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総舗師-メインシェフへの道(2013/台湾)

 1990年中盤、突如台湾映画界に登場した陳玉勲は、それまで日本で知られていた侯孝賢や楊徳昌よりも一回り若く、90年代前半にデビューした李安や蔡明亮、そして林正盛に世代的にはいくらか近いとはいえ、彼らとは全くもって異なる独自の個性を武器に、『熱帯魚』と『ラブゴーゴー』という2本の爆笑コメディを作り上げ、日本でも大きな注目を集めた。しかし、その後彼は台湾映画界から一歩身を置き、TVCFディレクターとして活動することとなる。

 そんな彼は近年オムニバス短編を撮った後、ついに今年長編第3作を発表、実に16年ぶりに映画界に復帰した、というのを陳玉勲(以下ユーシュン)ファンの方から聞いて大いに驚き、そして喜んだ。この夏公開されたこの映画は日本から観に行ったファンからも好評と聞いた。それがTIFFに登場するのだから、これはやっぱり観ないとね。
というわけで喜んで観て、大いに楽しんだのだよ。『總舗師―メインシェフへの道』を。

 總舗師(台湾語で「ツォンポーサイ」と発音)とは、野外での宴会料理(辦桌)を手がけるために出張調理を行う料理人のこと。台南の伝説の總舗師・蒼蝿師(字幕ではハエ師・柯一正)の娘である詹小婉(キミ・シア)は 家業を継ぐのを嫌い、アイドルになるために台北へ行く。しかし全く売れずに挫折し、さらに恋人がこしらえた900万元の借金の肩代わりをされそうになったので、急いで荷造りして駅へ向かう。その間、通りすがりのホームレスに亡き父が残した秘伝のレシピノートを奪われてしまう。
 台南に戻った小婉は母のパフィー(林美秀)が一人暮らす実家に戻るが、母もまた夜逃げしており、街の片隅に越して小さな食堂を開き、自ら踊って(!)客寄せをしていた。事情を聞くと、蒼蝿師の死後、彼の弟子だった財が師匠の後を継ぐためにパフィーに宴会料理勝負を挑んだが、母は父のような料理が作れず、完敗して店を乗っ取られてしまったのだ。
    小婉はパフィーを手伝うことにする。さすが元アイドルだけあって店はそこそこ繁盛し、召喚獣と呼ばれる学生トリオが彼女のファンになる。ある日、昔蒼蝿師の世話になったという老カップルが店を訪ねてきて、自分たちの結婚式で、蒼蝿師伝来の料理を振舞ってほしいと依頼してくる。それに感動した小婉は依頼を引き受けるが、レシピノートもなくレパートリーも少ないのに何を作ればいいのか大いに悩む。そんな時、彼女たちの元に、どんなまずい料理もうまく仕上げられるという流しの料理医師、桃園出身の葉如海(トニー・ヤン)が現れ、彼女たちに手を貸す。蒼蝿師の師であった虎鼻師や地元有力者 の元を訪ねて、あれこれとアイディアを練っていくうちに、小婉は台湾宴会料理選手権に出場して、メインシェフを目指すことに…! 

Zoneprosite

 ポスターのコピーには「台湾首部史詩喜劇」とある。翻訳すれば「台湾初のエピックコメディ」か。オデッセイじゃオーバーだしね。(そもそもオデッセイは「オデュッセイア」のことを指すし)爆笑あり微笑ありの上映時間145分で語られるのは、かつて台湾中の宴会を彩った總舗師の栄光の歴史と、現代への帰還。それを細かなスケッチでつなぎ、大きなうねりへとまとめ上げている。
 總舗師は20年くらい前までは台湾中にあちこちいたらしいが、うん、90年代初頭あたりなら、そうだったかもしれない。ちょうどその頃台湾に留学していたのだが、街中でテントが張られていたのをよく見かけた。それはたいてい葬儀だったように覚えているが、中には婚礼などもあったんだろうな。…しかし、台湾人の祝宴に招かれなかったから、辦桌を経験したことがない。ああ、残念だわ。

ユーシュン作品の魅力はユニークな登場人物。それだけだったら香港映画では特に珍しくないけど、彼の映画の登場人物たちは、これまでの作品を振り返っても、だいたい大らかで人懐っこかったりして、台湾人らしい気質と人間に対する優しさを備えているように感じる。それはどシリアスな文芸映画が多かった90年代から、メガヒット青春映画を量産している2010年代まで全く普遍であり、その変わらなさが個性になっているので、観ていて安心するし、ユーシュン節健在でとても嬉しかった。
 中でもタイトルロール一番手を飾る、林美秀演じる小婉の母親パフィーはもう安心感たっぷりの強烈ふくよかキャラ(笑)。登場時の台湾のビヨンセ風ダンス(来日したらきっと渡辺直美嬢と共演するのだろうな。台湾つながりだし)からもう大笑いだし、小婉とのボケっぱなしの掛け合いも楽しい。というか母娘揃ってボケキャラなんだが、それでもツッコミはちゃんとしているところがミソというか、やっぱり母親だしねというか。
 その他のお約束キャラは、『熱帯魚』にも登場したような憎めない小悪党。ここでは小婉を追っかけて台南までやってくる取立て屋コンビがあてはまるのだが、パフィーにうまく丸め込まれて、いつのまにか「助っ人A」「助っ人B」などと呼ばれてるし。
 物語の要となる伝説の總舗師たちもクセ者揃い。小婉のパパでパフィーの夫である“神の總舗師”こと蒼蝿師には映画監督にしてルンルン(クー・ユールン)パパとして知られる柯一正。ノリノリの懐メロをしょって登場する“鬼の總舗師”鬼頭師の喜翔もかなり衝撃的なキャラだが、台北駅に住み着くホームレス、その正体は“人の總舗師”愚人師(字幕では道化師)がまたそれを上回るキャラで、しかも演じてるのがあの呉念眞先生なんだから、もうものすごい。
 あとは、久しぶりに見たらいい男になって帰ってきたトニー・ヤンとか、日本ドラマの天然キャラっぽい雰囲気を持つキミ小姐とか、彼女と一緒にセブンイレブンのCMにも出ちゃってる召喚獣トリオとか、どのキャストもいい味出しててええわ。

  そして何よりも、登場する料理がどれもおいしそうで、なおかつ面白い。しかも宴会料理だけでなく、家庭料理にも言及しているのが面白いんだよね。その中で如海が台湾中を歩き回って、各家庭の蕃茄炒蛋の味を比べているというのが興味深かった。これはワタシも好きでよく作っており、ここにもアップしたことがあるのだけど、あまりにも家庭料理なせいか、日本ではあまり知られていないという話も聞いたことがある。え、そうなの?シンプルすぎる料理だからかな。
 でも、この家庭料理も宮廷料理も同じまな板に上げられてしまい、どちらもその素晴らしさを平等に称えられる。それはどちらも美味しいからである。初映時のQ&Aでユーシュンが 「生きている限り、美味しいものを食べるのは大きな喜び」と述べているが、まさにその通りで、おいしいものに区別はないってことであるのね。

  行った時のQ&Aでは、物語のキーポイントとして使われる、總舗師の歴史を綴った壁画(台中にある、あるアーティストの描いた絵がヒントになっているとか)についてや、CMディレクターとしての経験、キャラクターがそれぞれテーマ曲を持っていること(鬼頭師のこの曲とか如海が歌うこれとか)にちなんでの質問があった。ユーシュンの他に、昨年の『光にふれる』にも出演していた女優の李烈さんと、後に記事をアップする『失魂』もプロデュースした葉如芬さんという、二人の女性プロデューサーも登場し、なごやかに進んで行きましたよ。

 台湾映画の一般公開も以前よりは増えてきてはいるが、まだまだ知名度は低い。旅行と絡めてのプロモが一番効果的なのかもしれないけど、この映画ならロケ地マップも作成してるし、思いっきりローカルではあるけど、食という親しみのある素材を使っているのだから、なんとか一般公開にこぎつけてもらいたいところですわ。どうかどうかお願いします。そしてこれが田舎まできてくれれば、さらにうれしきことかぎりなしですよ。

英題:Zone Pro Site
監督;チェン・ユーシュン  製作:リー・リエ&イエ・ルーフェン  音楽:マー・ニエンシェン
出演:リン・メイシウ  トニー・ヤン  キミ・シア   シー・シアン   クー・イーション  ウー・ニエンジェン

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受信: 2014.11.02 10:06

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