁を拾っていた時、中国式の碁であることを見抜いたのだが、何かしら碁に関わった人であるというのは容易に予想できる。そして、彼女が往年の碁の名手であると判明してからは、すっと背筋の伸びた凛々しさを見せてくれ、そうよねー、歳はとったけど千恵子様ってこういう人よねー、これを撮りたかったのね監督は、これも一種の千恵子様萌えアイドル映画よねーなどと思って惚れ惚れしながら見てた(多少ふざけが入ってますが、まじめにそう思ってます)。だけど、その正体はもう少し早く明かしてくれてもよかったかなー。

 出世作の『スプリング・フィーバー』を観ていないので、これが初見になるちんはお君(漢字が難しいし、SNSで使われるひらがな表記がかわいいのでこれを使用します)。当初予定されていたリウイエと似たタイプの役者だなーと見ていたけど、やっぱり若いので素朴さと初々しさがある。部屋着が半ズボン+靴下という垢抜けなさもかわいい。
 チュンニンと田原という華人女優二人組は、それぞれタイプも違うし、役どころに合ってたけど、各キャラの設定に説明不足感があったかな。奈菜子は翔一がちゃんと「台湾人の…」と紹介してたので、おそらく父親が台湾人か日本国籍を取得した台湾人とわかるんだけど、吉流と出会った時には英語で話しかけ、その後たどたどしい日本語で彼と会話する内藤は、きっと残留孤児子女って設定なんだろうけど、後半で「実は私は中国人なの」と中国語で告白する時に何らか説明してほしかった気がする。観客は察しが付く人ばかりじゃないからね。

 こんな感じで全体的に説明があってもいいんじゃないかというキャラが多少あるんだが、一番説明してほしかったのは、君江の孫の翔一が、ヤクザ屋さんに脇腹を刺されて(このへんのアクションシーンが妙に力入って本格的だなーと思ったら、我らが谷垣さんがアクション指導していたので、エンドクレジットで名前を見て思いっきり納得したわ)重傷を負っているのにもかかわらず、なんで治療を受けることをかたくなに拒否するのかということ。死亡フラグを立てるにしろあまりに強引だし、後半は観ていて心の中でひたすら、「翔一、オマエ早く病院に行け、死ぬぞ!」ってずーっと言っていた。香港映画ではどんな致命傷を負っても簡単に死なずに逆襲してくるけど、そんな荒唐無稽さはあり得ないからねー。
 翔一を演じる中泉英雄さんは、名前だけ見るとオッサンっぽいなーと思ったけど、意外にも若者だったのでビックリ。『南京!南京!』に出演し、日本での近作は『地獄でなぜ悪い』だそうだけど…ああ、確かにあの映画のヤクザ屋さんの中にこんなヤツいたな、と頭の中の引き出しを引っ張り出し中。
 その他、いろいろと無理があるところやら、その展開どうよってツッコみたいところはたくさんあるけど、そのへんはきりがないので置いておく。そういうところをつつき回す映画じゃないしね。

 主人公が囲碁棋士なので、クライマックスは当然棋戦である。
ここでやっと「ああ、これって囲碁映画だったのか」と気付いたのだが、同じ囲碁を扱いながらただの囲碁映画にはならなかった『呉清源』にガッカリした人は、これをどう見たのかなあ。まあ、ワタシも囲碁はよくわからないけど、映画としては呉清源の方がいいよなーと思っちゃってごめんなさい。

 今、日中関係がかなりきな臭くなっているのは、経済発展による内部格差で問題を多く抱えてる中国政府の焦りだったり、その挑発を真に受けてネガティブ記事をいっぱい発信するマスコミだったり、いろいろと原因は考えられる。もちろん、いくらワタシが中国語学習者だったからどいえども、仲良しこよしの日中関係を保つべきなんて主張なんかするわけはない(実際に自分も中国で嫌な目に遭ったことがあるのでね)。
 だけど、いくら政治や情報がきな臭く、ネガティブイメージがあっても、それは表に見える部分であって、全ての中国人が悪いわけではない。これは中国人にとっての日本人も同じ。対立はあっても国を超えた人の交流を描く映画はこれまでもあったし、これからも作られるべきだと考えている。だから映画に関してはブツができる前だったり、あるいは完成したとしてもろくに観も知りもしないであれこれ騒ぎ立てるのは本当にやめてほしいもんですよ。政治が文化に難癖つけるってのは野暮ですからね。
 …っとやや政治的に危険な主張をしてみて、この項を終わらせます。ちなみにこの部分だけを見ての批判コメントは、一切お断りいたします。よろしくねー(^_-)-☆。

中文題&英題:初到東京(Tokyo Newcomer)
脚本&監督&編集:ジャン・チンミン 音楽:ウォン・ミンツァン&ウォン・美音志 アクション指導:谷垣健治
出演:チン・ハオ 倍賞千恵子 中泉英雄 チャン・チュンニン ティエン・ユエン 窪塚俊介 風間トオル 

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ピクニック(2013/台湾)

 蔡明亮はこの20年間で10作品を撮ったという。そのうち何本観たのだろうと数えてみたら、『青春神話』『愛情萬歳』『河』『楽日』 『西瓜』と、ちょうど5作品だった。偶然にも、全部漢字オンリーの邦題(楽日と西瓜は日本オリジナル題だが)。

Tsaimingliang

 ちょうどキリがいいからかどうかはわからないが、今年のヴェネチア映画祭で監督引退を表明したミンリャン。そこで審査員大賞を受賞した“最後の作品”が『ピクニック』。これは原題の邦訳らしいが、英題は『Stray Dogs(野良犬)』。珍しく英題の方がふさわしいんじゃないかなあと観ていて思ったよ。

 台湾のある街。廃墟と化したビルの中に居を構えるのは、父親(李康生)と10代前半らしい息子、そして幼い娘の3人家族。母親に出て行かれ、ほぼ毎日飽きるほど降る雨の音を聞きながら、ホームレス同然の日々を暮している。
 シャオカンは不動産屋のプラカード持ちを仕事とし、毎日冷めた弁当を昼食にしている。兄と妹は学校へ行かず、雨の日は巨大スーパーマーケットをうろつき回り、晴れた日は外で遊ぶ。スーパーでキャベツ一玉を手に入れた兄妹は、それに顔をつけて新しい家族として扱う。スーパーの女性店員は、毎日店にやってくる子供の身を察し、最低限に手をかけてやる。
 激しく雨が降る夜、一人の女がシャオカンたちのもとにやってくる。シャオカンと何らかの関係があるらしい彼女は家族の面倒を見てあげ、とある部屋の壁面いっぱいに描かれた大きな川の絵の前で立ち尽くす…。

 正直に言ってしまえば、ミンリャン作品は総合的に苦手である。それでも一番好きなのは『楽日』なんだけど。
 なぜ苦手意識があるのか?と考えると、それはやっぱり、台湾映画やアジア映画としての枠を超えちゃっているアート性からなのかな、などと言ってみたりする。急激に都市化する台湾という社会からはみ出し、圧倒的な孤独と絶望を抱く人間の姿は、常に主人公として登場するシャオカンに反映され、彼の身体を通じて、エロスもエグさも平等に描かれる。それはアジアだけでなく世界的に普遍なこととして見い出されるので、ハマる人はドハマりし、ダメな人はとことんダメという両極端な評価になるんだろう。その極端さで考えるなら、ワタシは後者に限りなく近い。
 だけど、やっぱり観なきゃと思ったのは、最後の作品と言われていることと、しばらく観ていなかったこともあって、自分がどう彼の作品を受け取れるのだろう、と思ったからである。6年ぶりくらいに観るので、また自分も変化しているからね。

 一番びっくりした、というか最も感慨深かったのは、あのシャオカンがついに父親の役を演じることになったということか。シャオカンはミンリャン作品以外だと、林正盛監督の『台北ソリチュード』や、『河』に映画監督役で出演したアン・ホイ姐さんの《千言萬語》他、簡単に数えられるだけの出演作があるそうで、今世紀に入ってはほぼ専属状態だった印象があるだけに、お互い歳をとったもんだ、としみじみしたものである。(注:それでもワタシはシャオカンよりまだ多少年下です)
 貧しいから不幸でもなく、家族でいるから幸せというわけでもない。淡々と日々を暮す中にも訪れるわずかな変化と感情の揺れを138分使って描かれるこの映画には、川、雨、不動産、野菜、静寂、孤独、そして長回しと、これまでのミンリャン作品に繰り返し出てきたモチーフや技法がところどころに登場するので、これまでに観てきた彼の作品をあれこれ思い出し、やはりこれが集大成と言われるのは分かるよなあと改めて思うのであった。
 長回しと言えば『楽日』の空っぽの劇場だが、今回はラストで13分近く固定かつ無言でカメラが回されたという。まあ、楽日のアレは意味があると考えているので充分覚悟はできていたのだが、あの時間を経験したシャオカン同様、観客がこれを味わうのはものすごい試練であるわと、これも改めて思った。
 総じていえば、観てよかったと思うし、体力があれば一般上映でもちゃんと観たい。それじゃ好き?と問われたら、あいまいにモニョるけどね。

 

 今回初めてミンリャンのインタビューを聞き、印象に残った言葉があった。
彼は黒澤明監督を敬愛しており(ちなみに当日は黒澤作品で記録を担当していたベテランの野上照代さんも来場されていた)、最後の質問の答えで「黒澤明監督作品は最初の10本で神に与えられた才能を使い果たしていると思う。(中略)30代の時に観た彼の最晩年作品『夢』は当時つまらないと思ったが、最近もう一度観たら素晴らしいと思った」というよう例を挙げ、年を重ねることで映画の見方が変わることを自分の未来に重ねていた。ここから、以前苦手だった作品も、観なくてもいいかとスルーした作品も、また違ってみることができるんじゃないかと思えるようになった。機会があれば、ミンリャン作品をじっくり腰を据えて観たいものだが、あれは映画館じゃないと絶対だめだよなあ。

 ところで、この記事にもあるんだが、デジタル撮影についての質問でミンリャンが、「李安から『キミの作風は3Dに向いてる』と言われた。彼のように敏感な人はそう思うんだろう」と言ってたんだけど、これはジョークじゃなくてマジで観てみたいかも、とちらっと思ったよ。廃墟の暗がりの奥行や、広い街にポツンとたたずむシャオカンやシアンチーを3Dで観るという経験も悪くないと思ったもんで。まあ、『西瓜』の延々続く絡みみたいなもんを3Dで観ると、よりエロさも増すんじゃないかとも思うけどね。まあ、そのへんは実際見るのも怖かったりするんだけどさ(笑)。

原題&英題:郊遊(Stray dogs)
監督・脚本:ツァイ・ミンリャン
出演:リー・カンション ヤン・クイメイ ルー・イーチン チェン・シアンチー

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夏休みの宿題(2013/台湾)

 今年は映画祭で台湾映画を観ることが多い。香港映画の一般公開が増えたからというのもあるんだけど、以前からも言っているように台湾映画は香港映画以上に地方公開がないからである。ホウちゃんも『珈琲時光』『百年恋歌』がこっちに来てないし、ミンリャン作品も然り。だから、重要な作品をかなり見落としている。なんてこった。
 そんなこんなで今まで見落としていたのがチャン・ツォーチ(張作驥)監督作品。
61年に嘉義で生まれ(ピーターさんや是枝さんと同世代か)、ホウちゃんや徐克さんの助監督を経て監督デビューし、99年に作った第3作の『最愛の夏(ダークネス&ライト)』で東京国際映画祭サクラグランプリを受賞、翌年のカンヌの監督週間に出品。2001年の第4作『きらめきの季節/美麗時光』がヴェネチア映画祭のコンペに出品。
…でも両作品とも日本公開はされたのに、観てないのですよ本当にごめんなさい。

 そんな彼の監督第7作、『夏休みの宿題』今年の東京フィルメックスで上映。現在台湾でも一般上映が開始。
過去作品を予習として振り返る余裕は全くなかったが、まあいい、まっさらな気持ちで観るしかないわーと思い、チケットをゲットして臨んだ次第。

Quchi

 7月初旬、両親が離婚の危機にある小寶(パオ・楊亮兪)は、夏休みに新店の屈尺(チュイチー)地区にあるおじいちゃんの家に連れてこられた。あとから妹の蒟蒻もやってきて、二人は地区の小学校に転校する。小寶は台北の小学校から夏休みの宿題を持ってきていて、20日分の日記を屈尺で書くことになる。スマートフォンを使いこなし、タブレットでゲームをすることが好きな小寶は、屈尺の子供たちがあまりにもワイルドなのに最初は驚き、なかなか馴染むことができなかったが、小熊という女の子や同世代の名詮などと友達になり、両親のいない夏を大いに楽しんでいたのだが…。

 英題の「A Time in Quchi」は、この映画の舞台・屈尺からとられている。
現在は合併して新北市となった台北の近隣・新店にある風光明媚な地区。新店というと指南宮や木柵のイメージがあり、山間の街だとは思っていたが、これが台北から1時間ばかり離れたところにあると考えたら、確かに信じがたいだろうな、というほどの風景の美しさ。
 そこに台北生まれの現代っ子がやってきて…という筋書きは、ホウちゃんの初期作『冬冬の夏休み』を彷彿させる、という意見が、日本でも台湾でも多かったようだ。ツォーチ自身ホウちゃんの下で働いていたことがあったから、何か関連はあるのかな、と思ったが、まあきっと偶然なんだろうな。個人的には、この夏NHK広島局が制作して放映したドキュメンタリードラマ『基町アパート』も同じ設定だったので、よくあると言えばそれですむか(こらこら)。

 常にタブレットを手放せない小寶は、まさに21世紀の台北っ子。両親の離婚という事態に直面しながらどこか不安げにも見えるけど、基本的にはボーっとしていて生意気な妹に振り回されるマイペースな男の子ってのも今時の子。
 映画祭には小寶を演じた楊亮兪くん(英語名はウィルソンというらしい)が登場し、史上最年少ゲストとしてQ&Aに臨みました。ワタシを含めた観客はもう全員ほのぼのしてしまい、いつもは殺気立つこともある質問がえらくあったかいものばかりだったのでしたよ。牯嶺街でデビューしたころの張震にどこか似た面差しなので、小張震とも呼ばれているらしい。

 おっと、話がずれましたが、興味深かったのがこの小寶がちゃんと子供らしかったこと。決してオタクでもないし自己中心的でもなく、社交性もある男の子。そこに好感が持てた。宿題として持ってきた日記に、決してでたらめではないんだけど、どこかずれていることを書いていたのは、最初の馴染めなさと不安を巧みに表現していた印象。

 そんな彼は屈尺で様々な経験をする。自然に囲まれた地区ならではの野外活動あり、学校設立者を歓迎するための演劇参加あり。机に向かうだけではわからないことを、小寶はたくさん学んでいく。その中には離婚や死別といった別離もあったわけで…。
 物語のクライマックスから結末にかけて唐突に描かれる二つの死(ネタバレを避けるためにあえてぼかしてます)。もちろん、田舎の夏休みは決して幸福なだけでなく、こういう死や哀しみが描かれることも珍しくはない。しかし、例えば邦画ならこういう場面はひたすら「ほら哀しいよねー、泣くよねー、どやみんな泣け泣け」とばかりに盛り上げて感動を誘うような嫌な作りになるのだが、非常にあっけなく描かれる。その方がリアルだし、死は生の隣にあるということをだれも理解しやすいのではないだろうか。そこに共感が持てた。

 フィルメックスではちょうど同じテーマで作られた、カンヌ映画祭カメラドール受賞作のシンガポール映画『ILO ILO』も上映されていて、そちらを支持する人が多かったみたい(観客賞も受賞)。そんな偶然がマイナスになってしまうのかもしれないし、彼の過去作品と比較する声も多少は聞いたけど、ワタシは事情により『ILO ILO』が観られず、過去作品とも比べようがないのだが、これだけでもいい作品で、観てよかったと思う。まあ、『ILO ILO』は来年一般公開の予定があるらしいので、あれこれ言うのは観てからかな。

 最後に、facebookblogをのぞいてみると、この映画が子供たちの映画として真摯に撮られていて、観客も子供たち世代に向けられていることがわかり、こういうアピールって大切だなあと思った次第。映画好きの子供は国産片でも育てられるし、商業的であっても売らんかな主義ではない子供たちの映画って貴重なんだよね。

Wilsonyang

おまけその1・サインする未来の明星くん。

Yangliangyu

おまけその2・サインというよりテストの答案用紙に書いてるようでかわいい。

原題&英題:暑暇作業(A Time in Quchi)
脚本&監督:チャン・ツォーチ
出演:ヤン・リャンユー

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