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東京に来たばかり(2012/日本・中国)

 時々「あれー、この企画まだ生きてたの?」という映画が、「どうしてあの企画がこんなになっちゃうわけ?」と同じくらいの頻度で登場する。(例えば邦画でいえば、最近では小栗旬主演の『ルパン三世』実写版とか、監督交代で復活した『進撃の巨人』実写版とか…ってみんなマンガの実写版ばかりじゃないか)この映画はその前者である。最初に聞いたのも10年くらい前で、主役の留学生役もリウ・イエだったんだよな。
 この10年間の中国映画の変化…よりも日中関係の変化を考えると、よくぞ今これを作って一般上映するまでにこぎつけたよ、偉いねえと思ったものであった。まあ、評価はまた別としますが。
 そんなわけで『東京に来たばかり』を観た。

 囲碁の名手である中国人青年・吉流(チン・ハオ)が碁を学ぶために東京で暮らし始めてから2カ月。シャイで引っ込み思案な性格が災いしてアルバイトにも就けず、十分に囲碁も打てない。
 吉流はバスの中で、千葉から野菜を背負って行商にやってきた老女・五十嵐君江(倍賞千恵子)と知り合う。彼が仕事を探していることを知った君江は、小岩のカプセルホテルを紹介する。吉流は清掃係として働き出し、フロント係の内藤(田原)や囲碁好きの客たちともすぐに仲良くなる。
 君江は千葉の南部にある古い農家で一人暮らしをしていた。夫と息子夫婦はすでになく、東京で暮らす孫の翔一(中泉英雄)が唯一の血縁だが、時折帰ってくる孫を快く思わない。しかし吉流と翔一はなぜか仲良くなり、一緒に東京で遊ぶようになる。やがて吉流はCS囲碁チャンネル主催のアマチュア囲碁トーナメントに出場することになる。
 翔一には奈菜子(チャン・チュンニン)という名の、台湾人のガールフレンドがいた。彼女は美容師として独立していたが、借金取りに追われていた。翔一は彼女を助けようとして、重傷を負ってしまう…。

 観ていて気付いたのは、吉流が日本の生活で苦労している描写はあっても、人間関係で対立したり、日本人にいじめられて悪い印象を持つというネガティブなイメージで決して描かれないこと。合作という経緯を抜きにしても、中国人監督がこういう視点に立つことって、結構珍しい気がする。
 蒋欽民監督は北京電影学院で学んだ後、20年前に来日して日本映画学校と日大芸術学部映画学科で学び、修士を取得している(公式HPを参考のこと)。そしてデビュー作が緒形直人主演の日中合作『戦場に咲く花』(00)。その後、TIFFに出品したリウ・イエ&董潔の『天上の恋人』(02)を監督し、中国で活動する女優・小林桂子の企画を彼女自身の主演で撮った『JUN-AI 純愛』(07)に続く監督第4作とのことだが…う、全部未見だし、最後の作品は全然知らなかったよ。
 まあ、こういうフィルモグラフィで、留学時代の体験を元に、日中合作(しかもほとんど日本ロケ)ともなれば、日本人には(一応)優しい作りになるのは分かるなあ。そして苦労した思い出より、いい思い出の方がきっと多かったんだろうなあ。

 そんな監督の思いがよくわかるのが、当初から千恵子様の出演で企画を練られていたということ。リウ・イエ主演で発表があった時も、ヒロインにはすでに千恵子様の名前があったしね。多くの松竹映画作品に出演し、美しく心優しき日本女性を多く演じてきた千恵子様は、日本で映画を学んできた監督にとっては、まさにマドンナだったのだろうな。…ちなみにワタシは妹の美津子さんの方が好きですが(ってそんなこた誰も聞いてねーよ)。
 腰を丸めた行商のおばあちゃん姿で登場したときは、あれ、千恵子様ってこんなにお年を召されていたっけ?とかなりびっくりしたのだが、話が進むにつれてただの農家のおばちゃんではないということがわかる。そもそも吉流との出会いからして、彼が落とした碁を拾っていた時、中国式の碁であることを見抜いたのだが、何かしら碁に関わった人であるというのは容易に予想できる。そして、彼女が往年の碁の名手であると判明してからは、すっと背筋の伸びた凛々しさを見せてくれ、そうよねー、歳はとったけど千恵子様ってこういう人よねー、これを撮りたかったのね監督は、これも一種の千恵子様萌えアイドル映画よねーなどと思って惚れ惚れしながら見てた(多少ふざけが入ってますが、まじめにそう思ってます)。だけど、その正体はもう少し早く明かしてくれてもよかったかなー。

 出世作の『スプリング・フィーバー』を観ていないので、これが初見になるちんはお君(漢字が難しいし、SNSで使われるひらがな表記がかわいいのでこれを使用します)。当初予定されていたリウイエと似たタイプの役者だなーと見ていたけど、やっぱり若いので素朴さと初々しさがある。部屋着が半ズボン+靴下という垢抜けなさもかわいい。
 チュンニンと田原という華人女優二人組は、それぞれタイプも違うし、役どころに合ってたけど、各キャラの設定に説明不足感があったかな。奈菜子は翔一がちゃんと「台湾人の…」と紹介してたので、おそらく父親が台湾人か日本国籍を取得した台湾人とわかるんだけど、吉流と出会った時には英語で話しかけ、その後たどたどしい日本語で彼と会話する内藤は、きっと残留孤児子女って設定なんだろうけど、後半で「実は私は中国人なの」と中国語で告白する時に何らか説明してほしかった気がする。観客は察しが付く人ばかりじゃないからね。

 こんな感じで全体的に説明があってもいいんじゃないかというキャラが多少あるんだが、一番説明してほしかったのは、君江の孫の翔一が、ヤクザ屋さんに脇腹を刺されて(このへんのアクションシーンが妙に力入って本格的だなーと思ったら、我らが谷垣さんがアクション指導していたので、エンドクレジットで名前を見て思いっきり納得したわ)重傷を負っているのにもかかわらず、なんで治療を受けることをかたくなに拒否するのかということ。死亡フラグを立てるにしろあまりに強引だし、後半は観ていて心の中でひたすら、「翔一、オマエ早く病院に行け、死ぬぞ!」ってずーっと言っていた。香港映画ではどんな致命傷を負っても簡単に死なずに逆襲してくるけど、そんな荒唐無稽さはあり得ないからねー。
 翔一を演じる中泉英雄さんは、名前だけ見るとオッサンっぽいなーと思ったけど、意外にも若者だったのでビックリ。『南京!南京!』に出演し、日本での近作は『地獄でなぜ悪い』だそうだけど…ああ、確かにあの映画のヤクザ屋さんの中にこんなヤツいたな、と頭の中の引き出しを引っ張り出し中。
 その他、いろいろと無理があるところやら、その展開どうよってツッコみたいところはたくさんあるけど、そのへんはきりがないので置いておく。そういうところをつつき回す映画じゃないしね。

 主人公が囲碁棋士なので、クライマックスは当然棋戦である。
ここでやっと「ああ、これって囲碁映画だったのか」と気付いたのだが、同じ囲碁を扱いながらただの囲碁映画にはならなかった『呉清源』にガッカリした人は、これをどう見たのかなあ。まあ、ワタシも囲碁はよくわからないけど、映画としては呉清源の方がいいよなーと思っちゃってごめんなさい。

 今、日中関係がかなりきな臭くなっているのは、経済発展による内部格差で問題を多く抱えてる中国政府の焦りだったり、その挑発を真に受けてネガティブ記事をいっぱい発信するマスコミだったり、いろいろと原因は考えられる。もちろん、いくらワタシが中国語学習者だったからどいえども、仲良しこよしの日中関係を保つべきなんて主張なんかするわけはない(実際に自分も中国で嫌な目に遭ったことがあるのでね)。
 だけど、いくら政治や情報がきな臭く、ネガティブイメージがあっても、それは表に見える部分であって、全ての中国人が悪いわけではない。これは中国人にとっての日本人も同じ。対立はあっても国を超えた人の交流を描く映画はこれまでもあったし、これからも作られるべきだと考えている。だから映画に関してはブツができる前だったり、あるいは完成したとしてもろくに観も知りもしないであれこれ騒ぎ立てるのは本当にやめてほしいもんですよ。政治が文化に難癖つけるってのは野暮ですからね。
 …っとやや政治的に危険な主張をしてみて、この項を終わらせます。ちなみにこの部分だけを見ての批判コメントは、一切お断りいたします。よろしくねー(^_-)-☆。

中文題&英題:初到東京(Tokyo Newcomer)
脚本&監督&編集:ジャン・チンミン 音楽:ウォン・ミンツァン&ウォン・美音志 アクション指導:谷垣健治
出演:チン・ハオ 倍賞千恵子 中泉英雄 チャン・チュンニン ティエン・ユエン 窪塚俊介 風間トオル 

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