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桃さんのしあわせ(2011/香港)

アン・ホイ監督の作品が日本の一般のスクリーンにかかるのは、パンフで確認したところ、『スタントウーマン』以来、実に15年ぶりらしい。この作品は観ていないんだけど、むしろTIFFで上映された『おばさんのポストモダン生活』『生きていく日々』など最近も現役でバリバリお仕事しているイメージがあったので、昨年の毎日新聞の映画評で「一般公開は初めて」とか書かれて「違ーう!」と突っ込んだり、沢木耕太郎さんが朝日のエッセイで20年以上前の『客途秋恨』と比較して書かれていたのを読んだときは、「沢木さん…嬉しいけど、ちょっと古いです…(泣)」と思ったっけなあ。いかにここ十数年、彼女の映画はもちろん、香港の文芸映画が日本で上映されてこなかったかというのがよくわかったのであった。

 そんなわけで『桃さんのしあわせ』。一昨年のヴェネチア映画祭の快挙の報から待つこと1年以上、年を明けてやっと地元でも上映されたのは嬉しい(特に去年はあの映画が観られなかったからなおさらね…)。

 ロジャー・リョン(アンディ)は50代の映画プロデューサー。主として財政管理を担当し、資金調達のために香港と大陸を往復している。未だに独身である彼は、梁(リョン)家の4代に仕える広東省出身の桃姐こと鐘春桃(ディニー)という家政婦に面倒を見てもらっており、彼女の作る食事をかきこむと、大陸に出かけて徐克(本人)とサモハン(本人)と共謀して一芝居うち、出資者から追加予算を調達してもらうのに成功する。
 ところがロジャーが自宅へ戻ると、桃姐が倒れていた。彼女は脳卒中で完全回復は難しいと診断されてしまう。身寄りのない桃姐は梁家の家政婦を辞めて自費で老人ホームに入るというので、ロジャーも安価の介護付き施設を探すことにする。その過程で介護ビジネスを行っている友人のバッタ(秋生さん)と出会い、近所のホームを紹介してもらう。
 老人ホームと言ってもそこは雑居ビルの1階を簡単に改装しただけの代物で、個室も壁とドアだけしかないような部屋で薄汚れており、共用のトイレも臭い。そんな中でも彼女はホームの主任チョイさん(チン・ハイルー)や温和なガムさん、女好きのキンさん(チョン・プイ)などと親しくなっていく。ロジャーも仕事の合間にホームに顔を見せるが、入居者たちに桃姐との関係を聞かれ、とっさに「義理の息子」と答えてしまう。彼は桃姐を外に連れ出し、本当の親子のように触れ合う。容体がよくなった桃姐は梁家に戻って身辺整理をし、昔の思い出を彼に聞かせる。自分が逝った後、独りぼっちになってしまうロジャーのためにと後釜の家政婦を探すが、どうもいい人材がいない。
 ロジャーが製作した映画のプレミアに、彼は桃姐を招待する。ベテラン女優の羅蘭(本人)と出会って喜んだり、中国の寧浩監督(本人)にタバコを注意したり。華やかな会場を彼女は楽しみ、昔観た映画にロジャーの名前を見つけて喜んだ思い出を彼に語る。
 そんな生活の中でも、ホームで知り合った親しい人たちが一人また一人と去っていき、桃姐自身も身体がマヒしていくのだが、それでもロジャーは彼女が最期を迎えるまで献身的に面倒を見てあげるのであった…。

 ロジャーのモデルになったプロデューサーのロジャー・リーさんは、赤壁の財政管理を担当していたという方で、おそらくこの時期に桃姐を介護して、彼女を送ってあげたのではないかという話を聞いた。赤壁の製作には莫大な費用が掛かったわけだが、その資金調達に追われながら、桃姐との最後の日々を送っていたのだろうな。
 劇中でのロジャーは、同じ映画製作者でも徐克さんやサモハンのようなイケイケタイプでなくあまりにも地味。リュックをしょって地味なジャケットを着ているから、常に修理工やタクシー運転手に間違えられてしまうくらい地味。それでも財政管理には充分に能力を発揮するのだから、香港映画界をがっつり支える縁の下の力持ち的存在なのだろう。

 香港も日本と同じように高齢化が進んでいる。ここ数年、香港でも下町に足を運ぶと、雑居ビルの看板に老人ホームと中国語で書かれた看板をよく見るようになった。先ごろの旅行で宿泊していた観塘でも、こんな看板(下方中央)をよく見かけた。

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 さすがに中まではのぞかなかったけど、あの映画と同じような雰囲気なんだろうな、と。

 香港は日本ほど家族単位で守られていない印象があるせいか、おそらく独居老人は多いのだろうな、という印象がある。『生きていく日々』のおばあちゃんも、天水圍の団地で一人暮らししていたしね。劇中のホームでも、実にいろいろな境遇の人々が暮らしていた。でも、日本のホームより自由度を感じた気もしたが、そうでもないかな。実はワタシの祖父母も亡くなるまでホームに入っていたので、そのイメージでしか考えられないのだけどね。

 もちろん、この映画は老人介護や高齢化社会での人の生き(逝き)方というのがテーマではあるのだけど、血縁という窮屈なものに縛られることのない、香港ならではの「家族の絆」を、決してお涙ちょうだい的ではなく描かれているのが素晴らしい。
 
 それは、先にも書いたようにここ数年のアン・ホイさん作品を観ていればわかるように、社会的なトピックを、非常にシンプルな語り口で描くことを体得したからなので、過剰に肩入れすることなく、安心して観られるんだろうな、と個人的に思う。というか、ことさら「死」を過剰に描き、涙を搾り取らせることがいい映画と思っている一部邦画が苦手だから、うれしいだけなんだけどね。
 それ以上にうれしいのは、やっぱり香港映画人たちの特別出演。
しょっぱなから徐克さんとサモハンの共演は嬉しすぎ(笑)。しかしこの二人が一緒に仕事する映画って豪華そうだよなー。あとは出てくるだけですぐわかる秋生さんにチャッピーはわかったんだけど、ラム・カートンやangelababyがどこに出たかわからなかったよな。プレミアの場面だよ、とは教えてもらえたんだけど。『OVER SUMMER』でおばあちゃん役を好演し、金像奨を受賞した羅蘭さんは貫禄でしたよー。
 
 そして、実年齢よりずっと上の設定の桃姐を演じたディニーさんとアンディ。共に金像の主演俳優賞を獲ったのは非常に納得。アンディが歳をとるごとに演技に深みが加わってきたことは、ワタシがわざわざ言う必要はないよね?(笑)ま、天命を知る年齢であっても、まだまだバカ映画を作って演じてもらいたいんだけどね、個人的には。
 実は、ディニーさんはこれまでほとんど演技を見たことがなかったのよね。昔の作品も観てみたいのだけど、いま日本で観られる公開作品だと、何が一番いいのかな? 

 おまけ。この春さっそくソフト化されるのだけど、日本語吹き替えが実に豪華。
詳しくはリンクページを見ていただくとして、サモハンの当たり役である水島裕さんを始め、現在ベテランの域に達した往年の人気声優の皆さんが手がけている。字幕至上主義者のワタシでも、このメンバーならぜひ聞いてみたいって思ったなあ。

原題&英題:桃姐(A simple life)
製作&監督:アン・ホイ 製作&原作:ロジャー・リー 製作総指揮&出演:アンディ・ラウ 脚本:スーザン・チャン 撮影:ユー・リクウァイ 音楽:ロー・ウィンファイ 編集:コー・チーリョン 録音:トゥー・ドゥーチー
出演:ディニー・イップ チン・ハイルー チョン・プイ ワン・フーリー アンソニー・ウォン チャップマン・トー ツイ・ハーク サモ・ハン ロー・ラン ニン・ハオ ラム・カートン アンジェラベイビー レイモンド・チョウ ジョン・シャム

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