冷たい雨に撃て、約束の銃弾を(2009/フランス=香港)
最初に、トーさんからかなり遠いところより話を始めたい。
ずいぶん前からあちこちで言っているが、ワタシは、このところ社会派ドラマの快作が多いNHKの土曜ドラマのファンである。
生ぬるい民放ドラマが苦手だということもあるのだが、件のシリーズには企業買収やら公安の暗躍&テロ犯罪やら脱税やらの身近とはいえないテーマが多く、それを語るのに、ハードボイルドかつフィルムノワール的な手法を使うのは非常に適切だと思っている。おそらくスタッフにその手の映画がお好きな方もいれば、香港映画好きもいるんじゃないかといつも観ていて思うのだけど、実際どうなんだろう?聞いてみたいぞ。
そして、フィルムノワールの本場といえばやはりフランス。
最近、トーさんがお好きだというフレンチノワール界の巨匠、ジャン・ピエール・メルヴィルの初期作品『海の沈黙』(ギャングものではなくて第二次大戦下を舞台にしたレジスタンス系作品)を観たのだが、これが見事にいい雰囲気で、確かにトーさんはお好きかも知れないなあと思った次第。メルヴィルは昨年のフィルメックスで特集されていて、ほぼ全作品が上映されたそうだけど、もっと早く観ておきたかった気がする(といっても、田舎暮らしにとっちゃ、それ目当てで東京の映画祭に通うのは非常にきつかったりするんだけどね>蛇足)。
そのフランスで、香港映画の評価が高いのは昔から有名な話。今年こそ出品作はなかったものの、このところトーさんの作品はほぼ毎年、カンヌに出品されていた。だから、フランスから彼の元に合作映画の話が来るのは、よく考えれば不思議なことではなかったのである。
そんなわけでトーさんが初めて欧米人を主人公にして撮った(外国人の主役はこれで2人目のはず。一人めは言うまでもなく、『フルタイムキラー』のソリマチさん…)『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』こと《復仇》を観た次第。
フランスでシェフとして暮らす初老の男、フランシス・コステロ(ジョニー・アリディ)。彼の元に、中国人会計士と結婚してマカオに住む愛娘のアイリーン(シルヴィ・テステュー)が家族ともども襲撃され、瀕死の重傷を負ったという知らせが届く。マカオに飛び、変わり果てた姿になったアイリーンと対面した彼は、娘から襲撃犯は3人いたこと、そのうちの1人は耳にけがをしたことを知る。
ホテルに戻ったコステロは、そこで隙のない3人の男―クワイ(秋生さん)、フェイ(林雪)、チュウ(カートン)と出会う。彼らはボスのファン(ヤムヤム)の命令で、ボスの情婦と通じている部下を殺してきたところだった。かつて殺し屋だったコステロは、この3人の男たちに自分と同じにおいをかぎつけ、一緒に3人の襲撃犯を探すように依頼する。アイリーンの家で手がかりを探しながら、コステロは彼らにパスタを振る舞う。
クワイの従兄弟トニー(フォン・ツイファン)から武器を調達してもらい、襲撃犯たちが香港の海鮮街にいることをつきとめた4人は、早速香港へ渡る。夜のキャンプ場で襲撃犯と対面した彼らは激しく撃ちあうが、そこでコステロは被弾してしまう。医師の元に担ぎこまれて応急処置を受けた彼は、記憶障害を起こしてしまった。実は彼が殺し屋だった頃に頭に銃弾を受け、それがもとで定期的な記憶障害を生じるようになってしまっていたのだ。さらに不運なことに、コステロの娘の家族を襲った3人は、実は同じボスのファンの命令を受けていたのであったのだ。
記憶を失ったコステロの義理を感じた3人は、ファンを裏切ることを決意し、3人の襲撃犯を仕留める。当然これに腹を立てたファンは、ターゲットをクワイたちに向けた…!
即興演出っぽいにおいは残っているものの、法國スタッフの要請に応じて作られた、ちゃーんとした脚本が存在するというこの映画は、それであっても『やりび(ザ・ミッション)』や『放・逐(エグザイル/絆)』の香りがぷんぷんする。それ以外にも、雨の香港の夜の場面は『文雀(スリ)』みたいだよなーとか、フォン・ツイフォンやミッシェル・イエ(クワイの愛人・ビッグママ)の登場には、プロデュース作だけど『意外』みたいだよなーと、どっかで見たような場面の続出であった。とにかくセルフオマージュ満載。これが王家衛だったら、なんだよまたかよ、やりすぎだよなーとへそを曲げるところなんだが(これでも一応王家衛ファンですが、何か?)、トーさんの作品ではさすがにそうは思わない。それが様式美として完成されているのはもちろんあるし、これは他の監督にはちょっとやそっとじゃ真似できないだろう!と自信を持って作っているように感じられるからだ。
で、キャスト。
アリディさんは、常にトレンチコートに白シャツで、最後までこのスタイル。見事にトーさんワールドの住人と化している。おまけに意外と若々しい。60歳を超えているとは思えないし、ダンディ。ロック好きな秋生さんが「実は(彼を)知らなかった」と言ったのと同じく、ワタシも知らなかったんだけど(法國電影をあまり観ないからね)、当初のアラン・ドロンよりは彼をキャスティングしたことで成功の確率がぐんと上がったんだと思う。
ただ、それでも、いつもの皆さんを観ていた方が楽しかったかなー。コステロが復讐を誓うストーリーラインよりも、やりびから続く“男同士の熱きぶつかり合い”もとい“男同士の楽しきじゃれ合い”をここでも見せる秋生さんたちの姿を見た方が楽しい♪なんて思っちゃったし、コステロメインだからとはいえ、秋生さんたちが途中退場するのは非常に惜しかったもんね。ま、それでも最後までヤムヤムは残ったから(これもお約束)、アリディさんとヤムヤムの対決でなんとか気を取り直したけどね。
とまあ、ちょっと厳しいことも言ってみたけど、トーさんの新たなチャレンジとなった本作にはやっぱり満足している。そして、トーさん映画を知らない方には、入門編としてもぴったりな作品だと思うので、多くの人に観てもらいたいな、と思う。
地元に来たら、確実に観るからねー。一応上映も決定しているみたいだから、期待してますよ、フォーラムさん!
原題(英題):復仇(Vengeance)
製作:ミシェル&ロラン・ペタン 製作&監督:ジョニー・トー 製作&脚本:ワイ・カーファイ 撮影:チェン・シウキョン 音楽:ロー・ターヨウ 編集:デヴィッド・リチャードソン
出演:ジョニー・アリディ アンソニー・ウォン シルヴィ・テステュー ラム・シュー ラム・カートン チョン・シウファイ マギー・シュウ フォン・ツイファン ミッシェル・イエ サイモン・ヤム
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