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星空(2011/台湾・香港・中国)

 ホウちゃんやミンリャン、そして今は亡きエドワード・ヤン(以下ヤンちゃん)など、台湾映画の大御所たちからDNAを受け継ぎながら自分の持ち味を生かした軽やかな21世紀型の青春映画を作る彼らの「チルドレン」が、現在の台湾映画の質を高め、しっかり支えていることは、ホウちゃんたちに台湾映画を教えてもらった身としては非常に喜ばしいことである。
 華流の中心をなす台湾エンタメは、一般的には日本の人気マンガをドラマ化したものがどうしても注目を集めやすいけど、現在の「チルドレン」たちは、この手のTVドラマにもかかわりながらも、大御所監督たちの下で学んできた監督が多いようなので、基本は映画においているというのも嬉しい。日本は逆になっちゃうからね(とこっそり暴言)。

 手塚治虫御大をこよなく愛したヤンちゃんが、その代表的キャラクターにちなんで名付けた「原子映像(アトム・フィルムズ)」。彼の没後も映像プロダクションとして多くの作品を制作し、世に送り出している。この原子映像が中華圏を代表する絵本作家ジミーの作品に取り組み、監督に『九月に降る風』のトム・リン、そして主演に『ミラクル7号』のあの男の子、でも実は女の子の徐嬌(英語名はジョシー!)を迎えて両岸三地合作で映画化したのが『星空』である。


 小美(徐嬌)は台北に住む13歳の7年生(日本の中学1年生)。彫刻家のおじいちゃん(ケネス・ツァン)が大好きで、星空が美しい山奥の小屋に家族みんなで住むことを望んでいるが、キュレーターでパリ行きを切望している母親(レネ)と父親(ハーリン)の不仲に不安を隠しきれない。学校でも居場所がなく、ぼんやりとした日々を送っている。
 ある日、彼女のクラスに小傑(リン・フイミン)という少年が転校してくる。彼は小美の部屋から見えるアパートに引っ越してきた男の子だった。小傑に興味を示した彼女は、下校後にあとをつけてみると、ビルの地下に入った文具屋で万引きをしているのを目撃。真似して万引きする小美だが、お店の人に見つかってしまう。それを助けてくれたのが、小傑だった。彼は母親との二人暮らしだが、別居している父親に暴力を振るわれていたらしい。家庭に居場所がなく、美術が好きという共通項から、二人は友情を深め、自分たちの世界を美しく彩りたいと願う。
 しかし、担任の先生から勧められて二人で取り組んだ教室美化コンテストのディスプレイはいじめっ子たちにずたずたにされてしまい、小美は傷つく。さらに、パリ行きを断念した小美の母は酒におぼれるようになる。そして、最愛のおじいちゃんが倒れ、この世を去ってしまう。自分の幸せな世界の崩壊を感じ、絶望を抱いた彼女は、小傑に声をかけ、この世で一番美しい星空が見えるおじいちゃんの山小屋を目指して、二人で家出をする…。

 カラフルな色彩にあふれながらどこか陰を帯びていて、読後は生きることの喜びとともに哀しみを感じずにはいられないジミーの絵本たち。これをそのまま映像化するのが本当に難しいのは、『ターンレフト・ターンライト』『サウンド・オブ・カラー 地下鉄の恋』を観ればわかること(一応言っておくけど、両作品とも映画としては大いに楽しめるので、結構好きな作品)。
 この色彩を取り入れることはたやすい。しかし、ジミーの作品では、盲目の少女の不安、運命の人に出会えないもどかしさ、最愛の人を亡くした絶望などがあふれる色彩の中で描かれ、彼らは哀しみから光に向かって歩き出そうとする。それにはかつて病で生死の境をさまよったという経験がある彼の死生観が反映されているのだろうな、と思っている。
 この原作は残念ながら未読なのだが、映画には彼の精神が見事に生きていた。

 子供から大人へと急激に変わる思春期に欠かせない心の不安定さは、どこでも誰でも同じである。ワタシももちろん経験してきた。これを気軽に中二病というなかれ(笑)。この間に失うもの、壊して/壊されてしまうものも少なくないが、小美の場合はそれがあまりにも多すぎた。両親の不仲や死にゆく祖父という辛い現実に直面するようになり、幼年期の美しいものを奪われたくない小美を癒すのは、数々の名画をモチーフにしたジグソーパズル、フレンチレストランで母と踊る、ゴダールの「はなればなれに」を思わせるダンス、そして同志であり騎士でもある小傑の存在。
 二人の関係は恋愛というよりは、この時点ではむしろソウルメイトとしての結びつきが強い。おそらく、お互いに初めての恋を意識してなかったわけじゃないんだろうけど、恋と自覚する以前に、お互いの抱える孤独や問題が大きかったのかもしれない。だからこそ、山小屋で星空を見に行く家出が、あれだけの苦難になったのだろう。「スタンド・バイ・ミー」の死体探しの旅と共通するものを感じたし。

 小傑との苦難続きの山への旅を経ても、壊れた世界は元に戻らない。それどころか、家族の崩壊ばかりではなく小傑も彼女の前から去っていく。しかし、この旅で小美は自らの「幼年期の終わり」を自覚したのだろうな。失うものは多いけど、それを悲しむのではなく、思い出にして次へ進むこと。だからこそ、絶望から這い上がれて成長したんだろう。

 そんな感じにとったけど、深読みしすぎたかな(笑)。
改めていうことじゃないけど、美術はすばらしいし、美術や映画など既存の作品へのリスペクトがまた独自の味わいになっていて、ジミー作品とは違うけど精神的には一緒である証明となっているのがいい。
 すっかり成長しちゃって少女っぽさが強まった徐嬌ちゃんはかわいらしくて切なく、(美山加恋ちゃんと同世代かな?)初演技ながら彼女と真剣勝負をした感があるエリックくんのりりしさ、レネにハーリンにケネスさんという大人キャストの完璧さ、突然登場して強い印象を与えた学校の先生役の石頭@五月天、そしてフィナーレをしっかりと締める成長後の小美役のルンメイも素晴らしい。久々に涙腺も緩んでしまったのでした。

上映後にはトム・リン監督のサプライズティーチインも実施。すでにあちこちで紹介済みだけど、これも印象的だったので、全作品の感想を書いた後に別記事にてまとめます。

英題:Starry,starry night
監督&脚本:トム・リン 製作総指揮:チェン・クオフー 原作:ジミー 撮影:ジェイク・ポロック 音楽:World's End Girlfriend 音響:トゥー・ドゥーチー
出演:ジョシー・シュー・チャオ エリック・リン・フイミン レネ・リウ ハーレム・ユー ケネス・ツァン 石頭(五月天) グイ・ルンメイ

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