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《竊聽風雲》(2009/香港)

 今年の旧正月あたりから、大陸で香港映画が順当な収益を挙げていると聞く。しかも、『赤壁』や『投名状』みたいな大陸との完全なる合作作品よりも、《家有[喜喜]事2009》や大陸で先行公開されたマクダルの新作長編、そしてこの《竊聽風雲》のような、いかにも香港的な映画が評判になっているという。これっていったいどういうことだろう?今年の大陸の大作映画が《建国大業》のようなプロパガンダ系(こらこら)ばかりだからか?それとも大陸の観客が純粋に娯楽を求めているからか?
 まーそれはわかんないけど、そんなことを気にせず観た次第。

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 これは港威にて撮影。

 警察には、企業の不正行為を摘発するため、オフィスに盗聴器や小型カメラを取り付けて監視する部署がある。阿俊(ラウチン)、楊真(古天楽)、阿祥(彦祖)はそこに所属し、リーダーの光(中信)の指揮のもと、不正取引の疑いがかけられている企業「風華國際」の監視と盗聴を始める。
 昼夜が逆転した生活を送る3人の刑事は、それぞれ悩みを抱えている。阿俊はマンディ(張静初)という恋人がいるが、実は彼女、阿俊とは親友でもある光の妻。光に愛を感じなくなった彼女は離婚を迫るが、それが信じられない彼はよりによって阿俊に自宅の監視を依頼する。
 子だくさんの楊真は、血友病(か白血病?)の末息子を抱えている。息子とともに自分も病院で検査を受けるが、彼は肝臓ガンで余命幾ばくもないという宣告を受けてしまう。そして最年少の阿祥は大富豪の娘と婚約しているが、未来の義父との会話で、相手と自分の身分がつりあわないことをコンプレックスに思っている。
 ある日、楊真と阿祥は風華國際を監視中、社長(李子雄)が愛人に翌日の株が上がるという内部情報を漏らしているのを聞きつけてしまう。この情報を利用して風華の株を取引すれば、自分たちのもとには莫大な金が入り、悩みも解決するのではないか。楊真と阿祥はその情報を故意に抹消する。二人の先輩ではある阿俊は彼らの計画に気づき、止めようとするのだが、証券取引所で風華の株が急激に上昇するのを目の当たりにしたら、それを止められなくなってしまう。
 これがきっかけで、3人は金がもたらす悲劇に巻き込まれていくのであった…。

 おそらくワタシの日記blogを読んでいる方ならわかるだろうと思うけど、2年前の冬にNHKで放映されて、その当時からかなりハマッて観ていたドラマ『ハゲタカ』がこの6月に映画化され、それを観たことからまたドラマを観るようになってしまって熱が再燃し、ここしばらくかなり浮かれた状態にあった(苦笑)。
 『女人本色』の感想でも触れているけど、このドラマはここ15年ほどの日本経済の状況を背景にしながら、実は男と男の熱いぶつかり合いをこれでもかこれでもかというくらいに濃密に描いていた。その描かれ方が実に魅力的で、ウーさん作品や無間道3部作を彷彿とさせたのでたまらなかった。日本経済をうまい具合にエンターテインメント化してくれたし、かつ役者さんたちも好演していたので、再放送されるたびに夢中になって観ていた。
 観た直後の報告記事でタイトルに挙げた言葉は、ドラマ版と映画版に共通して主人公が語るモノローグの一部。こんな台詞である。

誰かが言った。世の中には二種類の悲劇がある。
金のない悲劇と、金のある悲劇。
世の中は金だ。金が悲劇を生む。

 さて、このドラマ&映画版を観た後、日本以上に世界経済の動向が日常生活に密着しており、しばし株取引に一喜一憂する人々の姿が描かれることがある香港映画でも、これみたいに経済をエンターテインメントに取り入れた作品ができれば、かなり面白いものになるんじゃないかなと思っていたのだが、ワタシが浮かれていた間にまさかこういう作品が作られていたとは思いも寄らなかった(笑)。現代香港で起こる悲劇を痛切に描くトンシンさんと、巧みなストーリーテリングを武器に順調に作品を作りつづけている無間道脚本コンビの初タッグということもあり、最後まで拳を握ってしっかり観ることができた。

 聞くところによると、香港では小学校高学年からすでに金融教育が始まるらしい。先日読んだ『香港 アジアのネットワーク都市』でも、金融都市として機能しようとしていたと書かれていたから、返還を機にアジアの金融の中心となるはずだった香港にはきっと大きな期待がかけられたのだろう。でも、その機能は上海が担うようになり、97年と去年の経済危機がありで、街全体から庶民にまで大打撃を受けたわけであり、そんなことがあるからして、香港人における金の問題は日本人の持つそれとは比べ物にならないくらい切実なのだろうか、などと思ってみる。
 …つらつらとこんなこと書いていますが、ワタシもやっと最近経済に興味を持つようになったばかりで、実際のところはよくわかりません。今さらと言われるのは承知でもー少し勉強します。

 話を映画に戻してっと。こんなふうに経済に注目していたこともあったので、証券取引所でPCとにらみ合い、一喜一憂する人々の姿を興味深く観た。そして、その裏側に潜む黒い陰謀にも…。
 本来なら社会を守るべき警察官も、目の前においしい情報があれば、それに食いつきたいという誘惑に駆られるだろう。その金が自分のためじゃなく、家族や妻のためと思えばなおさらであり。そういう人間的な欲望があっさりと使命を覆し、一線を越えてしまう恐ろしさを描いているから、彼らに見舞われる悲劇が痛ましい。

 ただ、全体的に見れば経済はあくまでもネタの一部として、なのかなぁ。重点は3人の警官+彼らをめぐる人々とのつながりとその崩壊、そして悲劇に置かれる。阿俊、楊真、阿祥の3人は連携プレーに富んだチームとして描かれるけど、それぞれの事情がかんでいるせいか、その絆は思ったほど濃密じゃない。
 ラウチン演じる阿俊は他の2人の兄貴分なので、彼らの行動に心を痛めていたのだろうけど、彼が抱える悩みがどうしても弱かったかなー、という気も。もっと濃くしてもよかったと思うよ。それでもラストのあのどんでん返し(多少蛇足に感じるのかもしれないけど)は思いっきりビックリしたけどね。
 ラウチンの立ち位置がそうだったからこそ、古天楽の悲惨さが際立っていたように感じた。子だくさんでビンボーで白髪も目立ってオッサン体型で服も安っぽくて、全身から薄幸が立ち上ってくるよう。役柄への入り込みようはもしかして『門徒』のヤク中以上では?
 こんな二人がいたので、逆に彦祖がいつもより目立たなかった気もする。最期もあっけなくて、あれでいいのかしら。

 そんなふうに今となってはきついことも多少言ってはみたけど、観たばかりの頃はもちろん今でも、全体的にはいい出来だったと思う。クライマックスがポリスアクションと化すのは香港電影的お約束ではあるけど、意欲作を作り出そうという意気込みが感じられたのが嬉しかった。
 こういう重い映画ばかり出来るのも厳しいとは思うけど、積み重ねによってよくなるわけであるからね。トンシンさんも、無間道コンビにも、やっぱり今後の作品に期待したい。

英題:overheard
製作:イー・トンシン&ヘンリー・フォン 監督&脚本:アラン・マック&フェリックス・チョン 音楽:コンフォート・チャン
出演:ラウ・チンワン ルイス・クー ダニエル・ウー チャン・チンチュー アレックス・フォン レイ・チーホン マイケル・ウォン

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