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『武打星』今野 敏

  香港を舞台にした日本の小説は数多い。
 例を挙げれば、香港返還直前に発表されて話題を呼んだ服部真澄さんの『龍の契り』。…驚かれるかもしれないけど、実は読んでません。あとは、実際に香港好きな方が書かれたライトノベルやBLもの(これも読んでないよ、さすがに)もあるから、数えればきりがなさそうだよな。
 この小説も、そんな“香港もの”の1冊だけど、著者名を見てちょっと驚いた。
 今野敏さんって、もしかしてこの春『ハンチョウ』の題名で連ドラ化された『神南所安積班』の作者さんじゃないですか?警察小説の名手っていわれている方だよね?
 
 なんでも、今野さんは実際に空手塾を主宰する武道家でもあり、警察小説の他にも武道小説や格闘小説も執筆しているそうで、さらに李小龍先生を愛してやまない(from解説より推測)というだから、なるほど、これがThat's make senseってヤツね、と納得したのである。
 やっぱり、李小龍先生は男子の永遠の憧れなのねー。

 1970年代末。大学を卒業した青年、長岡誠は香港へやってきた。高校時代に李小龍の『燃えよドラゴン』と出会い、衝撃を受けた彼は、進学した大学で幼い頃より学んできた空手道にのめりこむようになる。就職を決められなかった誠は、空手を生かした職業に進みたいと思い、そこから香港でアクション俳優になることを決意し、渡港する。
 誠は大学の先輩で香港に住む関戸政夫を頼った。彼は日本人旅行客向けの観光ガイドをしているが、なぜか誠には頼られたくないという素振りを見せる。関戸のガイドツアーに便乗して、彼はショウブラザーズやゴールデンハーヴェストを訪れるが、話がかみ合わずにチャンスがつかめない。焦りながらも誠は九龍公園で空手のトレーニングを続けるが、そんな自分をいつも見つめる男がいるのに気づく。後に関戸に仕事を頼まれた誠は、キンバリーロードの日本風クラブでその男を見かけるが、男が一緒にいたのがマフィアだと勘付く。関戸が彼に頼んだ仕事は、日本人女性に荷物を届けることだったが、どうもそれは麻薬らしく、誠は関戸の影でヤバイ仕事に手を出していることを知る。
 ある日、誠のもとに、ゴールデンハーヴェストで出会った武術指導者のユン・シンから彼の監督作品への出演を依頼したいと連絡が来る。喜び勇んで会社に行くと、そこで自分を見つめていた例の男と出会い、驚く。その男、アレックス・チャンは俳優であり、この映画で武術指導を務めることになっていた。それが気になるところだが、ともかく、誠は契約をして出演が決定した。
 しかし、いざ撮影が始まると、誠には困難が続く。アレックスの、アクションに対する厳しい指導、彼にいつも突っかかってくる若者、ジョニー・マーとの確執、そして、撮影は激しいアクションを交えながらもその内容がほとんどポルノ映画同然であったこと…。もしかして、この映画を撮影している三羅影業公司は、実はマフィアの息のかかった映画会社なのではないか?自分に辛くあたるアレックスもまた、マフィアなのではないか?そんな疑念を抱きながら、誠は“武打星”としてデビュー作の過酷な撮影に挑んでいく…。
 
 ワタシは女子だから李小龍はガッツリと通っていないし、80年代後半以降現在までの香港映画に愛を持つ人間だけど、ジャンルは違えど香港映画に魅せられて、熱にうなされるように自分の道を突き進む誠の姿には共感できる。戸惑いながらも撮影にのめりこみ、実力を試すために散打大会に挑む誠。その姿が非常にリズミカルに描かれるので、すいすいと読めるのがいい。  
 日本とは全く違う香港映画の撮影スタイルや、香港人にとっての香港映画観やマフィアの位置付けなどもきちんと描かれているので違和感なく読めた。全く香港映画を知らない人はこれをどう受け止めたのかな。それがちょっと気になる次第。

 そこまでは非常にのれて、手に汗握りながら読んでいたんだけど、九龍城寨で繰り広げられるクライマックス(ネタバレになるのであえて書かず)の展開はもうちょっときっつくてもいいのにと思った。そう思うのはきっつい黒社会映画の見すぎ?そのへんがちょっと個人的には残念。いや、別にきっついのが好きってわけじゃないんだけどね。

 そんなこともあったから、多少厳しく読んでしまったけど、武打星としてのデビューを飾った誠が、80年代から現在の香港映画界でどう変わっていくのかという続編も読んでみたい気もする。案外、ハリウッドに行って武術指導者として活躍するようになったのかも。でもそうじゃないかな。

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