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ピクニック(2013/台湾)

 蔡明亮はこの20年間で10作品を撮ったという。そのうち何本観たのだろうと数えてみたら、『青春神話』『愛情萬歳』『河』『楽日』 『西瓜』と、ちょうど5作品だった。偶然にも、全部漢字オンリーの邦題(楽日と西瓜は日本オリジナル題だが)。

Tsaimingliang

 ちょうどキリがいいからかどうかはわからないが、今年のヴェネチア映画祭で監督引退を表明したミンリャン。そこで審査員大賞を受賞した“最後の作品”が『ピクニック』。これは原題の邦訳らしいが、英題は『Stray Dogs(野良犬)』。珍しく英題の方がふさわしいんじゃないかなあと観ていて思ったよ。

 台湾のある街。廃墟と化したビルの中に居を構えるのは、父親(李康生)と10代前半らしい息子、そして幼い娘の3人家族。母親に出て行かれ、ほぼ毎日飽きるほど降る雨の音を聞きながら、ホームレス同然の日々を暮している。
 シャオカンは不動産屋のプラカード持ちを仕事とし、毎日冷めた弁当を昼食にしている。兄と妹は学校へ行かず、雨の日は巨大スーパーマーケットをうろつき回り、晴れた日は外で遊ぶ。スーパーでキャベツ一玉を手に入れた兄妹は、それに顔をつけて新しい家族として扱う。スーパーの女性店員は、毎日店にやってくる子供の身を察し、最低限に手をかけてやる。
 激しく雨が降る夜、一人の女がシャオカンたちのもとにやってくる。シャオカンと何らかの関係があるらしい彼女は家族の面倒を見てあげ、とある部屋の壁面いっぱいに描かれた大きな川の絵の前で立ち尽くす…。

 正直に言ってしまえば、ミンリャン作品は総合的に苦手である。それでも一番好きなのは『楽日』なんだけど。
 なぜ苦手意識があるのか?と考えると、それはやっぱり、台湾映画やアジア映画としての枠を超えちゃっているアート性からなのかな、などと言ってみたりする。急激に都市化する台湾という社会からはみ出し、圧倒的な孤独と絶望を抱く人間の姿は、常に主人公として登場するシャオカンに反映され、彼の身体を通じて、エロスもエグさも平等に描かれる。それはアジアだけでなく世界的に普遍なこととして見い出されるので、ハマる人はドハマりし、ダメな人はとことんダメという両極端な評価になるんだろう。その極端さで考えるなら、ワタシは後者に限りなく近い。
 だけど、やっぱり観なきゃと思ったのは、最後の作品と言われていることと、しばらく観ていなかったこともあって、自分がどう彼の作品を受け取れるのだろう、と思ったからである。6年ぶりくらいに観るので、また自分も変化しているからね。

 一番びっくりした、というか最も感慨深かったのは、あのシャオカンがついに父親の役を演じることになったということか。シャオカンはミンリャン作品以外だと、林正盛監督の『台北ソリチュード』や、『河』に映画監督役で出演したアン・ホイ姐さんの《千言萬語》他、簡単に数えられるだけの出演作があるそうで、今世紀に入ってはほぼ専属状態だった印象があるだけに、お互い歳をとったもんだ、としみじみしたものである。(注:それでもワタシはシャオカンよりまだ多少年下です)
 貧しいから不幸でもなく、家族でいるから幸せというわけでもない。淡々と日々を暮す中にも訪れるわずかな変化と感情の揺れを138分使って描かれるこの映画には、川、雨、不動産、野菜、静寂、孤独、そして長回しと、これまでのミンリャン作品に繰り返し出てきたモチーフや技法がところどころに登場するので、これまでに観てきた彼の作品をあれこれ思い出し、やはりこれが集大成と言われるのは分かるよなあと改めて思うのであった。
 長回しと言えば『楽日』の空っぽの劇場だが、今回はラストで13分近く固定かつ無言でカメラが回されたという。まあ、楽日のアレは意味があると考えているので充分覚悟はできていたのだが、あの時間を経験したシャオカン同様、観客がこれを味わうのはものすごい試練であるわと、これも改めて思った。
 総じていえば、観てよかったと思うし、体力があれば一般上映でもちゃんと観たい。それじゃ好き?と問われたら、あいまいにモニョるけどね。

 

 今回初めてミンリャンのインタビューを聞き、印象に残った言葉があった。
彼は黒澤明監督を敬愛しており(ちなみに当日は黒澤作品で記録を担当していたベテランの野上照代さんも来場されていた)、最後の質問の答えで「黒澤明監督作品は最初の10本で神に与えられた才能を使い果たしていると思う。(中略)30代の時に観た彼の最晩年作品『夢』は当時つまらないと思ったが、最近もう一度観たら素晴らしいと思った」というよう例を挙げ、年を重ねることで映画の見方が変わることを自分の未来に重ねていた。ここから、以前苦手だった作品も、観なくてもいいかとスルーした作品も、また違ってみることができるんじゃないかと思えるようになった。機会があれば、ミンリャン作品をじっくり腰を据えて観たいものだが、あれは映画館じゃないと絶対だめだよなあ。

 ところで、この記事にもあるんだが、デジタル撮影についての質問でミンリャンが、「李安から『キミの作風は3Dに向いてる』と言われた。彼のように敏感な人はそう思うんだろう」と言ってたんだけど、これはジョークじゃなくてマジで観てみたいかも、とちらっと思ったよ。廃墟の暗がりの奥行や、広い街にポツンとたたずむシャオカンやシアンチーを3Dで観るという経験も悪くないと思ったもんで。まあ、『西瓜』の延々続く絡みみたいなもんを3Dで観ると、よりエロさも増すんじゃないかとも思うけどね。まあ、そのへんは実際見るのも怖かったりするんだけどさ(笑)。

原題&英題:郊遊(Stray dogs)
監督・脚本:ツァイ・ミンリャン
出演:リー・カンション ヤン・クイメイ ルー・イーチン チェン・シアンチー

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