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密告者(2010/香港)

 Togetterという、Twitterでのポストをまとめたサイトを見ていたところ、フィルメックスに関してのつぶやきで「フィルメックスには香港映画枠でもあるのか?こういう娯楽作をこの映画祭でやるのには違和感がある」というのがあった(うーんと下の方だ)。多分、シネフィルさんのつぶやきだったと思うのだけど、ガッカリしたのはいうまでもない。
 それ以前に、先月発売された雑誌BRUTUSの「映画監督論」にて、ベテラン映画評論家の滝本誠さんが書かれた「ダンテ・ラム論」に「日本に香港映画が来なくなったのは香港映画ファンが消滅したから」と書かれてしまい、それにものすごく腹を立てて思わず彼のアカウントにリプライしてしまったくらいなのだ。
 香港映画も立派な映画じゃないの?「娯楽作」というのは、日本でいえば「踊るなんとか」とか「スペースバトルシップなんとか」みたいな作品のことを指すんじゃないか?そして香港映画ファンが消滅したのなら、なぜTIFFやフィルメックスで一番先に前売がソールドアウトするのが香港映画なのか?それらの意見に、そういう反論をしたくてたまらなかった。少しナーバスになりすぎているのかもしれない。
 しかし、若きアジアの才能と共に、ベテラン監督の定番路線映画も観られるのがフィルメックスの醍醐味である、と齋藤敦子さんがコラムで書いてくださったのにはほっとした次第。この援護射撃、ホントに嬉しかった。それでいいのである。以前と比べて 世界各国の映画が自由に観られなくなっているからこそ、映画祭にはカンヌでコンペに出すヴェテランの作品から初めて映画を撮った若手もあっていい。凝りに凝りすぎて物語が解体されちゃってる超難解作だけじゃなく、誰もが楽しめる娯楽作もあっていいと思うのよ。

 さて、これまでフィルメックスで紹介されてきた香港映画といえば、一番多かったのがジョニー・トー監督作品であり、彼の会社である銀河映像の作品も多かった。しかし、トーさんもこの10年でカンヌのコンペに作品を出したり、海外との合作を行ったりして知名度も上がってきた。もう一人、ウィルソン・イップ監督もこの映画祭で『ジュリエット・イン・ラブ』や『SPL』が紹介されたけど、来年はいよいよ『葉問2』が日本で公開される。そんな感じで、すでに香港電影迷には知られている監督の作品がここで紹介されてきたわけだけど、今年は誰のどの作品?と思ったら、このところひねりを聞かせたアクション映画を送り出しているダンテ・ラム監督の作品『密告者(綫人)』だった。

 「綫人」とは、捜査官が対象組織に入って内偵する「臥底」とは違い、一般人の情報提供者の事を指す。リー・チョントン(ニック)は、密告者をある組織に送り込んで内偵させ、情報をつかもうとするが、相手に男の正体がばれてしまい、密告者は殺されかける。すんでのところで男を助け、組織の壊滅も成功させたトンだが、その密告者はすっかり精神を病み、ホームレスとして日々を過ごすことになってしまった。
 その1年後、トンは台湾から帰ってきた犯罪者ポーペイ(陸毅)の動向をさぐることになり、新たな密告者として出所間近の青年サイグァイ(ニコ)に白羽の矢を立て、彼に接触する。もともと道楽息子だったサイグァイは、若い頃から無免許運転等で何度も逮捕され、服役を繰り返していた。その間に実家の事業は失敗して借金まみれになり、最愛の妹が娼婦としてヤクザに稼がされているという事実を知って、妹を救うために密告者を引き受ける。 
 ポーペイ主催の違法カーレースに飛び入り参加し、彼と情婦のディ(ルンメイ)の両方から信頼を得るサイグァイ。そこから受けた情報を逐次トンに伝え、警察は包囲網を築いていく。しかし…。

 ダンテ・ラム監督と言えば、スー・チーとレオ・クーを主演に迎えた東京ロケ作品『スイート・ムーンライト』、ゴードン・チャン監督と共同で撮った『野獣警察』、Twins主演のバトルファンタジー『ツインズ・エフェクト』、そしてリッチー&えぢ&黄曉明の『スナイパー:』など、実にさまざまなジャンルの作品を撮っているわけなのだが(それはウィルソン・イップ監督にも通じる)、この作品と同じくニコ&ニックの主演作である前作《証人》の成功により、ちゃんとしたアクション作品を撮れる監督として評価されている様子。

 過去にかかわった事件のトラウマを背負いながら犯人を追い詰めるというプロットは両作に共通しているものの、追う者(ニコ)と追われながらも立ち向かう者(ニック)の対決を明確に打ち出したのが『証人』であれば、微妙な主従関係を保ちつつ、ともに敵を追いながらもお互いにボロボロになっていくというのが今回の特徴であろうか。

 刑事側に猛烈なトラウマがあるのは前作と一緒だけど、今回のトラウマのかけ方は半端じゃない。先に書いたような過去を持つ東は、その事件の顛末がきっかけで、妻(ミャオ・プウ)と悲劇的な別離を経験し、さらにこの事件で妻との間に再び悲劇がおこる。あまりにも悲しすぎる。そこまでやるのか、ダンテさん。

 ニコも同じようにトラウマを背負っているが、彼と心を通じ合わせるディも不幸をしょっている。あのかわいらしいルンメイちゃんが、恐ろしく不幸な役どころを演じているのでこっちとしても観てていたたまれなくなる。そんなわけで登場人物がほとんどトラウマをしょっており、だれも救われないのは目に見えてわかってしまっていた。

 しかし、それを先にわかっていたせいか、あるいは開き直ってみたせいか、クライマックスの血みどろな追跡劇とボコり合いを観て、なぜか「もっとやれもっと殴れ、もっと血まみれになっていいんだぞ!」という気になってしまった。…なんでだ?自分、いつからSになったのか?今思っても非常に不思議である。
 多分、先に《証人》を観ていて、そこでダンテさんの演出のリズムってこういうものなんだというのがあらかじめ織り込まれていたからなのかもしれない。実際面白かったと思うのは前者なのだけど、こういうのがつかめたからいいのかなという気もしたりして。

 なんて、非常に感覚的な感想になってしまったけど、そんなところで。 

原題:綫人(The stole pigeon)
監督&原案:ダンテ・ラム
出演:ニコラス・ツェー ニック・チョン グイ・ルンメイ ルー・イー ミャオ・プウ リウ・カイチー ヴィンセント・ワン

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コメント

いまや香港映画枠をもうけてくれないと日本で香港映画を見るのが大変なくらいなんだし、娯楽作といえば、すべての映画が娯楽作ですよね。そういう人がシネフィルなら私はシネフィルになりたくない。ムカ。

それはともかく、「密告者」、とにかく最後のやけのやんぱちな乱闘場面が利いてましたね。
もうあれで、なにもかもいいや、っていう。
しかもルンメイちゃんまで巻き込んで。
ダンテラム監督は、中田圭監督おっしゃるように、香港映画らしい香港映画を撮ってくれる人なのかもしれません。
(監督がおっしゃってるのは、ちょっと前までの、ぎゅっとてんこもりで活力のある映画、のことだと思います)

投稿: ゆずきり | 2010.12.12 10:11

 映画をめぐる状況がガラッと変わり、映画ファンだって多様化しているのに、シネフィルの皆さんは相変わらずアート系や実験的な映画を好んでいて、娯楽作を下に見ているの?と思ってしまった次第です。(リンク先の他のポストを見ても、なんかがっかりするものが多くて嫌な気分になりましたが)
 B級映画ファンにもこういう固定的というか保守的な考えがあると思ってますが、映画が変わっていくのに、一部の突出した映画ファンはそれに柔軟に対応できていないのかなあ、なんて思ったりして(やや暴言気味にて失礼)。そういうワタシは自分のことをシネフィルでもなければB級映画ファンでもないと自覚しています。 

 密告者については、あれだけ暗い内容でありながらもどんよりした気分にならなかったのは、やっぱりラストのアレにつきると思います。
中田圭監督がダンテさんを評価されるのは、彼が長い間香港映画を観てきていることもあってよくわかります。ワタシは映画監督に関しては結構浮気性なので、香港映画にもいろんな個性があっていいと思ってます。その中で正統派作品を作ってくれるダンテさんの姿勢は貴重だなあとも思っています。

投稿: もとはし | 2010.12.12 11:20

>香港映画ファンが消滅したのなら、
>なぜTIFFやフィルメックスで一番先に
>前売がソールドアウトするのが香港映画なのか?z

そのとおりです!
だいたい、公開されない映画のファンの数をどうやって数えるのか?(笑)
日本全国に「神探」や「意外」の公開を熱望する人はものすごい数で存在すると思うけど
そういうファンの数ってきちんと数えることは難しいですよね。
(ウチの「MAD探偵」や「死の報復+タマフル」の検索数か?(笑))
まだワカランけども、「神探」が公開されてもまた、いつもの如く
誰が行くんじゃ!みたいなレイト時間で2週間とかで
「やっぱり香港映画は客が来ないじゃん!」みたいな
感じになってしまえばすごい悪循環だなあ、とかいまから不安です。

また、「香港映画ファン」の定義が、一般公開に期待できない映画を
わざわざ東京国際やフィルメックスに出向いて見に行く、ということなのであれば、そのチケットの数がファンの上限、という恐ろしいことになります。
(冗談ですが)
それであればもう私は脱落ですね。

ブルータス、読んで、「ふーん」(呆)と思っただけだったんですが
こういうふうにきちんと意見を表明していくべきなのか、
ちょっと反省しました。
私は香港映画ファンとは名乗れないし(笑)
かといってシネフィルでも何でもないけども・・・
また折をみて、わたくしも何か書きたいと思います。

「密告者」と関係ないコメントですみませんが
ぜひとも全国公開されますように!(また応援せねば!)

投稿: grace | 2010.12.13 07:35

 香港映画に限らず、アート系映画を観る機会というのは減っているから、状況的には変わらないんだけどね。そして、実際香港映画を観る層も限られてきているのであれこれ言われるのはわかるんだけど、なんでそういうこというのかなーと思う次第です。
 熱くなり過ぎるのもまずいよなーと思うけど、やっぱりいっておきたいことは言わねばと思うと、書かずにはいられないですね。
 来年公開される『神探』や『葉問2』も、映画館まで観にいけない人もいると思うけど、観に行けるならしっかり観たいし、地道に応援していかなきゃなーと思う次第です。
(『葉問』の公開5000人集客キャンペーンも、こっちみたいな田舎での2公開の人数も入れてほしいなあ)

投稿: もとはし | 2010.12.13 23:29

こちらにお邪魔いたしますm(_ _)m
(ご記憶になかったら、はじめまして!でお願いいたします)
監督の他作品にも触れたわかりやすい記事、ありがとうございます。
「密告者」はFILMeXで拝見し、そのツイートも拝見し、こういう意見もあるんだ、と思いました。
そして後々感じたのは、(この方がそうかわかりませんが)FILMeXでしか香港映画をご覧にならない方はこういう感想を抱きやすいのでは?という危惧でした。乱暴な言い方ですが、ジョニー・トー監督作品っぽい香港映画の上映が続いてるように感じたからです。継続してその監督作品を支援するという流れの中での選択なのかもしれませんが、もし今年のFILMeXで「ギャランツ」がみれたら最高だったかもなーと飛躍したことまで考えてしまったり(笑。個人的意見です)。
記事とズレたコメントでお邪魔しました。来年も香港映画をみていきたいと思っております。そして遅ればせながら、
お誕生日おめでとうございました!(^-^) 楽しい台湾旅行を!

投稿: galappa | 2010.12.14 15:02

galappaさんお久しぶりです&こちらでは初めまして。
FILMeXはテーマ性のある映画祭なので、個性的な作品群を集めているようですが、大陸でジャ・ジャンクーやロウ・イエ、台湾で候孝賢や蔡明亮等のアート系の個性派を取り上げているので、トーさん近辺を取り上げて、中華圏全体を俯瞰できるようにバランスを撮っているのかという気もしました。ちょっと前まではスタンリー・クワン等も上映していたようですけどね。
今年の香港映画はラブストーリーもヒューマンドラマもいいものがあったので、そういうものを紹介してもらえてもよかったのですが。トーさん作品も一区切りつけたようですので、次に何を取り上げてくれるのかが楽しみです。でも実際どんな作品が来るかわからないですよね。

投稿: もとはし | 2010.12.14 23:21

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