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海角七号 君思う、国境の南(2007/台湾)

 初めての海外留学は台湾だったが、その暮らしももうずいぶん遠くなってしまった。なんと今年で…、ああ、言いたくない(苦笑)。
 そこではいろいろな失敗もあったし、楽しいこともあった。当時出会ったルームメイトや台湾人の友達とも、ほとんど縁が切れてしまったので、今思えばもったいないことをしたと悔やんでならないが、台湾での生活がなければ、今のワタシはなかったと断言できる。

 ワタシが台湾に惹かれるのは、おいしい食べ物や良質のエンタメ、そして旅心を呼び起こさせる土地の気質ももちろんなのだが、実はこの島が抱える歴史的事実もそのひとつである。それを教えてくれたのが『悲情城市』であり、台湾で生まれ育った我が師匠であった。
 昨年NHKで放映された某大型企画番組では、そのあり方がかなりネガティブに描かれたために、多くの非難が寄せられていたのだが、日本が台湾を統治していたのは事実だし、その過程で霧社事件のようなことも起こったが(これについては長くなるので、いつか機会を改めて書きたい)、ワタシが台湾で出会った台湾人は、日本統治のことがあっても、ほとんどが友好的だった。(…とはいっても留学中に釣魚台事件が起こり、いっせいに反日運動が起こったこともあったけど、それは別の話)
 そんなわけで、日本統治時代を隠し味に、音楽で彩りを添えて、台湾で大ヒットを飛ばした『海角七号』を、かなり楽しみにしながら観に行った。

 台湾最南端の町・恒春。ここは台湾人と原住民族が混在して生活しているのんびりした海沿いの町。しかし、ビーチの前には町の外から来た大手企業が作ったリゾートホテルがそびえ立ち、若者は職と希望を求めて台北に行ってしまうという、台湾的ファスト風土な問題も抱えている。
 阿嘉(ファン・イーチェン)もかつてはそんな若者の一人だった。10代半ばでここを飛び出し、ミュージシャンとしての成功を夢見てずっと音楽に没頭していたが、10年以上経っても芽が出ず、ついには帰郷を決意する。
 やさぐれて無為に日々を過ごす阿嘉に、亡き父の友人で町の実力者でもある洪議長(馬如龍)が郵便配達の仕事を持ってくる。街の長老の茂じいさん(林宗仁)が事故を起こしたため、その職が空いたのだ。じいさんから仕事を引き継いだ阿嘉は、郵便物の中にあて先不明の小包を見つける。住所は「海角七号」、宛名は「小島友子」。同封された7通の手紙は日本語で書かれていたが、阿嘉にはそれを読むことができない。
 この町の行く末を心配する洪議長は、ホテルのマネージャーにある提案を持ちかける。今度、ホテルが主催するロックフェスティバル―メインゲストは日本人歌手の中孝介(本人)だ―に、地元のバンドを前座として出演させてほしい。それならば町興しにも有効であるし、条件を飲まなければ開催を阻止するとまで言って脅しをかける。なんとかホテル側の説得には成功したもの、気がついたらこの町にはバンドがなかった。
 そこで、バンドのオーディションが行われる。審査員は洪議長と、このロックフェスの宣伝と通訳を担当する台北在住日本人の友子(田中千絵)。台北の大学を卒業した彼女は、モデルをしていたが思うように芽が出ず、今では芸能プロダクションで雑用係のように働いている。もともとはフェスのポスター撮影のためにこの街にやってきたのだが、日本の事務所側の要請で急遽、彼女は恒春に残ることになる。自分の仕事に不満ばかりを感じている彼女は、すっかりふてくされてしまっている。
 洪議長の勧めで、阿嘉もオーディションにやってきたが、元プロのプライドが高い彼は、さっさとギターを弾いてさっさと立ち去る。しかし、唯一のプロ経験者ということもあって、バンドに選出される。他のメンバーと言えば、ドラム担当は修理工のカエル(イン・ウェイミン)、キーボードは教会でピアノを弾いている生意気な小学生の大大(マイズ)、サイドギターは阿嘉とは犬猿の仲である元台北の特殊部隊員、現在は町の警官ローマー(民雄)、そしてベースはパイワン族の警察官でローマーの父オウラーラン(ダンナイフージョンルー)と、キャリアも個性もバラバラな面々。練習の度にぶつかり合い、阿嘉はもちろん、バンドの面倒を見ることまで押しつけられた友子もイライラが募る。バンドの練習もトラブル続きでままならず、ローマーの父の怪我によりベースも交替。2代目のベースはなんと自称(!)人間国宝の月琴奏者こと、あの茂じいさん。阿嘉の曲作りもままならず、友子の怒りも頂点に達する。
 台北に帰ろうとした友子を引き止めたのは茂じいさんだった。町中の人々が参加する結婚披露宴に参加した彼女は、カエルやローマーの意外な素顔を垣間見る。しかし、彼女の中には孤独感しかなかった。酔いも手伝って阿嘉の家を襲撃した彼女はさんざんわめいて毒づきまくり、挙句の果てには玄関の前でつぶれてしまう。それに気づいた阿嘉は友子を部屋に招き入れる。阿嘉は、怒りんぼで可愛げのない彼女もまた、自分と同じ大きな挫折を味わったものであると初めて気づき、衝動的に彼女を抱いた。
 その朝、友子はあの「海角七号」の手紙を見つける。そして、阿嘉にこの手紙に書かれていることを告げる。手紙の送り主は、60年以上前に恒春に赴任していた日本人教師(中孝介/蔭山征彦・声)。日本の敗戦とともに、船で北国に帰国した彼が、愛していた教え子の台湾人少女「小島友子」に宛てて書かれたものの、結局は出されることがなかった手紙だったのだ。友子は阿嘉に、手紙を宛名の主に届けるように言う。この一夜の出来事がきっかけで、二人は愛し合うようになる。
 そして、この手紙にインスパイアされた彼は、一気に新曲を書き上げる。曲の名は「国境之南」。ベースをマスターできない茂じいさんの代打として、客家人の陽気なセールスマン、通称マラサン(馬念先)が加わったバンドも一気に団結力を深め、いよいよロックフェスの本番が近づいてくる。しかし、手紙の本当のあて先はいまだつきとめられることができず…。

 ご存知の通り、この映画は日本統治下の台湾に思いを寄せて描かれている部分があるので、大陸で上映禁止になったと言われている。でも、その背景に関しては、思ったよりは意外と気にならなかった。特に感傷的にもならず、かといって重要なテーマにはなっていない。予想したとおり、あくまでも隠し味だった。こういうのは、戦前の満州や朝鮮半島が舞台でも成り立たないわけがないし、過去の出来事として客観的に見れば、決して珍しい視点ではない。大陸は神経質になりすぎだなあ。
 地方と都市、若者と老人、ロックと伝統音楽、男子と女子、不仲と恋愛、そして台湾と日本。この映画にはいろいろな二項対立と、その果ての融和がある。しかし、これらのどれに一番スポットが当てられているというわけでもなく、全てが平等にバランスよく描かれている。
 主役はもちろん阿嘉と友子の若者世代だが、彼らよりちょっと年上のマラサンやカエルやローマーや大大の母親明珠(シノ・リン)の事情や、うんと年上の茂じいさんや洪議長や阿嘉の母親の物語もおざなりにならず、しっかりと描かれている。台湾人特有の人懐っこさはもちろん欠かせないし、かと思えば主役二人も決して善男善女ではなく、プライドの高さや人に対する冷淡さもきちんと描かれているので、キャラクター造形もよくできている。物語もベタではあるけど、本業が歌手であるヴァン(イーチェン)に合わせた設定としては効果的である。もちろん、彼らが結束すればするほど、高揚感は増してくるし、それを引き立てる立場に回った中くんの曲も印象的に使われている。これならこの映画が台湾で大ヒットしたのは、本当によくわかる。誰もが親しみやすく、のめりこむことができるからだ。こういう映画なら、ワタシだって自信を持って、いろんな人にオススメしたいのは言うまでもない。

 しかし、誰かがワタシにこれを好きか?と問われたら、「うーん、そうでもない」と言ってしまったりする。
 いやあ、この映画が好きな人にはホントに申し訳ない。これから先は読まないほうが身のためかも。意見には個人差がありますので。
  
 確かに、いい話である。よくできている。下手したら大泣きしそうなくらい、いい映画である。それゆえに、個人的にはなんだか受け入れ難いところが目立ってしょうがないのである。

 実は、主役二人のキャラクター造形がかなーり苦手。
 阿嘉の若者らしい俺様チックなやさぐれぶりはなんとか許容できるけど、やっぱり友子のキャラが好きになれない。
 同性としてみて、性格がよろしくないし、自分の挫折をいつまでも引きずっていて、そこでの失敗を全て周りに転嫁する。いくらなかなか自分の思う通りに行かないからって、それに対する台湾人たちの心の広さがあるとはいえども、あそこまでへそを曲げてしまうのはみっともない。コミュニケーションも充分に取れていない(北京語が下手だというのも理由だが。いや、ホントにヘタクソだった。あの下手さは演技だよね?)のを棚に上げて、なんで「みんな自分をいじめる」と考えるのか?…まあ、このくだり、若い頃に台湾で過ごした自分も、多少は同じようなことを感じたので、わからないわけはないんだけど。
 結局、犬猿の仲だった阿嘉とあっさりセックスしちゃって、彼と恋に落ちるあたりから変わってきたとはいえども、なんだかねえ…。で、一番許せなかったのは、バンドの本番で阿嘉にああいうことさせるのか!(ネタバレになるので書かないけど)ということだった。なんかこの唐突な展開、どっかでデジャヴュが…と思ったら、このコイバナの流れがなんとなく日本の恋愛ドラマくさいんだよね。そう考えると、阿嘉と友子の恋愛がかなり唐突だったことが腑に落ちた。魏監督、日本のトレンディドラマで恋愛描写を覚えたでしょ(笑)?トレンディドラマが苦手なので、なおさらそれが受け入れ難かったんだと思ったよ。恋愛体質じゃないのって、本当に辛いよね。
 田中千絵ちゃんという女優さん自身も、個人的には好みの顔じゃなく、美人でもかわいいでもない。うんと努力して北京語を学び、台湾で活躍している日本人俳優たちの一人であることは嬉しいけど、こういうイヤミな役をイヤミに演じられるってことは、逆にうまいってこと…と言えるのかな?まあ、好みじゃないってことは確かです。ファンの人&ご本人さん、本当にごめんなさい。

 ま、最後に繰り返すけど、そんな個人的な受け入れ難さを除けば、これは決して決して悪い映画ではない。むしろ、かなりいい映画である。
だから、自信を持ってオススメしたいし、台湾の青春映画の底力を見せ付けられた一作ではあることは確かだ。
そんな結論で、どうか許してつかーさい(苦笑)。

英題:Cape No.7
監督&脚本:ウェイ・ダーション 撮影:チン・ディンチャン 音響:トゥ・ドゥチー 音楽:リュ・ションフェイ&ルオ・ジーイー
出演:ファン・イーチェン 田中千絵 マー・ニエンシエン ミンション イン・ウェイミン マイズ リン・ツォンレン シノ・リン 中 孝介 蔭山征彦(声の出演)

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コメント

もとはしさま:

初めてコメントを残しますが、常々こそっと覗かせてもらってました(^^)

いやぁ、ワタシと同じ思いを書かれていて、心がスッキリしました!
どのブログやコメントを見ても皆、大絶賛でしたから...。

特に
>あの下手さは演技だよね?
>恋愛体質じゃないのって、本当に辛いよね。

ってところは、映画を見てる途中からどうもしらけてしまって、感動どころか鼻で笑ってた私でした。
ファンの皆さん、ごめんなさい

でも、台湾の底力はずっしり感じたんですよ、ほんと。(苦し紛れな言い訳ですか?(笑))

投稿: lily | 2010.05.10 15:40

わーい、lilyさん、コメントありがとうございました!
blog(&つぶやきも)、ワタシもこっそり拝見しております。

公開前後の絶賛コメントでかなり期待してたのですが、
その一方、ネット友数人の「…んー、ちょっとな。」というコメントも引っかかっていたので、もしかしたらって思ってたんですよ。
うん、確かに「台湾映画」としての出来はいいんだけど、ラブストーリーとしては…、ごめん、好みじゃないって思っちゃって、こんなに書いた次第です。別方向に投げかけてみても、共感&異論両方の反響がありました。

まあ、きついことを書きましたが、誰かに何か面白い映画ない?と聞かれたら自信を持って薦めたいと思ってます。ただし、恋愛ものとしてじゃなく、青春映画として薦めたいですね。

投稿: もとはし | 2010.05.10 20:52

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